公認心理師資格試験 過去問解説 問13 脳・神経の働き「摂食行動を抑制する分子」

公認心理師資格試験 過去問解説 問13 脳・神経の働き「摂食行動を抑制する分子」

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第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター

 

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【問13】摂食行動を抑制する分子

問13 摂食行動を抑制する分子について、正しいものを1つ選べ。

① グレリンは、食欲を抑制する。

② レプチンは、食欲を促進する。

③ オレキシンは、食欲を抑制する。

④ 肥満症では、血液中のグレリン濃度が上昇する。

⑤ 肥満症では、血液中のレプチン濃度が上昇する。

出典:第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター

 

正答は ⑤

 

⑤ 肥満症では、血液中のレプチン濃度が上昇する。

 

となります。

 

グレリン、レプチン、オレキシンなどは、いずれもペプチド(peptide)と呼ばれるアミノ酸が結合体した分子です。

 

アミノ酸とは?

エネルギー産生栄養素のひとつであるたんぱく質を構成する、20種類の有機化合物のこと。ひとつでも欠けるとたんぱく質を合成することができません。人体を構成する要素としては60%を占める水に次いで多く、残り約40%のうちのおよそ半分を占めています。

出典:アミノ酸|e-ヘルスネット(厚生労働省)

 

アミノ酸は人体の重要な構成要素の1つであるたんぱく質を構成するもので、アミノ酸の結合される個数が少ない場合にはたんぱく質ではなくペプチドと呼ばれます。

 

細かい説明は省きますので、ここではペプチド=アミノ酸が結合した分子と押さえておいていただければOKです。

 

摂食行動のコントロールに関連する神経回路

摂食行動の中枢となる脳領域は、視床下部(hypothalamus)とされています。

 

  • 視床下部外側野 ⇨ 摂食行動を促進
  • 視床下部内側野 ⇨ 摂食行動を抑制

 

視床下部外側野(Lateral Hypothalamic Area;LHA)は、破壊されると栄養を摂取しなくなり、刺激されると栄養摂取が増えるため、摂食中枢(feeding center)と呼ばれています。

 

反対に、視床下部内側野(腹内側核:Ventromedial Nucleus;VMH)は、破壊されると栄養摂取が増加し、刺激されることで栄養摂取が減るため、満腹中枢(satiety center)とも呼ばれています。

 

栄養の過不足があると、消化管や脂肪組織などからホルモン(ペプチドホルモン)が産出され、それが信号として視床下部に届くことで空腹や満腹感を感じるようになります。

 

摂食行動に関連するペプチド・ホルモンは複数報告されていますので、以下に一部のみ記載します。

 

摂食行動を促進するペプチドの例
  • グレリン(ghrelin)
  • 神経ペプチドY(ニューロペプチドNeuropeputide Y; NPY)
  • オピオイドペプチド(Opioid peptide)
  • ガラニン様ペプチド(Galanin-like peptide; GALP)
  • オレキシン(Orexin)

 

摂食行動を抑制するペプチドの例
  • レプチン(Leptin)
  • ペプチドYY(PYY)
  • インスリン(Insulin)
  • セロトニン(Serotonin)

 

この記事では、問題文に関連するペプチドに関してのみ簡単に説明していきます。

 

グレリン

グレリンはで産出されるペプチドホルモンで、①下垂体に働きかけて成長ホルモンの分泌を促進する作用、②視床下部に働きかけて食欲を亢進させる作用、があります。

 

中枢神経系ではなく、胃という抹消で摂食行動を促進する作用をもっている代表的なペプチドになります。

 

血中のグレリン濃度は空腹時に上昇して、視床下部を介して食欲を亢進させる作用があります。

 

また、摂食障害との関連を調査した研究もいくつかあります。

肥満患者では血中グレリン濃度は低下しており[29]、低栄養状態にある神経性無食欲症(神経性拒食症)の患者では逆に上昇している[26]。

出典:石岡克己(2009). 摂食調節の生理学と比較医学―レプチンとグレリンを中心に―, ペット栄養学会誌, 12(1), 7-16.

