公認心理師資格試験 過去問解説 第4回 午前 問73|死別後の悲嘆とグリーフケア

公認心理師過去問第4回73 公認心理師試験

第4回公認心理師試験・午前問73は、子どもを突然の事故で亡くした母親への支援から、悲嘆〈grief〉への対応として避けるべきものを見分ける問題です。正答は②です。

この問題で重要なのは、「悲しませないこと」や「亡くなった人を思い出させないこと」を支援の目標にしない点です。悲嘆反応には大きな個人差があり、気持ちを言葉にすること、一般的に起こり得る反応を知ること、自責感を一つの見方に固定せず捉え直すことなどが支援になります。

問題の要旨

事例は、17歳の娘を事故で亡くした50歳代の女性です。死別から数か月が経過した後、抑うつ気分、自責感、突然涙があふれること、家事が手につかないことなどがみられています。

公認心理師の対応として、悲嘆の個人差を説明すること、感情表出を支えること、一般的な悲嘆反応について情報提供すること、自責的な見方を多面的に見直すことなどと並んで、「娘の死を思い出さないようにする活動を一緒に探す」という対応が示されています。公式正答では、この「思い出さないこと」を支援目標にする対応が不適切とされています。

正答:② 「思い出さないこと」を支援目標にしない

②が不適切です。

死別後には、悲しみ、怒り、罪悪感、自責感、不安、孤独感、ショック、故人への思慕など、さまざまな反応が生じ得ます。WHOの悲嘆に関する資料でも、重大な喪失後の反応には個人差があり、強い感情を示す人も示さない人もいること、悲しみが一度軽くなったように感じても、何かをきっかけに再び強くなることがあり得ると説明されています。

したがって、支援の中心は「記憶を消す」「思い出さないようにする」ことではありません。亡くなった人との関係や記憶を含め、今起きている反応を理解し、その人なりの仕方で喪失とともに生活を組み直していけるよう支えることが重要です。

悲嘆には「正しい感じ方」が一つだけあるわけではない

選択肢①の「悲しみには個人差がある」という説明は適切です。

死別後の反応は、亡くなった人との関係、死の状況、利用できる支援、生活上の変化、本人のこれまでの経験などによって異なります。泣く人もいれば、感情が麻痺したように感じる人もいます。強い悲しみが続く時期と、比較的落ち着いて生活できる時期が交互に現れることもあります。

このため、「もう何か月経ったのだから立ち直るべき」「泣けないのはおかしい」といった一律の基準を当てはめるのではなく、その人の反応を個別に理解する視点が必要です。

「回避」と「一時的に気持ちを休めること」は区別する

②を理解する際には、すべての気晴らしや休息が不適切なのではないという点も重要です。

悲嘆の最中でも、仕事、家事、人との交流、趣味などに注意を向け、喪失の痛みから一時的に距離を取ることがあります。これは生活を立て直す過程の一部になり得ます。一方で、故人を思い出すこと自体を避け続けることを治療目標にすると、悲嘆に伴う感情や意味づけを扱う機会まで失われます。

試験では、「活動すること」が誤りなのではなく、活動の目的を『故人を思い出さないこと』に置いている点を見抜きます。

感情を確認し、表現できるよう支える

選択肢③は適切です。

悲嘆では、悲しみだけでなく、怒り、後悔、罪悪感、安堵、混乱など、本人にとって受け入れにくい感情が同時に生じることがあります。支援者が急いで励ましたり、感情を修正しようとしたりするより、まず本人が何を感じているのかを確認し、安全に表現できるよう支えることが基本になります。

これは、「たくさん泣けばよい」と感情表出を強制することではありません。本人のペースを尊重し、話したいことを話せる関係をつくることが中心です。

一般的な悲嘆反応について情報提供する

選択肢④も適切です。

突然涙が出る、集中できない、故人のことが繰り返し浮かぶ、自責的になるといった反応について、死別後に起こり得る反応であることを説明すると、「自分だけがおかしくなってしまった」という不安を和らげる助けになることがあります。

ただし、心理教育は「あなたの反応は全部正常だから何もしなくてよい」と結論づけるためのものではありません。生活機能の低下が大きい場合や、抑うつ、自傷・自殺念慮、強い回避などがみられる場合には、個別のアセスメントと必要な支援につなげることが重要です。

自責感を多面的に見直す

選択肢⑤も適切です。

事例では「なぜあの日、娘が外出するのを止めなかったのか」と自分を責めています。事故後には、「もし自分があのとき別の行動をしていれば」という反実仮想が強まり、結果を知っている現在の視点から当時の自分を過度に責めてしまうことがあります。

支援では、本人の罪悪感を否定するのではなく、事故に至った背景を複数の観点から振り返り、「すべて自分の責任だった」という一つの理解だけに固定されていないかを検討します。重要なのは、支援者が正解を押しつけることではなく、本人がより現実的で柔軟な見方を持てるよう援助することです。

