Ig Research|Evidence Brief
不登校や登校しぶりについて考えるとき、私たちはつい「原因」を一つに決めたくなります。
「不安が強いから」「親の対応がよくなかったから」「いじめがあったから」「勉強についていけないから」。もちろん、どれも重要な情報になり得ます。しかし、近年の研究を並べてみると、学校へ行きにくくなる状態を一つの要因だけで説明することにはかなり無理があることが見えてきます。
この記事では、school refusal、Emotionally Based School Avoidance〈EBSA〉、school-refusal tendencies、truancyなど、少しずつ異なる概念を扱った研究を横断しながら、本人・友人関係・学校環境・発達・家族と支援・実際の出席という6つのレイヤーに整理します。
この記事を読む前に|「不登校」と海外研究の言葉は同じではない
最初に重要な注意があります。この記事で扱う研究は、すべてが日本の行政上の「不登校」を対象にしているわけではありません。
| 用語 | この記事での位置づけ |
|---|---|
| 日本の「不登校」 | 日本の制度・行政で用いられる定義。海外研究のschool refusal等と完全には一致しない。 |
| School refusal | 情緒的苦痛と関連して学校への出席・滞在が難しくなる学校出席上の問題の一部。 |
| EBSA | Emotionally Based School Avoidance。情緒的要因を伴う学校回避・非出席を扱う概念。 |
| School-refusal tendencies | 学校拒否に関連する傾向を尺度で測ったもの。実際の欠席日数とは限らない。 |
| Truancy / skipping | 授業や学校を休む行動を捉える概念。school refusalと同義ではない。 |
したがって、海外研究の結果をそのまま「日本の不登校児童生徒全体」に当てはめることはできません。この記事では、研究結果を状態を多面的に理解するための手がかりとして扱います。
1|「なぜ学校に行けないのか?」を一つに決めすぎない
全体の土台になるのが、Leducらによるschool refusalのシステマティックレビューです。
このレビューでは15研究で67の要因が検討され、school refusalのある子ども・青年と、そうではない群を区別した要因として、44の個人・社会・文脈的要因が整理されました。特に、不安や不安関連症状、多様な学習ニーズなどが重要な違いとして報告されています。
ここで大切なのは、44個の「原因リスト」が見つかったと読むことではありません。
この研究の価値はむしろ、school refusalを理解するときに、本人の症状だけでなく、学校、家族、社会的な関係、より広い文脈まで見る必要があることを示した点にあります。
この研究から言えること
School refusalと関連する特徴は、個人内だけでなく、社会・学校・文脈をまたいで存在する。
この研究だけでは言えないこと
ある特定の要因がschool refusalを「引き起こした」と因果関係を確定すること。
つまり、支援の最初の問いを「原因は何ですか?」だけにすると、必要な情報を取りこぼす可能性があります。
より実務的には、「どのレイヤーをまだ確認できていないか」と考える方が役立ちます。
2|本人の中だけを見ると、友人関係の時間的変化を見落とす
友人関係について、2026年に中国のearly adolescents 510人を3時点で追跡した研究があります。ここではRandom Intercept Cross-Lagged Panel Model〈RI-CLPM〉が用いられました。
この方法の面白い点は、「いじめ被害が多い子ほどschool-refusal tendenciesが高い」という人と人の違いだけではなく、同じ本人の中で、普段よりpeer victimizationが高かった時期の後に何が起きるかを検討していることです。
結果として、本人内でpeer victimizationが普段より高かった時期の後に、school-refusal tendenciesが高まるprospective associationが示されました。特にT1からT2でその関連が目立ちました。一方、このモデルでは逆方向、つまりschool-refusal tendenciesから後のpeer victimizationへの経路は有意ではありませんでした。
ただし、ここで「いじめが不登校を引き起こした」と書くのは行き過ぎです。
- 測っているのはschool-refusal tendenciesで、客観的な欠席日数ではない
- RI-CLPMは時間順序を含む本人内関連を検討できるが、無作為化実験ではない
- 逆方向が有意でなかったことは、「逆方向の影響が存在しない」という証明ではない
それでも、この研究は「本人の不安だけを見る」のではなく、友人関係がいつ、どのように変化したかを確認する意味を補強します。
3|「友達がいるか」ではなく、「所属できている感覚」を見る
友人関係を「友達がいる/いない」の二択で捉えるだけでは、学校とのつながりを十分に表現できないかもしれません。
