第3回公認心理師資格試験 過去問解説 問3 自殺予防や自殺のリスク評価

第3回公認心理師資格試験 過去問解説 問3 自殺予防や自殺のリスク評価

第3回公認心理師資格試験の合格発表が終わりましたので、過去問の解説をしていきます!

 

過去問や正答は以下のサイトで入手可能です。

第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター

 

公認心理師資格試験の過去問をしっかりと振り返ることで「自分に必要な知識は何か」を知るための手がかりとしてくださいね!

 

公認心理師試験の勉強方法はこちら💁‍♀️

【公認心理資格試験】試験勉強の仕方。ブループリントに記載されている出題割合で勉強の範囲を狭めない方がいい理由について解説します!

 

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【問3】自殺予防や自殺のリスク評価

問3 自殺予防や自殺のリスク評価について、正しいものを1つ選べ。

① 文化的・宗教的な信条は、自殺のリスクに関連しない。

② 自殺念慮に具体的な計画があると、自殺のリスクが高い。

③ 家族や身近な人に自殺者がいても、自殺のリスクが高いとは言えない。

④ 自殺予防のための情報提供などの普及啓発は、自殺の二次予防として重要である。

⑤ 自殺手段や自殺が生じた場所について繰り返し詳しく報道することは、自殺予防になる。

出典:第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)午前問題

 

問2は「自殺予防・自殺リスク評価」についての問題になります。

正答は 

 

自殺念慮に具体的な計画があると、自殺のリスクが高い。

 

となります。

 

一般的にもいわれていることですが、専門書籍の解説を見ていきましょう!

自殺の計画性・準備性に関する情報収集も重要である。自殺潜在能力は、自傷や死についての恐怖感の乏しさであるから、将来の自殺をどこまで具体的かつ鮮明に思い描いているのかに反映される。人に見つかったり止められたりして計画が頓挫しないように、周到に準備や配慮をしていることなども大事なポイントである。

出典:松本俊彦(2015). もしも死にたいといわれたら 自殺リスクの評価と対応

 

海外の研究によれば、自殺の計画を立てた者の約70%が、その後に自殺企図へと至っているという結果が示されているようです。

 

自殺の計画について

  1. 時期を設定している:「○月○日に」、「○の記念日に」等
  2. 手段を設定・確保:「練炭を買った」、「ロープを用意している」等
  3. 場所を設定している:「自殺の名所を調べている」、「思い出のある場所に行こうとしている」等
  4. 予告している:「周囲に『これから死ぬ』とメールする」、「『自殺するしかない』と口にする」等
  5. 死後の準備をしている

出典:https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/11_07.pdf

 

参考書籍はこちら💁🏻

 

「自殺潜在力」に関してはこちらもどうぞ💁🏻

 

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残りの選択肢を確認しましょう!

① 文化的・宗教的な信条は、自殺のリスクに関連しない。

 

日本精神神経学会による日常臨床における自殺予防の手引き(平成25年3月版)をみると、危険因子(自殺を起こりやすくする要因)保護因子(自殺を起こりにくくする要因)どちらにも、「文化的・宗教的な信条」についての記載があります。

 

危険因子(社会文化的因子)
特定の文化的・宗教的な信条(例えば、自殺は個人的葛藤に対する崇高な解決手段だとする信念)

 

保護因子
自殺を妨げ自己保存を促すような個人的・社会的・文化的・宗教的な信条

出典:日常臨床における自殺予防の手引き(平成25年3月版)

 

このように、文化的・宗教的な信条は、その教義によって危険因子と保護因子のどちらの機能も果たす可能性があることがわかります。

 

よって、「①文化的・宗教的な信条は、自殺のリスクに関連しない」は不適当となります。

 

③ 家族や身近な人に自殺者がいても、自殺のリスクが高いとは言えない。

 

「家族の自殺歴」は、どのガイドラインにおいても重要な危険因子と考えられています。

 

危険因子となる理由として、以下のようなものが挙げられるでしょう。

  1. 自殺潜在力(自殺に対する敷居の低さ)が高まる
  2. 精神疾患の遺伝負因(うつ病、統合失調症など)
  3. 衝動性の高さ

 

