公認心理師資格試験 過去問解説 第5回 午前 問29|移植医療【正答なし・全員正解】

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公式問題

我が国における移植医療について、最も適切なものを1つ選べ。

  1. 移植件数が最も多い臓器は腎臓である。
  2. 臓器を提供する意思表示に年齢の制約はない。
  3. 移植を受けた患者に精神障害が生じるのはまれである。
  4. 肝移植の大部分は脳死後の臓器提供によるものである。
  5. 生体移植における提供者の意思確認は移植医療チームが行う。

この問題は「正答なし」です

第5回午前問29は、通常のように①〜⑤の中から一つの正答を確定する問題ではありません。

日本心理研修センターが公表した公式資料では、

正答:なし

とされ、さらに、

「設問が不十分で正解が得られないため、全員を正解として採点する」

という処理が行われました。

したがって、この問題について、特定の選択肢を公式正答として示すのは誤りです。

この記事では、公式処理を最優先したうえで、なぜ一つに絞れない問題になったのかを、当時の移植統計や移植医療の制度・倫理的ルールから整理します。

過去問では「公式正答表」まで確認する

公認心理師試験の過去問を勉強するときは、問題冊子だけでなく、必ず日本心理研修センターが公開する正答・採点資料まで確認することが重要です。

試験によっては、

  • 正答なし
  • 複数正答
  • 全員正解
  • 問題の削除や特別な採点処理

が行われる場合があります。

非公式の解答サイトだけを見ると、こうした例外処理が反映されていないことがあります。

R5Q29では「一番それらしい選択肢を探す」より、「公式に単一正答が成立しなかった問題」と理解することが最優先です。

なぜ正答が一つに定まらなかったのか

公式資料は、「設問が不十分で正解が得られないため」としています。

公式資料自体は、どの選択肢同士が競合したのかまで詳細には説明していません。

ただし、当時の統計と移植医療の運用を確認すると、少なくとも①と②はそれぞれ一定の根拠をもって「適切」と読むことができ、単一選択問題として曖昧さが生じる構造が分かります。

ここで重要なのは、以下の解説は公式正答を再構成するものではないということです。

選択肢ごとの整理

① 移植件数が最も多い臓器は腎臓である

当時の統計では、適切と読める選択肢です。

日本移植学会の「ファクトブック2022」によると、2021年の国内の腎移植は、

  • 生体腎移植:1,648例
  • 献腎移植:125例
  • 合計:1,773例

でした。

同じ時期の肝移植などと比較しても、腎移植は国内で非常に多く行われていました。

したがって、「我が国の移植件数」という言葉を生体移植と献腎移植を合わせた年間移植件数として読むなら、①には十分な根拠があります。

ただし、日本臓器移植ネットワークが示す「脳死・心停止後の臓器提供から行われた移植件数」だけを見るのか、生体移植を含めた国内の全移植件数を見るのかによって、統計の母集団が変わります。

このような「移植件数」の定義の不明確さも、問題を読む際の重要な注意点です。

② 臓器を提供する意思表示に年齢の制約はない

この文も、そのままの文言では適切と読めます。

日本臓器移植ネットワークは現在、「意思表示に年齢の制限はありません。どなたでも記入できます」と説明しています。

一方で、同じ説明の中で、

書面による「臓器を提供する」という意思表示は、民法上の遺言可能年齢である15歳以上が有効

ともしています。

さらに、

  • 15歳未満でも、本人に拒否の意思がなく家族が承諾すれば提供可能な場合がある
  • 「臓器を提供しない」という意思表示は年齢にかかわらず有効
  • 実際の臓器提供には家族の承諾が必要

といった複数の論点があります。

つまり、

「意思表示を書くことに年齢制限があるか」「提供するという書面意思が有効となる年齢」

は同じ問いではありません。

選択肢②は「意思表示に年齢の制約はない」と広く書かれているため、前者の意味では適切と読めます。

この曖昧さは、単一正答を求める問題として大きな問題になります。

①と②が同時に「適切」と読める

R5Q29を理解するうえで特に重要なのがここです。

2021年の統計では、腎移植は国内で最も多い臓器移植と読むことができます。

一方、日本臓器移植ネットワークは、「意思表示」そのものには年齢制限がないと説明しています。

したがって、問題文の定義を厳密に限定しなければ、

  • ①も適切
  • ②も適切

と判断できる余地があります。

単一選択問題で「最も適切なものを1つ」と求めながら、複数の選択肢が適切と読めるなら、正答を一つに確定できません。

公式の「設問が不十分で正解が得られない」という処理は、この点を踏まえて理解すると分かりやすくなります。

残りの選択肢も確認する

③ 移植を受けた患者に精神障害が生じるのはまれである

少なくとも、試験対策としてこのように単純化して覚えるべきではありません。

臓器移植は、身体的治療だけでなく、心理社会的な評価や支援も重要な医療です。

日本移植学会が公開する「臓器移植希望者の心理社会的評価に関する提言」では、移植候補者について精神医学的・心理社会的リスクを評価し、移植後の支援につなげる必要性が示されています。