スペインの12〜17歳690人を対象とした2026年の研究では、General Belongingness ScaleのInclusionとExclusionを検討し、school refusal dimensionsとの関連を分析しています。
Latent Profile Analysisでは、Highly Excluded、Socially Disconnected、Mixed Belonging、Highly Includedという4つのprofileが抽出され、school refusal dimensionsにはprofile間差がみられました。Highly Excluded群は全体として高いschool refusal scoresを示し、Highly Included群は低い傾向でした。
ここで特に興味深いのが、Socially Disconnectedです。強く排除されているわけではない一方、Inclusionが非常に低いというprofileでした。
つまり、「明確ないじめや仲間外れは確認されない」ことと、「その子が学校や人間関係の中でつながっている感覚を持てている」ことは同じではありません。
ただし、この研究は横断研究です。4profileを「不登校になる4タイプ」のような診断分類や将来予測として扱うことはできません。
4|bullyingと欠席の関連は大規模データでも見える。ただし、それをそのままschool refusalとは呼ばない
2026年の国際研究では、PISA 2022のデータを用いて、69か国・地域、413,462人の青年、17,528校を対象にbullying victimizationとschool attendance problemsの関連が検討されました。
この研究では、bullying victimizationが高いことと、授業を休む・学校を丸一日休むといった行動との関連が、国をまたいで確認されました。
約41万人という規模は非常に大きく、友人・学校環境とattendanceの関連が一つの国だけの現象ではない可能性を示す点で重要です。
しかし、ここでも用語を混ぜないことが重要です。
この研究のattendance outcomeは、PISAで測定されたclass skipping / school-day skippingです。日本の「不登校」や、情緒的苦痛を中心に定義されるschool refusal / EBSAとは同じものではありません。
また横断データなので、bullyingが欠席を引き起こしたと因果的に結論づけることもできません。
強いところ
69か国・約41万人という非常に大きな国際データで、bullying victimizationとattendance problemsの関連を検討している。
読み過ぎないところ
truancy / skippingとschool refusal / EBSA / 日本の不登校を同一視しない。横断研究なので因果とは言わない。
5|年齢が違えば「まったく別の問題」になるわけでもない
不登校支援では、「小学生は分離不安」「中高生は対人関係」のように年齢だけで問題を分類したくなることがあります。
2026年のEBSA臨床サンプル102人を対象とした研究では、12歳未満の児童40人と、12歳以上の青年62人を比較しています。
結果は、児童と青年で臨床指標の多くが全体としてかなり似ていた一方、separation anxietyは児童で高いというものでした。
この研究は「年齢差がない」と言っているわけではありません。ただ、年齢を見ただけで支援内容を決めるほど単純でもないことを示します。
特に注意したいのは、児童群と青年群で別々に行われた回帰分析です。一方の群で有意、もう一方で非有意だったからといって、それだけで「年齢によって効果が違う」というage interactionが証明されたことにはなりません。
発達段階は重要なレイヤーですが、年齢だけでケースを分類するためのラベルではないと考えるのが安全です。
6|支援も「一つの技法」だけでは組み立てられていない
ここまで、本人、友人関係、所属感、発達と複数のレイヤーを見てきました。では、支援研究はどうなっているのでしょうか。
2026年のintensive EBSA interventionsのscoping reviewでは、19報、17の独立sample、13programが整理されました。
そこで繰り返し見られたのは、単一の心理療法だけではなく、次のような複数の要素です。
- educational scaffolding:本人の現在のcapacityに合わせて教育的要求を調整する
- therapeutic peer milieu:同様の経験を持つ仲間との治療的・教育的な環境
- health–education systems coordination:医療・心理と教育の連携
- high-intensity graded exposure:段階的な参加・接近を高頻度で支える
- transitional space:家庭と通常の学校の間にある一時的・移行的な場
このレビューで特に重要なのは、「段階的暴露が最も効く」とランキングしているわけではないことです。
