公認心理師資格試験 過去問解説 問27 産業・組織に関する心理学「職場のメンタルヘルス」

公認心理師資格試験 過去問解説 問27 産業・組織に関する心理学「職場のメンタルヘルス」

第3回公認心理師試験の過去問や正答は以下のサイトで入手可能です。

第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター

 

公認心理師資格試験の過去問をしっかりと振り返ることで「自分に必要な知識は何か」を知るための手がかりとしてくださいね!

 

公認心理師試験の勉強方法はこちら💁‍♀️

【公認心理資格試験】試験勉強の仕方。ブループリントに記載されている出題割合で勉強の範囲を狭めない方がいい理由について解説します!

 



 

【問27】産業・組織に関する心理学「職場のメンタルヘルス対策」

問27 事業場における労働者のメンタルヘルスケアについて、正しいものを1つ選べ。

① 労働者は、自己保健義務を負っている。

② 労働者の主治医が中心となって推進する。

③ 人事労働管理スタッフは、関与してはならない。

④ 産業医の中心的な役割は、事業場内で診療を行うことである。

⑤ 対象範囲を、業務に起因するストレスに限定することが大切である。

出典:第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター

 

正答は ①

 

① 労働者は、自己保健義務を負っている

となります。

 

産業・労働分野に関する法律制度はブループリント にも記載されているので、しっかりと押さえておきましょう❗️

  • 労働基準法
  • 労働安全衛生法
  • 労働契約法
  • 労働者派遣事業の保護等に関する法律(労働者派遣法)
  • 労働者の心の健康の保持増進のための指針

(一部抜粋)

 

以下のサイトが非常に参考になります💁🏻

 

安全配慮義務と自己保健義務

 

memo

安全配慮義務(使用者):労働契約法(第5条)、自己保健義務(労働者):労働安全衛生法(第26条)

 

労働契約法では、「労働者」と「使用者」に関する定義が明確にされているため、まずは確認しておきましょう。

第2条 定義
この法律において「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。
2. この法律において「使用者」とは、その使用する労働者に対して賃金を支払う者をいう。

出典:第1章 総則|労働契約法関連資料|厚生労働省

ここでは、雇い主側である「使用者」と雇われる側である「労働者」という関係を押さえておければ問題ないでしょう。

 

続いて、安全配慮義務についてですが、

第5条 労働者の安全への配慮
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

出典:第1章 総則|労働契約法関連資料|厚生労働省

 

この「労働契約法第5条」では、「使用者」は労働契約上で明記された義務に加えて、特別な規定がなくとも「労働者」を危険から保護するように配慮するという安全配慮義務を負うと記載されています。

 

この危険の中には、条文にあるように「生命」「身体」は当然のこととして、心身の健康も含まれるとされています。

 

また、事業主である「使用者」が講じなければならない具体的な措置に関しては、労働安全衛生法の第20条から第25条に規定されています。

 

そして続く第26条では、「労働者」側の義務が示されています。

第26条
労働者は、事業者が第二十条から第二十五条まで及び前条第一項の規定に基づき講ずる措置に応じて、必要な事項を守らなければならない。

出典:労働安全衛生法|厚生労働省

 

この第26条に規定されている事業主が講じた具体的な措置に関連する必要な事項を「労働者」も遵守する義務を負うことを自己保健義務といいます。違反した場合は罰則が課せられることになります。

 

そのため、選択肢①「労働者は、自己保健義務を負っている」は、労働安全衛生法上で「労働者」の義務として規定されているため、問題の回答として正しいといえます。

 



 

残りの選択肢の解説

ここからの問題は以下の資料を参考に解説していきます❗️

 

メンタルヘルスケアは誰が推進するのか?

② 労働者の主治医が中心となって推進する。

「労働者のメンタルヘルスケアを誰が中心となって担うのか?」という問いになっています。

 

労働安全衛生法を見てみると、

第 69 条
事業者は、労働者に対する健康教育及び健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置を継続的かつ計画的に講ずるよう努めなければならない。
出典:労働安全衛生法|厚生労働省

メンタルヘルスケアは事業者が講じるように努めなくてはならない心の健康の保持増進のための措置とされています。

 

事業者は、自らがストレスチェック制度を含めた事業場におけるメンタルヘルスケアを積極的に推進することを表明するとともに、衛生委員会等において十分調査審議を行い、「心の健康づくり計画」やストレスチェック制度の実施方法等に関する規程を策定する必要があります。
出典:メンタルヘルス指針|厚生労働省

と、厚生労働省のメンタルヘルス指針にも事業者が事業場におけるメンタルヘルスケアを積極的に推進することが明記されていますね。

 

そのため、選択肢②「労働者の主治医が中心となって推進する」は正しいとはいえず、問題の回答としては不適切となります。

 

事業場内のスタッフの役割

③ 人事労働管理スタッフは、関与してはならない。

④ 産業医の中心的な役割は、事業場内で診療を行うことである。

 

事業場内の産業保健スタッフの役割として以下が挙げられています。

○産業医等:労働者の健康管理を担う専門的立場から対策の実施状況の把握、助言・指導などを行う。また、ストレスチェック制度及び長時間労働者に対する面接指導の実施やメンタルヘルスに関する個人の健康情報の保護についても、中心的役割を果たす。

