公認心理師資格試験 過去問解説 第4回 午前 問71|組織コミットメントと存続的コミットメント

公認心理師過去問第4回71 公認心理師試験

第4回公認心理師試験・午前問71は、組織コミットメントの類型を事例から見分ける問題です。正答は④ 存続的コミットメントです。ポイントは、Aが会社に残ろうとする理由が「好きだから」「義務だと思うから」ではなく、退職によって生じる損失や生活上の混乱を大きく見積もっていることです。

実際の問題文

問71 39歳の男性A、会社員。Aは、中途採用で入社して10年目になるが、これまで会社内での人付き合いは良好で、安定した仕事ぶりから上司の信頼も厚い。最近になり、Aは、キャリアに希望が持てないと企業内相談室に来室した。「今この会社を辞めたら損失が大きいので、この先も勤めようと思う」と述べる一方で、「この会社を離れるとどうなるか不安である」、「今この会社を辞めたら生活上の多くのことが混乱するだろう」と述べた。

Aの発言内容から考えられるAの組織コミットメントとして、最も適切なものを1つ選べ。

① 規範的コミットメント
② 行動的コミットメント
③ 情緒的コミットメント
④ 存続的コミットメント
⑤ 態度的コミットメント

問題文の読み解き

設問では、Aが会社を辞めない理由に注目します。Aは人間関係が良好で、上司の信頼も厚い一方、キャリアに希望が持てないと感じています。それでも会社に残ろうとする理由として、「辞めたら損失が大きい」「離れるとどうなるか不安」「生活上の多くのことが混乱する」と述べています。

この発言は、組織に対する愛着よりも、退職に伴うコストの認知を示しています。そのため、MeyerとAllenの3成分モデルでいう存続的コミットメントが最も適切です。

正答④ 存続的コミットメント

存続的コミットメント〈continuance commitment〉は、組織を離れることで失うものが大きい、あるいは他の選択肢が乏しいと認知することによって組織にとどまろうとする心理的状態です。AllenとMeyerは、情緒的・存続的・規範的コミットメントを区別する3成分モデルを提示しています。

本問では、A自身が「損失が大きい」「生活上の多くのことが混乱する」と述べています。会社への愛着や恩義ではなく、退職コストが在職継続の主要な理由になっているため④です。

組織コミットメントとは

組織コミットメントは、個人と組織との心理的な結びつきを扱う概念です。単に勤続年数が長いことや、仕事を真面目にしていることだけを意味しません。「なぜその組織にとどまるのか」という心理的な理由まで含めて考えます。

同じ「退職しない」という行動でも、その背景が組織への愛着なのか、辞めるコストの高さなのか、義務感なのかによって、コミットメントの成分は異なります。

MeyerとAllenの3成分モデル

情緒的コミットメント

情緒的コミットメント〈affective commitment〉は、組織への感情的愛着、同一化、関与に基づくものです。組織に所属していたい、そこで働き続けたいという気持ちが中心になります。補助的には「残りたいから残る」と整理すると分かりやすいでしょう。

存続的コミットメント

存続的コミットメントは、組織を離れることで生じる損失やコストに基づきます。給与や福利厚生だけでなく、築いてきた人間関係、社内での地位、通勤や生活の安定、転職の難しさなども、退職コストとして認知されることがあります。

規範的コミットメント

規範的コミットメント〈normative commitment〉は、組織に残ることへの義務感に基づきます。「世話になったから辞めるべきではない」「組織に貢献する責任がある」といった感覚が中心です。補助的には「残るべきだから残る」と整理できます。

① 規範的コミットメントが誤りである理由

規範的コミットメントなら、Aの発言には会社への恩義や責任、忠誠、義務感などが現れるはずです。しかし本問では、「辞めたら損失が大きい」「生活が混乱する」という自己に生じるコストが中心です。

したがって、在職継続という行動だけを見て①を選ぶのではなく、その理由を見分ける必要があります。

② 行動的コミットメントが誤りである理由

組織コミットメント研究では、態度的アプローチと行動的アプローチを区別して論じることがあります。行動的コミットメントは、過去の行動やその行動を継続する過程に注目する考え方です。

しかし本問は、Aの発言内容からどの組織コミットメントが最も適切かを問うており、退職コストを明示した事例です。3成分モデルの存続的コミットメントが直接対応します。

③ 情緒的コミットメントが誤りである理由

Aは会社内の人間関係が良好で、上司からも信頼されています。ここだけを見ると情緒的コミットメントを選びたくなるかもしれません。しかし、Aは「キャリアに希望が持てない」と相談室に来ています。

さらに、残る理由として述べているのは愛着ではなく損失です。事例問題では、周辺情報よりも本人が示している意思決定の理由を重視します。

⑤ 態度的コミットメントが誤りである理由

態度的コミットメントという言葉は、組織への態度としてコミットメントを捉える研究上の区分で用いられることがあります。しかし、本問の事例を最も具体的に説明するのは、退職に伴うコスト認知に基づく存続的コミットメントです。

