第4回公認心理師試験・午前問65は、軽度Alzheimer型認知症のある高齢者に対する非薬物的介入について、事例の困りごとに最も合う支援を選ぶ問題です。正答は② 日常生活機能を補う方法の確立に焦点を当てた介入です。
実際の問題文
問65 70歳の女性A。長男、長男の妻及び孫と暮らしている。Aは、1年ほど前に軽度のAlzheimer型認知症と診断された。Aは、診断後も自宅近所のスポーツジムに一人で出かけていた。1か月ほど前、自宅をリフォームし、収納場所が新たに変わった。それを機に、探し物が増え、スポーツジムで使う物が見つけられなくなったため、出かけるのをやめるようになった。Aは、物の置き場所をどう工夫したらよいか分からず、困っているという。
Aに対して行うべき非薬物的介入として、最も適切なものを1つ選べ。
① ライフヒストリーの回想に焦点を当てた介入
② 日常生活機能を補う方法の確立に焦点を当てた介入
③ 有酸素運動や筋力強化など、複数の運動を組み合わせた介入
④ 物事の受け取り方や考えの歪みを修正し、ストレス軽減を図る介入
⑤ 音楽を聴く、歌うなどの方法によって構成されたプログラムによる介入
問題文の読み解き
この問題では、「認知症に有効な非薬物療法を知っているか」だけでは足りません。決め手は、Aが何に困っているかです。Aは診断後も一人でスポーツジムへ出かけられていましたが、リフォームによって収納場所が変わった後、必要な物を見つけられなくなり、外出をやめています。
つまり、問題の中心は認知機能全般を高めることではなく、環境の変化によって崩れた日常生活上の活動を、具体的な補償方法で再び成立させることです。したがって、物品配置の固定、ラベル、視覚的手掛かり、置き場所の単純化など、日常生活機能を補う方法を本人と家族で確立する②が最も適切です。
正答は②|日常生活機能を補う方法の確立
軽度から中等度の認知症に対する認知リハビリテーションでは、本人にとって意味のある日常生活上の目標を設定し、残存能力を活かしながら、課題遂行の方法や環境を工夫します。重要なのは、抽象的に「記憶力を良くする」ことではなく、本人が困っている具体的な活動を対象にすることです。
Aの場合、目標は「ジムで使う物を自分で準備できる」「再びスポーツジムに出かけられる」といった生活上のゴールとして設定できます。そのために、バッグの置き場所を固定する、必要物品を一か所にまとめる、写真や文字ラベルを付ける、家族と収納ルールを統一する、といった補償方略が考えられます。
「本人ができないことを代わりに行う」とは限らない
日常生活機能を補うというと、家族がすべて代行するイメージを持ちやすいですが、必ずしもそうではありません。本人がまだできる部分を残し、環境側を調整して成功しやすくすることが重要です。過剰な代行は、本人が使える能力や役割まで失わせる可能性があります。
認知症の非薬物的介入とは
認知症の非薬物的介入には、認知刺激、認知訓練、認知リハビリテーション、運動、回想法、音楽療法、環境調整、介護者支援など、複数の方法があります。したがって、この問題は「どれが存在する介入か」を問うものではありません。
重要なのは、事例のニーズと介入の目的が一致しているかです。Aは回想をしたいわけでも、運動機能低下が主訴でも、気分の認知的歪みに困っているわけでもありません。収納変更に適応できず、物を準備できないことが外出中止につながっているため、生活機能への直接的な介入が優先されます。
選択肢①|ライフヒストリーの回想に焦点を当てた介入
①は回想法を指すと考えられます。回想法は、過去の出来事や人生経験を語ることを通して、自己の連続性やコミュニケーションを支える非薬物的介入です。認知症支援の一つとして用いられます。
しかし、この事例でAが困っているのは「現在の収納場所が分からず、ジムの準備ができないこと」です。過去の人生を振り返ることは、この具体的な生活課題を直接補う方法ではありません。したがって、存在する介入ではあっても最適ではありません。
選択肢②|日常生活機能を補う方法の確立
②が正答です。事例では、リフォームという環境変化によって、以前はできていた活動が難しくなっています。こうしたとき、本人が使える能力を確認しながら、環境や手順を調整する介入が適合します。
