第6回公認心理師試験・午前問14は、乳幼児の発達研究で用いられる鏡像認知課題〈mirror self-recognition task〉と、そこから把握される心理的特質を問う問題です。
正答は② 自己意識です。
この問題では、「鏡に映った自分が分かる」ことを、自己概念・自己評価・自己愛・自伝的記憶まで一気に広げて解釈しないことが重要です。鏡像認知課題は、鏡像を自分自身のものとして認識できるかという自己認識・自己意識の発達を捉える代表的課題です。
問題
子どもに対する鏡像認知課題を通して把握される心理的特質として、最も適切なものを1つ選べ。
- 自己愛
- 自己意識
- 自己概念
- 自己評価
- 自伝的記憶
正答:②
鏡像認知とは
鏡像認知〈mirror self-recognition〉とは、鏡に映っている像を、単なる別の個体ではなく自分自身の像として認識することです。
乳幼児研究では、顔など本人から直接は見えにくい場所に、気づかれないよう印を付け、その後に鏡を見せるマークテスト/ルージュテストがよく知られています。鏡を見た子どもが、鏡面の印ではなく自分の顔の印へ手を伸ばすと、鏡像と自己の身体を対応付けている反応として解釈されます。
Amsterdamの古典的研究をはじめ、その後の研究では、乳幼児期に鏡像に対する反応が変化し、発達の中で自己指向的な反応が現れることが検討されてきました。
なぜ鏡像認知から「自己意識」を考えるのか
鏡を使わずに自分の顔へ触れるためには、「鏡の中の印がある像」と「現実の自分の身体」を対応付ける必要があります。
つまり、鏡像認知課題では、外界に見えている像と、自分自身を区別・対応付ける自己認識〈self-recognition〉の成立をみます。この自己認識は、発達心理学では自己意識〈self-awareness〉の一つの指標として扱われてきました。
したがって、本問の選択肢の中では② 自己意識が最も適切です。
② 自己意識
適切であり、本問の正答です。
自己意識とは、自分自身を他者や環境とは区別された存在として意識することを含む広い概念です。
鏡像認知課題で直接みているのは、自己意識のすべてではありません。それでも、「鏡に映っている身体が自分自身の身体である」と認識して自己へ反応することは、自己を対象として捉える能力の発達を示す行動指標の一つと考えられます。
公認心理師試験では、鏡像認知 → 自己認識/自己意識という対応を押さえることが重要です。
① 自己愛
これは不適切です。
自己愛〈narcissism〉は、自分自身への関心や自己価値、誇大性、賞賛欲求などと関連して論じられる概念です。発達的・人格心理学的にはさまざまな意味で用いられますが、鏡像を自分と認識できるかという課題から、自己愛の強さを直接評価することはできません。
「鏡を見る=自分が好き=自己愛」という日常的な連想は、本問では典型的な誤答です。
③ 自己概念
これは不適切です。
自己概念〈self-concept〉は、「自分はどのような人か」について持っている知識や信念のまとまりです。性格、能力、役割、価値観、身体的特徴などについての自己理解を含みます。
鏡像認知は、自己概念が発達していく基盤の一つと関連し得ますが、鏡の中の自分を認識できるだけで、性格や価値観を含む自己概念全体が形成されたと判断することはできません。
自己概念という用語自体は、第4回問9「C. R. Rogersのパーソナリティ理論」でも扱っています。Rogersの自己概念と、鏡像認知でみる初期の自己認識は同じ水準の概念ではありません。
④ 自己評価
これは不適切です。
自己評価は、自分の能力や価値、特徴などについてどのように評価するかという側面です。
鏡像認知課題で分かるのは「鏡像が自分だと分かるか」であり、「自分を高く評価しているか/低く評価しているか」ではありません。
自己を認識することと、自己を価値づけることは別の心理過程です。
⑤ 自伝的記憶
これは不適切です。
自伝的記憶〈autobiographical memory〉は、自分自身の人生に関する出来事や経験の記憶です。「昨日誰と遊んだか」「入学式で何があったか」といった自己に関するエピソードの記憶を含みます。
鏡像認知課題では過去の出来事を想起させるわけではないため、自伝的記憶を直接評価する課題ではありません。
自己意識と自己概念を区別する
本問で最も迷いやすいのが、②自己意識と③自己概念です。
| 概念 | 中心的な問い | 鏡像認知との関係 |
|---|---|---|
