公認心理師資格試験 過去問解説 第4回 午前 問42 適性処遇交互作用〈ATI〉

公認心理師試験
Ig Knowledge 〜イグナレッジ心理ブログ〜

臨床心理士・公認心理師の有資格者が、心理界隈の知識についてまとめるブログです!

こんな人におすすめ

  • 心理学に興味がある人
  • カウンセラーになりたい人
  • 臨床心理士・公認心理師を目指す人
  • 若手臨床家のみなさま

 



noteも応援よろしくお願いします📔

note|Yamashun@心理屋さん



全記事一覧

第4回公認心理師試験・午前問42は、教育心理学の重要概念である適性処遇交互作用(Aptitude-Treatment Interaction:ATI)について問う問題です。

ATIのポイントは、「どの教授法が一番優れているか」を一律に考えるのではなく、学習者の個人差によって、同じ指導法の効果が異なり得ると考えることです。今回の問題では、ATIそのものと、Vygotskyの最近接発達領域(ZPD)を区別できるかが正答の鍵になります。

問題

適性処遇交互作用について、誤っているものを1つ選べ。

① 指導方法や学習環境のことを処遇という。
② 統計学的には交互作用効果によって検証される。
③ 学びの成立に影響を与える個人差要因を適性という。
④ 学習者の特徴によって教授法の効果が異なることを指す。
⑤ 他者の援助と学習者の問題解決との中間領域にみられる。

正答は⑤です。①〜④はATIの説明として適切ですが、⑤はATIではなく、Vygotskyの最近接発達領域を想起させる内容です。

適性処遇交互作用〈ATI〉とは

ATIは、学習者が持つ適性(aptitude)と、教育的な働きかけである処遇(treatment)との組み合わせによって、学習成果が変わるという考え方です。

たとえば、「発見的に考えさせる授業」と「手順を明示して教える授業」のどちらか一方が、すべての学習者に常に最適とは限りません。事前知識、認知能力、学習観、達成目標、認知スタイルなどによって、どちらの教授法で高い成果が得られるかが変わる可能性があります。

日本心理学会も、教授学習場面では特定の介入の効果が学習者の個人差によって異なるATIがみられ、「すべての個人差に等しく効果的な一つの指導方法」を前提にしないことが重要だと紹介しています。

ATIの3つの構成要素

要素 意味
Aptitude:適性 学びの成立や成果に影響する学習者側の個人差 能力、事前知識、性格、認知スタイル、学習観、達成目標など
Treatment:処遇 学習者に与えられる教育的な働きかけ 教授法、教材、課題、フィードバック、学習環境など
Interaction:交互作用 処遇の効果が適性の水準や種類によって変わること 事前知識の高低によって効果的な教授法が異なる

ここでいう「適性」は、一般的な意味での「その仕事に向いている/向いていない」という狭い意味ではありません。教育的処遇の効果に関係する個人差を広く捉える概念です。

①「指導方法や学習環境のことを処遇という」

正しい記述です。

ATIにおけるtreatmentは、医療でいう「治療」に限定されません。教育心理学では、教授法、教材、課題の提示方法、学習環境など、学習者に対して設定される教育的条件を幅広く指します。

したがって、同じ内容を学ぶ場合でも、講義中心、発見学習、個別指導、協同学習などの違いを「処遇」として扱い、学習者の特性との組み合わせを検討できます。

②「統計学的には交互作用効果によって検証される」

正しい記述です。

ATIの「interaction」は文字どおり交互作用です。たとえば教授法Aと教授法Bを比較したとき、全体平均としてAが高いかBが高いかという主効果だけではなく、学習者の適性によってAとBの差が変わるかを見ます。

たとえば、事前知識が少ない学習者では明示的な教授法Aの方が成績が高く、事前知識が多い学習者では探索的な教授法Bの方が高い、という結果が得られれば、処遇の効果が適性によって変化していることになります。

