【神経発達症】発達障害と併存しやすい『気分の波』の対処方法を解説!
- 2021.02.14
- 臨床心理士 / 公認心理師
- 気分障害, 発達障害
神経発達症は、DSM-5での「発達障害」の新しい呼称を指します。
発達障害
脳の機能的な問題が関係して生じる疾患であり、日常生活、社会生活、学業、職業上における機能障害が発達期にみられる状態をいう。(略)
DSM-5では発達障害は、知的障害(知的能力障害)、コミュニケーション障害、自閉スペクトラム症(ASD)、ADHD(注意欠如・多動症)、学習障害(限局性学習症、LD)、発達性協調運動障害、チック症の7つに分けられています。
神経発達症(発達障害)当事者の方は、中核となる特性のみでなく、気分が落ち込んだり、反対に気分が上がりすぎるといった『気分の波』が生じやすいといわれています。
この『気分の波』は当事者の方にとって、それぞれの発達特性以上の影響を日常生活に与えることが多いです。
そこで今回は、
をテーマとして記事をまとめました!
この記事はこんな方にオススメ💁🏻
- 神経発達症(発達障害)当事者の方で、気分の問題に悩んでおられる方
- 支援者として神経発達症(発達障害)当事者の方と関わる方
神経発達症(発達障害)には『気分の問題』が併存しやすい
キーワード二次障害としての『気分の波』
二次障害としての『気分の波』
神経発達症自体の特性として『気分の波』は存在していませんが、さまざまな発達特性からくる日常的なストレスによって二次的な障害として気分の波が生じることが多いです。
発達特性からくる日常的なストレスの代表例は以下のものが挙げられます。
- 感覚過敏性により頭で処理する情報量が多くなる
- 疲労を感じにくく溜めやすい
- 新しい環境や見通しの立たない状況が苦手
- 予想外の状況が起きると負担を感じやすい
- 注意が移ろいやすく、頭で処理する情報量が多くなる
- 活動量が多くなり疲労を溜めやすい
- 先延ばし⇨過活動といったパターンが起きやすい
- 衝動的に行動してしまい過活動となる
などが挙げられます。
また、どんな特性をもつ神経発達症にも共通するものとして、
ことも挙げられるでしょう。
このような不適応体験の積み重ねによって、常に気分が落ち込んでいる状態に悩まされるといったことが起こります。
この図のように、なにかきっかけがあれば気分が高揚しますが、その後に強い気分の落ち込みがくることも多く、この一連の流れが気分の波をうむことになります。
神経発達症当事者の方は、ストレスがかかっている状況で自分の感情をうまく言語化できないことも多く、気づいたときには大きな気分の波が存在していることも少なくありません。
気分の落ち込みがあまりにも強い場合や長く続く場合、きっかけなく波が生じる場合には、気分障害(大うつ病性障害、持続性抑うつ障害、双極性障害)などの可能性があるため医療機関に受診することをオススメします
また、神経発達症当事者の方は睡眠の問題に悩むことも多いため、睡眠の問題をきっかけとして、気分の波が起こることもあります。
【神経発達症】発達障害に併存しやすい睡眠の問題を見過ごしてはいけない理由について解説!