| 自己意識 | 「これは自分だ」と自己を対象として捉えられるか | 鏡像認知課題が関連する |
| 自己概念 | 「自分はどのような人か」という知識・信念は何か | 鏡像認知だけでは評価できない |
| 自己評価 | 自分をどの程度肯定的・否定的に評価するか | 鏡像認知だけでは評価できない |
自己に関する知識をより広く整理する場合は、第3回問114「Neisserによる5つの自己知識」も関連します。Neisserは生態学的自己、対人的自己、拡張的/想起的自己、私的自己、概念的自己など、自己知識を複数の側面から整理しています。
鏡像認知課題の典型的な流れ
代表的な手続は、概ね次のように理解できます。
- 子どもが気づかないように、顔など本人から直接見えにくい場所へ印を付ける。
- 鏡を見せる。
- 鏡像を見た後、自分の身体上の印へ手を伸ばすかなどを観察する。
- 自己指向的反応を、鏡像と自己身体を対応付けた行動指標として解釈する。
年齢が上がれば全員が同じ時点で同じ反応を示すわけではなく、課題条件、経験、文化的・社会的環境なども反応に影響し得ます。したがって、鏡像認知は発達の一指標であり、単独の課題から子どもの自己理解全体を断定するものではありません。
鏡像認知を「高度な自己理解すべて」と同一視しない
鏡像自己認知は長く自己意識研究の重要な指標として使われてきましたが、その解釈には議論があります。
鏡像を自己として扱えることは、自己身体を外から見た像と対応付ける能力を示します。しかし、それだけで「自分の性格を内省できる」「他者からどう見られているかを理解している」「過去と現在をつないだ自己物語を持っている」といった、より複雑な自己理解まで証明できるわけではありません。
Anderson & Gallupのレビューでも、鏡像自己認知をめぐる課題や解釈が検討されています。試験では正答②を選びつつ、実際の研究理解では鏡像認知=自己意識の一つの行動指標と表現するのが安全です。
「自己」は発達とともに多層化する
乳幼児期の自己認識から、その後の自己概念、自己評価、自伝的記憶、他者から見られる自己などへ、自己に関する心理過程は発達とともに多層化していきます。
そのため、選択肢に自己関連の用語が並んだときは、課題が何を実際に測っているかを確認します。
- 鏡に映る自分への自己指向的反応 → 自己認識・自己意識
- 「自分はどんな人か」という特徴や信念 → 自己概念
- 自分を肯定的/否定的に見る → 自己評価
- 自分の過去の経験を覚えている → 自伝的記憶
試験での見分け方
| 選択肢 | 判断 | 理由 |
|---|---|---|
| 自己愛 | × | 鏡像認知は自己愛の程度を測らない |
| 自己意識 | ○ | 自己を自己として認識する行動指標 |
| 自己概念 | × | 自己に関する知識・信念全体は測らない |
| 自己評価 | × | 自己価値の高低は測らない |
| 自伝的記憶 | × | 過去の自己経験の想起課題ではない |
まとめ
第6回午前問14の正答は② 自己意識です。
- 鏡像認知は、鏡に映る像を自分自身の像として認識すること。
- マークテスト/ルージュテストでは、鏡を見て自分の身体上の印へ反応するかを観察する。
- 鏡像認知は自己認識・自己意識の発達をみる代表的な行動指標。
- 自己概念、自己評価、自己愛、自伝的記憶とは区別する。
- 鏡像認知だけで、成熟した自己理解全体が成立したと断定しない。
参考資料
- 日本心理研修センター「第6回公認心理師試験」
- 日本心理研修センター「第6回公認心理師試験 午前問題」
- 日本心理研修センター「第6回公認心理師試験 正答」
- Amsterdam B. Mirror self-image reactions before age two. Developmental Psychobiology. 1972.
- Anderson JR. The development of self-recognition: a review. Developmental Psychobiology. 1984.
- Anderson JR, Gallup GG Jr. Mirror self-recognition: a review and critique of attempts to promote and engineer self-recognition in primates. Primates. 2015.


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