公認心理師資格試験 過去問解説 問35 多職種連携「多職種連携コンピテンシー」

公認心理師資格試験 過去問解説 問35 多職種連携「多職種連携コンピテンシー」

第3回公認心理師試験の過去問や正答は以下のサイトで入手可能です。

第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター

 

公認心理師資格試験の過去問をしっかりと振り返ることで「自分に必要な知識は何か」を知るための手がかりとしてくださいね!

 

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【問35】多職種連携「コンピテンシー」

問35 専門職連携を行う際の実践能力として、不適切なものを1つ選べ。

① 自分の職種の思考、行為、感情及び価値観について省みることができる。

② 他の職種の思考、行為、感情及び価値観について理解することができる。

③ 他の職種との関係の構築、維持及び成長を支援及び調整することができる。

④ 他の職種の役割を理解し、自分の職種としての役割を全うすることができる。

⑤ 患者の意向よりも、他の職種との間での共通の目標を最優先にして設定することができる。

出典:第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター

 

正答は ⑤

 

⑤ 患者の意向よりも、他の職種との間での共通の目標を最優先にして設定することができる

となります。

 

多職種連携

まずは用語から整理していきましょう❗️

多職種連携(IPW:Interprofessional Work):複数の領域の専門職者が各々の技術と役割をもとに、共通の目標を目指す協働のこと

出典:IPE/IPW|厚生労働省

 

複数の領域の専門職がそれぞれの専門性を活かして支援を行うことを多職種連携あるいは専門職連携といいます。

 

医療保健領域では、さまざまな職種が連携してそれぞれの専門性を活かすことで医療の質や効率性の向上が期待できる「チーム医療」という考え方が主流となってきています。

 

公認心理師にも関連性の深い精神科領域についての記載をみると、

精神科領域においては、疾病と障害を併せ持ち、相関関係が大きい障害特性から社会的健康へのダメージを来すことがある。したがって、疾病の治療のみならず生活者として対 象者支援を行うことが必要であるため、医療機関や地域において医師、看護師、作業療法士、精神保健福祉士、臨床心理士、理学療法士等の多職種協働によるチーム医療の提供が 重要である。また、身体面と精神面の両方に問題のある患者に対しては、身体的治療だけでなく、精神科的な治療も並行して行うことが必要であり、身体的ケアスタッフと精神科 的ケアスタッフが協働して患者の治療を行える体制整備が必要である。
出典:チーム医療推進のための基本的な考え方と 実践的事例集|厚生労働省

とされているなど、専門職連携の重要性が窺われますね。

 

また、専門職連携を円滑に行うために、現場に出る前の養成段階から専門職連携の実践能力を高めるための教育を行うことが必要とされ、この教育のことを専門職連携実践教育(IPE:Interprofessional education)といいます。

 

多職種連携コンピテンシー

 

コンピテンシー(competency)とは❓
高い成果を出す人に共通して見られる行動の特性(知識・技能・態度)」を意味しており、先天的な能力ではなく学習によって身につけるもので、第三者からみて評価可能なものとされています。

 

各専門職のそれぞれの成長段階に合わせたコンピテンシーの獲得を目的とした教育のことをコンピテンシー基盤型教育と呼びます。

 

「専門職連携実践教育(IPE)」では、各専門職におけるコンピテンシーとは別に、専門職間の連携に関して高い成果を出すための知識・技能・態度などを意味する多職種連携コンピテンシーを設定しています。

 

多職種の連携においては、「各専門職のコンピテンシー」と、「チームでのコンピテンシー」の双方を意識する必要があるということになります。

 

多職種連携のコア・コンピテンシー

Hugh Barrによると多職種連携には3つの基盤となるコア・コンピテンシーがあるといわれています。

多職種連携のコア・コンピテンシー
出典:春田淳志(2016). 多職種連携コンピテンシーの国際比較 (特集 専門職連携コンピテンシー), 保健医療福祉連携 : 連携教育と連携実践, 9(2), 106-115.より、*1から引用した図を抜粋。*1 Barr H. Competent to collaborate: Towards a competency-based model for interprofessional education. J Interprof Care. Informa UK Ltd UK;1998;12(2):181–7.
  • 個々の専門能力(Complementary):他の専門職と自分の専門性を区別して補うことのできる能力
  • 共通の能力(Common):全ての専門職が必要な共通の能力
  • 協働的能力(Collaborative):他の専門職と協働するために必要な能力

