公認心理師資格試験 過去問解説 第5回 午前 問26 職場のパワーハラスメント3要素

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第5回公認心理師試験・午前問26は、厚生労働省の指針が示す職場におけるパワーハラスメントの3つの要素を問う問題です。

この問題では、パワーハラスメントの定義を構成する3要素と、典型例を整理した6つの行為類型を区別することが重要です。正答の④「その行為により労働者の就業環境が害されるもの」は3要素の一つです。

問題

事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年、厚生労働省)が示す、職場におけるパワーハラスメントの3つの要素に該当するものを1つ選べ。

① 上司による部下への行為
② 行為者が正規雇用労働者であるもの
③ ひどい暴言や名誉棄損などの精神的な攻撃
④ その行為により労働者の就業環境が害されるもの
⑤ 当該労働者が通常就業している事業場で行われた行為

正答は④です。

職場のパワーハラスメントを構成する3要素

厚生労働省指針では、職場のパワーハラスメントを、次の3要素をすべて満たすものとして定義しています。

  1. 優越的な関係を背景とした言動
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
  3. 労働者の就業環境が害されるもの

客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、パワーハラスメントには該当しません。

第1要素:優越的な関係を背景とした言動

「優越的な関係」と聞くと、「上司から部下への行為」だけをイメージしやすいですが、それより広い概念です。

厚生労働省指針は、行為を受ける労働者が行為者に対して抵抗または拒絶することが困難である可能性が高い関係を背景とした言動を指しています。

代表例には、次のような関係があります。

  • 職務上の地位が上位の者からの言動
  • 業務上必要な知識や経験を持つ同僚・部下で、その協力がないと業務遂行が困難な場合
  • 同僚や部下の集団からの行為で、抵抗や拒絶が困難な場合

したがって、パワハラ=上司から部下と限定してはいけません。

第2要素:業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの

業務上の指示や指導には、ある程度の厳しさが必要になる場合があります。そのため、「相手が不快に感じた」というだけで直ちにパワーハラスメントになるわけではありません。

厚生労働省指針では、業務上必要性が明らかにない言動、業務目的を大きく逸脱した言動、手段として不適当な言動、回数・人数・態様などが社会通念上許容される範囲を超えた言動などを考慮します。

判断には、言動の目的、経緯、業務内容、頻度・継続性、労働者の心身の状況、行為者との関係性などを総合的に考慮します。

第3要素:労働者の就業環境が害されるもの

これが選択肢④であり、正答です。

厚生労働省指針では、言動によって身体的・精神的苦痛を与えられ、職場が不快なものとなった結果、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指します。

判断では本人の受け止めだけではなく、「平均的な労働者の感じ方」を基準とすることが適当とされています。ただし、実際の相談対応では相談者の心身の状況や認識にも配慮しながら、丁寧な事実確認を行うことが重要です。

①「上司による部下への行為」

3要素そのものではないため誤りです。

上司から部下への言動は「優越的な関係」の典型例ですが、パワーハラスメントは上司から部下に限定されません。同僚や部下であっても、専門知識、経験、集団の力などを背景に相手が抵抗しにくい関係であれば、第1要素を満たす可能性があります。

試験では「上司」「管理職」という語だけで定義だと判断しないことがポイントです。

②「行為者が正規雇用労働者であるもの」

誤りです。

パワーハラスメントの3要素に「行為者が正社員であること」という条件はありません。

また、指針でいう「労働者」は正規雇用労働者だけでなく、パートタイム労働者や契約社員などの非正規雇用労働者も含みます。雇用形態だけで該当性を判断することはできません。

③「ひどい暴言や名誉棄損などの精神的な攻撃」

誤りです。

精神的な攻撃は、パワーハラスメントの代表的な6類型の一つです。しかし、問題が問うているのは「3つの構成要素」です。

ここが本問の典型的なひっかけです。「精神的な攻撃」はパワハラと非常に関係が深い語ですが、定義の3要素そのものではありません。

④「その行為により労働者の就業環境が害されるもの」

正しい記述であり、正答です。

これは3要素の第3要素にほぼそのまま対応します。試験では、3要素を文言レベルで整理していれば判断しやすい問題です。

⑤「通常就業している事業場で行われた行為」

誤りです。

厚生労働省指針の「職場」は、通常勤務している事業場だけに限定されません。労働者が業務を遂行する場所であれば、通常就業している場所以外も職場に含まれます。

したがって、「いつもの事業場で行われたこと」が3要素の一つになるわけではありません。

「3要素」と「6類型」を混同しない

3要素 6類型
優越的な関係を背景とした言動 身体的な攻撃
業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの 精神的な攻撃
労働者の就業環境が害されるもの 人間関係からの切り離し
過大な要求
過小な要求
個の侵害