[29]Shiiya, T., Nakazato, M., Mizuta, M., Date, Y., Mondal, M. S., Tanaka, M., Nozoe, S., Hosoda, H., Kangawa, K. and Matsukura, S. 2002. Plasma ghrelin levels in lean and obese humans and the effect of glucose on ghrelin secretion. J. Clin. Endocrinol. Metab.,
87: 240-244.
[26]Otto, B., Cuntz, U., Fruehauf, E., Wawarta, R., Folwaczny, C., Riepl, R. L., Heiman, M. L., Lehnert, P., Fichter, M. and Tschop, M. 2001. Weight gain decreases elevated plasma ghrelin concentrations of patients with anorexia nervosa. Eur. J. Endocrinol., 145: 669-673.

 

BN患者では、食後の血中グレリン濃度の低下が対照群に比べて鈍く、(中略)対照群に比べグレリン基礎値が有意に高いことも明らかになった。
出典:伊達 他(2006). 摂食障害における消化管ペプチド―グレリンおよびPYYの病態生理学的意義に関する研究―, 肥満研究, 12(3), 263-265.
BN=神経性過食症

 

まとめると以下のようになりますね。

  • 肥満⇨血中のグレリン濃度の低下
  • 神経性やせ症⇨血中のグレリン濃度の上昇
  • 神経性過食症⇨血中のグレリン濃度の上昇、食後のグレリン濃度の低下が鈍い

 

グレリン濃度の観点から見ると、やはり過食は低栄養状態でグレリン濃度上昇など、神経生理学的な要因からくる強い食欲亢進作用の症状であるといえそうです。

 

過食に関する記事はこちらをどうぞ💁🏻

 

レプチン

レプチンは脂肪細胞によって産出されるペプチドホルモンで、視床下部内側野=満腹中枢に働きかけることで食欲を抑制させる作用があります。

 

摂食行動に関連する分子の中で最初期に発見され、ギリシア語で「痩せる」を意味する「leptos」から命名されたようです。

 

体脂肪の量が増えると体内で産出されるレプチンの量が増えるため、血中のレプチン濃度が上昇します

 

また、食事を摂っていないときには血中のレプチン濃度は低下し、食後には上昇することがわかっています。

 

オレキシン

オレキシンは視床下部外側野にある神経細胞によって産出されるペプチドで、食欲を亢進させる作用があります。

 

食欲の他にも、睡眠の問題にも関連するなど、精神医学領域でも関心の集まるペプチドといえます。

 

オレキシンを産出する神経細胞が欠損したり、オレキシン濃度が低下すると、睡眠障害のひとつであるナルコレプシーが引き起こされることがわかっています。

 

選択肢の解説

ここからは選択肢について簡単に解説していきましょう。

① グレリンは、食欲を抑制する。

グレリンは食欲を亢進させるペプチドですので、選択肢は不適当となります。

 

② レプチンは、食欲を促進する。

レプチンは食欲を抑制させるペプチドですので、選択肢は不適当となります。

 

③ オレキシンは、食欲を抑制する。

オレキシンは食欲を亢進させるペプチドですので、選択肢は不適当となります。

 

④ 肥満症では、血液中のグレリン濃度が上昇する。

肥満症では血中のグレリン濃度は低下するので、選択肢は不適当となります。

 

⑤ 肥満症では、血液中のレプチン濃度が上昇する。

肥満症では身体の体脂肪量が増加します。

 

体脂肪の量が増えると体内で産出されるレプチンの量が増え、血中のレプチン濃度が上昇するため、この選択肢が正答となります。

 

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まとめ

第3回公認心理師資格試験の問13は脳・神経の働き「摂食行動を抑制する分子」に関する知識が問われる問題でした。

 

最低限以下のキーワードはおさえておく必要があるでしょう。

キーワード
・摂食行動の中枢は、視床下部である
・摂食行動を促進:グレリン、オレキシン
・摂食行動を抑制:レプチン

 

領域としては難しいところですが、深く学んでいくと精神疾患に関連する部分も多くあるため、臨床的な視野が広がると思われます。