第3回公認心理師試験・午後問89は、知能検査を安全かつ適切に実施するための基本姿勢を問う問題です。
【問89】知能検査の実施で大切なこと
問89 知能検査の実施について、最も適切なものを1つ選べ。
① 検査者が十分に習熟していない検査を用いることを控えた。
② 被検査者に求められたため、検査用紙をコピーして渡した。
③ 客観的情報を収集するために、被検査者とのラポール形成を避けた。
④ 被検査者が検査に対する先入観や恐怖心を抱かないように、事前に検査について説明することを控えた。
⑤ 実施時間が2時間を超え、被検査者が疲れている様子であったが、そのまま続けて全ての検査項目を実施した。
出典:一般財団法人 公認心理師試験研修センター「第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)合格発表」(午後問題・正答資料)
正答:① 検査者が十分に習熟していない検査を用いることを控えた。
この問題では、①検査者の力量、②検査材料の扱い、③ラポールと標準化、④事前説明、⑤疲労や体調への配慮、という心理アセスメントの基本姿勢がまとめて問われています。
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選択肢の解説
① 検査者が十分に習熟していない検査を用いることを控えた
→ 適切。正答です。
心理検査は、マニュアルを一度読めば誰でも同じように実施できるものではありません。実施手順、教示、採点、結果の解釈、その検査で何を言えて何を言えないのかまで理解したうえで使用する必要があります。
国際的な検査利用の指針として、International Test Commission(ITC)のTest Use Guidelinesでは、検査を適切・専門的・倫理的に使用するためのcompetenceが重視されています。
特に知能検査では、標準化された実施法から不用意に外れることが、得られた結果の解釈にも影響し得ます。
したがって、「自分が十分に習熟していない検査は使用を控える」という①が最も適切です。
② 被検査者に求められたため、検査用紙をコピーして渡した
→ 不適切です。
ここで重要なのは、検査結果や本人に関する情報と、検査問題・刺激・プロトコルなどの検査材料を同じものとして扱わないことです。
心理検査の検査用紙には、検査項目や刺激など、検査そのものの成立に関わる情報が含まれている場合があります。内容が不用意に公開されれば、検査の信頼性・妥当性や公平性を損なう可能性があります。
国際的な参考として、APA倫理規程のStandard 9.11「Maintaining Test Security」でも、test materialsのintegrity and securityを守ることが示されています。したがって、「本人から求められたから、そのまま検査用紙をコピーして渡してよい」とはなりません。
なお、これは「本人には検査結果を何も伝えない」という意味ではありません。結果のフィードバックと、検査材料そのものの開示は分けて考えることがポイントです。
③ 客観的情報を収集するために、被検査者とのラポール形成を避けた
→ 不適切です。
心理検査だからといって、被検査者との関係を意図的に冷たくしたり、ラポール形成を避けたりする必要はありません。過度な緊張や不信感が強ければ、本来の力を十分に発揮できないことも考えられます。
一方で、ラポールを形成することと、答えを誘導したり、標準化された教示を勝手に変更したりすることは別です。
心理検査では、必要な協力関係をつくりながら、定められた実施手続きを守ることが重要です。
心理的アセスメントでは検査結果だけでなく観察情報も含めて考えます。関連する視点は、第3回 問33「公認心理師の具体的な業務」も確認してください。
④ 被検査者が検査に対する先入観や恐怖心を抱かないように、事前に検査について説明することを控えた
→ 不適切です。
被検査者の不安を減らすために、何も説明しないという対応は適切とはいえません。
心理アセスメントでは、検査内容を必要以上に事前開示することとは区別しながら、検査の目的や大まかな流れ、得られた情報がどのように扱われるのかなど、必要な説明を行うことが重要です。国際的な参考として、APA倫理規程のStandard 9.03「Informed Consent in Assessments」でも、assessmentにおけるinformed consentが示されています。
実務では、検査を受ける方が検査の目的を十分に把握していないこともあります。私自身も必要に応じて、「今日はどのような検査をすると聞いていますか?」などと確認し、その方の理解度や依頼目的に合わせて簡潔に補足することがあります。
ただし、説明の範囲や方法は、検査の性質、実施マニュアル、依頼目的、所属機関の運用などを踏まえて判断します。
したがって、「不安を与えないために説明を控える」とする④は不適切です。
⑤ 実施時間が2時間を超え、被検査者が疲れている様子であったが、そのまま続けて全ての検査項目を実施した
→ 不適切です。
この選択肢で重要なのは、「2時間を超えたら必ず休憩する」という時間そのものではありません。
注目すべきなのは、被検査者が疲れている様子を示しているにもかかわらず、その状態を考慮せず機械的に検査を続行している点です。
疲労、体調、注意の持続などは、検査場面で観察すべき重要な情報です。一方で、検査ごとに標準化された実施方法があるため、いつでも自由に休憩・中断してよいとは限りません。
その検査のマニュアルや実施基準を確認したうえで、続行できる状態か、休憩を入れられる箇所か、中断や再設定が必要かを判断します。
つまり⑤は、被検査者の状態への配慮と標準化された手続きの両方を考える必要があることを押さえる選択肢です。
問89で押さえておきたい5つのポイント
- 検査者のcompetence:十分に習熟した検査を使用する。
- test security:検査材料を不用意に公開しない。
- ラポールと標準化:協力関係を形成しつつ、定められた手続きを守る。
- 必要な事前説明:何も説明しないのではなく、目的や流れを適切に説明する。
- 被検査者の状態への配慮:疲労や体調を観察し、マニュアルに沿って対応する。
この5点は、知能検査だけに限定された考え方ではなく、心理アセスメントを実施するときの基本姿勢として整理しておくとよいでしょう。
まとめ
第3回公認心理師試験・午後問89の正答は、①「検査者が十分に習熟していない検査を用いることを控えた」です。
正答番号だけを覚えるより、「検査者の力量・検査材料の保護・ラポール・説明・被検査者への配慮」という5つの視点で整理しておくと、別の心理検査問題にも応用しやすくなります。
心理検査の成り立ちも復習したい方は、第3回 問16「心理検査の成り立ち」もあわせて確認してください。
次に読む:第3回 問90「MMPI(ミネソタ多面人格目録)」



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