公式問題
公認心理師が、クライエントに心理療法を行う場合、インフォームド・コンセントを取得する上で、最も適切なものを1つ選べ。
- 公認心理師が考える最善の方針に同意するように導く。
- 深刻なリスクについては頻度が低くても情報を開示する。
- 心理療法についての説明はクライエントにとって難解なため、最小限に留める。
- クライエントに対して不利益にならないように、心理療法を拒否したときの負の結果については強調して伝える。
正答:②
この問題のポイント
第4回午前問46は、心理療法におけるインフォームド・コンセントの考え方を問う問題です。
ここで重要なのは、インフォームド・コンセントを単なる「同意書への署名」や「専門家の説明を聞いてもらうこと」と捉えないことです。
中心にあるのは、
- 十分な情報が提供されること
- クライエントがその内容を理解できること
- 強制や不当な誘導がなく、自発的に判断できること
- 選択肢やリスクを踏まえて本人が決定できること
です。
つまり、専門家が「これが一番よい」と考える方針へクライエントを誘導することではなく、クライエント自身の自己決定を支えるプロセスと考える必要があります。
インフォームド・コンセントとは
インフォームド・コンセントは、「説明」と「同意」を形式的にそろえるだけのものではありません。
近畿大学病院の説明では、インフォームド・コンセントを、
医療者側からの十分な説明に基づく、患者側の理解・納得・同意・選択
として整理しています。
また、日本心理学会が紹介する遠隔心理支援のガイドラインでも、インフォームド・コンセントにおける説明と同意取得のプロセスは、心理士とクライエント・患者が関係を結ぶ土台になるとされています。
心理療法でも同様に、
何を行うのか、どのような利益や限界があるのか、どのようなリスクがあるのかを理解できる形で説明したうえで、本人が選択できる状態をつくること
が重要です。
公認心理師の業務と説明責任については、以下の記事も関連します。
インフォームド・コンセントの5つの視点
試験対策では、インフォームド・コンセントを次の5つの視点で整理すると理解しやすくなります。
1.情報提供
心理療法の目的、方法、期待できること、限界、考えられる負担やリスク、代替となる選択肢などについて、判断に必要な情報を提供します。
2.理解
情報をただ伝えるだけでは不十分です。
専門用語を並べるのではなく、クライエントの年齢、理解力、文化的・言語的背景なども考慮し、理解可能な形で説明する必要があります。
3.自発性
同意は、脅しや強制、不当な圧力によって得られたものではなく、本人の自由意思に基づく必要があります。
専門家とクライエントの間には知識や立場の非対称性があるため、専門家側が自分の望む選択へ誘導しすぎないことが重要です。
4.判断・同意
クライエントが説明内容を踏まえ、自分にとって受け入れられるかどうかを判断します。
「説明したから同意したはず」ではなく、本人の選択が中心です。
5.継続的なプロセス
インフォームド・コンセントは、初回に一度だけ書類へ署名して終わるとは限りません。
支援内容や状況が変化した場合には、必要に応じて改めて説明し、意思を確認することが重要です。
自己決定と「自律尊重」
インフォームド・コンセントの背景には、本人の自己決定を尊重するという倫理的考え方があります。
BeauchampとChildressの医療倫理4原則では、
- 自律尊重
- 善行
- 無危害
- 正義
が重要な原則として整理されています。
インフォームド・コンセントでは、とりわけ自律尊重との関連が深くなります。
専門家が「本人のためになる」と考えていることと、本人が十分な情報を得たうえで選択することは、同じではありません。
医療倫理4原則については、以下の記事で詳しく整理しています。
選択肢ごとの解説
① 公認心理師が考える最善の方針に同意するように導く
不適切です。
専門家がクライエントにとって望ましい選択肢を検討し、専門的な見解を伝えること自体は必要です。
しかし、インフォームド・コンセントの目的は、専門家が自分の考える方針へクライエントを誘導することではありません。
クライエントが、
- どのような心理療法なのか
- どのような効果が期待されるのか
- どのような限界や負担があるのか
- 他にどのような選択肢があるのか
を理解したうえで、自分自身で判断できることが重要です。
「専門家が最善と考える」ことを理由に本人の自己決定を弱めてしまうと、インフォームド・コンセントの自発性が損なわれます。
② 深刻なリスクについては頻度が低くても情報を開示する
適切です。正答です。
リスクの説明では、単に「起こる確率が高いか低いか」だけで判断するのではなく、そのリスクがクライエントの意思決定にとってどの程度重要かを考える必要があります。