scoping reviewの目的は、既存programの構造や繰り返し現れるtherapeutic leversを地図化することです。実際、著者らもmechanisms of changeやcomparative effectivenessは今後の研究課題だとしています。
それでも、実践を考える上で示唆的なのは、支援が本人に登校練習だけをさせる構造にはなっていないことです。
学習負荷を調整する。安心できる対人環境を作る。健康・心理と学校が情報をつなぐ。中間的な場所を作る。本人が動ける条件を周囲も含めて整える。
これは、現在のIg Knowledgeで大切にしている「行けた/行けなかっただけで評価しない」という考え方ともつながります。実際の朝の判断や負荷調整については、「学校に行きたくない」と言われたら、休ませる?行かせる?で詳しく整理しています。
7|家族を含む支援には可能性がある。ただし「親を変えれば登校できる」ではない
家族を含む支援についても、慎重に読む必要があります。
2026年、中国のうつ病とschool refusalを有する12〜18歳71人を対象に、8週間のparent+adolescent dual-track group CBTを検討した非無作為化研究が報告されました。
GCBT群ではfamily-reported school-return statusに大きな変化が報告されています。一方で、研究開始時点で学校へ通っていた割合はGCBT群16.7%、TAU群46.9%と大きく異なっていました。無作為割付ではなく、主要outcomeもfamily-reportedです。
さらに対象は「うつ病を有しschool refusalを示す青年」であり、一般の不登校児童生徒全体へ広げられる研究ではありません。
したがって、この結果から「親子CBTで66.7%が治る」「親の認識を変えれば学校へ戻れる」といった強い結論を出すことはできません。
現段階では、本人と保護者の両方を支援対象に含める介入には検討価値があり、予備的なsignalがある程度に位置づけるのが妥当です。
8|研究を6つのレイヤーに置き直す
ここまでの研究を、実際に情報を整理しやすい形に置き直すと、次の6レイヤーになります。
01|本人
不安、不安関連症状、学習ニーズ、心理状態、認知・情緒的な負荷。
02|対人
peer victimization、Inclusion / Exclusion、社会的disconnect、安心できる関係。
03|学校・環境
学習要求、教室環境、移行期、学校との接続、利用できる支援資源。
04|発達
年齢・発達段階、分離不安など。ただし年齢だけで支援を決めない。
05|家族・支援
本人と家族の認識、支援体制、学校・医療・心理の連携、利用できる中間的環境。
06|実際の出席・機能
欠席、遅刻、早退、授業参加、滞在時間、学習参加など。気持ちや傾向尺度と分けて確認する。
最後の「実際の出席・機能」は、原因のレイヤーというより何が実際に起きているかを測るレイヤーです。
本人が「学校へ行きたくない」と強く感じていても出席していることがあります。逆に、本人のschool-refusal tendency尺度が高くなくても、欠席が増えていることがあります。
主観・傾向と、客観的なattendanceを分けることで、支援の変化をより正確に追いやすくなります。
9|「原因探し」から「条件マップ」へ
では、保護者や学校、支援者は何をすればよいのでしょうか。
この記事の研究から、万能のチェックリストを作ることはできません。ただし、相談の方向を「原因当て」から「条件の整理」へ変えることはできます。
| 原因を一つに決める問い | 複数レイヤーで確認する問い |
|---|---|
| 不安が原因ですか? | 不安はいつ・どの場面で強く、学習や対人環境とどう重なっていますか? |
| いじめが原因ですか? | peer victimization、安全、所属感、孤立感に変化はありませんか? |
| 親の対応が原因ですか? | 家庭で何が起きていて、本人と保護者は状況をどう捉え、どんな支援が使えていますか? |
| 登校練習をすべきですか? | 今のcapacityに対して、教育要求・場所・時間・支援者・段階は調整できていますか? |
| 学校へ戻れましたか? | 出席時間だけでなく、参加、疲労、翌日の反動、継続可能性はどうですか? |
これは「全部を調べなければ何もできない」という意味ではありません。
安全上の問題があれば最優先で対応する。その上で、本人の余力、対人関係、学校環境、発達、家族と支援体制、実際の出席を必要な範囲で整理し、次に動かせる条件を一つずつ探すという考え方です。
不登校事例で初期に安全や生活状況を確認する考え方は、公認心理師試験の事例問題「不登校の対応」でも扱っています。また、初期面接で本人の希望や情報収集をどう考えるかは、インテーク面接と初期対応も関連します。
10|研究を言い過ぎないことも、支援の一部
不登校・登校しぶりの情報は、強い言葉ほど広まりやすい領域です。
「不登校の原因は親」「いじめがあるから学校へ行けない」「所属感を高めれば登校できる」「段階的暴露が最も有効」。こうした断定は、研究が実際に示している範囲を超えてしまうことがあります。
