公認心理師資格試験 過去問解説 問22 Alzheimer型認知症について

公認心理師資格試験 過去問解説 問22 Alzheimer型認知症について

第3回公認心理師試験の過去問や正答は以下のサイトで入手可能です。

第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター

 

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【問22】Alzheimer型認知症

問22 Alzheimer型認知症について、最も適切なものを1つ選べ。

① うつ症状が起こる。

② 見当識は保持される。

③ 近時記憶障害は目立たない。

④ 具体的な幻視が繰り返し出現する。

⑤ 注意や明晰さの著明な変化を伴う認知の変動がみられる。

出典:第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター

 

正答は ①

 

① うつ症状が起こる。

となります。

 

認知症

Alzheimer型認知症について知る前に、認知症(Major Neurocognitive Disorder)について確認しておく必要があります。

 

認知症とは?

A. 1つ以上の認知領域(複雑性注意、実行機能、学習および記憶、言語、知覚-運動、社会的認知)において、以前の行為水準から有意な認知の低下があるという証拠が以下に基づいている:
(1) 本人、本人をよく知る情報提供者、または臨床家による、有意な認知機能の低下があったという懸念、および
(2) 標準化された神経心理学的検査によって、それがなければ他の定量化された臨床的評価によって記録された、実質的な認知行為の障害

B. 毎日の活動において、認知欠損が自立を阻害する(すなわち、最低限、請求書を支払う、内服薬を管理するなどの、複雑な手段的日常生活動作に援助を必要とする)。

C. その認知欠損は、せん妄の状況でのみ起こるものではない。

D. その認知欠損は、他の精神疾患によってうまく説明されない
(例:うつ病、統合失調症)。

出典:DSM-5®︎精神疾患の分類と診断の手引き|医学書院

 

認知症とは、記憶・注意・計画・判断などの認知機能が、後天的な脳の器質的障害によって持続的に低下して、日常生活や社会生活に支障をきたす状態のことをいいます。

 

2004年までは「痴呆症(Dementia)」と呼ばれていましたが、2004年以降は「認知症(Major Neurocognitive Disorder)」と名称が変わっています。

 

誰しも年齢を重ねることによって認知機能は低下していくものですが、加齢による認知機能の低下と認知症の違いがいくつかあります。

  • 加齢によるもの忘れでは体験の一部を忘れるが、認知症では体験した内容の全てを忘れる
  • 加齢によるもの忘れでは、忘れたという自覚があり思い出そうとするが、認知症では忘れた自覚がないことが多い
  • 認知症の認知機能の低下は徐々に進行していく

 

また、18歳〜44歳までに発症する認知症を「若年性認知症」、45歳〜64歳までに発症する認知症を「初老型認知症」と呼びます。

 

認知症の分類

 

認知症は大きく、脳の細胞がゆっくりと死んでいくことが脳が萎縮していく「変性性」と、脳梗塞・脳出血などによって脳の細胞に栄養や酸素が行き渡らなくなることで、その部分の細胞が死んでしまったりネットワークが壊れてしまう「脳血管性」の2つにわけられます。

 

また、それぞれ原因となる要因によって、Alzheimer型、Lewy小体型、前頭側頭型、脳血管性と大きく分類されます。

 

厚生労働省の報告認知症施策の総合的な推進について(令和元年6月20日)によれば、Alzheimer型認知症が67.6%、脳血管性認知症が19.5%、レビー小体型認知症が4.3%、前頭側頭型認知症が1.0%という順に多いとされています。

 

前頭側頭型 < レビー小体型 < 脳血管性 < Alzheimer型 

 

Alzheimer型認知症

問22の解説のために、4種類の認知症のなかからAlzheimer型認知症についてのみまとめます。

 

Alzheimer型認知症とは

脳内にたまった異常なたんぱく質により、神経細胞が破壊され、脳に萎縮がおこります 。

【症状】

昔のことはよく覚えていますが、最近のことは忘れてしまいます。軽度の物忘れから徐々に進行し、やがて時間や場所の感覚がなくなっていきます。

出典:認知症施策の総合的な推進について(令和元年6月20日)

 

アルツハイマー型認知症では、脳内にアミロイドβタウ蛋白といったたんぱく質が蓄積することが発病の原因とされています。

 

Alzheimer型(アルツハイマー型)認知症は、上でも説明した認知症や軽度認知障害の基準を満たしたうえで、以下の基準に該当する必要があります。

(1)家族歴または遺伝子検査から、アルツハイマー病の原因となる遺伝子変異の証拠がある。

(2)以下の3つすべてが存在している:

(a)記憶、学習、および少なくとも1つの他の認知領域の低下の証拠が明らかである(詳細な病歴または連続的な神経心理学的検査に基づいた)。
(b)着実に進行性で緩徐な認知機能低下があって、安定状態が続くことはない。
(c)混合性の病因の証拠がない(すなわち、他の神経変性または脳血管疾患がない、または認知の低下をもたらす可能性のある他の神経疾患、精神疾患、または全身性疾患がない)

出典:DSM-5®︎精神疾患の分類と診断の手引き|医学書院

 

