第6回公認心理師試験の午前問9は、学習心理学における学習の転移を具体例から見分ける問題です。
正答は②です。先に学んだフランス語の発音が、その後の英語の発音を妨げているため、先行学習が後続学習を阻害する負の転移として整理できます。
問題
学習の転移の具体例として、最も適切なものを1つ選べ。
- 給食の時間に流れていた音楽が聞こえると、お腹が鳴る。
- フランス語の授業の後に英語の授業があると、発音を間違えてしまう。
- 隣家から怒鳴り声が聞こえてから、小さな物音がするだけでも気になるようになった。
- 目覚めに効果的なアラーム音を設定したが、1か月後には起きられなくなってしまった。
- 学校という場所が苦手であったが、大学生になり大学のキャンパスではリラックスできている。
正答:②
この問題のポイント
学習の転移とは、ある状況での学習が、別の状況での学習に影響することです。先行する学習によって後の学習が促進される場合を正の転移、後の学習が妨げられる場合を負の転移と整理できます。
②では、先に行ったフランス語の学習が、その後の英語の発音学習に干渉して誤りを生じさせています。つまり、「先行学習 → 後続学習への妨害」という構造が明確なので、負の転移の例です。
学習の転移とは
米国国立医学図書館のMeSHでは、心理学における転移を、ある状況での学習が別の状況での先行学習によって変化する現象として整理しています。影響の方向によって、正の転移と負の転移があります。
正の転移
先に学んだことが、次の学習を促進する場合です。
たとえば、すでに身につけた考え方や技能が、新しいが類似した課題の理解を助ける場合は、正の転移として整理できます。重要なのは、単に「以前の経験を思い出した」ことではなく、先行学習が後続学習を助けていることです。
負の転移
先に学んだことが、次の学習を妨害する場合です。
以前のルールや反応が新しい課題にも持ち込まれ、そのために誤りが増える場合などが典型です。②はまさにこの構造になっています。
選択肢ごとの解説
① 給食の時間に流れていた音楽が聞こえると、お腹が鳴る
これは学習の転移というより、古典的条件づけの枠組みで考えやすい選択肢です。
給食と一緒に提示されていた音楽が手がかりとなり、その音楽だけでも食事に関連した反応が生じる、という構造です。「前の学習が次の別の学習を促進・妨害する」という転移の定義とは異なります。
② フランス語の後に英語を学ぶと、発音を間違える
最も適切で、本問の正答です。
先に学習したフランス語の発音の仕方が、その後に学習する英語の発音へ干渉し、誤りを生じさせています。先行学習が後続学習を妨げているため、負の転移と判断できます。
設問を読むときは、「二つの学習があるか」「先の学習が後の学習に影響しているか」「その影響が促進か妨害か」を順番に確認すると見分けやすくなります。
③ 怒鳴り声の後、小さな物音まで気になる
これは、試験上は刺激般化と比較しやすい選択肢です。
強い不快な出来事の後、そのときの刺激と似た別の刺激にも反応が広がっているという構造です。ここで中心なのは「先行学習が別の学習の成績を変えること」ではなく、学習された反応が類似刺激へ広がることです。
実生活の反応には複数の要因が関わり得ますが、本問では②との概念識別として捉えます。
④ アラーム音で、1か月後には起きられなくなった
これは、同じ刺激への反応が繰り返しによって弱まるという点から、馴化と比較しやすい選択肢です。
現実の起床には睡眠時間や疲労など多くの要因が影響するため、この一文だけで現象を厳密に確定することはできません。ただ、試験で求められている「先行学習が別の後続学習を促進・妨害する」という構造は明確ではありません。
⑤ 学校が苦手だったが、大学キャンパスではリラックスできる
これは、学習の転移の典型例とは言いにくい選択肢です。
以前の「学校」という文脈での反応が、大学という新しい文脈では同じように生じていないことを示していますが、先に学習した内容が後の学習そのものを促進または妨害している構造は示されていません。
本問では、②のように「先行学習 → 後続学習の成績への影響」が明確なものを選びます。
「正の転移」と「負の転移」を見分ける
| 分類 | 先行学習が後続学習に与える影響 | 見分ける語 |
|---|---|---|
| 正の転移 | 後の学習を促進する | 学びやすくなる、成績が上がる、獲得が速くなる |
| 負の転移 | 後の学習を妨害する | 混同する、誤りが増える、以前の反応が邪魔をする |
②では「フランス語を先に学んだことによって、英語の発音を間違える」という妨害方向の影響が示されています。
「転移」と似た用語を区別する
転移と条件づけ
条件づけでは、刺激と反応、あるいは行動と結果の関係が学習されることが中心です。転移では、すでに成立した学習が別の学習にどう影響するかを見ます。
転移と般化
般化では、ある刺激に対して学習された反応が、似た刺激にも生じることが中心です。転移は、先行する学習経験が後続の学習へ及ぼす影響です。
転移と馴化
馴化は、同じ刺激を繰り返し経験することで反応が低下していく現象です。二つの学習課題の間の影響を扱う転移とは焦点が異なります。
学習心理学のtransferと精神分析のtransference
日本語ではどちらも「転移」と訳されることがありますが、別の概念です。
本問の学習の転移(transfer of learning)は、先行学習が後続学習に及ぼす影響を指します。一方、心理療法・精神分析でいう転移(transference)は、対人関係や治療関係の中で扱われる概念です。試験では、出題領域と文脈を確認して区別します。
試験での見分け方
学習の転移を見つけるときは、次の3点を確認します。
- 先行する学習があるか。
- 後続する別の学習があるか。
- 先行学習が後続学習を促進または妨害しているか。
この3条件が明確なのが②です。①③④は条件づけ・般化・馴化など別の学習概念と比較しやすく、⑤は後続学習への促進・妨害という構造が明確ではありません。
まとめ
- 正答は②。
- 学習の転移は、先行学習が別の後続学習に影響する現象。
- 後続学習を促進するのが正の転移、妨害するのが負の転移。
- ②はフランス語の先行学習が英語の発音学習を妨げるため、負の転移。
- 条件づけ、刺激般化、馴化とは「何が何に影響しているか」で区別する。
- 学習心理学のtransferと、心理療法・精神分析のtransferenceは別概念。



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