第3回公認心理師資格試験 過去問解説 問2 統合失調症の症状増悪時の公認心理師の対応
- 2021.02.20
- 公認心理師(第3回) 資格試験
- 第3回公認心理師試験
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第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター
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【問2】 統合失調症の症状増悪時の公認心理師の介入
問2 統合失調症の症状が増悪したクライエントへの公認心理師の介入について、適切なものを1つ選べ。
① 症状増悪時は、心理的支援を行わない。
② 幻聴に関して、幻覚であることを自覚させる。
③ 緊張病性昏迷では、身体管理が必要となる可能性があることを家族に伝える。
④ 作為体験によるリストカットは、ためらい傷程度であれば特に緊急性はない。
⑤ 服薬を拒否するクライエントに対して、薬は無理に服薬しなくてよいと伝える。
問2は「統合失調症の症状増悪時の公認心理師の介入」についての問題になります。
緊張病性昏迷では、身体管理が必要となる可能性があることを家族に伝える。
となります。
緊張病について
緊張病(Catatonia:カタトニア)はもともと統合失調症に関連した症状として取り上げられることが多かったのですが、DSM-5(精神疾患の分類と診断の手引)では統合失調症以外の精神疾患や医学的疾患に対しても緊張病という診断がつくようになりました。
では、緊張病の診断基準を見てみましょう。
A. 臨床像は以下の症状のうち3つ(またはそれ以上)が優勢である。
(1) 昏迷(すなわち、精神運動性の活動がない、周囲と活動的なつながりがない)
(2) カタレプシー(すなわち、受動的にとらされた姿勢を重力に抗したまま保持する)
(3) 蝋屈症(すなわち、検査者に姿勢をとらされることを無視し、抵抗さえする)
(4) 無言症[すなわち、言語反応がない、またはごくわずかしかない(既知の失語症があれば除外)]
(5) 拒絶症(すなわち、指示や外的刺激に対して反対する、または反応がない)
(6) 姿勢保持(すなわち、重力に抗して姿勢を自発的・能動的に維持する)
(7) わざとらしさ(すなわち、普通の所作を奇妙、迂遠に演じる)
(8) 常同症(すなわち、反復的で異常な頻度の、目標指向のない運動)
(9) 外的刺激の影響によらない興奮
(10) しかめ面
(11) 反響言語(すなわち、他人の言葉を真似する)
(12) 反響動作(すなわち、他人の動作を真似する)
出典:DSM-5®︎ 精神疾患の分類と診断の手引き
つまり、緊張病とは「運動・行動自体や運動・行動を調整する意志」を示す精神運動の異常を特徴とする疾患といえます。
意識障害はなく外界を認識しているがこれに応じる意志が発動されない。無言無動で痛み刺激に反応しないこともある。
緊張病性昏迷とは、意識はある状態ですが個人の意志がみられなくなり、そのため動くことができない状態のことをさします。
この昏迷の状態では、
- 食事・睡眠など生命維持のための活動が制限される
- 発熱や自律神経失調を伴う場合がある
ため、身体管理が必要となる場合があります。
そのため選択肢③は適当といえます。
では、ここからは他の選択肢を見ていきましょう。
【参考文献】
① 症状増悪時は、心理的支援を行わない。
心理教育を中心とした心理社会的援助プログラムガイドラインを見ると、
急性期はさらなる再発の危険も高く、その後のリハビリテーションにスムーズにつなげていかなければならない時期でもある。そういった意味から、急性期の心理教育はその後の治療を進めていく上でも重要な役割を占めているのは確かであろう。
とされており、症状増悪時(若干ニュアンスは異なりますが、急性期と考えます)の対応として、可能な範囲で「心理教育」を行うことが推奨されていることがわかります。
本人に対する個人面接での「心理教育」は、基本的には主治医(医師)が行うとされていますが、「当事者への心理教育グループ」や「心理教育関連プログラム」、「家族に対する心理教育」などの形態では公認心理師含めたコメディカル職の参加も期待されるでしょう。
また、もうひとつ考えられる心理的支援として、「オープンダイアローグ」があります。
初回エピソード 精神病(主として統合失調症)に対し、連絡があってから24 時間以内に2名以上の専門の危機介入スタッフが患者の下に駆けつけ、患者、家族らと連日(およそ2週間以内)、車座になって、“開かれた対話”(自由な雰囲気で、相互に対し無批判な対話を行う)を1日につき、最長で90分間ほど行うことにより、薬をあまり使わず(基本的に抗精神病薬を全く使わないが、使う場合もごく少量)、患者の危機的状況を終息させるものである。
出典:齋藤武郎(2014). 急性精神病に対する オープンダイアローグアプローチ: 有効性は確立したか?, Clin Eval, 42(2).