また、代表的な病気の経過としては、厚生労働省の認知症施策の現状 厚生労働省老健局高齢者支援課認知症・虐待防止対策推進室 (PDF)が非常に参考になります。

出典:認知症施策の現状 厚生労働省老健局高齢者支援課認知症・虐待防止対策推進室 (PDF)より

 

このように、典型的には軽いもの忘れから症状が始まり、「新しいものが覚えられない」といった近時記憶の障害や、「日時・場所などがわからなくなる」といった見当識の障害へと繋がっていくことがわかります。

 

その後、症状が進行していくと、「これまでできていた行為ができなくなる」という失行「感覚を通して物を知覚できなくなる」という失認など、物の名前や使い方がわからなくなりできていた機能が失われていく状態になっていきます。

 

中核症状と周辺症状

認知症の症状に関しては、中核症状と周辺症状というわけ方がされています。

 

こちらは厚生労働省の政策レポート「認知症を理解する」がわかりやすいので、参考にして見ていきましょう。

脳の細胞が壊れることによって直接起こる症状が記憶障害、見当識障害、理解・判断力の低下、実行機能の低下など中核症状と呼ばれるものです。これらの中核症状のため周囲で起こっている現実を正しく認識できなくなります。
本人がもともと持っている性格、環境、人間関係などさまざまな要因がからみ合って、うつ状態や妄想のような精神症状や、日常生活への適応を困難にする行動上の問題が起こってきます。これらを周辺症状と呼ぶことがあります。

出典:厚生労働省:政策レポート(認知症を理解する)

 

「『記憶』『見当識』『理解・判断力』『実行機能』『社会的認知』など認知機能の障害」中核症状といい、認知症であれば症状の程度の差はあれ必ず現れる症状をさします。

 

また、「精神症状や日常生活を困難にする行動上の問題」などを周辺症状といい、こちらは認知症当事者の方の素因(もともとの性格)や環境要因、身体疾患や身体の状態など様々な要素が絡んで現れてくる症状をさします。

 

中核症状と周辺症状・中核症状=認知症当事者であれば誰しも生じる症状:「記憶障害」「見当識障害」「理解・判断力の障害」「実行機能障害」「社会的認知の障害」
・周辺症状=当事者の方の性格や環境、身体疾患や身体状態など複数の要素から現れる精神症状や行動上の問題

 

特に、この周辺症状については、「認知症患者にしばしば出現する知覚や思考内容、気分あるいは行動障害(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:BPSD)」と呼ばれています。

 

高齢認知症患者のうち約80%がBPSDを有している

出典:林谷・田中(2014). 認知症高齢者の行動・心理症状(BPSD) に対する支援のあり方, 園田学園女子大学論文集, 48, 105-112.

と、されるほどBPSDは高い割合で生じます。

 

代表的なものは以下の症状です。

  • 不安・焦燥
  • 抑うつ症状
  • 幻覚・妄想
  • 興奮・粗暴行為
  • 徘徊

 

BPSDに関しては、薬物療法のほかに、適切な環境やケアの提供など非薬物療法が推奨されています。

 

認知症のケアに関してはこちらをどうぞ

 

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選択肢の解説

では、問題の解説に移りましょう❗️

① うつ症状が起こる。

アルツハイマー型認知症に特有の症状というわけではありませんが、認知症に共通する代表的なBPSDの症状のひとつですね。

 

そのため、選択肢は適当といえます。

 

② 見当識は保持される。

③ 近時記憶障害は目立たない。

「日時・場所といった見当識の障害」、「新しいものが覚えられないといった近時記憶の障害」は、アルツハイマー型認知症の経過のなかでも初期に出てくる症状です。

 

そのため、上記の選択肢は2つとも不適切といえますね。

 

④ 具体的な幻視が繰り返し出現する。

さて、こちらの選択肢なのですが、「幻視」は認知症のなかでもLewy小体型認知症に特徴的な症状とされています。

 

幻視レビー小体型認知症

 

典型的なアルツハイマー型認知症では「繰り返される幻視」は認められないため、この選択肢は不適当といえます。

 

⑤ 注意や明晰さの著明な変化を伴う認知の変動がみられる。

アルツハイマー型認知症では、“着実に進行性で緩徐な認知機能低下があって、安定状態が続くことはない”とされています。

 

そのため、「認知の変動」は適切とはいえなさそうです。

 

一方で、「注意や明晰さの著明な変化を伴う認知の変動」は、せん妄との区別が難しそうですが、レビー小体型認知症の中核的な臨床症状とされています。

 

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まとめ

第3回公認心理師資格試験の問22は、Alzheimer(アルツハイマー)型認知症に関する問題でした。

知識としては、アルツハイマーに特化しているというよりも、認知症の症状全般に関するものが問われている問題といえます。

 

キーワード・中核症状:認知機能障害
・周辺症状(BPSD)
・認知症=「変性性(アルツハイマー、レビー、前頭側頭)」と「脳血管性」がある

また、それぞれの類型と特徴をおさえておく必要があるでしょう。