第5回公認心理師試験・午前問44は、思春期・青年期の自傷と自殺について、疫学と臨床上の関係を区別できるかを問う問題です。正答は④ 繰り返される自傷行為は、薬物依存・乱用との関連が強いです。
この問題では、非致死性の自傷と自殺企図を同一視しない一方で、「自殺する意図がない自傷だから安全」と考えないことが重要です。自傷行為は自殺企図とは概念上区別されますが、反復する自傷は将来の自殺関連行動や物質使用など、複数のリスクと関連します。
問題の要旨
我が国の思春期・青年期における自傷と自殺について、男女差、自傷の頻度、自殺リスクとの関係、薬物依存・乱用との関連から、適切な記述を1つ選ぶ問題です。公式正答は④です。
この問題は、単純な暗記だけでなく、「自傷」と「自殺」を区別しながら、両者の関連を過小評価しないという臨床的に重要な考え方を含んでいます。
正答:④ 反復する自傷と薬物依存・乱用との関連
自傷行為と物質使用・依存には関連が報告されています。思春期の自傷を経験した人を長期追跡した研究では、その後の重い物質使用や依存症候群との関連が示されています。ただし、こうした研究結果から「自傷が薬物依存を直接引き起こす」と単純な因果関係を断定することはできません。
自傷と物質使用には、抑うつ、不安、衝動性、対人関係上の困難、ストレスへの対処など、共通する背景要因が存在する可能性があります。そのため臨床では、自傷の有無だけでなく、物質使用、精神症状、生活機能、対人関係、安全性などを複数の観点から評価します。
NSSIと自殺企図は「同じではない」が「無関係でもない」
NSSI(non-suicidal self-injury:非自殺性自傷)は、一般に、死ぬことを目的とせずに自分の身体を意図的に傷つける行為を指します。一方、自殺企図では死ぬことへの意図が重要な要素になります。
したがって、NSSIと自殺企図は概念上区別する必要があります。しかし、NSSIの経験がある人では、その後の自殺念慮や自殺企図がみられるリスクが高いことを示す研究があります。厚生労働省も、自傷行為は自殺とは区別して考える必要がある一方、継続する場合には長期的に自殺につながることがあると説明しています。
試験では、「自殺目的ではない」=「自殺リスクと無関係」という誤った二分法に注意します。
各選択肢の考え方
① 10代の自殺者数は女性の方が多い
不適切です。自殺統計は年度、年齢区分、性別をそろえて確認する必要があります。第5回試験当時の資料を前提にすると、「10代では女性が男性より多い」と一般化することはできません。統計問題では、最新値と試験当時の値を混同しないことが重要です。
② 10代の自傷行為は男性の方が多い
不適切です。自傷に関する疫学では、定義、調査方法、対象集団によって推定値が変わりますが、少なくとも「男性の方が多い」と単純に覚える内容ではありません。自殺死亡の男女差と、自傷行為の男女差を混同しないようにします。
③ 非致死性の自傷行為は自殺のリスク要因ではない
不適切です。NSSIは自殺企図とは同一ではありませんが、将来の自殺関連行動と関連することが報告されています。自殺意図がないことだけを根拠に、安全性評価を省略してはいけません。
④ 繰り返される自傷行為は、薬物依存・乱用との関連が強い
正答です。自傷と物質使用・依存には関連があり、長期追跡研究でも青年期の自傷とその後の依存症候群との関連が示されています。ただし、関連は因果関係そのものを意味しない点に注意します。
臨床で重要な安全評価
自傷が確認されたときは、行為を「注目を集めるため」「自殺する気はないから大丈夫」などと決めつけず、本人の苦痛と安全性を丁寧に確認します。特に、現在の自殺念慮、自殺意図、行動の反復性や変化、精神症状、物質使用、生活機能の低下、利用できる支援者などを総合的に捉える必要があります。
一つの質問や一つの尺度だけで危険度を決めるのではなく、本人の語り、現在の状態、これまでの経過、周囲から得られる情報を組み合わせます。切迫した危険が疑われる場合は、通常の心理教育や自己調整支援よりも、安全確保と医療・人的支援への接続を優先します。
試験での見分け方
- NSSIと自殺企図は区別する:自殺意図の有無は重要な概念上の違い。
- 区別しても、リスクを切り離さない:NSSI歴は将来の自殺関連行動と関連し得る。
- 「関連」と「因果」を分ける:自傷と物質使用の関連があっても、単純な一方向の因果とは限らない。
- 統計は年度・年齢・性別をそろえる:現在の統計値だけで過去問を判断しない。
自殺リスク評価に関する関連知識は、第3回問71の解説もあわせて確認すると整理しやすくなります。
まとめ
第5回午前問44の正答は④です。NSSIと自殺企図は同一ではありませんが、非致死性自傷を自殺リスクと無関係とみなすこともできません。反復自傷と物質使用・依存には関連があり、臨床では自傷の有無だけでなく、自殺念慮、精神症状、物質使用、生活機能、支援資源などを複数の指標で評価します。
参考文献
- 一般財団法人 公認心理師試験研修センター|第5回公認心理師試験
- 第5回公認心理師試験 午前問題
- 第5回公認心理師試験 合格基準及び正答
- 厚生労働省|「自分を傷つける」というサイン
- 厚生労働省|令和4年版自殺対策白書
- Moran P, et al. Substance use in adulthood following adolescent self-harm: a population-based cohort study
- Grandclerc S, et al. Relations between Nonsuicidal Self-Injury and Suicidal Behavior in Adolescence: A Systematic Review



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