この説明にもあるように、オープンダイアローグは初回エピソードの急性期に行われる支援法といえます。
以上より、「①症状増悪時は、心理的支援を行わない」は適当とはいえないでしょう。
ただし、心理的支援の実施には医療機関にて主治医がいる状態で行われることが望ましいと考えられます。
【統合失調症の症状増悪時の心理的支援】
- 心理教育
- オープンダイアローグ
② 幻聴に関して、幻覚であることを自覚させる。
②の選択肢のポイントとしては、この問題が統合失調症の症状増悪時(急性期)であることを忘れないことです。
訪問支援で使える統合失調症情報提供ガイド(家族心理教育編)をみると、
幻覚や妄想は、ご本人にとっては真実の出来事で、とても怖い思いをしています。
(中略)ご本人が幻聴や妄想を訴えたときには否定せず、つらい気持ちを受け止めましょう。否定してしまうと関係性が崩れてしまうことが多いです。「そんなこと言われたらつらいよね」「怖い思いをしているんだね」 と言いましょう。
とされています。
もちろん回復期にある当事者の方にとっては、症状のコントロールを狙う意味でも、「幻聴=幻覚」と伝えていくことは必要になってくるでしょうが、この問題では統合失調症の症状増悪時であるため、この時期には「幻覚であることを否定しない対応」が適していると考えられます。
そのため、「②幻聴に関して、幻覚であることを自覚させる。」は不適当であると考えられます。
④ 作為体験によるリストカットは、ためらい傷程度であれば特に緊急性はない。
「作為体験」とは、統合失調症における自我障害による「被影響体験」のひとつとされています。
自我障害とは自分の行う体験が自分を離れたり、自他の境界が不明瞭になったりする現象を指す
「作為体験」は、
自分のものであるという感じや自分でやっているという感じが変質し、それらの感じが失われ(「離人症」)、他からの影響を被っていると感じること
とされています。
簡単に説明すると、作為体験とは「自分の意志ではなく、他の何かの影響によって行動をコントロールされている」と感じている状況といえます。
問題の選択肢に戻ると、「④作為体験によるリストカット」とあります。リストカットは本来、「自分自身をストレスから守るための機能」がありますが、効果が薄くなってしまうことで徐々にエスカレートしていくことがよくあります。
したがって、現在はためらい傷程度であっても軽視することはできませんが、緊急性という観点ではまだ猶予があるとみなすことが可能でしょう。
一方、この選択肢における当事者の方の感覚では「自分の意志でなく、リストカットさせられている状態」といえます。
「作為体験」は統合失調症の症状が強く出ており自分ではコントロールができない状態といえますので、たとえリストカットの傷が軽症であったとしても、「精神病症状による自傷・他害」と判断でき、緊急性が非常に高い状態と考えられます。
以上より、選択肢④は不適当となります。
⑤ 服薬を拒否するクライエントに対して、薬は無理に服薬しなくてよいと伝える。
上の画像は、訪問支援で使える統合失調症情報提供ガイド(家族心理教育編)の「陽性症状」に関する解説を抜粋したものになります。
統合失調症の陽性症状を改善するためには、抗精神病薬を服用することが必要となります。
記載があるように、陽性症状が強く出ている場合は、本人はとても怖い思いをしていますが、自分が病気だと認識できなくなる場合があります。そのため、服薬を拒否するようなこともよくある状況です。
服薬を拒否するクライエントに対して、もちろん「本人の服薬したくない気持ち」を受け止めることは大切ですが、「本人の辛さを和らげる」ためにも服薬の必要性を継続して伝えていく必要があります。
以上より、「⑤ 服薬を拒否するクライエントに対して、薬は無理に服薬しなくてよいと伝える。」は不適当となります。
まとめ
第3回公認心理師資格試験の問2は「統合失調症の症状増悪時の公認心理師の対応」が問われる問題でした。
- 面接構造・制限
- 心理教育・オープンダイアローグ
- 統合失調症の陽性症状
- 服薬アドヒアランス
がキーワードとなります。
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