今回取り上げた研究だけでも、横断研究、縦断研究、scoping review、非無作為化介入研究が混在しています。測定しているoutcomeもschool-refusal tendencies、school refusal、EBSA、class skipping、family-reported school returnと異なります。
研究を使うときは、何を対象に、何を測り、どのデザインで、どこまで言えるのかを一緒に読む必要があります。
まとめ|確認するのは「一つの原因」ではなく、今の条件
不登校・登校しぶりを理解するとき、本人の不安だけ、親の対応だけ、いじめだけ、年齢だけを見ても十分ではありません。
研究からは、個人、友人関係、所属感、学校環境、発達、家族・支援体制がそれぞれ関連し得ることが示されています。さらに、支援program自体も、心理療法だけではなく、教育的scaffolding、peer milieu、学校との連携、移行的な場などを組み合わせて構成されています。
だからこそ、最初から「原因」を一つに決めるより、
本人 × 対人 × 学校・環境 × 発達 × 家族・支援 × 実際の出席
という複数レイヤーで現在地を整理し、「何を変えると少し動きやすくなるのか」を考える方が、研究にも実践にも合っています。
実際の朝に「休ませるか、行かせるか」で迷っている場合は、「学校に行きたくない」と言われたら、休ませる?行かせる?|登校しぶりの朝に考えたいこともあわせてお読みください。
Evidence Bundle|主な参考文献
- Leduc K, Tougas A-M, Robert V, Boulanger C. School Refusal in Youth: A Systematic Review of Ecological Factors. Child Psychiatry & Human Development. 2024;55:1044–1062. DOI: 10.1007/s10578-022-01469-7.
- Ge W, Chen S, Bai X, et al. Peer victimization and school refusal tendencies in early adolescence: A random intercept cross-lagged panel model analysis. Journal of Research on Adolescence. 2026. PMID: 42605228.
- Pérez-Marco M, Gonzálvez C, Fuster A, et al. Belongingness and School Refusal in Adolescents: Psychometric Validation and Identification of Risk Profiles. Behavioral Sciences. 2026;16(7):1225. PMID: 42510346.
- Gimenez G, Cefai C, Chen C, et al. Bullying Victimization and Truancy in Adolescence: A Multilevel, Cross-National Study in 69 Countries. Journal of Interpersonal Violence. 2026. PMID: 42629627.
- Gök MF, Bilgiç B, Yeşilkaya C, et al. Developmental Differences in the Emotional and Behavioural Profiles of Emotionally Based School Avoidance (EBSA) in Children and Adolescents. Psychiatric Quarterly. 2026. PMID: 42469523.
- Ratnamohan L, Smith E, McInnis P, et al. Intensive interventions for emotionally based school avoidance: a scoping review of program structures and therapeutic levers. Frontiers in Psychiatry. 2026;17:1851117. PMID: 42602171.
- Xu H, Wang Y, Wang Y, et al. Efficacy of dual-track group CBT on emotion-related school attendance challenges and parent-adolescent perceptual bias among Chinese adolescents with depression: A non-randomized controlled trial. Asian Journal of Psychiatry. 2026;122:105056. PMID: 42341377.



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