統計でいう主効果と交互作用の読み方については、第3回問59「心理学に関する実験と実験結果の解釈」も関連します。

主効果と交互作用を区別する

試験では「A教授法の方が全員に効果的だった」という結果と、「学習者の特徴によって有効な教授法が異なった」という結果を区別することが大切です。

  • 主効果:ある教授法が全体として高い成果を示す
  • 交互作用:どの教授法が有効かが、学習者の適性によって変わる

ATIが着目するのは後者です。グラフで表すと、適性の水準によって2つの処遇の差が広がったり狭まったり、場合によっては線が交差したりします。

なお、交互作用が統計的に有意だからといって、必ず線が完全に交差する必要はありません。重要なのは、一方の変数の効果が、もう一方の変数の水準によって異なることです。

③「学びの成立に影響を与える個人差要因を適性という」

正しい記述です。

ATIにおける適性には、知能や学力だけでなく、認知スタイル、性格、動機づけ、学習観、既有知識など、学習効果に影響する幅広い個人差を含めて考えることができます。

J-STAGEに掲載された教育心理学研究でも、達成目標や学習観を適性変数として扱い、テスト形式という処遇との交互作用が検討されています。つまり「適性=固定的な能力だけ」ではありません。

④「学習者の特徴によって教授法の効果が異なる」

正しい記述であり、ATIの中核です。

ATIの発想では、教育方法の評価を「平均的にどちらが良いか」だけで終わらせません。学習者Aには方法Xが有効でも、学習者Bには方法Yが有効かもしれないという、個人差と教育方法の適合を検討します。

この考え方は個別最適な学びと親和性がありますが、「学習者の好みに合わせれば必ず成果が上がる」という単純な主張ではありません。どの適性とどの処遇の組み合わせが成果に関係するのかを、実証的に検討する必要があります。

⑤「他者の援助と学習者の問題解決との中間領域にみられる」

誤りであり、正答です。

これはATIではなく、Vygotskyの最近接発達領域(Zone of Proximal Development:ZPD)と関連する説明です。

ZPDは、学習者が一人で問題を解決できる水準と、より有能な他者の援助・協働のもとで問題を解決できる水準との間にある領域を捉える概念です。

Vygotskyの発達理論と最近接発達領域については、第3回問37「Vygotskyの発達理論」で詳しく整理しています。

ATIとZPDは何が違うのか

ATI ZPD
中心となる問い どの学習者に、どの処遇が有効か 援助があれば到達できる発達可能性はどこか
重要語 適性・処遇・交互作用 独力での問題解決・他者の援助・発達可能性
理論上の焦点 個人差による教育効果の違い 社会的相互作用を通した発達
試験の見分け方 「AにはX、BにはY」のような適合 「一人では困難だが援助があれば可能」

両者とも「すべての学習者に同じ働きかけをすればよい」と考えない点では似ていますが、理論的に問うているものは異なります。

ATIの具体例

例として、文章理解の授業で「構造を教師が明示する指導」と「学習者自身に構造を発見させる指導」を比べるとします。

事前知識が少ない学習者には前者が有効で、事前知識が豊富な学習者には後者が有効だった場合、事前知識という適性 × 教授法という処遇の間にATIが示唆されます。

一方、「どの学習者でも明示的指導の方が同程度に高かった」のであれば、教授法の主効果は考えられても、典型的なATIとは言いにくくなります。

自己調整学習とのつながり

学習者の目標設定、方略選択、モニタリングなども学習成果に関係します。自己調整学習については、第3回問24「自己調整学習」も関連します。

ただし、自己調整学習そのものがATIなのではありません。自己調整の程度などを「適性」として扱い、異なる処遇との組み合わせによって成果が変わるかを検討したときにATIの枠組みになります。

ATIが教育心理学で重要になった背景

ATIは、平均値だけを見て「最も優れた教授法」を決める考え方への反省から発展しました。教育場面では、同じ教材や同じ指導でも学習成果には大きな個人差があります。その個人差を単なる誤差として扱うのではなく、教育的な働きかけとの組み合わせによって意味を持つ変数として検討しようとするのがATIの発想です。

