公認心理師資格試験 過去問解説 問11 学習及び言語「文法獲得:言語獲得装置」

公認心理師資格試験 過去問解説 問11 学習及び言語「文法獲得:言語獲得装置」

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第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター

 

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【問11】学習及び言語 「文法獲得:言語獲得装置」

問11 N.Chomskyの言語理論の立場として、正しいものを1つ選べ。

① 言語発達のメカニズムは、遺伝的に決定されている。

② どのような言語にも共通する普遍文法は存在しない。

③ 言語の文法は、ヒト以外の動物種にも認めることができる。

④ 句構造規則によって作られた文の表層構造は、変形規則によって深層構造となる。

⑤ 脳の中にある言語獲得装置は、報酬と罰の経験によって文法を獲得する働きを持つ。

出典:第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター

 

問11は学習心理学領域に関する問題で、基礎心理学のひとつで、文法獲得全般の話題です。

 

正答は ①

 

① 言語発達のメカニズムは、遺伝的に決定されている

 

となります。

 

Chomsky, N. A.(チョムスキー)

チョムスキーはアメリカの言語学者で、変形生成文法の創始者です。

 

チョムスキーは、人間が言語を話し理解できるのは、脳内に音と意味を結びつける離散的な計算システムである文法があるからであると考える。(中略)文法の基本的な部分は経験によらず生得的に決まっていなければならない。文法の生得的な部分は普遍文法と呼ばれる。

出典:心理学辞典|有斐閣

 

チョムスキーの理論が出てくるより前は、

こどもは白紙の状態で生まれてきて、両親を始めとする周りの人間からの言語的刺激により言語を習慣化する

出典:心理学辞典|有斐閣

と、言語は純粋に環境によってのみ学習されると考えられていました。

 

一方で、チョムスキーは、『環境による言語的刺激(経験)』には個人差があるにもかかわらず、こどもは短期間の間に大きな個人差もなく言語(文法)を習得することに注目して、人間には「文法」の基本的な部分を理解できる能力が生まれつき備わっていると考えて、普遍文法(universal grammar:UG)という理論を提唱しました。

 

そもそも日本語や英語などの個々の言語を越えた共通する特徴がいくつかあるという言語普遍性(linguistic universal)と呼ばれる考え方があります。

  • 少なくとも二つの母音や破裂音がある
  • 動詞・目的語・指示語がある

などが言語普遍性の代表です。

 

普遍文法は簡単に説明すると、この言語普遍性のような「言葉・文法に共通するルールについての知識」を意味しています。

 

つまりチョムスキーの理論では、人間は「言葉・文法に共通するルールについての知識」を理解できる土壌が備わった状態で生まれてくる=普遍文法を理解できる脳機能が生得的に備わっていると考えています。

 

したがって、選択肢①「 言語発達のメカニズムは、遺伝的に決定されている」は正しいといえます。

 

また、選択肢②「どのような言語にも共通する普遍文法は存在しない」は、普遍文法の理論と異なっているため不適となるでしょう。

 

文法はヒト以外の動物種にも認められるのか

③ 言語の文法は、ヒト以外の動物種にも認めることができる。

 

直感的に×と答えたくなる選択肢ではありますが、何かないかと探してみたところ参考となる文献を見つけました。

尾島他(2014). 紙上討論:人間以外の動物に文法は使えるのか? BRAIN and NERVE, 66(3), 273-281.

 

以下の解説は尾島他(2014)の論文をもとに行います。

 

まずは生成文法の階層についてです。細かい説明は省略しますが、チョムスキーの生成文法では文法の間には文を生成する能力の差があり階層構造になっていると考えられています。

チョムスキー階層

この図に示されているように、図の外側の階層にいくほど文生成能力が高く、下の階層の文法も含むとされます。

 

尾島他(2014)では、このチョムスキー階層をもとにして、ヒト以外の動物種でも文法が使用可能かどうかを論じています。

 

尾島他(2014)によれば、

チョムスキー階層の中で、ここで特に重要なのは、「有限状態文法」と「文脈自由文法」である。結論からいうと、鳥の歌は、有限状態文法(finite-state grammar)に相当する。人間の言語は、これよりも文生成能力が高い、文脈自由文法(もしくはそれ以上)でないと記述できない。

(中略)

そしてわれわれは、鳥を含めて人間以外の動物が、文脈自由文法を獲得できるという明確な証拠は、まだ存在していないと考える。

出典:尾島他(2014). 紙上討論:人間以外の動物に文法は使えるのか? BRAIN and NERVE, 66(3), 273-281.