3要素=定義を構成する条件6類型=代表的な行為パターンと整理すると混乱しにくくなります。

パワーハラスメントの6類型

1.身体的な攻撃

暴行・傷害などです。殴る、蹴る、物を投げつけるなどが典型例です。

2.精神的な攻撃

脅迫、名誉棄損、侮辱、ひどい暴言などです。人格否定、必要以上に長時間の厳しい叱責、他者の前で繰り返す威圧的な叱責などが例示されています。

3.人間関係からの切り離し

隔離、仲間外し、無視などです。嫌がらせ目的で仕事から外し、長期に別室へ隔離することなどが典型例です。

4.過大な要求

業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことを強制したり、仕事を妨害したりすることです。

5.過小な要求

業務上の合理性なく、能力・経験とかけ離れた低い仕事だけを命じたり、仕事を与えなかったりすることです。

6.個の侵害

私的なことに過度に立ち入ることです。私生活を継続的に監視することや、機微な個人情報を本人の了解なく暴露することなどが例示されています。

これら6類型は限定列挙ではありません。6つ以外ならパワーハラスメントにならない、という意味ではない点にも注意します。

適正な業務指導との境界

指針は、客観的に見て業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示・指導はパワーハラスメントに該当しないとしています。

たとえば、重大な問題行動がある労働者に一定程度強く注意することや、育成目的で現在より少し高いレベルの業務を任せることは、状況によっては適正な業務指導となり得ます。

一方、人格を否定する、必要以上に長時間叱責する、業務と無関係な私的雑用を強制するなどは、業務上の必要性・相当性を超える方向に働きます。

セクシュアルハラスメントとの区別

職場のハラスメントには、パワーハラスメント以外にもセクシュアルハラスメントや妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントがあります。

セクシュアルハラスメントについては、第3回問57「男女雇用機会均等法・セクシュアルハラスメント」も関連します。

複数のハラスメントが同時に成立し得る事案もあるため、名称だけで一つに決めつけず、具体的な言動と法制度上の要件を確認することが重要です。

事業主に求められる防止措置

パワーハラスメント対策は、「起きた後に加害者を処分する」だけではありません。事業主には、予防から相談対応、事後対応、再発防止までの体制整備が求められます。

  • 事業主の方針を明確にし、労働者へ周知・啓発する
  • 相談窓口など、相談に適切に対応するための体制を整える
  • 発生後、事実関係を迅速かつ正確に確認する
  • 被害者への配慮、行為者への適切な措置、再発防止を行う
  • 相談者等のプライバシーを保護する
  • 相談したこと等を理由とする不利益取扱いを行わない

産業場面のメンタルヘルス対策全体については、第5回問20「職場のメンタルヘルス対策」も併せて確認すると整理しやすくなります。

管理監督者の役割

管理監督者は、部下の変化に気づき、適切な相談先へつなぐ役割だけでなく、自らの指導が業務上必要かつ相当な範囲を超えていないかを振り返る必要があります。

管理監督者研修とラインによるケアについては、第3回問40「管理監督者研修」も関連します。

制度の時系列

改正労働施策総合推進法に基づくパワーハラスメント防止措置は、2020年6月から施行されました。中小企業では2022年4月から防止措置が義務化され、現在は企業規模にかかわらず事業主に対応が求められています。

「職場」は会社の建物だけではない

選択肢⑤を見分けるためには、指針における「職場」の範囲を理解しておく必要があります。職場とは、事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所です。したがって、通常勤務している事業場だけに限定されません。

