第5回公認心理師試験の午前問38は、生物心理社会モデル〈biopsychosocial model〉について、生物・心理・社会の3領域をどう整理するかを問う問題です。
正答は③です。対処行動〈coping〉は基本的に心理的要因として整理されるため、「社会的要因に含まれる」とする③が誤りです。
問題
生物心理社会モデルに関する説明として、誤っているものを1つ選べ。
- 心理的要因には、感情が含まれる。
- 生物的要因には、遺伝が含まれる。
- 社会的要因には、対処行動が含まれる。
- 多職種連携の枠組みとして用いられる。
- 生物医学モデルへの批判から提案されたモデルである。
正答:③
この問題のポイント
生物心理社会モデルでは、人の健康や病気を、単一の原因だけで説明しません。生物的要因、心理的要因、社会的要因が相互に影響すると考えます。
試験では、まず各領域の代表例を整理すると解きやすくなります。
- 生物的要因:遺伝、身体疾患、神経・内分泌機能、生理学的状態など。
- 心理的要因:感情、認知、信念、対処行動〈coping〉、学習歴など。
- 社会的要因:家族関係、文化、社会的支援、役割、学校・職場環境、経済的条件など。
したがって、③の「対処行動を社会的要因に含める」という分類が不適切です。
生物心理社会モデルとは
生物心理社会モデルは、George L. Engelが1977年に提示したことで広く知られています。
Engelは、病気を主に身体や病理の側面から捉える生物医学モデル〈biomedical model〉だけでは、患者の心理状態、行動、家族や社会環境などを十分に扱えないと論じました。
そこで、人の健康を理解する際には、生物学的な病態だけでなく、心理的・社会的な文脈も含めて考える必要があるという枠組みを提示しました。
重要なのは、3つの領域を別々の箱として並べるだけではなく、それぞれが相互作用すると考えることです。
「対処行動」はなぜ心理的要因なのか
対処行動〈coping〉とは、ストレスや困難に対して、本人がどのように考え、どのように行動して対処するかという過程です。
たとえば、問題を整理して解決策を探す、他者に相談する、気分転換をする、困難な場面を回避するなど、さまざまな対処の仕方があります。
対処には社会的支援の利用が含まれることもありますが、「本人がストレスへどう対処するか」という機能そのものは心理的要因として整理されます。
ここが本問のひっかけです。「他者に相談する=社会的な行動だから社会的要因」と単純に判断しないようにします。
選択肢ごとの解説
① 心理的要因には、感情が含まれる
これは適切です。
感情、認知、信念、動機づけ、対処などは、心理的要因の代表例です。症状に対する不安や解釈、治療への期待なども、健康行動に影響する心理的要因として考えられます。
② 生物的要因には、遺伝が含まれる
これは適切です。
遺伝的素因は、生物的要因の代表例です。ほかにも身体疾患、神経系・内分泌系の機能、加齢、薬理学的要因などが生物的側面に含まれます。
③ 社会的要因には、対処行動が含まれる
誤っており、本問の正答です。
対処行動〈coping mechanisms〉は心理的要因として扱われます。社会的要因には、家族、社会的支援、文化、社会経済的状況、生活環境などが含まれます。
④ 多職種連携の枠組みとして用いられる
これは適切です。
生物心理社会モデルは、患者やクライエントの問題を多面的に整理するため、多職種で情報を共有し、支援方針を考える際とも親和性があります。
たとえば、生物的側面を医師や看護師、心理的側面を心理職、社会生活や制度利用をソーシャルワーカーが主に把握することがあります。ただし、実際には各職種がそれぞれの専門領域だけを担当するのではなく、情報を重ね合わせて全体像を作ることが重要です。
⑤ 生物医学モデルへの批判から提案されたモデルである
これは適切です。
Engelは、生物医学モデルだけでは人間の病気や治療を十分に説明できないという問題意識から、生物学的・心理的・社会的側面を統合する生物心理社会モデルを提案しました。
多職種連携との関係
生物心理社会モデルの利点は、1つの職種や1つの説明だけで問題を完結させない点にあります。
たとえば、同じ「仕事に行けない」という状態でも、身体疾患や睡眠などの生物的要因、不安や抑うつ、対処パターンなどの心理的要因、職場環境や家族状況などの社会的要因が同時に関係していることがあります。
そのため、多職種連携では「誰の説明が正しいか」を競うのではなく、異なる領域の情報を統合して、本人の状態をより立体的に理解することが重要になります。
関連知識:生物心理社会モデルの過去問
同じ概念を直接扱った問題として、第3回問130「生物心理社会モデル」があります。今回の問題と合わせて確認すると、3領域の分類だけでなく、モデル全体の考え方を整理できます。
関連知識:多職種連携
生物心理社会モデルを実際の支援へつなげるうえでは、多職種で情報を共有し、役割を調整する視点が重要です。第3回問35「多職種連携コンピテンシー」も合わせて確認しておくと、モデルと支援体制を関連づけて理解できます。
試験での見分け方
- 生物=遺伝・身体・生理。
- 心理=感情・認知・信念・対処行動。
- 社会=家族・文化・社会的支援・役割・環境。
- Engelと「生物医学モデルへの批判」をセットで覚える。
- 3領域は独立ではなく、相互作用すると理解する。
まとめ
第5回午前問38の正答は③です。
生物心理社会モデルでは、対処行動〈coping〉は心理的要因として整理されます。遺伝は生物的要因、感情は心理的要因であり、社会的要因には家族、文化、社会的支援、生活環境などが含まれます。
このモデルは、病気を生物学的な病態だけで説明するのではなく、生物・心理・社会の相互作用から理解するための枠組みです。



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