気分障害に対してエビデンスの示されている心理療法について

気分障害に対してエビデンスの示されている心理療法について

この記事では、以前紹介したESTsのなかから、特に気分障害(うつ病、双極性)に関するエビデンス が示された心理療法に関して紹介します。

 

心理療法のエビデンスに関しては、以下の記事をご参照ください。

 

気分(感情)障害

DSM-5では、「抑うつ障害群」と「双極性障害および関連群」

ICD-11では、「うつ病性障害」「双極性および関連障害」

として、異なるカテゴリーに分かれています。

 

今回、いくつかの心理療法とAPAサイトに記載されている文献の邦訳版が出版されている場合はその書籍を紹介していますが、その他にも優れた専門書は複数ありますのであくまで参考程度としてください。

 

エビデンスにこだわりすぎる必要はありませんが、心理職として各疾患に効果があるとされる心理療法をおさえておくことは、EBBPのための第一歩となるでしょう。

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うつ病(Depression)に対してエビデンスの示されている心理療法

以下に記載するのはアメリカ心理学会(APA)によるDepression|Society of Clinical Psychologyから、エビデンスの強さ順に並び替えたリストです。

 

こちらのリストはやや古く、Chambless et al., 1998による「確立された治療法( “well-established”)」の基準を満たしていれば「強い」を意味するStrong、「おそらく有効性がある治療(“probably efficacious treatments.”)」の基準を満たしていれば「控えめ」を意味するModestと記載されています。

 

現在は、Tolin et al., 2015の基準により、エビデンスの見直しが行われていますが、その多くが再評価の最中となっています。

 

和訳されている心理療法に関しては和訳を載せていますが、和訳がしっかりとされていない心理療法に関しては英語表記のまま記載しています。

 

心理療法 エビデンス
行動活性化療法(Behavioral Activation Strong
認知行動分析システム精神療法(Cognitive Behavioral Analysis System of Psychotherapy:CBASP)
認知療法(Cognitive Therapy)/認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy)
対人関係療法(Interpersonal Psychotherapy:IPT)
Self-Management/Self-Control Therapy
問題解決療法(Problem-Solving Therapy:PST)
マインドフルネス認知療法(Mindfulness-Based Cognitive Therapy :MBCT)
アクセプタンス&コミットメント・セラピー(Acceptance and Commitment Therapy:ACT Modest
エモーション・フォーカスト・セラピー(Emotion-focused therapy :EFT) 
論理療法/論理情動療法(Rational emotive behavioral therapy:REBT
回想法/ライフレビューセラピー(Reminiscence therapy/Life Review therapy)
セルフシステムセラピー(Self-System Therapy :SST)
短期精神力動的精神療法(brief dynamic therapies)
Mom Power: Promoting Resilience in Mothers & Families

出典:Depression|Society of Clinical Psychology

各心理療法の概略と記載されているマニュアルの日本語版について

ここでは、上であげた心理療法のなかから、いくつかのみピックアップしてその概要を解説します。

 

認知行動療法、アクセプタンス&コミットメントセラピー、対人関係療法、マインドフルネスのように現状でも複数の疾患に対してエビデンスの示されている心理療法や、日本語訳が明確でなく日本ではほとんど取り入れられていない心理療法に関してはこの記事での説明は割愛させていただいております。

 

いずれの心理療法に関しても、Depression|Society of Clinical Psychologyにて概要は確認することが可能ですので、概要はリンク先をご覧ください。

 

行動活性化療法(Behavioral Activation)

Behavioral Activation (BA) seeks to increase the patient’s contact with sources of reward by helping them get more active and, in so doing, improve one’s life context.

出典:Behavioral Activation for Depression|Society of Clinical Psychology

 

行動活性化療法では、うつ病のクライエントさんは、以前楽しかった活動や達成感が得られるような活動/環境と接する機会が減ってしまうことで、うつ病が長く維持されてしまうという前提に立っています。

 

そのため、行動活性化療法は、クライエントさんが、「報酬」が得られるような行動を増やすことを支援することを目的としており、①クライエントさんの価値観に沿った活動を増やすこと、②活動を妨げる要因(回避行動)を減らし問題解決へと繋げること、を大きな目標としています。

 

ESTsでエビデンスが示されている行動活性化療法はフルバージョンで20-24セッション、短縮版(BATD)が8-15セッションで構成されています。

 

また、日本でも介入研究がいくつか報告されている心理療法であるため、馴染み深い方も多いかもしれません。

 

リストに記載されている著書(日本語版)



認知行動分析システム精神療法(Cognitive Behavioral Analysis System of Psychotherapy:CBASP

The Cognitive Behavioral Analysis System of Psychotherapy (CBASP; McCollough, 2000) is an integrative therapy for chronically depressed adults that combines components of cognitive, behavioral, interpersonal, and psychodynamic therapies.

