【摂食障害】ひとことで「過食」といっても違いがある。過食のタイプとタイプ別の対応方法について理解しましょう。

【摂食障害】ひとことで「過食」といっても違いがある。過食のタイプとタイプ別の対応方法について理解しましょう。
 

今日、ご飯のあとにお菓子を食べちゃって、ちょっと過食気味かも…

 

 

日常場面でもよくある会話ですよね!

 

過食という言葉は日常的にも良く使われており、多くの方の悩みの種となっていることでしょう。

 

心理職として働いていると、この過食という言葉を耳にする機会が多いわけなんですが、介入が難しいことが多いです。

 

臨床家の悩み
  • 過食への介入が難しい
  • ストレス解消法を試しているけどなかなか過食が治らない

 

今回の記事では、こんな疑問にお答えするべく過食とは何か?ということをあらためて整理して、過食の生じる3つの代表的なメカニズムについて解説していきます。

 

過食の代表的なメカニズム

低体重・低栄養の反動としての過食

アディクション化している過食

ストレス対処としての過食

Advertisement

精神医学の分野での過食とは?

まずは、日常場面で用いられている「過食」と精神医学の分野での「過食」の違いについて整理していきましょう!

 

精神医学の分野では過食は英語でBinge-Eating(ビンジ・イーティング)と呼ばれています。

 

bingeは「過度に何かをする」「度を超えている」ことを意味する英語で、過食とは度を超えて食べることをさします。

 

DSM-5(精神疾患の分類と診断の手引き)による定義では、

他とはっきり区別される時間帯に(例:任意の2時間の間に)、ほとんどの人が同様の状況で同様の時間内に食べる量よりも明らかに多い食物を食べる。

そのエピソードの間は、食べることを抑制できないという感覚(例:食べるのをやめることができない、または、食べる物の種類や量を抑制できないという感覚)

(一部略)

(1)通常よりずっと速く食べる

(2)苦しいくらい満腹になるまで食べる

(3)身体的に空腹を感じていないときに大量の食物を食べる

(4)自分がどんなに多く食べているか恥ずかしく感じるため1人で食べる

(5)後になって、自己嫌悪、抑うつ気分、または強い罪責感を感じる

出典:DSM-5®︎精神疾患の分類と診断の手引き|過食性障害より一部抜粋

とされています。

 

つまり、過食とはただ単に「食べ過ぎちゃった」というレベルではなく、

  • 明らかに他の人よりも多い量を他の人と同じくらいの時間内に食べる
  • 空腹を感じていなくても満腹になるまで大量に食べる

ことを意味しています。

 

典型的な過食では、「ホールケーキ1ホールを丸ごと食べてしまう」、「お米を炊飯器ごと4合食べてしまう」、「食パンを1斤とマーガリン1箱を食べる」などが例として挙げられます。

 

低体重・低栄養の反動としての過食

低体重・低栄養状態のことを飢餓症候群といいますが、この飢餓症候群でも過食が起きることがあります。このタイプの過食は身体の生理的な反応であるため本人が意識的でなくても生じることがあり、自分の力では止めることはできません。

 

摂食障害、特に神経性やせ症の方の過食はほとんどの場合が、この低体重・低栄養の反動による過食から開始されます。

 

飢餓症候群についてはこちら!!

 

典型的な場合では、過食⇨極端な拒食・過活動・代償行動(嘔吐・下剤の使用)というパターンを繰り返すことで、身体の栄養状態は悪いままで経過していきます。

 

そのため、「過食が減らない」といった悪循環が起きてきます。

 

体重が標準的な水準に増加しても、過食後の食事量を極端に減らすなどリズムが乱れた食生活をしていると、栄養状態が改善しないことがあり、低体重・低栄養による過食が続くことがあります。

 

 

対処方法は??

 

 

低体重・低栄養の反動としての過食への対処法

心理教育で適切な知識を得ること(飢餓によって過食が起きるということと、栄養の改善で治るということ)

自分に必要な食事量(必須カロリー)を知ること

食事のリズムを整えることで栄養状態を改善させること

過食をしても3食決められた量を食べること

が重要になってきます。

 

アディクション化している過食

Addiction(アディクション)という言葉を聞いたことはあるでしょうか?

