第6回公認心理師試験・午前問15は、高齢期の動機づけを説明する社会情動的選択性理論〈Socioemotional Selectivity Theory:SST〉を問う問題です。
正答は④です。
SSTの中核は、「高齢者は人間関係を狭める」という表面的な説明ではありません。重要なのは、残された時間をどのように知覚しているかによって、優先する目標が変化するという考え方です。
問題
高齢期に人生の残り時間が少なくなると、自分の持つ資源を、より心理的に満足できる目標や活動に注ぎ込もうとする傾向を説明する心理学理論として、最も適切なものを1つ選べ。
- 持続理論
- 離脱理論
- 社会的コンボイ理論
- 社会情動的選択性理論
- 補償を伴う選択的最適化理論
正答
④ 社会情動的選択性理論です。
社会情動的選択性理論では、将来の時間が十分に残されていると感じるときには、学習・情報収集・新しい可能性の探索といった未来志向の目標が優先されやすくなります。
一方、残された時間が限られていると感じるときには、今この瞬間の情緒的満足、意味のある関係、心理的に重要な活動が優先されやすくなると考えます。
社会情動的選択性理論とは
社会情動的選択性理論は、Laura L. Carstensenらによって発展してきた生涯発達の理論です。
1999年の代表的論文では、時間の知覚が社会的目標の選択と追求に重要な役割を持つとされ、社会的動機を大きく知識獲得に関する目標と感情調整・情緒的意味に関する目標に整理しています。
2021年のレビューでも、SSTは年齢そのものではなく、終わりが近づいているという時間的文脈が、人の動機づけを変化させる理論として説明されています。
時間展望が開かれているとき
将来の時間が長く残されていると感じるとき、人は将来に役立つ情報や経験を得ようとしやすくなります。
たとえば、新しい人と会う、未知の環境を探索する、新しい知識を学ぶ、将来の可能性を広げるといった行動です。
これらは直ちに心理的満足をもたらさない場合でも、将来の利益につながる可能性があるため選ばれます。
時間展望が限られているとき
残り時間が限られていると知覚すると、将来の可能性を広げることより、現在の心理的意味や満足が重視されます。
そのため、広く新しい人脈を増やすよりも、親しい家族や友人など、情緒的に意味のある関係へ時間を使うことが増えやすくなります。
本問の「自分の持つ資源を、より心理的に満足できる目標や活動に注ぎ込む」という表現は、まさにこの考え方を示しています。
「高齢だから」ではなく「時間が限られていると感じるから」
SSTを理解する上で最も重要なポイントです。
高齢期では一般に将来の時間が若年期より限られているため、情緒的に意味のある目標が優先されやすくなります。しかし、理論の中核は暦年齢そのものではなく、future time horizon(将来時間の見通し)です。
そのため、若い人であっても、転居、卒業、重い病気など「ある期間の終わり」が近いと知覚すれば、情緒的に意味のある目標を優先する可能性があります。
SSTと社会的ネットワークの変化
高齢になると、社会的ネットワークが小さくなることがあります。SSTでは、これを単純な社会的能力の低下や孤立の結果としてだけ説明しません。
むしろ、限られた時間の中で、重要な関係へ選択的に資源を投入するという能動的な選択として説明できる場合があります。
したがって、「ネットワークが小さい=必ず不適応」という単純な判断はできません。
ポジティビティ効果との関係
SSTに基づく研究から、加齢に伴ってポジティブな情報を相対的に優先して処理するpositivity effectの研究も発展しました。
ただし、社会情動的選択性理論そのものを「高齢者はポジティブな情報だけを見る理論」と覚えるのは不十分です。
中心にあるのは、あくまで時間展望が目標の優先順位を変えるという動機づけの枠組みです。
選択肢①|持続理論
誤りです。
高齢期の適応を考える理論としては、これまでの生活様式や自己の一貫性を維持しようとする継続性理論〈continuity theory〉が知られています。
しかし、本問が問う「残り時間が少なくなることで、心理的に満足できる目標へ資源配分が変化する」という仕組みを直接説明する理論ではありません。
選択肢②|離脱理論
誤りです。
離脱理論〈disengagement theory〉は、高齢になるにつれて、社会と個人が相互に関与を減らしていくことを老化の過程として捉える古典的理論です。