移植前後には、

  • もともとの精神疾患
  • 不安や抑うつ
  • アドヒアランス
  • 社会的孤立
  • 家族関係
  • 移植後の心理社会的適応

など多様な問題が臨床上の検討対象になります。

したがって、「精神障害が生じるのはまれ」という一文だけで移植後の精神医学的問題を整理するのは不十分です。

なお、公式資料は③を個別に「誤り」と認定したわけではありません。R5Q29全体について単一正答が得られないと処理しているため、ここでも公式処理を超えて断定しないことが重要です。

④ 肝移植の大部分は脳死後の臓器提供によるものである

日本の肝移植の実態とは合いにくい選択肢です。

日本では歴史的に生体肝移植が多く行われてきました。

日本移植学会の「ファクトブック2022」でも、2021年前後の肝移植は生体肝移植が脳死肝移植を大きく上回る状況にあります。

したがって、

肝移植の大部分=脳死後の臓器提供

という理解は適切ではありません。

試験では、日本の移植医療では生体移植の占める割合が高い臓器があることを押さえておきましょう。

⑤ 生体移植における提供者の意思確認は移植医療チームが行う

この表現も不適切です。

生体移植では、健康なドナーに身体的侵襲を加えるため、臓器提供が本人の自由意思に基づくことを厳格に確認する必要があります。

日本移植学会の倫理指針では、提供意思が他者からの強制によるものではないことについて、移植に関与していない第三者が確認することを求めています。

また、「第三者」は提供者本人の権利保護の立場にあり、倫理委員会が指名する精神科医などの複数の者とされています。

つまり、移植を実施するチームだけで意思確認を完結させるのではなく、ドナーの権利を守る独立した第三者による確認が重要です。

生体ドナーでは「自由意思」の確認が重要

生体移植には特有の倫理的課題があります。

ドナー本人は患者ではなく、臓器提供による直接的な医学的利益を受けない一方、手術による身体的リスクを負います。

さらに家族・親族間では、

  • 断りにくい
  • 家族から期待されている
  • 自分が提供しなければ相手が助からないと感じる
  • 関係悪化を恐れる

など、明示的ではない心理的圧力が生じる可能性があります。

そのため、生体ドナーの意思確認では、

「同意書に署名したか」だけでなく、本当に自発的な意思なのか

を独立した立場から確認することが重要になります。

公認心理師にとっても、移植医療における心理社会的評価や意思決定支援は関連性の高い領域です。

試験で押さえるべき知識

論点 押さえるポイント
公式採点 R5Q29は正答なし・全員正解
不備理由 設問が不十分で正解が得られない
腎移植 国内では生体移植を含め件数が非常に多い
意思表示 「表示できる年齢」と「提供意思が法的・運用上有効となる年齢」を区別する
肝移植 日本では生体肝移植が大きな割合を占めてきた
生体ドナー 自発的意思を第三者が確認することが重要
心理社会面 レシピエント・ドナー双方で評価・支援が重要

不備問題に出会ったときの勉強法

不備問題は、「本当の正解はどれだったのか」を無理に決めるよりも、なぜ単一正答が成立しなかったのかを理解する方が試験対策として有用です。

R5Q29では、

  1. まず公式正答表で「正答なし」を確認する
  2. 全員正解となった理由を確認する
  3. ①〜⑤それぞれの背景知識を整理する
  4. 特に①と②のように複数の選択肢が適切と読める理由を理解する
  5. 非公式解答を公式正答より優先しない

という順番で復習するとよいでしょう。

まとめ

第5回午前問29は、公式に正答なしとされた不備問題です。

日本心理研修センターは、

「設問が不十分で正解が得られないため、全員を正解として採点する」

としています。

したがって、この記事でも特定の選択肢を公式正答として扱いません。

背景を確認すると、

  • 2021年の国内移植では腎移植が非常に多く、①は適切と読める
  • 「意思表示」自体には年齢制限がないとされるため、②も適切と読める
  • 一方、書面での提供意思の有効性には15歳という論点がある
  • 日本の肝移植は生体移植が中心
  • 生体ドナーの自発的意思は独立した第三者による確認が重要
  • 移植医療では精神医学的・心理社会的評価も重要

といった知識を整理できます。

この問題の最大の試験対策ポイントは、不備問題では公式の採点処理をそのまま押さえることです。

公式正答:なし/全員を正解として採点

Sources

  • 日本心理研修センター「第5回公認心理師試験 午前問題」

https://www.jccpp.or.jp/files/items/127/File/04_gokaku_happyo_05.pdf

  • 日本心理研修センター「第5回公認心理師試験 合格基準及び正答・特別な採点処理」

https://www.jccpp.or.jp/files/items/127/File/03_gokaku_happyo_06.pdf

  • 日本移植学会「ファクトブック2022」

https://www.asas.or.jp/jst/pdf/factbook/factbook2022.pdf

  • 厚生労働省「臓器提供の意思表示について」
臓器提供の意思表示について_IFC
  • 日本臓器移植ネットワーク「意思表示は誰でもできますか。年齢の制限はありますか。」
意思表示は誰でもできますか。年齢の制限はありますか。|日本臓器移植ネットワーク
臓器提供の橋渡しを行う組織 ━ 日本臓器移植ネットワーク
  • 日本移植学会「日本移植学会倫理指針」

https://www.asas.or.jp/jst/pdf/info_20120813_4.pdf

  • 日本移植学会「臓器移植希望者の心理社会的評価に関する提言」

https://www.asas.or.jp/jst/news/doc/20220311.pdf

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