公認心理師資格試験 過去問解説 第5回 午前 問57|学校におけるいじめへの対応

公認心理師過去問第5回57 公認心理師試験

第5回公認心理師試験・午前問57は、学校におけるいじめへの対応について、法制度と組織的対応を組み合わせて判断する問題です。正答は①と⑤です。

ポイントは、いじめを「加害者と被害者の個人的なトラブル」として処理しないことです。加害児童生徒への指導にも成長支援の視点が必要であり、いじめ情報は一人の教職員が抱え込まず、学校いじめ対策組織を中心に扱います。

問題の要旨

学校のいじめ対応について、次のような考え方のうち適切なものを2つ選ぶ問題です。

  • 加害児童生徒にも成長支援の観点を持つ。
  • いじめを「被害者・加害者・仲裁者・傍観者」の四層で理解する。
  • 双方に苦痛がある場合は、より苦痛が重い側を被害者として扱う。
  • 保護者から重大な被害の訴えがあっても、学校がいじめ原因ではないと考えれば重大事態としない。
  • いじめ情報は学校いじめ対策組織を中心に収集・対応する。

公式正答は①・⑤です。

正答①|加害児童生徒にも「成長支援」の観点を持つ

①は適切です。

いじめへの対応では、被害児童生徒の安全確保と支援を最優先にしながら、加害児童生徒に対しても、単に罰するだけではなく、行為の背景を把握し、再発防止と本人の成長につながる指導を行います。

文部科学省の「いじめの防止等のための基本的な方針」では、加害児童生徒に対して、人格の成長を旨として、教育的配慮の下で毅然とした態度で指導することが示されています。

ここで「成長支援」とは、行為を容認したり責任を曖昧にしたりすることではありません。被害者の安全を守り、いじめを止め、再発を防止することと、加害児童生徒が自分の行為を振り返り、より適切な行動を身につけるよう援助することを両立させる考え方です。

正答⑤|学校いじめ対策組織を中心に対応する

⑤も適切です。

いじめ防止対策推進法第22条では、各学校に、複数の教職員や心理・福祉等の専門的知識を有する者などで構成される、いじめ防止等のための組織を置くことが定められています。

さらに国の基本方針では、いじめに関する情報を特定の教職員が抱え込まず、学校いじめ対策組織へ報告し、情報共有した上で組織的に対応方針を決定することが求められています。

したがって、「担任がまず単独で様子を見る」「スクールカウンセラーだけで継続対応する」といった個人対応ではなく、学校組織として扱うことが基本です。

選択肢②|四層構造の構成要素が違う

②は不適切です。

森田洋司による古典的ないじめの四層構造は、一般に次の4つで整理されます。

  • 被害者
  • 加害者
  • 観衆:はやしたてたり、おもしろがったりする立場
  • 傍観者:見て見ぬふりをする立場

選択肢②では、このうち「観衆」が「仲裁者」に置き換えられています。そのため、四層構造の説明として誤りです。

なお、近年のいじめ予防では、傍観者の中から、いじめを止めたり相談したりする行動を増やすことが重視されています。「仲裁者になることが重要」という考え方と、「仲裁者が古典的四層構造の一層である」という説明は別です。

選択肢③|苦痛の「比較」でいじめを決めない

③は不適切です。

いじめ防止対策推進法では、一定の人的関係にある他の児童生徒から心理的・物理的な影響を受け、対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているものを「いじめ」と定義しています。

この定義から分かるのは、「双方の苦痛を比較して、より苦しい方だけを被害者にする」という仕組みではないということです。児童生徒間に対立や相互の行為がある場合でも、それぞれの具体的な行為と苦痛、関係性、安全面を確認して判断します。

試験では、苦痛の大きさを競わせるルールはないと押さえておくと判断しやすくなります。

選択肢④|重大事態の申立てを学校判断だけで退けない

④は不適切です。

文部科学省の重大事態調査ガイドラインでは、児童生徒や保護者から「いじめにより重大な被害が生じた」という申立てがあった場合、学校がその時点で「いじめの結果ではない」「重大事態ではない」と考えていたとしても、重大事態が発生したものとして報告・調査等に当たることが示されています。

これは、学校が把握していない情報を本人や家庭が持っている可能性があるためです。調査をしないまま重大事態ではないと断言することはできません。

この選択肢は、学校側の初期判断を優先して保護者の申立てを退けている点が問題です。

いじめ防止対策推進法第22条を押さえる

この問題で最も重要な条文の一つが第22条です。

学校は、いじめ防止等の措置を実効的に行うため、複数の教職員、心理・福祉等の専門家、その他の関係者から構成される組織を置きます。

この組織は、単なる「会議の名前」ではありません。学校のいじめ防止、早期発見、情報共有、事実確認、支援方針の決定を組織的に進めるための中核です。

法律上の主体と役割を整理したい場合は、第4回午前問49「いじめ防止対策推進法」もあわせて確認すると理解しやすくなります。

いじめ情報を「抱え込まない」ことが重要

学校現場では、相談を受けた教職員が「まだ確証がないから」「大ごとにしたくないから」と一人で情報を持ち続けることがリスクになります。

国の基本方針では、いじめに係る情報を学校いじめ対策組織へ報告しないことが、法の規定に違反し得ることまで明示されています。

公認心理師やスクールカウンセラーも、守秘義務を理由に学校内の安全対応から切り離されるわけではありません。共有する情報の範囲や方法には配慮しつつ、児童生徒の安全に関わる情報を組織的支援へ接続する視点が必要です。

