第5回公認心理師試験・午前問40は、WHOが2002年に示した緩和ケア〈palliative care〉の基本的な考え方を問う問題です。
正答は③です。
この問題の最大のポイントは、緩和ケアを「治療ができなくなった終末期に行うケア」と限定して理解しないことです。WHOの定義では、生命を脅かす疾患に伴う問題に直面する患者とその家族のQOLを改善するため、痛みその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に同定し、適切に評価・対応することが重視されています。
問題
緩和ケアの定義(2002年、WHO)の基本的な考え方について、誤っているものを1つ選べ。
- 家族も対象とする。
- QOLの改善を目指す。
- 疾患の終末期から開始する。
- がん以外の疾患も対象とする。
- スピリチュアルな問題に配慮する。
正答:③
WHOが示す緩和ケアの基本
WHOは緩和ケアを、生命を脅かす疾患に関連する問題に直面している患者と家族のQOLを改善するアプローチとして説明しています。
中心にあるのは、単に痛みを抑えることだけではありません。苦痛を早期に同定し、適切に評価し、身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を含めて支援するという全人的な視点です。
また、WHOは緩和ケアを疾患の経過の早い段階から考慮する方が効果的としています。したがって、「終末期になってから始める」という理解は明確に不適切です。
緩和ケアは「終末期医療」と同義ではない
緩和ケアと終末期医療は重なる部分がありますが、同義ではありません。
終末期では緩和ケアの重要性が高まることがあります。しかし、緩和ケア自体は、生命を脅かす疾患と診断され、その疾患や治療に伴う苦痛・生活上の問題が生じた時点から、必要に応じて疾患そのものに対する治療と並行して行われます。
「緩和ケアを始める=治療を諦める」という理解も誤りです。治療を続けながら症状緩和や心理社会的支援を行うことは両立します。
① 家族も対象とする
これは正しいです。
WHOの定義では、患者本人だけでなく家族も緩和ケアの対象に含まれます。
生命を脅かす疾患は、患者本人だけでなく家族の生活、役割、心理状態、経済面、意思決定にも大きな影響を与えることがあります。そのため、家族への情報提供、心理社会的支援、介護負担への支援、死別後の支援なども緩和ケアの重要な文脈に含まれます。
② QOLの改善を目指す
これは正しいです。
緩和ケアの中心目標は、患者と家族のQOL〈Quality of Life〉の改善です。
ここでのQOLは、単に症状が少ないかどうかだけではありません。痛み、呼吸困難、倦怠感などの身体症状だけでなく、不安や抑うつ、家族関係、社会生活、仕事、経済的問題、人生の意味や価値に関する苦悩なども含めて考えます。
医療領域で人を身体だけでなく心理・社会的側面も含めて理解する考え方として、第5回午前問38「生物心理社会モデル」も関連します。緩和ケアでは、このような多面的理解にスピリチュアルな側面も加わります。
③ 疾患の終末期から開始する
誤りであり、本問の正答です。
WHOは、緩和ケアを疾患経過の早い段階から考慮することの重要性を示しています。
したがって、「終末期になったら初めて緩和ケアを開始する」という考え方は現在の基本的理解と一致しません。
たとえば、治療開始後から強い痛み、不安、睡眠障害、家族の負担、仕事や生活上の問題が生じている場合、それらは終末期まで待つ必要のない支援対象です。
④ がん以外の疾患も対象とする
これは正しいです。
緩和ケアは、がん患者だけを対象とするものではありません。WHOは「生命を脅かす疾患」に伴う問題を対象としており、心血管疾患、慢性呼吸器疾患、神経疾患、認知症、腎疾患など、さまざまな疾患で緩和ケアが必要となり得ます。
WHOも、「緩和ケアはがん患者だけのもの」「人生の最後の数週間だけのもの」という理解を誤解として挙げています。
⑤ スピリチュアルな問題に配慮する
これは正しいです。
WHOの定義では、苦痛を身体的・心理社会的な問題だけでなく、スピリチュアルな問題も含めて捉えます。
スピリチュアルな苦痛とは、必ずしも宗教的な問題だけを意味しません。「なぜ自分がこの病気になったのか」「自分の人生にはどんな意味があったのか」「家族に迷惑をかけている」「死ぬことが怖い」といった、意味、価値、存在、希望、死への不安に関する苦悩も含まれます。
こうした問題には、心理職だけでなく、医師、看護師、医療ソーシャルワーカー、リハビリテーション職、薬剤師、宗教者など、状況に応じた多職種の協働が重要です。
緩和ケアでは多職種連携が重要
WHOは、緩和ケアを複数の専門職によるサービスとして位置づけています。
患者の苦痛は、身体・心理・社会・スピリチュアルの各領域にまたがるため、一つの専門職だけで十分に対応できるとは限りません。
公認心理師は、心理的苦痛の評価や支援、意思決定支援、家族支援、スタッフ支援などに関わる可能性があります。ただし、身体症状の評価や治療は医師等の専門領域であり、役割分担と連携が重要です。
医療場面での意思決定や倫理的問題を理解するうえでは、第4回午前問39「医療倫理の4原則」も関連します。緩和ケアでも、自律尊重、善行、無危害、正義といった倫理的視点が重要になります。
緩和ケアと「治療を諦めること」を区別する
試験でよくある誤解の一つが、緩和ケアを「積極的治療をやめた後に行うもの」と考えることです。
実際には、疾患に対する治療と緩和ケアは二者択一ではありません。治療を続けながら、痛みや不安、生活上の困難に対する緩和ケアを同時に行うことができます。
病状が進行するにつれて、疾患そのものを治す治療と、症状緩和・QOL支援との比重が変化することはあります。しかし、緩和ケアを開始する時点を「終末期」に固定するのは不適切です。
公認心理師試験では「いつ始めるか」を問われやすい
緩和ケアの問題では、対象や支援内容だけでなく、導入時期が頻出の判断ポイントになります。
「症状がかなり悪化してから」「抗がん治療や疾患治療が終了してから」「余命が短くなってから」といった表現は、緩和ケアを終末期だけに限定する誤解につながりやすいため注意が必要です。必要な苦痛が存在するのであれば、病期だけを理由に支援を先送りする考え方ではありません。
一方で、「すべての患者に同じ内容の緩和ケアを同じ時期から提供する」という意味でもありません。症状、疾患経過、本人・家族の希望、生活背景などを踏まえて、必要な支援を個別に組み立てます。
試験での見分け方
| キーワード | 判断 |
|---|---|
| 患者と家族 | ○ WHOの定義に合う |
| QOLの改善 | ○ 中心目標 |
| 身体・心理社会・スピリチュアル | ○ 全人的支援 |
| 疾患経過の早期から | ○ 現在の重要な考え方 |
| 終末期になってから開始 | × 緩和ケアを狭く捉えすぎる |
| がん患者だけ | × 対象はがんに限定されない |
まとめ
第5回午前問40の正答は③です。
- 緩和ケアは患者だけでなく家族も対象とする。
- 患者と家族のQOL改善を目指す。
- 身体・心理社会・スピリチュアルな問題を扱う。
- 終末期だけに限定せず、疾患経過の早期から必要に応じて導入する。
- がん以外の生命を脅かす疾患も対象となる。
- 疾患治療と緩和ケアは二者択一ではない。



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