「不注意」とはなにか:臨床場面でも役立つ注意機能の分類と特徴

「不注意」とはなにか:臨床場面でも役立つ注意機能の分類と特徴

臨床心理士・公認心理師として仕事をしていると、発達障害・高次脳機能障害・精神疾患など、さまざまな文脈で「不注意=注意が足りない」というキーワードと出会うことがあります。

 

この記事では、心理臨床現場でも押さえておく必要がある『注意』に関して、『心理学辞典(有斐閣)』の記載を引用しながら解説していきます。

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そもそも注意とはなにか

「注意」という単語を広辞苑で検索すると、

  1. 気をつけること。気を配ること。留意。
  2. 危険などにあわないようにように用心すること。警戒。
  3. 心の働きを高めるため、特定の対象に選択的・持続的に意識を集中させる状態

と複数の定義が出てきます。

 

心理学の分野では、特に3番目の「特定の対象に選択的・持続的に意識を集中させる」といった意味合いで「注意」という用語が使われることが多いです。

 

「注意機能」は、その「注意」が生じるメカニズムのことを意味しています。

 

この3番目の定義を見てもわかるように、注意にはいくつか種類があり、心理学の分野では大きく以下の3種類にわけて考えています。

  1. 選択的注意
  2. 持続的注意
  3. 処理容量・心的資源としての注意

 

一言で「不注意」といっても、この注意の種類によって、生じるメカニズムや対応方法が違ってきます。

 

ポイント

注意は、①選択的注意②持続的注意③処理容量・心的資源としての注意にわけられる。

選択的注意(selective attention)

多くの情報のなかから認知する情報を取捨選択する機能

 

簡単に説明すると、選択的注意は、

たくさんの情報のなかから自分が注意を向ける必要がある情報を選び、その他の情報を無視する力のことをさします。

 

それでは、選択的注意に関連する心理学の効果を例にあげて詳しく説明していきます。

 

カクテルパーティ現象/効果(cocktail party phenomenon/effect)

パーティー会場で複数の人が会話をしている(カクテルパーティー効果)

聴覚的な情報に対する選択的注意の現れを説明する心理学の有名な効果の1つです。

 

人は、パーティー会場のように複数の人の声が同時に聞こえるようなザワザワした環境のなかでも、特定の人との会話に加わりその内容を理解することができます。また、遠くの方で自分の名前が聞こえてもパッと反応することもできます。

 

このような現象はカクテルパーティ現象と呼ばれます。

複数の聴覚的な情報のなかから、自分にとって重要と感じる情報を選択してそれ以外の情報を無視することで、特定の会話のみに注意を向けることが可能となります。

 

聴覚的な情報に対する選択的注意が弱いと、周囲の雑音や人の会話などに気がとられてしまい、大切な情報を聞き逃したり、作業に集中できないといったことが起こります。

 

注意の範囲(span of attention)

スポットライトが灯りを照らしている

注意の範囲という言葉自体は「意識・注意のおよぶ範囲」を示す概念で、視野(目で見えている情報)の範囲とは独立の心理過程とされています。

 

視覚的な情報に対する選択的注意は、スポットライトの光を想像するとわかりやすいかもしれません。

視野のなかから、スポットライトが当たっている部分のみの情報を選択して、それ以外の部分は見えてはいるけど意識に入らないようにするという具合です。

 

人が情報を処理できる容量には限界があるため、注意の範囲が広くなればそこでの情報の分析は大雑把となり、注意の範囲が狭くなれば情報の分析が詳細になります。

 

視覚的な情報に対する選択的注意が弱いと、周囲の人の動きや視野の中に入っているいろいろな物に気がとられてしまい課題に集中できないといったことが起こります。

 

ポイント 選択的注意

たくさんの情報のなかから自分が注意を向ける必要がある情報を選び、その他の情報を無視する力のことを選択的注意という。

 

持続的注意(sustained attention)

 重要な刺激あるいは1つの刺激に対して持続的に注意の強度を一定レベルに維持する過程。

 

簡単に説明すると、持続的注意は、1つの情報に対して、一定時間注意を向け続ける力のことをさします。

 

これは周囲に気を取られるようなものが何もない状態で集中する能力を意味しています。

そのため、持続的注意が弱いと、何か作業をする際に、静かで整理された環境を用意したとしても、作業に集中できないといったことが起こります。

 

ほとんど同じような意味で、ビジランス(vigilance)とも呼ばれることもあります。

注意を集中している、警戒(alert)状態にあるといった心理状態をvigilantであると称し、かなり長い時間その状態を保つ能力をビジランスといいます。

 

何かの対象に持続的に注意を向け続けるには、警戒状態を長時間維持することになるため、覚醒水準が影響を与えているとされています。

 

覚醒(arousal、wakefulness)

周囲に注意をくばり、見当識が保たれており、物ごとを正しく認識できる状態のことである。

そして、通常は、その結果として、適切な反応・行動をとることが可能である。

 

実は、神経発達症(発達障害)のなかでも注意欠如多動性障害(ADHD:Attention Deficit Hyperactivity Disorder)は、このビジランスの問題覚醒度の問題が散見されていることが明らかになってきています。

 

覚醒度の二次的な問題についてはこちら💁‍♂️

【神経発達症】発達障害と併存しやすい『気分の波』について。『気分の波』に繋がりやすい考え方と対処方法を解説します!