選択肢に広い概念と具体的な成分が並んでいる場合には、事例に直接対応する最も具体的な概念を選びます。

「長く勤めている=存続的」ではない

Aは入社10年目ですが、勤続年数だけで存続的コミットメントと判断するのは誤りです。長く働いていても、組織が好きで残る人も、義務感で残る人もいます。

本問で重要なのは、Aが退職による損失や生活上の混乱を明確に言語化していることです。年数は背景情報であり、正答根拠ではありません。

退職コストには何が含まれるか

退職コストは金銭的な損失だけではありません。これまで築いた人間関係、社内での評価、仕事の慣れ、福利厚生、勤務地、生活リズムなどを失うことも本人にとってのコストになり得ます。また、転職先が見つからないという代替選択肢の乏しさも、存続的コミットメントに関係します。

そのため、「給料が下がるのが嫌だから」だけを典型例として覚えず、「離れることによる損失全般」と広く理解します。

産業・労働領域での心理支援との関係

企業内相談でAのような発言があったとしても、心理職が「あなたは存続的コミットメント型です」と診断するわけではありません。組織コミットメントは研究概念であり、臨床診断ではありません。

実際の相談では、キャリアに希望が持てない理由、退職への不安、経済状況、価値観、仕事の選択肢、職場で変えられる条件などを整理し、本人の意思決定を支援します。

コミットメントが高ければ良いとは限らない

組織に強くとどまろうとすることが、常に本人の満足や健康を意味するわけではありません。特に存続的コミットメントが高い場合、「辞めたいが辞められない」という感覚を伴うことがあります。

試験では概念を見分けることが目的ですが、実務では本人の心理的負担や選択可能性も含めて理解することが必要です。

試験での見分け方

愛着なら情緒的

「この会社が好き」「ここで働きたい」「組織の一員であることが嬉しい」なら情緒的コミットメントを考えます。

損失なら存続的

「辞めると損」「他に選択肢がない」「生活が大きく変わる」なら存続的コミットメントが中心です。

義務なら規範的

「世話になったから残るべき」「辞めるのは申し訳ない」なら規範的コミットメントを考えます。

キャリア相談での評価ポイント

企業内相談では、退職するか在職を続けるかを心理職が決めるのではなく、本人が何を失うと感じているのか、どの不安が現実的でどの部分がまだ情報不足なのかを整理します。転職可能性、経済条件、家族への影響、職務変更の可能性などを分けて検討すると、漠然とした「辞められない」という感覚を具体化できます。

組織コミットメントの概念は、その心理状態を理解する補助線にはなりますが、本人の意思決定を代替するものではありません。

情緒的・存続的・規範的コミットメントは併存し得る

3成分モデルは、従業員を三つの型のどれか一つだけに分類するためのものではありません。同じ人が組織への愛着を持ちながら、退職コストも高いと感じ、さらに恩義や義務感も抱くことがあります。つまり三つの成分は程度の違いとして同時に存在し得ます。

国家試験では、事例の中で最も強く示されている成分を選びます。本問では人間関係の良好さという情緒的要素を示唆する背景はあるものの、本人が在職継続の理由として明示しているのは退職時の損失と生活上の混乱です。そのため④が優先されます。

存続的コミットメントを形成する要因

存続的コミットメントは、これまで組織に投資してきた時間や労力、退職によって失う待遇・地位・人間関係、転職先の乏しさなどと関連して考えられます。長期勤続によって失うものが増える場合もありますが、勤続年数自体が定義ではありません。

たとえば勤続が短くても、勤務地や家族事情から転職の選択肢が非常に少ない人は、離職コストを高く感じる可能性があります。反対に長期勤続でも、強い愛着から残っているなら情緒的コミットメントが中心となります。

仕事満足度との違い

組織コミットメントと仕事満足度は関連し得ますが、同じ概念ではありません。仕事満足度は仕事や職務経験への評価を扱い、組織コミットメントは組織との心理的結びつきや在籍継続との関係を扱います。

Aは「キャリアに希望が持てない」と述べており、仕事やキャリアへの満足が高いとはいえません。それでも退職コストを理由に在職を選ぼうとしている点が、本問の重要な構造です。

企業内相談での見立てを単純化しない

実務では、Aのような相談に対して「存続的コミットメントが高いから辞めない」と一方向に決めつけません。本人のキャリア価値観、経済的条件、家庭状況、社内異動の可能性、転職に関する情報不足、精神的負担などを分けて確認します。

また、相談者が「損失が大きい」と感じていても、その損失の見積もりが現実的かどうかは別の問題です。情報収集や選択肢の整理を通して、本人が納得できる意思決定を行えるよう支援します。

まとめ

第4回午前問71の正答は④ 存続的コミットメントです。Aは組織への愛着や義務感ではなく、退職による損失や生活上の混乱を理由に在職継続を考えています。組織コミットメントの問題では、「残る」という行動そのものではなく、「なぜ残るのか」を読み取ることが重要です。

参考文献・資料

コメント

タイトルとURLをコピーしました