【摂食障害】児童・青年期臨床に必須。回避・制限性食物摂取症(ARFID)について。
- 2021.01.26
- 臨床心理士 / 公認心理師
- 摂食障害
回避・制限性食物摂取症とは
回避・制限性食物摂取症(Avoidant/Restrictive Food Intake Disorder:以下、ARFID)は、摂食障害の一類型で、特に児童・青年期に多い病態といわれています。
まずは確認のために診断基準を見てみましょう。
A. 摂食または栄養摂取の障害(例:食べることまたは食物への明らかな無関心;食物への感覚的特徴に基づく回避;食べた後嫌悪すべき結果が生じることへの不安)で、適切な栄養、および/または体力的要求が持続的に満たされないことで表され、以下のうち1つ(またはそれ以上)を伴う:
(1) 有意の体重減少(または、子どもにおいては期待される体重増加の不足、または成長の遅延)
(2) 有意の栄養不足
(3) 経腸栄養または経口栄養補助食品への依存
(4) 心理社会的機能の著しい障害
B. その障害は、食物が手に入らないということ、または関連する文化的に容認された慣習ということではうまく説明されない
C. その摂食の障害は、神経性やせ症または神経性過食症の経過中に起こるもののみでなく、自分の体重または体型に対する感じ方に障害をもっている形跡がない。
DSM-5®︎精神疾患の分類と診断の手引き|食行動障害および摂食障害群|回避・制限性食物摂取症/回避・制限性食物摂取障害
つまり、「身体的にも環境的(家庭環境・文化の要因)にも食べられる状況にあり、“太るのが怖い”といった肥満恐怖や“自分は太っている”というボディイメージの障害もないにもかかわらず、食事が食べられずに低体重や低栄養状態となってしまう」摂食障害といえます。
肥満恐怖・ボディイメージの障害など神経性やせ症に特徴的な症状がなく、身体的な疾患や環境的な要因も見当たらないのに、食事が摂取できないということがどうして起きるのでしょうか?
DSM-5の診断基準にはその例として以下の内容が記載されています。
- 食事への無関心
- 感覚の問題で食事を回避する
- 食後の不快感からの回避
これはあくまで例ですが、このようなさまざまな要因によって食事摂取が困難であり、かつ低体重・低栄養状態になっていることが回避・制限性食物摂取症の特徴となります。
神経性やせ症との違いは何?
神経性やせ症と回避・制限性食物摂取症との一番大きな違いは、「肥満恐怖」や「ボディイメージの障害」がないことです。
また、過食や排出行動(代償行動)も特にみられません。
一方で、共通する要因としては、「低体重」があげられます。
もちろん、この低体重のために飢餓症候群の症状が出てくることもよくあります。
回避・制限性食物摂取症になる要因
ここではよくみられる代表的な要因として以下の3つ紹介します。
①嘔吐恐怖
②身体的要因で食事摂取が困難となった体験
③偏食(感覚過敏)を含めた発達障害の特性
嘔吐恐怖
嘔吐恐怖(emetophobia)とは、自分が嘔吐することや他人の嘔吐を目撃することに対して強い恐怖を感じることをさします。
特に小学校低学年のときには、さまざまな要因によって自分が嘔吐をしてしまうことや、給食の際に同級生が嘔吐するのをみてしまったことをきっかけに、嘔吐恐怖を抱くことが多いです。
嘔吐は児童にとって強い不快体験であり、そのほとんどは食後に起きます。嘔吐恐怖に悩む児童・青年にとっては、食後に感じる腹部膨満感(お腹が満腹で張っている感じ)が嘔吐を引き起こす際の引き金のように感じてしまうのです。
そのため、この腹部膨満感を感じないように、「食事を食べて満腹の状態になることを回避する」ことがあります。
その結果として、「吐いてしまうことが怖く、食事を食べられない」といった状態に至ります。
身体的要因で食事摂取が困難となった体験
身体的な要因(風邪や胃腸炎など)によって一度食事のリズムが崩れたことをきっかけに体重が減少してしまうということは誰しも経験があるかと思います。
もともと食事に関心がない児童・青年や、体重が低い傾向にある児童・青年は、このようなきっかけによって食事のリズムが崩れることで食事摂取が困難となることがあります。
食事摂取が困難になることで、体重がさらに減少してしまい飢餓症候群の状態になると、食事への拒否感がさらに強くなってしまうという悪循環に陥ることもあります。
偏食(感覚過敏)を含めた発達障害の特性
発達障害の特性である感覚過敏の1つのあらわれとして、偏食があります。また、発達障害特性のある児童は決まった食品のみ好んで食べるといったこともよくあることです。
これらの特性を持つ児童・青年は、もともと痩せ型であることも多く、先ほど挙げたような理由などによって、1度食事のリズムが乱れてしまうとすぐに低体重状態におちいってしまい立て直すことが難しいことがあります。
また、仕方がない理由で食事が取れない場合であっても、結果として「食事という不快感を感じる状況から回避する」ことになってしまうため、偏食や食事へのこだわりがさらに強くなってしまうことがあるのです。
回避・制限性食物摂取症の治療は?