○衛生管理者等:教育研修の企画・実施、相談体制づくりなどを行う。

○保健師等:労働者及び管理監督者からの相談対応などを行う。

○心の健康づくり専門スタッフ:教育研修の企画・実施、相談対応などを行う。

○人事労務管理スタッフ:労働時間等の労働条件の改善、労働者の適正な配置に配慮する。

○事業場内メンタルヘルス推進担当者:産業医等の助言、指導等を得ながら事業場のメンタルヘルスケアの推進の実務を担当する事業場内メンタルヘルス推進担当者は、衛生管理者等や常勤の保健師等から選任することが望ましい。ただし、労働者のメンタルヘルスに関する個人情報を取り扱うことから、労働者について人事権を有するものを選任することは適当ではない。なお、ストレスチェック制度においては、ストレスチェックを受ける労働者について人事権を有する者はストレスチェック実施の事務に従事してはならない。

出典:メンタルヘルス指針|厚生労働省

これを見ると、「産業医」「保健師」「衛生管理者」「人事労務管理スタッフ」など様々なスタッフが配置されることがわかります。

 

「人事労務管理スタッフ」は、労働時間等の労働条件の改善や適正配置など、メンタルヘルスケアの中で環境調整的な役割を担うといえるでしょう。

 

一方で、事業場内メンタルヘルス推進担当者としては、“労働者について人事権を有するものを選任することは適当ではない”とされており、ストレスチェック制度に関しては“ストレスチェックを受ける労働者について人事権を有する者はストレスチェック実施の事務に従事してはならない”とされています。

 

以上のことから選択肢③「人事労働管理スタッフは、関与してはならない」は、メンタルヘルスケア全体で関与しないわけではないため不適切といえ、「人事労働管理スタッフは、メンタルヘルス推進担当者として選出することは相応しくなく、ストレスチェック制度の事務に従事してはならない」が正しいといえるでしょう。

 

続いて、産業医の役割について確認していきましょう❗️

労働安全衛生法により、労働者が50人以上いる事業場では産業医を配置することが義務づけられています。

また、3000人以上の事業場では2名の産業医の配置が必要です。

 

(1)健康診断、面接指導等の実施及びその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置、作業環境の維持管理、作業の管理等労働者の健康管理に関すること。
(2)健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るための措置に関すること。
(3)労働衛生教育に関すること。
(4)労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止のための措置に関すること。

出典:産業医について|厚生労働省

 

東京都医師会のホームページを見ると、

  • 統括管理
  • 健康管理
  • 作業管理
  • 作業環境管理
  • 労働衛生教育

とあります。

 

詳細に関しては各ホームページを参考にしていただきたいのですが、「産業医」の役割は多岐に渡り、主な業務は医療機関で行われる一般的な「診療」とは異なることを押さえておきましょう。

 

そのため、選択肢④「産業医の中心的な役割は、事業場内で診療を行うことである」は正しいとはいえず、問題の回答としては不適切といえます。

 

メンタルヘルスケアの対象

⑤ 対象範囲を、業務に起因するストレスに限定することが大切である。

 

まずはメンタルヘルスケアの基本的な考え方を確認しておきましょう❗️

【メンタルヘルスケアの基本的な考え方(一部抜粋)】

その実施に当たってはストレスチェック制度の活用や職場環境等の改善を通じて、メンタルヘルス不調を未然に防止する「一次予防」、メンタルヘルス不調を早期に発見し、適切な措置を行う「二次予防」及びメンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰を支援等を行う「三次予防」が円滑に行われるようにする必要がある。

出典:メンタルヘルス指針|厚生労働省

 

このように、

一次予防(メンタルヘルスの不調を未然に防止する)二次予防(メンタルヘルスの不調を早期に発見し対応する)

三次予防(メンタルヘルスの不調をきたした者の支援を行う)

という3つの機能があります。

 

予防の考え方に関してはこちらの記事も参考にしてください💁‍♂️

 

このような観点から「4つのケア」を重要視してメンタルヘルスケアを推進していきます。

  • セルフケア:管理監督者含めて労働者自身が行うケア
  • ラインによるケア:職場環境内での管理監督者によるケア
  • 事業場内産業保健スタッフ等によるケア:セルフケア、ラインによるケアが円滑に行われるように産業保健スタッフが支援を行う
  • 事業場外資源によるケア:職場外の機関や専門家を活用したケア

 

ケアを進める際には以下の4つの留意事項が示されています。

  • 心の健康問題の特性
  • 人事労務管理との関係
  • 労働者の個人情報の保護への配慮
  • 家庭・個人生活等の職場以外の問題

 

ここまで説明してきたように、メンタルヘルスケアは家庭要因や個人要因などの労働者それぞれのストレスも踏まえたうえで、包括的に労働者自身がストレスに気づいてセルフケアできる力を養うことと、労働者個人では改善しにくい職場内に存在するストレスに対する対策を講じていくことが目的といえるでしょう。

 

そのため、選択肢⑤「対象範囲を、業務に起因するストレスに限定することが大切である」は不適切といえ、「労働者のさまざまなストレスへの対処能力を向上させることと、業務に起因するストレスの改善を狙っていくこと」が正しいといえます。

 



 

まとめ

第3回公認心理師資格試験の問27は、産業・組織に関する心理学「職場のメンタルヘルス対策」に関する問題でした。

 

以下のキーワードを説明できるようにしておきましょう❗️

 

この記事のまとめ・安全配慮義務(労働契約法)と自己保健義務(労働安全衛生法)
・メンタルヘルスケアの基本的な考えと4つのケアおよび留意事項