重要なのは、場所の住所ではなく、その場が業務遂行と結びついているかです。「通常就業している事業場でなければパワハラにならない」という理解は誤りです。

「平均的な労働者の感じ方」と本人への配慮

第3要素である「就業環境が害される」の判断では、厚生労働省指針は平均的な労働者の感じ方を基準とすることが適当としています。

これは「本人がつらいと言っても考慮しない」という意味ではありません。実際の相談対応では、相談者の心身の状況や言動の受け止めにも配慮しながら、相談者と行為者の双方から丁寧に事実確認することが重要とされています。

つまり、法的・制度的な該当性判断と、相談者への心理的支援は同じ作業ではありません。公認心理師が職場の相談に関わる場合にも、本人の苦痛を受け止めることと、制度上のパワハラ該当性を即断することを分けて考える必要があります。

6類型は「該当性を自動判定するチェックリスト」ではない

身体的な攻撃、精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、過大な要求、過小な要求、個の侵害という6類型は、代表的な行為パターンを理解するために有用です。

ただし、厚生労働省指針は、これらの例が限定列挙ではなく、個別の状況によって判断が異なる場合があることを明示しています。したがって、「6類型のどれかに見える=必ずパワハラ」「6類型に当てはまらない=パワハラではない」と機械的に判断することはできません。

最終的には、3要素をすべて満たすか、具体的な経緯・頻度・態様・関係性などを含めて検討します。

事業主が行うべき対応を4段階で整理する

段階 主な対応
予防 方針の明確化、就業規則等への規定、研修・周知啓発
相談受付 相談窓口の設置、相談しやすい体制、幅広い相談への対応
事実確認・対応 迅速かつ正確な事実確認、被害者への配慮、行為者への措置
再発防止 原因分析、再発防止策、職場環境の改善

さらに、相談者・行為者等のプライバシー保護と、相談したこと等を理由とする不利益取扱いをしないことも重要です。

パワハラとメンタルヘルスを切り分けつつ連携する

パワーハラスメントに起因する問題は、意欲低下、健康状態の悪化、休職や退職などにつながる可能性があります。しかし、心理的な症状があるからパワハラが成立する、あるいはパワハラが成立したから特定の精神疾患である、という関係ではありません。

職場のメンタルヘルス支援では、制度上の事実確認、人事労務上の対応、産業保健上の支援、心理的支援を必要に応じて連携させます。公認心理師は、自身の役割の範囲を明確にしながら、必要に応じて産業医、人事労務、外部相談機関等と連携することが重要です。

「厳しい指導」と「精神的な攻撃」の境界

業務上の問題を改善するために一定程度強く注意することが、直ちにパワーハラスメントになるわけではありません。一方、人格否定、必要以上に長時間の叱責、他の労働者の前で繰り返す威圧的叱責などは、精神的な攻撃に該当し得ます。

判断では、何を改善するための指導だったのかその方法が目的に照らして相当だったか頻度や継続性はどうだったかを分けて考えます。

試験で狙われやすい「限定しすぎ」の選択肢

今回の①、②、⑤はいずれも、制度の範囲を必要以上に狭くするタイプの誤答です。

  • ① 上司→部下だけに限定する
  • ② 正規雇用労働者だけに限定する
  • ⑤ 通常の事業場だけに限定する

労働法・制度問題では、「のみ」「必ず」「一切」「通常の場所だけ」のように対象を狭くしすぎる表現が誤りになることがあります。正確な定義の範囲と照合することが重要です。

公認心理師試験での見分け方

  • 3要素をまず丸ごと覚える
  • 「上司→部下」に限定していたら疑う
  • 「正社員だけ」に限定していたら疑う
  • 精神的な攻撃などは6類型であり3要素ではない
  • 「通常の事業場だけ」が職場ではない
  • 適正な業務指導まで一律にパワハラとする選択肢は誤り
  • 該当性は具体的な経緯・態様・頻度・関係性などを総合して判断する

まとめ

第5回午前問26の正答は④「その行為により労働者の就業環境が害されるもの」です。

職場のパワーハラスメントは、①優越的な関係を背景とした言動、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの、③労働者の就業環境が害されるもの、という3要素をすべて満たすものです。

試験では、この3要素と「身体的な攻撃」「精神的な攻撃」などの6類型を混同しないことが最大のポイントです。

参考資料

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