大前提として、低体重・低栄養状態の場合は、まずは栄養療法によって体重と栄養状態の改善が優先されるべきです。
その理由としては、低体重状態による飢餓症候群として、身体的な問題が生じたり、さまざまな不安・恐怖や食事へのこだわりが強くなっている可能性が高いことが挙げられます。
飢餓症候群に関してはこちら!
【摂食障害】摂食障害とはどんな病気?:摂食障害の種類や症状を理解しましょう。
実際に、体重と栄養状態が改善することによって食事への拒否感が弱まり、順調に食事摂取が再開できる場合があります。
治療の目標は、神経性やせ症と大きくは変わらず、「食事に対するこだわりや恐怖を乗り越えて、食事のリズムを元に戻すこと」となります。
栄養状態が改善されたら、認知行動療法や曝露反応妨害療法が選択肢になる
典型的な嘔吐恐怖は、上の図のような流れで起きます。
まず食事をする状況で、「①吐いたらどうしよう(考え)」と考えることによって、「②お腹の感覚に注意が向く(身体感覚)」が生じます。お腹に注意を向けているので、些細な変化であっても敏感に捉えてしまいます。
お腹の違和感を感じると、「③あのときと同じだ。吐きそう(考え)」と考えて、「不安(感情)」が強くなります。
そして、「この不安から回避するために食事摂取を拒否する」という流れが典型的です。
「食事を拒否する」「食事量を減らす」といった回避行動を行うと、一時的には不安から解放されますが、次に食事の場面になった時にもっと強い不安や恐怖に襲われることになります。
このように、「考え」「身体感覚」「感情」の悪循環に対して介入して不安を強める回避行動を修正していくためには、認知行動療法や曝露療法が有効です。
また、この悪循環の最終到達地点に「過去の嘔吐した記憶」が想起されることもあります。特に、児童・青年期の場合、嘔吐の記憶をトラウマと捉えて、トラウマを弱めるような治療が選択されることもあります。
また、背景に発達障害特性による偏食がある場合は、感覚過敏をやわらげるための薬物療法や漢方の服用などを検討しながら、不安状況に曝露させる曝露療法や曝露反応妨害法などが行われます。
回避・制限性食物摂取症に対する治療法のシステマティックレビュー
海外では児童・青年期のARFIDを対象とした治療研究が進んできています。
以下に参考となる論文のリンクを記載してあります。
GraveとSapupoのシステマティックレビューを見ると、FBT(Family Based Treatment)、認知行動療法(CBT)、曝露反応妨害法(ERP)などが一定の治療効果をあげているようです。
FBT、認知行動療法(CBT)に関してはこちら!!
曝露反応妨害法(ERP)は、強迫性障害に対する治療として行われることが多い心理療法です。
ARFIDの場合は、最初はわずかな食事量から開始して徐々に食事量を上げていくという曝露反応妨害法が行われ、一定の治療効果をあげています。
まとめ
今回の記事では、摂食障害のなかでも児童・青年期に多いとされる回避・制限性食物摂取症(ARFID)についてまとめました。
回避・制限性食物摂取症・低体重であること
・肥満恐怖、ボディイメージの障害、代償行動などの神経性やせ症の特徴がないこと
・食事への関心のなさ、不快な体験の回避(嘔吐恐怖など)、感覚的な回避(偏食など)
回避・制限性食物摂取症は、神経性やせ症に特有の肥満恐怖やボディイメージの障害は認められないものの、低体重・低栄養状態であることや食事のこだわりが強く出てくることは共通しており、適切な治療が必要な摂食障害であると考えられます。
児童・青年期に多い疾患であることから、1番矢面に立つ保護者の方が本人の症状について理解を深める必要があります。
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