 

Hugh Barrのモデルに基づいて、それぞれの国で多職種連携コンピテンシーの開発が進められてきました。

 

日本での多職種連携コンピテンシー

JAIPE(日本保健医療福祉連携教育学会)を始め、日本医学教育学会、日本歯科医学教育学会、千葉看護学会、日本薬学会、日本理学療法士協会、日本作業療法士協会、日本栄養学教育学会、日本社会福祉学会、チーム医療推進協議会など多数の医療保健福祉の団体・協会の協力のもと2016年4月、日本の多職種連携コンピテンシーが完成した。

出典:春田淳志(2016). 多職種連携コンピテンシーの国際比較 (特集 専門職連携コンピテンシー), 保健医療福祉連携 : 連携教育と連携実践, 9(2), 106-115.

 

開発された多職種連携コンピテンシーは、医療保健福祉に関わる職種全てを対象とするもので、以下の図のように2つのコア・ドメインとそれを支える4つのドメインで構成されています。

 

出典:春田淳志(2016). 多職種連携コンピテンシーの国際比較 (特集 専門職連携コンピテンシー), 保健医療福祉連携 : 連携教育と連携実践, 9(2), 106-115.より医療保健福祉分野の多職種連携コンピテンシー(2016年3月31日第1版)を抜粋したものを引用

 

開発された多職種連携コンピテンシーの詳細に関しては以下の資料をご覧ください。

 



 

選択肢の解説

それでは選択肢の解説に移りましょう。直感的にも正当できそうな問題ではありますが、説明してきたように「多職種連携コンピテンシー」の枠組みで考えると理解がより深まります。

 

今回の問題の選択肢はそれぞれが「多職種連携コンピテンシー」に対応する内容となっています。

 

【コア・ドメイン】

  • 患者・利用者・家族・コミュニティ中心
  • 職種間コミュニケーション

 

 
【それを支える4つのドメイン】

  • 職種としての役割を全うする
  • 関係性に働きかける
  • 自職種を省みる
  • 他職種を理解する

 

① 自分の職種の思考、行為、感情及び価値観について省みることができる。

この選択肢は「自職種を省みる」に該当しており、正しい記述のため、選択肢としては不適切といえます。

 

② 他の職種の思考、行為、感情及び価値観について理解することができる。

この選択肢は「他職種を理解する」に該当しており、正しい記述のため、選択肢としては不適切といえます。

 

③ 他の職種との関係の構築、維持及び成長を支援及び調整することができる。

この選択肢は「関係性に働きかける」に該当しており、正しい記述のため、選択肢としては不適切といえます。

 

④ 他の職種の役割を理解し、自分の職種としての役割を全うすることができる。

この選択肢は「職種としての役割を全うする」に該当しており、正しい記述のため、選択肢としては不適切といえます。

 

⑤ 患者の意向よりも、他の職種との間での共通の目標を最優先にして設定することができる。

この選択肢はコア・ドメインである「患者・利用者・家族・コミュニティ中心」に該当しています。

 

多職種連携で最も重要なポイントになりますが、各専門職がそれぞれの視点から必要とする目標が異なる場合が往々にしてあります。

 

そのため、多職種連携の際には「患者・利用者・家族・コミュニティ」などの非援助者側の抱える関心ごとや課題にフォーカスを当てて共通の目標を設定することが重要となってきます。

 

以上のことから、選択肢⑤「患者の意向よりも、他の職種との間での共通の目標を最優先にして設定することができる」は、患者の意向<支援者側の目標となってしまっているため不適切といえ、問題の回答としては正当となります。

 



 

まとめ

第3回公認心理師資格試験の問35は、多職種連携「コンピテンシー」に関する問題でした。

 

以下のキーワードをおさえておきましょう❗️

 

キーワード「多職種連携/専門職連携(IPW)」
「チーム医療」
「専門職連携実践教育(IPE)」
「コンピテンシー」
「多職種連携コンピテンシー」

 

多職種連携コンピテンシーの2つのコアドメインや4つの支えるドメインに関する詳細は以下の文献を参考にしてみてください📖