第5回公認心理師試験・午前問39は、アクセプタンス&コミットメント・セラピー〈Acceptance and Commitment Therapy:ACT〉の理論的背景と主要概念を問う問題です。
正答は④です。
ACTを「嫌な感情を受け入れる心理療法」とだけ覚えると、この問題は取りこぼしやすくなります。試験では、第三世代の行動療法、機能的文脈主義、関係フレーム理論〈RFT〉、心理的柔軟性、現在との接触、価値、コミットされた行為まで一つのまとまりとして理解しておくことが重要です。
問題
アクセプタンス&コミットメント・セラピー〈ACT〉の説明として、誤っているものを1つ選べ。
- 第3世代の行動療法と呼ばれる。
- 「今、この瞬間」との接触を強調する。
- 心理的柔軟性を促進させることを目指す。
- 理論的背景として対人関係理論に基づいている。
- 価値に基づいた行動を積み重ねていくことを重視する。
正答:④
ACTとは
ACTは、行動分析・行動療法の流れを背景に発展した心理療法で、一般に第三世代の認知行動療法/行動療法の一つとして位置づけられます。
ACTでは、つらい思考や感情を必ず消すことを治療の中心目標にはしません。むしろ、内的体験があっても、それに行動を支配されすぎず、状況に応じて柔軟に行動し、自分にとって大切な方向へ進めることを重視します。
この中心概念が心理的柔軟性〈psychological flexibility〉です。
ACTの理論的背景:機能的文脈主義と関係フレーム理論〈RFT〉
④を判断するために最も重要なのが、ACTの理論的背景です。
ACTは機能的文脈主義〈functional contextualism〉と関係フレーム理論〈Relational Frame Theory:RFT〉を理論的背景としています。
機能的文脈主義では、ある思考や感情を「良い/悪い」「正しい/間違い」と内容だけで評価するよりも、その行動や内的体験が、どの文脈でどのような機能を果たしているかに注目します。
RFTは、人間の言語や認知を、刺激間の関係を学習し、文脈に応じて新たな関係を派生させる行動として捉える理論です。ACTで扱う認知的フュージョンや脱フュージョンは、この言語・認知の働きと深く関係します。
したがって、ACTの理論的背景を対人関係理論とする④は誤りです。
心理的柔軟性とは
心理的柔軟性は、単に「考え方が柔らかい」という日常語ではありません。
ACTでは、おおまかに言えば、今の体験に開かれた形で接触しながら、その状況で自分の価値に沿う行動を選び、必要に応じて行動を続けたり変えたりできることを意味します。
苦痛や不安があるかどうかだけでなく、そうした内的体験がある中でも価値に沿った行動が可能か、という点に焦点が移ります。
心理的柔軟性を構成する6つのコアプロセス
ACTでは、心理的柔軟性を次の6つのプロセスから整理します。
- アクセプタンス〈acceptance〉:不快な感情・思考・身体感覚を、無理に消したり避けたりすることだけにエネルギーを使わず、必要な範囲で体験に開かれる。
- 認知的脱フュージョン〈cognitive defusion〉:思考を「絶対的な事実」そのものとして扱うのではなく、「今、このような考えが浮かんでいる」と距離を取って捉える。
- 現在との接触〈contact with the present moment〉:過去の反すうや未来への予測だけに巻き込まれず、今この瞬間の経験へ柔軟に注意を向ける。
- 文脈としての自己〈self-as-context〉:思考や感情の内容そのものと自己を同一視しすぎず、それらの経験に気づいている視点を保つ。
- 価値〈values〉:自分がどのような方向へ生きたいか、どのような人でありたいかという継続的な方向性を明確にする。
- コミットされた行為〈committed action〉:価値に沿う具体的な行動を選び、必要に応じて修正しながら積み重ねる。
「価値」と「目標」は同じではない
ACTでは価値〈values〉と目標〈goals〉を区別します。
たとえば「資格試験に合格する」は達成可能な目標です。一方、「学び続ける人でありたい」「人の役に立つ専門職でありたい」は、達成して終わるというより、継続的に向かう方向としての価値です。
ACTでは、価値を明確にしたうえで、その方向へ進むための具体的行動をコミットされた行為として積み上げます。
「アクセプタンス」は諦めることではない
ACTのアクセプタンスは、状況を変えることを諦める意味ではありません。
たとえば「不安がゼロになるまで行動しない」という状態では、不安を減らすことが行動開始の条件になります。ACTでは、不安が存在することを認めつつ、自分にとって重要な行動を選べるようにします。
したがって、アクセプタンスは受け身の我慢ではなく、価値に沿った行動のために内的体験との関係を変えるプロセスと理解するとよいでしょう。