Cronbachは、実験心理学が「処遇の効果」を扱い、相関研究が「個人差」を扱うという分断を問題にし、両者を統合する必要性を論じました。その後、CronbachとSnowによる研究を通して、教育場面での適性と教授法の組み合わせが体系的に検討されていきました。

ここで重要なのは、「個人差があるから個別指導が大切」という一般論だけではATIにはならない点です。適性によって処遇の効果が変化するかを問うことがATIの特徴です。

2×2の表で考えるとATIが分かりやすい

たとえば、学習者を「事前知識が高い群/低い群」、教授法を「明示的指導/発見的指導」に分けたとします。

明示的指導 発見的指導
事前知識が低い 高い成果 低い成果
事前知識が高い 中程度 高い成果

このように、事前知識が低い場合と高い場合で「どちらの教授法が有利か」が変われば、ATIを考えやすくなります。逆に、事前知識の高低にかかわらず明示的指導が常に高いのであれば、教授法の主効果はあっても、ATIの中心的なパターンではありません。

交互作用グラフの読み方

交互作用をグラフで見る場合、横軸に適性、縦軸に学習成果を取り、処遇A・Bを別の線で表すと理解しやすくなります。

  • 2本の線がおおむね平行 → 交互作用は小さい
  • 適性の水準によって線の間隔が変わる → 交互作用の可能性
  • 2本の線が交差する → 典型的なクロスオーバー型の交互作用

ただし、線が交差しなければ交互作用ではない、という理解は誤りです。差の大きさが適性によって変われば統計的な交互作用は生じ得ます。

ATIと「学習スタイルに合わせればよい」は同じではない

ATIは、学習者の好みを聞いて「視覚型だから図で教える」「聴覚型だから音声で教える」と機械的に指導法を決める考え方ではありません。

ATIで重要なのは、ある個人差変数とある処遇の組み合わせによって、実際に学習成果の差が生じるかを検証することです。本人の好み、能力、知識、動機づけなどは候補になり得ますが、適合しているように見えることと、効果が実証されていることは別です。

公認心理師試験で混同しやすい関連概念

概念 中心語 ATIとの違い
ATI 適性×処遇×交互作用 個人差によって教育効果が異なる
最近接発達領域 独力・援助・発達可能性 援助によって到達可能な発達領域
自己調整学習 目標設定・方略・モニタリング 学習者自身が学習過程を調整する
個別指導 一人ひとりへの対応 指導形態であり、それ自体はATIを意味しない

選択肢を読むときは、「これは誰と誰の関係を説明している概念なのか」を確認すると混同しにくくなります。

ATI研究を読むときの注意

交互作用効果は、単純な主効果より検出が難しい場合があります。日本心理学会はATI研究について、知見の再現性や安定性に注意が必要であること、一般化に慎重であるべきことも紹介しています。

したがって、「ある個人特性を持つ人には必ずこの教授法」と固定的に分類するのではなく、対象、課題、測定方法、サンプルサイズ、再現性などを確認する必要があります。

試験での見分け方

  • 適性=学習に関係する個人差
  • 処遇=教授法・教材・学習環境など
  • 交互作用=適性によって処遇の効果が変わる
  • 統計ではinteraction effectとして検証する
  • 「一人ではできないが援助があればできる」ならZPD
  • ATIは「個人に合いそうだから」という印象論ではなく、適性×処遇の効果差を検討する枠組み

まとめ

第4回午前問42の正答はです。

ATIは、学習者の適性と教育的処遇の組み合わせによって学習効果が異なることを捉える概念です。①処遇、②交互作用効果、③適性、④学習者による教授法の効果差はいずれもATIの説明として適切です。

⑤はVygotskyの最近接発達領域に関連するため誤りです。試験では、「適性×処遇」ならATI、「独力×援助」ならZPDと対比すると整理しやすくなります。

参考資料

コメント

タイトルとURLをコピーしました