『気分の波』に繋がりやすい考え方の癖
ここでは発達特性ではないですが、神経発達症当事者の方が抱きやすい『気分の波』に繋がりやすい考え方の癖についてまとめていきます。
- 白黒思考
- 反芻思考
白黒(0-100、全か無)の考え方が『気分の波』をうむ
白黒思考とは、0-100思考、全か無かの思考、二極思考など、さまざまな呼ばれ方がありますが、ひとつの物事に対して両極端な考え方をしてしまうことをいいます。
神経発達症のなかでも、特に自閉スペクトラム症当事者の方は、見通しが立たない曖昧な状況が苦手なため、両極端で答えがはっきりとしているような白黒思考の考え方をしやすいです。
「全てがうまくいっている」と考えるときは気分の高揚に繋がりますが、「何もうまくいかない」と考えているときは気分の落ち込みに繋がるでしょう。
このような白黒思考は完璧主義的な考え方にも関連するため、自他に求める理想が高くなりやすいことも「何もうまくいかない」という考えが多くなる理由の1つです。
反芻思考が『気分の波』をうむ
反芻思考とは、否定的な考えが繰り返し浮かんでくることをいいます。「なぜ」「どうして」など、同じ考えが堂々巡りとなってしまうことで気分の落ち込みに繋がり、最終的には過去の嫌な記憶を思い出して強く落ち込むことも多いです。
神経発達症当事者の方のなかには、嫌な記憶が頭に残りやすいことと、注意が移ろいやすく頭が常に動いていることが多いことから、通常状態でこのような反芻思考がしばしば見られます。
反芻思考は気分の落ち込みをうみますが、何か集中できるような活動をしているときは、考えと距離をとることができるため、一時的に気分が改善します。そして、集中できる活動を終えて再び反芻思考が始まると気分が落ち込みます。
長いスパンで考えると以下のような流れがあります。
- 反芻思考から距離を取るために活動量を増やす⇨気分が高揚する
- 活動量が増えた結果、身体的な疲労が蓄積する
- 疲労の蓄積で活動量が低下し、反芻思考が増える⇨気分が落ち込む
また、発達特性に関連する「先延ばし」も反芻思考と関連が強いと考えられています。
『気分の波』への対処方法
ここまで説明してきた『気分の波』への対処方法としては以下のものがあります。
『気分の波』への対処法
- 医療機関に受診して専門的な治療(薬物療法・心理療法)を受ける
- 白黒思考・反芻思考などの考え方の癖に気づいて他の考え方に変えていく
- 調子が良いときは6〜8割、調子が悪いときは2〜4割に活動量を調整する
発達特性のみで説明が可能な『気分の波』なのか、気分障害の水準まで重篤なのかの判断は難しい部分があります。
そのため、症状が強い場合や、特に「きっかけ」がなく『気分の波』が生じている場合は、医療機関に受診して専門的な治療(薬物療法や心理療法)を受けることが重要です。
『気分障害』に対する心理療法はこちらをどうぞ💁🏻
先ほど説明したような白黒思考や反芻思考を変えていくためには、まず自分自身で気づくことが最初の一歩となります。
気づくことができたら、まずは一旦考えと距離をとってみることが重要でしょう。
距離を取るための方法としては、
・人に相談したり、歌を歌う、本を読むなど、声を出す
・瞑想や呼吸法を行う
など色々あります。
こちらは必要に応じてカウンセリングを受けてみるのも1つの手です!
調子が良くないときは活動ができず、調子が良いときにたくさん活動をする。
当たり前なことのように見えますが、実はこの『気分の波』に合わせて活動を変えてしまうというパターンが『気分の波』を長引かせたり悪化させる要因となってしまいます。
調子が良いときは活動量を控えめに、調子が悪いときはできる限り活動を増やすように意識しましょう。
また、「先延ばし」もこのような『気分の波』を助長させる可能性があります。
『先延ばし』への対処方法はこちらをどうぞ💁🏻
まとめ
今回の記事では、神経発達症当事者の方が悩むことの多い「気分の波」に関してまとめてきました!
以下が対応方法のポイントです。
- きっかけのない『気分の波』は迷わず専門機関の受診を!!!
- 白黒思考・反芻思考などの考え方の癖に気づいて距離を取ってみる
- 『気分の波』に合わせた活動をしないこと
-
前の記事
【心理療法】EMDRはどんな心理療法?EMDRの概要と適応的情報処理モデルについて解説! 2021.02.09
-
次の記事
公認心理師資格試験 過去問解説 問22 Alzheimer型認知症について 2021.04.12
コメントを書く