SSTと異なるのは、SSTが単なる「社会からの撤退」を想定しているのではなく、情緒的に重要な関係を選択的に維持・強化すると考える点です。
選択肢③|社会的コンボイ理論
誤りです。
社会的コンボイ理論〈social convoy model〉は、人が生涯にわたって家族、友人、知人などの社会的ネットワークに取り囲まれ、支えられながら生活することを捉える枠組みです。
社会関係の構造や支援を理解する上では重要ですが、本問のような時間展望による目標優先順位の変化を中心に説明する理論ではありません。
選択肢④|社会情動的選択性理論
適切であり、本問の正答です。
将来時間が限られていると知覚するほど、探索や知識獲得よりも、現在の情緒的意味や満足につながる目標が優先されます。
本問の「人生の残り時間」「心理的に満足できる目標や活動」という二つの表現は、SSTを判断する強い手がかりです。
選択肢⑤|補償を伴う選択的最適化理論
誤りです。
補償を伴う選択的最適化〈Selective Optimization with Compensation:SOC〉は、加齢などにより資源が限られる中で、重要な目標を選択し、利用可能な資源を最適化し、失われた機能を補償するという発達的な適応モデルです。
SSTと同じく「限られた資源をどこに投入するか」という要素があるため混同しやすいですが、SOCの中心は選択・最適化・補償という適応方略です。
一方、SSTの中心は残された時間の知覚によって、情緒的目標と知識獲得目標の優先順位が変わることです。
SSTとSOCの見分け方
| 理論 | 中心概念 | 試験での手がかり |
|---|---|---|
| 社会情動的選択性理論 | 時間展望と目標の優先順位 | 残り時間、情緒的満足、意味のある関係 |
| 選択的最適化と補償 | 資源制約への適応方略 | 選択、最適化、補償、機能低下への対応 |
| 社会的コンボイ理論 | 社会的ネットワークと支援 | 家族・友人・知人のネットワーク |
| 離脱理論 | 社会との相互的離脱 | 社会的役割や関与の縮小 |
試験での見分け方
- 「残り時間」が出たらSSTをまず疑う。
- 「情緒的に意味のある目標」もSSTの重要語。
- 「高齢者は新しいことを学ばない」と極端に覚えない。
- 時間が開かれていると知識・探索目標、限られると情緒的目標が相対的に優先される。
- SOCは「選択・最適化・補償」、コンボイは「社会的ネットワーク」と区別する。
関連知識|加齢と心理機能を一つの方向で覚えない
高齢期の心理学では、「加齢=一律に低下」と覚えると誤答しやすくなります。
認知機能でも、流動性知能と結晶性知能では加齢変化が異なります。同様に、社会関係が狭くなることも、必ずしも単純な喪失ではなく、SSTでは目標の選択性の変化として理解できます。
加齢と知能の違いを整理したい場合は、第6回午前問13|知能と知能検査も関連知識として役立ちます。
まとめ
第6回午前問15の正答は④ 社会情動的選択性理論です。
- SSTは、時間の知覚が目標選択を変える理論。
- 将来時間が開かれていると、知識・探索・未来志向の目標が優先されやすい。
- 時間が限られると、情緒的に意味のある目標や現在の満足が優先されやすい。
- 理論の中核は暦年齢ではなく、残された時間の知覚。
- 離脱理論、社会的コンボイ理論、SOCとの違いを整理する。
参考資料
- 日本心理研修センター|第6回公認心理師試験 午前問題
- 日本心理研修センター|第6回公認心理師試験 正答
- Carstensen, Isaacowitz, & Charles (1999). Taking time seriously: A theory of socioemotional selectivity.
- DOI: 10.1037/0003-066X.54.3.165
- Carstensen (2021). Socioemotional Selectivity Theory: The Role of Perceived Endings in Human Motivation.
- PMC full text|Socioemotional Selectivity Theory


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