① 第3世代の行動療法と呼ばれる
これは正しいです。
ACTは、マインドフルネスやアクセプタンス、文脈、価値などを重視する第三世代の認知行動療法/行動療法の代表的アプローチとして整理されます。
同じ第三世代CBTの関連概念としてDBTやマインドフルネスとの位置づけを整理する場合は、現在公開済みの関連試験記事と合わせて学ぶと理解が深まります。
② 「今、この瞬間」との接触を強調する
これは正しいです。
「現在との接触」はACTの6つのコアプロセスの一つです。
ただし、単に「目の前のことに集中する」だけではありません。現在の外界・身体感覚・思考・感情などに柔軟に注意を向け、必要な情報に接触しながら行動を選ぶことが重要です。
③ 心理的柔軟性を促進させることを目指す
これは正しいです。
心理的柔軟性はACTの中心的な治療ターゲットです。苦痛の消失そのものよりも、苦痛があっても価値に沿う行動を選択できる柔軟性を高めることに焦点を置きます。
④ 理論的背景として対人関係理論に基づいている
誤りであり、本問の正答です。
ACTの理論的背景は、機能的文脈主義とRFTです。
対人関係理論は、Sullivanなどに関連する理論であり、対人関係療法〈IPT〉などと混同しやすい用語です。ACTの「人との関係」や「価値ある関係」を扱う臨床場面があるからといって、理論的基盤が対人関係理論になるわけではありません。
気分障害に対する心理療法の中でACTと対人関係療法〈IPT〉を並べて位置づけたい場合は、「気分障害に対してエビデンスの示されている心理療法」も参考になります。
⑤ 価値に基づいた行動を積み重ねていくことを重視する
これは正しいです。
価値とコミットされた行為はACTの中心的なプロセスです。
不快な思考・感情をなくしてから行動するのではなく、自分にとって重要な方向を明確にし、その方向に沿う小さな行動を積み重ねます。
先延ばしのように、不快感情の回避が行動を止める問題ではACTの考え方を応用しやすく、「先延ばしに対する心理療法」でもACTによる回避以外の対処について扱っています。
ACTと従来型CBTは対立するのか
試験勉強では「従来のCBT=認知を変える」「ACT=認知を変えない」と二分しすぎない方が安全です。
ACTは、思考内容を論理的に検討して修正することを主要な目的にはしませんが、だからといって認知を無視するわけではありません。重要なのは、思考の内容だけでなく、その思考とどのような関係を持ち、その結果どのように行動しているかを見る点です。
第三世代CBTは、従来の行動療法やCBTと完全に断絶したものというより、行動科学の系譜の中で治療プロセスの捉え方を広げてきたものと理解するとよいでしょう。
選択肢を比較する
| 選択肢 | 判断 | キーワード |
|---|---|---|
| ① 第3世代の行動療法 | 正しい | 文脈・アクセプタンス・マインドフルネス |
| ② 今、この瞬間との接触 | 正しい | 現在との接触 |
| ③ 心理的柔軟性の促進 | 正しい | ACTの中心目標 |
| ④ 対人関係理論が基盤 | 誤り | 実際は機能的文脈主義+RFT |
| ⑤ 価値に基づく行動 | 正しい | 価値+コミットされた行為 |
試験での見分け方
- ACTを見たらまず心理的柔軟性を思い出す。
- 6プロセスを受容・脱フュージョン・現在・自己・価値・行動で整理する。
- 理論基盤は機能的文脈主義+RFT。
- 対人関係理論/IPTと混同しない。
- アクセプタンスを「諦める」、価値を「達成目標」とだけ理解しない。
まとめ
第5回午前問39の正答は④です。
ACTは第三世代の行動療法・認知行動療法に位置づけられ、機能的文脈主義とRFTを背景に、心理的柔軟性を高めることを重視します。現在との接触や価値に沿った行動はACTの中心概念ですが、対人関係理論を理論的背景とするわけではありません。
参考資料
- 日本心理研修センター「第5回公認心理師試験」
- 第5回公認心理師試験 午前問題
- 第5回公認心理師試験 正答
- Acceptance and Commitment Therapy for Health Behavior Change: A Contextually-Driven Approach
- Acceptance and Commitment Therapy: A Unified Model of Behavior Change
- Acceptance and Commitment Therapy: A Transdiagnostic Behavioral Intervention
- Relational Behavior and ACT: A Dynamic Relationship



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