とのことです。

 

有意状態文法は1つの単語が出現した後に次の単語が確率的に出てくるという文法です。

 

人間の言語では、1つの単語に続く単語が確率的に出てくることはあまりなく、前に出てきた単語を振り返りつつその単語にあわせて文章を作成していきます

 

動物種の獲得している文法はこの有意状態文法までであり、人間の言語とは意味合いが異なってくるようです。

 

言語の定義が不明瞭ではありますが、以上のことから、選択肢③「言語の文法は、ヒト以外の動物種にも認めることができる。」は不適当といえるでしょう。

 

変形規則と表層・深層構造

④ 句構造規則によって作られた文の表層構造は、変形規則によって深層構造となる。

この選択肢を理解するためには、変形規則(transformational rule)や文の表層構造・深層構造に関する知識が必要です。

 

変形規則

 文の生成において、深層構造に適用され、表層構造を派生する規則。
出典:心理学辞典|有斐閣

変形規則

 

変形規則とはざっくり言うと、チョムスキーの普遍文法のなかの1つのルールです。

 

チョムスキーは「言葉・文法に共通するルールについての知識」である普遍文法が「文章の理解」に果たす役割について調査しました。

 

  • 表層構造⇨実際に記述された文章構造
  • 深層構造⇨文章の意味を示す構造

 

深層構造、つまり文章の示す意味を崩さないように、表層構造を変形していくとしたわけです。

 

以上のことから、選択肢④「句構造規則によって作られた文の表層構造は、変形規則によって深層構造となる」は不適当で、「文の深層構造は、変形規則によって表層構造になる」が正しいといえます。

 

言語獲得装置

⑤ 脳の中にある言語獲得装置は、報酬と罰の経験によって文法を獲得する働きを持つ。

最後の選択肢ですが、まずは語句の整理から。

 

言語獲得装置(Language acquisition device:LAD)とは、人間に生まれつき備わっている言語習得能力(普遍文法)そのものと、言語的な経験と個別の言語(日本語や英語)を媒介するための関数を含んだものをさします。

言語獲得装置

 

言語獲得装置には以下のような特徴があります。

  • 遺伝的に決定されている
  • 人間の言語に特定的である
  • 言語の多様性を生み出すほどに複雑であり、かつ、子どもが短期間に習得を完了させうるほどに単純でなければならない。

 

また、以下のように記載されています。

 経験として子どもに与えられる言語資料は不完全で断片的である。また、その資料が正しいか正しくないかの情報も与えられてはない。それにもかかわらず、子どもは「正しい」文法を獲得する。

出典:心理学辞典|有斐閣

 

つまり、言語獲得装置は、与えられる経験の質、報酬や罰などの強化の原則とは無関係に正しい文法を獲得するという機能があるといえます。

 

したがって、選択肢⑤「脳の中にある言語獲得装置は、報酬と罰の経験によって文法を獲得する働きを持つ」は不適当といえます。

 

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まとめ

第3回公認心理師資格試験の問11は学習及び言語「文法獲得:言語獲得装置」に関する知識が問われる問題でした。

 

問題に正答するには、Chomsky, N. A.(チョムスキー)という人物名と「生成文法、普遍文法、言語獲得装置」というキーワードの繋がりと、理論をざっくりとおさえておけばいいでしょう。

 

今回の記事でのキーワードは以下のものになります。

  • 生成文法、普遍文法
  • 変形規則
  • チョムスキー階層
  • 言語獲得装置