 

アディクションとは、

アルコールや他の嗜癖性のある物質を習慣的に服用する行動   出典:有斐閣|心理学辞典|嗜癖

を意味しており、アルコールや薬物などの依存という文脈で使用されることが多い用語です。

 

しかし、最近ではアルコールや薬物以外にも食べ物・人との関係性などの行動や関係性もAddiction(アディクション)に含まれるようになってきています。

 

過食や過食後の嘔吐は“間接的に自分を傷つける”自傷行為の一種とされており、以下の点でAddictionと共通しているといわれています。

耐性上昇や離脱症状は明らかではないが、それによって一時的に不快感情から解放されるものの、最終的には自尊心の低下、恥の感覚、罪悪感、孤独感をもたらす

出典:松本俊彦(2011). アディクションとしての自傷より一部抜粋

 

アディクション化している過食は、摂食障害のなかでも神経性過食症の方に多いパターンであり、栄養状態が改善しているにも関わらず過食が続き、過食後に嘔吐を伴うことが特徴的です。

 

自己誘発性嘔吐をすることによって「一時的に気分がスッキリする」効果が得られますが、ネガティブな感情も強まります。そして、ネガティブな感情から距離をとってスッキリするために再度過食-嘔吐を行うようになります。

 

このようなパターンを繰り返すことによって、過食と嘔吐が自然とアディクション化していきます。

 

もともと自信がない人「何もしない」ことができない人反芻思考が多い人はこのパターンに陥りやすいといえます。

 

アディクション化している過食への対処法

自分のストレスは何かということに気づき、解決できるものは解決していくこと(問題の解決、認知行動療法)

自分をありのままに受け入れられるようになること(マインドフルネス・ACTなど)

ときにはボ〜ッとしたり、自分の価値に向けた行動を増やしていくこと

過食の機能(気分をスッキリさせる)を理解し、一度に全てなくそうとせずに、段階的に減らすことを意識すること

 

参考文献

 

ストレス対処としての過食

ストレス対処としての過食は、おおまかに言えば「何かストレスを感じる出来事が起きたときに、過食をすることで発散する(対処する)」ことを意味します。

 

この過食がもっとも知名度が高く、みなさんがイメージしている過食に近いのではないでしょうか。

 

実際に過食を主訴として病院に受診したときに、「ストレスを減らしましょう」と言われることも多いと思いますが、実はこのタイプの過食は、摂食障害当事者の方にはあまり多くありません

 

このタイプの過食では、制御できない感覚よりも、過食後の罪悪感や抑うつ気分が強く1人でいるときによく起きるのが特徴的です。

 

また、このような過食は、

否定的な気分状態にあるときに衝動的に行動する傾向がある

出典:Wolz et al, (2017). A comprehensive model of food addiction in patients with binge-eating symptomatology: The essential role of negative urgency. Comprehensive Psychiatry, 74.

と起きやすいようです。

 

対処法としては「ストレス」に対して過食以外の対処方法を身につけていくことが必要になります。

 

ストレス対処としての過食への対処法 

自分のストレスは何かということに気づき、解決できるものは解決していくこと(問題の解決、環境の調整)

過食が生じる状況・過食にいたる考えや行動などに気づき、適応的な考えや行動に変えていくこと(認知行動療法)

過食が生じる状況や環境自体を過食が生じにくい状況・環境に変化させること

 

まとめ

この記事では、「過食」に注目し、過食の代表的な3つのメカニズムとそれぞれの対応についてまとめてきました。

 

過食には、

  • 低体重・低栄養の反動による過食
  • アディクション化している過食
  • ストレス対処としての過食

があります。

 

それぞれの対処として、

  • 食生活のリズムを正して栄養状態を改善させること
  • 過食・嘔吐の機能を理解したうえで、長期的にみて同様の機能をもつ適応的な方法を考えていくこと
  • ストレスとなる環境を変えたり、他の対処方法を考えること

が挙げられます。

 

過食のメカニズムの違いによって、効果が出る方法が異なってくるため、過食のメカニズムを適切にみたてて介入策を勘案していく必要があります。

 

その他摂食障害の治療に関する記事はこちらへ。

摂食障害(AN、BN、 BED)に対してエビデンスの示されている心理療法