発生頻度が低くても、起きた場合の影響が重大で、治療を受けるかどうかの判断に重要な情報であれば、説明すべき内容になり得ます。
本問では「深刻なリスク」である点が重要です。
心理療法においても、
- 一時的に苦痛が強くなる可能性
- 特定の技法に伴う負担
- プライバシーや情報管理上のリスク
- 支援方法の限界
など、本人の選択に関係する重要事項は適切に説明する必要があります。
したがって②が最も適切です。
③ 説明は難解なため最小限に留める
不適切です。
専門的な内容が難しいからといって、説明そのものを減らせばよいわけではありません。
必要なのは、説明を「少なくする」ことではなく、理解できる形へ変換することです。
たとえば、
- 専門用語を日常語へ言い換える
- 具体例を用いる
- 図や資料を使う
- 理解できているか途中で確認する
- 質問する時間を確保する
といった工夫が考えられます。
日本心理学会の遠隔心理支援ガイドラインでも、サービスについて全面的かつ明確に説明することや、文化的・言語的特性などが理解に影響し得ることへの配慮が示されています。
したがって、「難しいから最小限」という方向は逆です。
④ 拒否したときの負の結果を強調して伝える
不適切です。
心理療法を受けない場合に考えられる結果を説明すること自体が、直ちに不適切なわけではありません。
しかし、選択肢④では「負の結果については強調して伝える」とされています。
これは、クライエントに心理療法を受ける方向へ心理的圧力をかけることにつながり、自由意思による選択を損なう可能性があります。
説明では、
- 心理療法を受ける利益とリスク
- 受けない場合に考えられること
- 他の選択肢
- 支援の限界
などを、できるだけバランスよく提示することが重要です。
「拒否すると悪いことが起きる」と強調して同意を促すことは、インフォームド・コンセントの自発性と相容れません。
パターナリズムとの違い
本問を理解するうえでは、パターナリズムとの違いも押さえておくとよいでしょう。
パターナリズムとは、本人の利益のためという理由から、本人の意思よりも専門家側の判断を優先する考え方です。
専門家には、クライエントの安全や利益を守る責任があります。しかし、
「専門家が良いと思うことを選ばせる」ことと、「専門家として必要な情報を提供し、本人が選べるよう支援する」ことは異なります。
インフォームド・コンセントでは、後者が基本になります。
選択肢を比較する
| 選択肢 | 問題点・ポイント | 判定 |
|---|---|---|
| ① 最善方針へ導く | 専門家主導で自己決定を弱める | 不適切 |
| ② 深刻なリスクを開示 | 意思決定上重要なリスクを説明する | 適切 |
| ③ 説明を最小限にする | 理解できる形へ工夫するのが基本 | 不適切 |
| ④ 負の結果を強調 | 同意への圧力となり自発性を損なう | 不適切 |
試験での見分け方
インフォームド・コンセントの問題では、選択肢中の専門家によるコントロールの強さに注目すると判断しやすくなります。
特に、
- 「同意するように導く」
- 「説明を最小限に留める」
- 「負の結果を強調する」
といった表現が出た場合には、
十分な情報提供・理解・自由意思・自己決定が守られているか
を確認してください。
反対に、
- 本人が判断できるよう必要な情報を提示する
- 理解できる形で説明する
- 重大なリスクを隠さない
- 本人の選択を尊重する
という方向は、インフォームド・コンセントの基本と一致します。
まとめ
第4回午前問46は、インフォームド・コンセントを「専門家が同意を取る技術」と考えるのではなく、クライエントの自己決定を支えるプロセスとして理解できているかを問う問題です。
ポイントは、
- 十分な説明
- 内容の理解
- 自由意思
- 自己決定
- 重要なリスクの開示
です。
発生頻度が低くても、本人の意思決定にとって重要な深刻なリスクについては説明する必要があるため、正答は②です。
正答:②
Sources
- 日本心理研修センター「第4回公認心理師試験 午前問題」
https://www.jccpp.or.jp/files/items/126/File/04_gokaku_happyo_05.pdf
- 日本心理研修センター「第4回公認心理師試験 合格基準及び正答」
https://www.jccpp.or.jp/files/items/126/File/03_gokaku_happyo_05.pdf
- 日本心理学会「遠隔心理学ガイドライン|インフォームド・コンセント」

- 近畿大学病院「インフォームドコンセント」




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