出典:Cognitive Behavioral Analysis System of Psychotherapy|Society of Clinical Psychology

 

認知行動分析システム精神療法は、慢性的なうつ病の成人を対象とした認知・行動・対人関係・精神力動的なアプローチを統合した心理療法とのことです。

 

CBASP-Cognitive Behavioral Analysis System Psychotherapyのサイトを見ると、①Situational Analysis:クライエントの行動が他者に与える影響に気づいて修正していくための問題解決技法、②Interpersonal Discrimination Exercise:他者との過去のトラウマ体験の検証と、健康的な対人関係を分けて捉えるエクササイズ、③Contingent Personal Responsibility:アサーションなど、クライエントのうつ病を維持するような不適応行動を修正するための行動スキルの習得という3つの要素で構成されている心理療法のようです。

 

慢性期のうつ病に対して、複数のアプローチから介入をしていく心理療法といえますね。

 

CBASPは心理療法単独ではなく、薬物療法と並行して行われることが推奨されています。

 

リストに記載されている著書(日本語版)

 

エモーション・フォーカスト・セラピー(Emotion-focused therapy :EFT)

Emotion-focused therapy (EFT) for depression builds on Greenberg’s (2004) more general process-experiential approach that was designed to help patients identify, utilize, and process emotions.

出典:Emotion Focused Therapy for Depression|Society of Clinical Psychology

 

エモーション・フォーカスト・セラピーは感情焦点化療法とも呼ばれており、ゲシュタルト療法の要素も含んだ感情に焦点を当てる心理療法です。

 

クライエントが自身の感情に気づき、感情をコントロールし、感情を利用して変化させていく過程で、健全な感情を行動の指針に利用したりすることを学びます。

 

リストに記載されている著書(日本語版)

双極性障害に対してエビデンスの示されている心理療法

以下に記載するのはアメリカ心理学会(APA)によるBipolar Disorder|Society of Clinical Psychologyから、エビデンスの強さ順に並び替えたリストです。

 

躁状態(Mania)とうつ状態(Depression)でエビデンス が分かれているため、どちらも記載しています。

 

概観してみると、躁状態に対するエビデンスが重視されている印象があります。躁状態に対しては適切な心理教育を行ったり、服薬のアドヒアランスを改善させることが心理療法のポイントとなってくるようです。

 

いずれもうつ状態に対するエビデンスはModestですので、クライエントさんの状態に合わせて、躁状態にエビデンスのある心理療法とうつ病にエビデンスのある心理療法のエッセンスを組み合わせて介入していくのがbetterなのかもしれません。

 

心理療法 エビデンス(MANIA) エビデンス(Depression)
認知療法(Cognitive Therapy) Modest Modest
家族焦点化療法(Family Focused Therapy)
Strong Modest
対人関係社会リズム療法(Interpersonal and Social Rhythm Therapy :IPSRT)
Modest
心理教育(Psychoeducation) Strong Modest
Systematic care
Strong

出典:Bipolar Disorder|Society of Clinical Psychology

各心理療法の概略と記載されているマニュアルの日本語版について

ここでは、上であげた心理療法のなかから、いくつかのみピックアップしてその概要を解説します。

 

いずれの心理療法に関してもBipolar Disorder|Society of Clinical Psychologyにて概要を確認することが可能です。

 

家族焦点化療法(Family Focused Therapy)

Family Focused Therapy (FFT) is a modification of the family-focused therapy originally developed for the treatment of schizophrenia (Goldstein & Miklowitz, 1995).

出典:Family Focused Therapy (FFT) for Bipolar Disorder|Society of Clinical Psychology

 

家族焦点化療法はもともとは統合失調症を対象として開発された治療法を双極性障害に向けて修正したもののようです。

 

基本的には、家族療法の形で、双極性障害の症状に関する心理教育や服薬アドヒアランスの必要性などの確認から始まり、症状の早期発見や対応方法などを確認していく心理療法とされています。また、家族間のコミュニケーションや葛藤などの問題解決も図っていくようです。

 

リストに記載されている著書(日本語版)

対人関係社会リズム療法(Interpersonal and Social Rhythm Therapy:IPSRT)

Interpersonal and Social Rhythm Therapy (IPSRT) is a modification of the Klerman and Weisman Interpersonal Therapy for Depression approach.

出典:Interpersonal and Social Rhythm Therapy (IPSRT) for Bipolar Disorder|Society of Clinical Psychology

 

対人関係社会リズム療法は、うつ病に対する対人関係療法を双極性障害に対して拡張させた心理療法のようです。

 

対人関係療法で扱うような要素に加えて、睡眠や生活スケジュールの管理などのスキル獲得が含まれています。

 

エビデンスが示されているのは、週1回のセッションを数ヶ月間続ける急性期用の心理療法のみのようです。

 

リストに記載されている著書(日本語版)

心理教育(Psychoeducation)

心理教育では、基本的には、双極性障害の症状、薬物療法の必要性などに関する心理教育が行われます。他には、症状の起きるサインを見極めて、早期に適切な対応を取ることを目指して介入が行われるようです。

リストに記載されている著書(日本語版)