各選択肢を整理する

① 悲しみの個人差を説明する

適切です。悲嘆の現れ方や経過には個人差があります。一律の「立ち直り方」を求めないことが重要です。

② 娘の死を思い出さないようにする活動を探す

不適切であり、正答です。生活を支える活動そのものが問題なのではなく、「思い出さないこと」を支援目標にしている点が問題です。

③ 感情を確認し、表現を援助する

適切です。本人のペースを尊重しながら、悲しみや怒り、罪悪感などを言葉にできるよう支えます。

④ 一般的な悲嘆反応について情報提供する

適切です。心理教育によって、自分の反応を理解する手がかりを提供します。

⑤ 死に至った背景を多様な観点から見直す

適切です。自責感が一つの因果理解に固定されている場合、多面的に捉え直すことが援助になります。

この問題で混同しやすいポイント

試験では、「悲しみを軽くすること」と「悲しみを避けること」を同じものとして考えないようにします。

  • 感情を安全に表現できるようにする → 支援になり得る
  • 一般的な反応を説明する → 支援になり得る
  • 自責感を多面的に見直す → 支援になり得る
  • 生活を少しずつ再開する → 支援になり得る
  • 故人を思い出さないこと自体を目標にする → 不適切

「つらい記憶を消す」のではなく、喪失を抱えながらも生活できる範囲を少しずつ広げていく、と捉えると整理しやすくなります。

臨床では診断を急がない

この事例では、死別後の抑うつ気分や生活機能の低下が示されていますが、試験文だけで特定の診断を断定することはできません。悲嘆反応、抑うつ症状、トラウマ関連症状、睡眠、食欲、自責感の程度、自傷・自殺念慮、日常生活への影響などを丁寧に確認する必要があります。

公認心理師試験では、「悲嘆だから病気ではない」「数か月続いたから病的である」と単純化せず、正常な個人差を尊重しながら、リスクと生活機能を評価するという二つの視点を持つことが重要です。

関連知識|情緒的サポートとのつながり

悲嘆支援では、助言だけでなく、共感的に話を聴き、本人が孤立しないよう支えることも重要です。社会的サポートのうち、共感、受容、安心感などを提供する支えについては、第4回午前問60「情緒的サポート」も関連して確認できます。

試験での見分け方

この問題は、選択肢の「目的」に注目すると判断しやすくなります。

  • 本人の反応を理解する → ○
  • 本人の感情を扱えるようにする → ○
  • 自責感を柔軟に見直す → ○
  • 故人を思い出さないようにする → ×

したがって、正答は②です。

まとめ

第4回午前問73では、死別後の悲嘆への支援が問われています。悲嘆には個人差があり、感情表出の支援、心理教育、自責感の捉え直しなどは有用になり得ます。

一方、亡くなった人を「思い出さないこと」を支援の中心目標にするのは適切ではありません。気晴らしや日常生活への復帰と、故人に関する記憶・感情を回避し続けることを区別して理解することが、この問題のポイントです。

悲嘆支援で確認したい4つの軸

実際の支援では、「悲しいかどうか」だけでなく、少なくとも次の4つを分けて確認すると状態を整理しやすくなります。

  • 感情:悲しみ、怒り、罪悪感、後悔、孤独、安堵など。
  • 認知:「自分が止めていれば」「自分の責任だ」といった自責的な意味づけ。
  • 行動:人との交流、家事、仕事、外出、故人に関する場所や物への回避。
  • 生活機能と安全:睡眠、食欲、日常生活、自傷・自殺念慮、支援者の有無。

この4つを整理すると、②の問題点も明確になります。Aにはすでに家事が手につかないほどの生活機能低下がみられています。そこで必要なのは、単純に「思い出す機会をなくす」ことではなく、感情・自責感・生活への影響を確認しながら、必要な支援を組み立てることです。

「グリーフケア=話させること」でもない

グリーフケアを学ぶと、「故人について話す」「感情を表現する」という側面が強調されることがあります。しかし、本人が話したくない段階で無理に語らせることも適切ではありません。

支援者は、本人が話すことを選べる環境をつくり、沈黙や揺れを含めてその人のペースを尊重します。③が適切なのは「感情表出を強制する」からではなく、Aが体験している感情を確認し、必要に応じて表現できるよう援助する選択肢だからです。

試験では、回避を強化する対応と、本人のペースを尊重する対応を混同しないことが重要です。

参考資料

この記事の背景

公認心理師試験では、悲嘆そのものを「なくす」発想ではなく、本人の体験を尊重しながら生活と支援を組み立てる視点が問われます。試験対策として概念を整理しつつ、実際の支援では個人差と安全面の評価を優先してください。

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