 

ポイント 持続的注意

1つの情報に対して一定時間注意を向け続ける力のことを持続的注意という。

持続的注意には情報に対する警戒態勢を長時間維持する必要があり、この力をビジランスという。

 

処理容量・心的資源としての注意:配分性注意(divided attention)

注意の強度を複数の対象に分配する機能

 

簡単に説明すると、処理容量・心的資源としての注意は、「注意を複数の対象に同時に向ける力」を意味しています。

 

心理学の分野では、「注意」は情報を処理するために引き出される限界のある心的資源と考えられています。

 

「注意」を複数の対象に同時に向けることは、この限られた資源を分割したうえで、それぞれの対象に同じ容量を割くという高度な機能といえます。

 

ほとんど同じ意味で、配分性注意(divided attention)と呼ばれることがあります。

 

配分性注意は、複数の作業を同時並行で行うこと、つまり、マルチタスクを行うために重要な能力といえるでしょう。

 

そのため配分性注意が弱いと、作業が複数になってくると良いパフォーマンスが発揮できなくなる、あるいは重要度の低いものが忘れ去られてしまうといったことが起こります。

 

また、「心理学辞典」の項目には記載されていませんでしたが、注意を複数の対象に交互に向ける転換性注意(alternating attention)という「注意の切り替え」を意味する注意機能もあります。

 

神経発達症(発達障害)のなかでも自閉症スペクトラム障害(ASD:Autism Spectrum Disorder)は、この転換性注意の問題が散見されていることが明らかになってきています。

 

ポイント 配分性注意と転換性注意

注意を複数の対象に同時に向ける力を配分性注意という。

注意を複数の対象に交互に切り替える力を転換性注意という。

 

注意の種類によって「不注意」のあらわれは異なってくる

  1. 選択的注意(selective attention)
  2. 持続的注意(sustained attention)
  3. 配分性注意(divided attention)
  4. 転換性注意(alternating attention)

 

それぞれの注意機能の項目でも説明しましたが、単純に「不注意」と表現しても注意機能の種類によって、あらわれ方はさまざまあります。

 

豊倉(2008)をもとに作成:注意機能の種類を「勉強」「勉強中に電話がかかってきた」場面を例として解説。
豊倉(2008)をもとに作成:注意機能の種類を「勉強」「勉強中に電話がかかってきた」場面を例として解説。
選択的注意の弱さによる不注意

選択的注意の弱さによる不注意では、「ぼーっとしている」よりはソワソワしていて、周りのさまざまな対象に注意が移ろっていくことをさします。

 

聴覚的な情報に対する選択的注意が弱いと、周囲の雑音や人の会話などに気がとられてしまって注意が逸れる

視覚的な情報に対する選択的注意が弱いと、周囲の動きや視野の中に入っているものに目がいってしまい注意が逸れる

 

この不注意に対しては、何か作業をする際に周りに気になる物を置かないようにしたり、静かな環境を用意するといった環境を調整することが効果的でしょう。

 

持続的注意の弱さによる不注意

持続的注意の弱さによる不注意では、いわゆる「ぼーっとしている」ため、注意が続かない状態をさします。この不注意ではたとえ周りに情報が少ない環境であっても作業には集中できません。

 

持続的注意が弱いと、何か作業をする際に、静かで整理された環境を用意したとしても、注意が続かない。

 

この不注意に対しては、「ぼーっとしている」状態からいかに覚醒度をあげるのかを考える必要があります。例えば、作業時間を短く区切って軽く身体を動かしたり、作業途中で席を立つ・顔を洗う・水分を摂取するなどの適度な刺激を加えることを検討するのが効果的でしょう。

 

配分性注意・転換性注意の弱さによる不注意

配分性注意・転換性注意による不注意では、マルチタスクが難しいことをさします。つまり、何か1つの作業をしている時に頼まれごとをしても忘れてしまったり、急に対応できなかったりすることであらわれてきます。

 

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まとめ

この記事では、心理臨床の場面でも重要度の高い「不注意」について、『心理学辞典(有斐閣)』の「注意」の項目を引用しながら、

  1. 選択的注意
  2. 持続的注意
  3. 処理容量・心的資源としての注意(配分性注意・転換性注意)

と種類をわけて説明しました。

 

注意機能の種類によって、不注意の対策もかわってきます。『注意機能』の細かな分類は、特に神経発達症(発達障害)や高次脳機能障害の臨床で重要になってくるためおさえておくといいでしょう。

 

高次脳機能障害の臨床や注意障害に関して参考となる文献です。

興味のある方はぜひご一読ください。

豊倉(2008). 注意障害の臨床, 高次脳機能研究, 28, 320-328.https://www.jstage.jst.go.jp/article/hbfr/28/3/28_3_320/_pdf/-char/ja