なかでも、「家族や身近な人に自殺者がいる」状況は、自殺に対する抵抗感を下げて自殺潜在力(自殺の準備状態)を高めることが要因として大きいと考えられます。

 

また、精神疾患に罹患していることも自殺の危険因子であることから、「家族や身近な人に自殺者がいる」ということは、家族内で内因性の精神疾患(うつ病、統合失調症など)の既往歴が多い可能性も考えられます。気質的な衝動性についても同様です。

 

よって、「③家族や身近な人に自殺者がいても、自殺のリスクが高いとは言えない。」は不適当となります。

 

④ 自殺予防のための情報提供などの普及啓発は、自殺の二次予防として重要である。

 

この選択肢は一見すると正答のように思われますが、思わぬ落とし穴がありますね!

 

キーワードCaplan, G(キャプラン)

この選択肢では、Caplan, G(キャプラン)の「危機介入」や「予防」の考え方を押さえておく必要があります。

 

公認心理師必携テキストキャプランの予防の分類についてわかりやすい記載があるので引用します。

問題の発生自体を防ぐ第1次予防
ハイリスクな人々に対して早期発見・早期介入をする第2次予防
すでに問題を抱える人に対して、悪化やさらなる不利益をこうむらないために行う第3次予防

出典:公認心理師必携テキストより一部抜粋

 

予防の分類

  • 一次予防:そもそも問題が発生する前に行われる予防的介入
  • 二次予防:問題の早期発見と早期介入(危機介入)
  • 三次予防:問題が生じた後に悪化を防ぐための介入

 

自殺に関する予防は東京都自殺総合対策計画〜こころといのちのサポートプラン〜|東京都福祉保健局の資料が参考になります。

 

以上より、「自殺予防のための情報提供などの普及啓発」は問題発生前に行われる事前の介入である一次予防にあたるため、この選択肢は不適となります。

 

⑤ 自殺手段や自殺が生じた場所について繰り返し詳しく報道することは、自殺予防になる。

この選択肢は、「自殺手段へのアクセス制限」の考え方が重要です。

 

このアクセス制限には、認知的なものと物理的なものが想定されますが、報道に関しては認知的なものと関連性があります。

 

ウェルテル効果
ウェルテル効果(Werther effect)とは、『マスメディアの自殺報道によってその後の自殺者数が増加する現象』をさします。ゲーテ著の「若きウェルテルの悩み(1977)」にて主人公のウェルテルが苦悩のすえ自殺にいたるのですが、彼の自殺に影響された若者たちがウェルテルと同じ方法で自殺した現象をもとに命名されました。

このように、報道の仕方によっては自殺への認知的なアクセスが増加して、結果として自殺者数が増加することが知られています。

 

厚生労働省が発行している「自殺対策を推進するためにメディア関係者に知ってもらいたい基礎知識(2017年版)」に、「やってはいけないこと(Donʼts)」として以下の6項目が記載されています。

 

  • 自殺の報道記事を目立つように配置しないこと。また報道を過度に繰り返さないこと
  • 自殺をセンセーショナルに表現する言葉、よくある普通のこととみなす言葉を使わないこと、自殺を前向きな問題解決策の一つであるかのように紹介しないこと
  • 自殺に用いた手段について明確に表現しないこと
  • 自殺が発生した現場や場所の詳細を伝えないこと
  • センセーショナルな見出しを使わないこと
  • 写真、ビデオ映像、デジタルメディアへのリンクなどは用いないこと

出典:自殺対策を推進するためにメディア関係者に知ってもらいたい基礎知識(2017年版)|厚生労働省

 

よって、「⑤ 自殺手段や自殺が生じた場所について繰り返し詳しく報道すること」は、「Don’ts」に記載されているため、むしろ自殺予防とは反対の効果があると考えられ、不適といえます。

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まとめ

第3回公認心理師資格試験の問3は「自殺予防や自殺のリスク評価」に関する知識が問われる問題でした。

 

  • 自殺の危険因子(リスク因子)
  • Caplan, G(キャプラン)の「危機介入」や「予防」

がキーワードとなります。

 

自殺の危険因子や自殺を説明する理論に関してはこちらをどうぞ💁🏻