公認理師資格試験 過去問解説 問27 「アルコール健康障害」について

公認理師資格試験 過去問解説 問27 「アルコール健康障害」について

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【令和3年10月29日14時】第4回公認心理師試験(令和3年9月19日実施)合格発表|講習・試験・登録|一般財団法人 日本心理研修センター 公認心理試験

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【問27】「アルコール健康障害」について

問27 アルコール健康障害について、正しいものを1つ選べ。
① コルサコフ症候群は、飲酒後に急性発症する。

② アルコール幻覚症は、意識混濁を主症状とする。

③ アルコール性認知症は、脳に器質的変化はない。

④ 離脱せん妄は、飲酒の中断後数日以内に起こる。

⑤ アルコール中毒において、フラッシュバックがみられる。

出典:第4回公認心理師試験(令和3年9月19日実施)|一般社団法人日本心理研修センター

正答は ④ 

④ 離脱せん妄は、飲酒の中断後数日以内に起こる

選択肢の解説

①コルサコフ症候群は、飲酒後に急性発症する

コルサコフ症候群 Korsakoff syndrome とは、アルコールの飲みすぎによって生じるビタミンB1不足によって起こるウェルニッケ脳症 Wernicke encephal opathy の後遺症として発症する認知機能障害のことを指します。

ウェルニッケ脳症とコルサコフ症候群をあわせて、ウェルニッケーコルサコフ症候群と呼ぶこともあります。

ウェルニッケ脳症

まずはウェルニッケ脳症から確認していきましょう。

ウェルニッケ脳症は、ビタミンB1(チアミン)不足によって脳幹部に細かい出血が起きる疾患です。

ウェルニッケ脳症の症状

  • 眼球の不随意運動(細かい目の振え)
  • 目の動きに制限がでる(眼球運動障害)
  • 平衡感覚の喪失(歩行失調やふらつき)
  • 意識障害

ビタミンB1のひとつであるチアミンの重度の欠乏が主な病因となりますが、アルコールを長期間使用することによって消化管からのチアミン吸収や肝臓でのチアミン貯蓄に弊害がうまれることが多いこと、アルコール使用障害の方は通常の食事による栄養摂取が不足しがちとなることから、アルコール使用障害の方が発症することが多いとされます。

発症の原因としてアルコール関連がおおよそ半分を占めますが、悪性腫瘍・消化管手術後・重症のつわりなどチアミンが不足するような状態で生じることがあります。

ウェルニッケ脳症は迅速に治療が行われることで症状は改善が得られますが、約50~80%で後遺症(コルサコフ症候群)が生じます。

コルサコフ症候群

コルサコフ症候群は、ウェルニッケ脳症と同様にチアミンの重度の欠乏によって生じますが、症状はウェルニッケ症候群とは異なる部分もあります。

コルサコフ症候群の症状

  • 記憶障害(近時記憶と記銘力の障害)
  • 精神状態の変化(無気力・妄想)
  • 運動障害(ウェルニッケ脳症と関連する)

コルサコフ症候群の最も重要な特徴は、「重度の記憶障害」があることです。

過去の記憶の想起は可能ですが、最近の記憶を保持することが困難となり、ごまかすための作話が見られることが特徴です。

さらに、被暗示性が強くなるため、妄想が生じることもあります。

コルサコフ症候群のほとんどの症状は不可逆的です。

以上のことから、選択肢①「コルサコフ症候群は、飲酒後に急性発症する」は「コルサコフ症候群は慢性かつ重度のアルコール使用により発症することの多い疾患であるため」不適切といえます。

また、ウェルニッケ脳症に関しても、飲酒後に急性発症するのではなく、慢性的なチアミン不足の状態での急激な炭水化物の摂取などを誘因として発症することが多くあります。

②アルコール幻覚症は、意識混濁を主症状とする

アルコール幻覚症とは、

長期間かつ大量のアルコール摂取により、幻聴や被害妄想などを生じる精神障害。

アルコール幻覚症は、WHOの策定した国際疾病分類第10版では、アルコールに起因する精神病性障害、主として幻覚性のものに分類されており、長期間にわたる大量のアルコール摂取によって生じる精神障害です。

出典:アルコール幻覚症|e-ヘルスネット(厚生労働省)

とあります。

アルコール幻覚症の特徴は、「他の意識障害がみられずに幻覚が生じること」で、長期に渡る過度の飲酒を中止した後12時間~48時間以内に発症するとされています。

そのため、選択肢②「アルコール幻覚症は、意識混濁を主症状とする」は不適切な選択肢といえます。

③アルコール性認知症は、脳に器質的変化はない

アルコール性認知症とは、アルコールを長く多量に飲み続けた結果、脳血管障害やビタミンB1欠乏により生じた認知症を指します。

アルコールと脳萎縮の程度には正の相関関係があることもわかっています。

よって、選択肢③「アルコール性認知症は、脳に器質的変化はない」は不適切な選択肢とわかります。

ちなみに、飲酒による脳萎縮は断酒によってある程度改善することもわかっています。

④離脱せん妄は、飲酒の中断後数日以内に起こる

離脱せん妄とは、アルコール依存症の離脱症状のひとつで、アルコールによる身体依存が形成されている状態で、反復的な使用を中止することから起きます。

アルコール離脱せん妄の多くは、断酒あるいは減量後から、2〜4日後に出現し、通常3〜4日で回復します。

以上のことから、選択肢④「離脱せん妄は、飲酒の中断後数日以内に起こる」は正しい選択肢といえます。

⑤アルコール中毒において、フラッシュバックがみられる

フラッシュバックとはPTSDの症状のひとつとして有名ですが、薬物依存の文脈でも用いられる用語です。

薬物依存の文脈では、薬物乱用をやめて普通の生活に戻った後に、些細なストレスから突然幻覚・妄想などが再燃してしまうことを意味します。

別名、自然再燃現象とも呼ばれています。

このフラッシュバックは飲酒が誘因となり生じることもありますが、アルコール中毒では生じないとされています。

よって、選択肢⑤「アルコール中毒において、フラッシュバックがみられる」は不適切といえます。