「先延ばし」に対する心理療法:ネガティブな感情を少なくするのがコツだった!
- 2020.12.29
- 臨床心理士 / 公認心理師 臨床心理学
- 先延ばし, 心理療法
「先延ばし」そのものは病気ではないですが、以前まとめたようにネガティブな感情が伴うため、気分が落ち込んでしまうことも多く、学業や仕事のパフォーマンス低下に繋がることが多いです。
そうはいっても、「先延ばし」ってなかなかやめられないよ
もちろん、簡単ではないけど、
効果的とされている心理療法やカウンセリングをいくつか紹介するよ!
この記事では「先延ばし」に対するについてまとめていきたいと思います。
ここで紹介するのは専門的な手法であるため、先延ばしに悩む方々は専門家に相談してカウンセリング を受ける方がより効果が得られるでしょう。
先延ばしは悪循環の結果として起こりやすくなる
Temporal Motivation Theory(TMT)や「先延ばし」に関連する研究をもとにして「先延ばし」のメカニズムを図で示してみました。
左の式になっている部分は前回同様TMTを図示したものになります。
「価値×期待」を「衝動性×遅延」が上回ると、課題に対する不快度が強くなるとともに動機づけが低下して、結果として先延ばしが増えてしまいます。
また、先延ばしは罪悪感や恥といったネガティブな感情を抱かせるため、自己効力感が低下してしまい、「価値×期待」が減ってしまうという悪循環があります。
こうして整理してみると、臨床心理士・公認心理師がカウンセリングの中で介入できそうなポイントがいくつかありますね!
Temporal Motivation Theoryや「先延ばし」のメカニズムについて詳しく知りたい方は過去記事をご参照ください。
「先延ばし」に対する介入の効果は実証されている
結論から先にいいますが、、、
「先延ばし」に対する介入は効果的である
治療の種類としては、認知行動療法の効果が大きい
とされています。
先にリンクを示したEerdeとKlingsieck(2018)では、「先延ばし」に対する介入の報告をまとめて分析し、さまざまな介入方法のなかでも認知行動療法が有効な方法であると結論づけています。
認知行動療法(cognitive behavioral therapy:CBT)でネガティブな感情を扱い悪循環をかえる
認知行動療法(CBT)とは、代表的な心理療法の1つで、考え(認知)や行動が感情に影響を与えるという前提のもと、自分の考えや行動のパターンを把握して、適応的な考えや行動に修正していくことで、ストレスに対処していく方法です。
「先延ばし」に対しては、
「先延ばし」→ネガティブな考えを浮かべる→ネガティブな感情が強くなる→「先延ばし」が増える
といった悪循環をメインに扱います。
一般的には、過去の経験に関して話をしながら、ネガティブな感情を想起させる考えや考え方の癖を明らかにして適応的な考え方ができるように練習をしたり、考え自体を切り替える方法を身につける練習をします。
考えをうまく切り替えるために、自分の好きな活動に没頭してもらうような課題が出されることもあります。
好きな活動やってたら、課題は終わらないんじゃないの?
ネガティブな考えを繰り返していても、好きな活動をしていても、結果として課題が終わらないよね。それだったら、ネガティブな悪循環にならない方がまだマシっていう考え方もあるんだ。
アクセプタンス&コミットメント・セラピー(Acceptance and commitment therapy:ACT)で回避ではない対処方法を身につける
アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)は、「関係フレーム理論」を理論的な基盤とした第3世代の行動療法ともいわれる心理療法で、マインドフルネスとアクセプタンス(受容)に焦点を当てます。
この記事では詳しい解説は割愛しますが、ACTでは「心理的柔軟性(psychological flexibility)」を高めることを目標として、ネガティブな考え・感情を変化させるのではなく気づいて受け入れることや、自分にとっての価値のある行動を増やすことで回避的な対処パターンをかえていく方法を身につけていきます。
ACT に基づいた心理教育は、「先延ばししている課題」を自身の価値に基づいて、「するか、しないか」を自己選択していくことの学習であると考えられる。
出典:谷晋二(2016). 先延ばし行動を持つ大学生にアクセプタンス&コミットメントセラピーの心理教育を実施した症例報告. 行動療法研究, 42(2), 147-158.
あくまで、「自分の価値にしたがって自分の意思で行動を決める」ということだね。
ネガティブな考えや感情、回避的な対処方法をターゲットとして認知行動療法を行うことが、「先延ばし」に対する介入方法として最も効果がある
「先延ばし」には自己管理のスキルを身につけることも有効
以前書いた記事で、「先延ばし」は自己調節の失敗と考えられていることを説明しました。
そのため、自己を調整するために自己管理スキルを身につけておくことも非常に有効で、広く「自己調節訓練」と呼ばれます。
具体的には、過去の経験から自分の「先延ばし」のパターンを理解して対処法を考えたり、課題が達成しやすいような目標の決め方や計画の立て方、時間の管理(タイムマネジメント)などのスキルを身につけていきます。
自己管理スキルには、自分の要因のみでなく、環境を調整することも含まれます。
たとえば、課題に取り組む際に目の前にスマートフォンなど魅力的なツールがあれば、ついついそちらに手が伸びてしまいます。
この場合は「課題を取り組む場所には、魅力的な物を置いておかないようにする」というように環境を整えることが効果がありそうです。
このように「先延ばし」の起きやすい状況を明確にして環境を整えたり、そもそも「先延ばし」が起こりにくいような習慣を作っていくことが目標となります。
周囲の理解を得ることも環境調整の1つ
まとめ
今回の記事では、「先延ばし」に対する介入方法の概要をCBT、ACT、自己調節訓練とわけてまとめました。
認知行動療法が効果的といわれていますが、いずれの介入も「先延ばし」の異なる部分に効果がありそうなので、相談にきたクライエントさんにあわせた対応方法ができると一番いいのではないでしょうか。
以下の図は今回の内容をまとめたものです。
-
前の記事
「不注意」とはなにか:臨床場面でも役立つ注意機能の分類と特徴 2020.12.27
-
次の記事
【公認心理資格試験】ブループリントに記載されている出題割合で勉強の範囲を狭めない方がいい理由を解説! 2021.01.03
コメントを書く