各選択肢を整理する

① 加害児童生徒に成長支援の観点を持つ

適切です。毅然とした指導と、人格の成長・再発防止を支える教育的対応を両立します。

② 四層構造を「被害者・加害者・仲裁者・傍観者」とする

不適切です。古典的な四層構造は、被害者・加害者・観衆・傍観者です。

③ 双方の苦痛を比較して被害者を決める

不適切です。いじめの定義は苦痛の「比較」ではありません。具体的行為と対象児童生徒の苦痛を確認します。

④ 学校がいじめ原因ではないと考えれば重大事態としない

不適切です。本人・保護者から重大被害の申立てがあった場合、学校の初期見立てだけで調査対象から外すことはできません。

⑤ 学校いじめ対策組織を中心に対応する

適切です。いじめ情報は組織に集約し、事実確認と支援方針を組織的に決定します。

試験での見分け方|「主体・組織・判断基準」の3点

いじめ関連問題は、次の3点を見ると解きやすくなります。

  • 主体:国、地方公共団体、学校の設置者、学校のどこが担うのか。
  • 組織:一人の教職員ではなく、学校いじめ対策組織につながっているか。
  • 判断基準:学校側の主観だけでなく、被害児童生徒の苦痛や本人・保護者の申立てを適切に扱っているか。

「それっぽい対応か」ではなく、制度上の主体と手続に照らして確認することが重要です。

実務では最新の国資料を確認する

いじめ防止対策推進法そのものに加え、基本方針や重大事態調査ガイドラインは実務上重要です。ガイドラインは改訂されるため、学校で重大事態への対応を行う場合は、試験当時の資料だけでなく最新の文部科学省資料を確認してください。

試験対策では「正答を覚える」だけでなく、なぜ組織対応が必要なのか、どの段階で情報共有・調査へ進むのかまで理解しておくと、事例問題にも応用しやすくなります。

まとめ

第5回午前問57の正答は①・⑤です。

  • 加害児童生徒にも、再発防止と成長支援の視点を持つ。
  • いじめ情報は学校いじめ対策組織へ集約し、組織的に対応する。
  • 四層構造は「被害者・加害者・観衆・傍観者」。
  • 苦痛の程度を比較して被害者を一方に決めるわけではない。
  • 重大被害の申立てを、学校の初期判断だけで退けない。

法律問題では、内容だけでなく「誰が」「どの組織で」「どの基準に基づいて」対応するのかをセットで覚えます。

いじめの定義は「力関係の比較」だけでは決まらない

いじめ防止対策推進法の定義では、対象となる児童生徒と一定の人的関係にある他の児童生徒が行う心理的または物理的な影響で、対象児童生徒が心身の苦痛を感じているものがいじめに含まれます。

この定義の重要な点は、学校側が「冗談だった」「けんかだった」「双方に非がある」とラベルを付けただけで対象外にできないことです。行為の内容、継続性や関係性、安全への影響、本人が感じている苦痛などを具体的に確認します。

したがって③のように、双方の苦痛を天秤にかけて「より苦しい側だけ」を被害側と決める方式ではありません。相互に不適切な行為がある場合には、それぞれの行為を個別に検討する必要があります。

学校いじめ対策組織へつなぐまでの流れ

試験対策としては、いじめ情報が入った後の流れを次のように整理すると理解しやすくなります。

  1. 相談・申立て・観察などから、いじめが疑われる情報を把握する。
  2. 担当者だけで抱え込まず、学校いじめ対策組織へ報告・共有する。
  3. 被害児童生徒の安全確保を優先しながら、事実関係を確認する。
  4. 組織として対応方針と役割分担を決める。
  5. 被害児童生徒への支援、加害児童生徒への指導・支援、保護者との連携を継続する。
  6. 重大事態が疑われる場合には、設置者への報告や調査手続へ進む。

この流れを見ると、⑤が単なる「委員会を使う」という知識問題ではなく、情報の抱え込みを防ぎ、支援と調査の質を確保するための仕組みであることが分かります。

スクールカウンセラーの役割を制度の中で考える

スクールカウンセラーは、被害児童生徒の心理的安全を支え、状態を見立て、教職員や保護者へのコンサルテーションを行うことができます。一方、いじめ認定や重大事態の扱いをスクールカウンセラー一人で決定するわけではありません。

心理職として重要なのは、面接室の中で得た情報をどう学校の安全対応へ接続するかを考えることです。共有の必要性と範囲を検討し、本人の安全や信頼関係に配慮しながら、学校いじめ対策組織と連携します。

このように、いじめ問題では「カウンセリングができるか」だけでなく、学校という組織の意思決定構造を理解していることが求められます。

参考資料

この記事の背景

学校でのいじめ対応は、心理支援だけで完結せず、法制度と学校組織の動きを理解して初めて安全な支援につながります。公認心理師試験でも、個人面接の技法だけでなく、組織への接続と法的手続を見分ける視点が重要です。

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