本人中心の認知リハビリテーションでは、本人が価値を感じる生活上の目標に焦点を当てます。軽度から中等度の認知症を対象としたGREAT試験では、個別に設定した日常生活目標に対する達成度の改善が示されています。ここでも、対象は一般的な認知機能そのものではなく、具体的な日常生活機能です。
環境調整の具体例
例えば、ジム用のバッグと必要物品を玄関近くの一か所にまとめる、収納扉に写真ラベルを付ける、毎回同じ順序で準備する、不要な収納場所を増やさない、といった方法が考えられます。実際には本人の希望や家庭環境を確認したうえで調整します。
選択肢③|複数の運動を組み合わせた介入
③の運動療法も、認知症のある高齢者に対する非薬物的介入の一つです。有酸素運動や筋力強化は身体機能や健康維持の面で意義があります。
ただし、Aはそもそもスポーツジムへ通っていた人であり、現在の問題は運動不足そのものではありません。「必要な物が見つからないためにジムへ行けなくなった」ことが問題です。したがって、運動プログラムを追加するより、ジムに出かけるための準備を再び成立させる介入が先です。
選択肢④|考えの歪みを修正する介入
④は認知行動療法的な認知再構成を示す選択肢です。ストレスや気分症状に対して用いられることがありますが、Aの困難は「物事の考え方が歪んでいるために外出できない」というものではありません。
物品の位置を保持しにくいことや、新しい収納配置に適応しにくいことが主な問題であり、その点を環境調整や補償方略で支える必要があります。認知症による認知機能の変化を、本人の考え方の問題として扱わないことが重要です。
選択肢⑤|音楽を用いたプログラム
⑤は音楽療法に相当します。音楽を聴く、歌う、演奏するといった活動を用いる非薬物的介入も認知症支援にあります。
しかし、Aの現在の具体的な困難は、収納の変化により必要物品を見つけられないことです。音楽を用いた活動は、この問題への直接的な補償方法にはなりません。したがって⑤も最適ではありません。
「認知訓練」と「認知リハビリテーション」を区別する
試験では、この二つを区別できると有利です。認知訓練は、記憶や注意など特定の認知機能に対する標準化された課題を繰り返す形をとることがあります。一方、認知リハビリテーションは、本人の生活上の目標に合わせ、個別化された方法で日常生活機能を支えることを重視します。
Aのように、「ジムに行くための道具を準備できない」という具体的な生活課題がある場合は、後者の考え方が適合します。
本人中心・個別目標がキーワード
認知症支援では、何ができないかだけでなく、本人が今後も何を続けたいかを確認します。Aにとってスポーツジムへ行くことが生活の楽しみや役割になっているなら、その活動を維持できるように工夫すること自体が重要な支援目標になります。
環境変化が認知症のある人に与える影響
認知症では、新しい情報を覚えることや、変化した環境に適応することが難しくなる場合があります。そのため、本人が慣れている配置や手順を急に変えると、これまでできていた活動が難しくなることがあります。
この問題では「1か月ほど前に自宅をリフォームし、収納場所が変わった」という情報が重要です。症状が突然大きく悪化したというより、環境側の変更によって生活上の困難が顕在化したと読むことができます。
関連知識|Alzheimer型認知症
Alzheimer型認知症では、記憶障害を中心に、進行に伴って見当識、遂行機能、言語などにも影響が広がります。ただし、診断があってもすべての生活機能が一様に失われるわけではありません。軽度の段階では、工夫しながら地域生活を継続できる人も多くいます。
基礎的な症状整理については、第3回問22「Alzheimer型認知症について」も関連します。
関連知識|評価と生活機能
認知症評価では認知機能検査だけでなく、日常生活上の自立度や社会生活への影響を把握することが重要です。認知機能得点が同程度でも、環境や支援の有無によって生活上の困難は大きく異なります。
認知症の重症度評価の一つであるCDRについては、第3回問96「Clinical Dementia Rating」も参考になります。
試験での見分け方
この問題では、「認知症に使う治療法を選ぶ」のではなく、「Aの困りごとに最も直結する方法を選ぶ」と考えてください。回想法、運動、音楽療法はいずれも認知症領域で用いられますが、事例の中心課題との一致度が低いです。
本人の具体的な生活目標+残存能力+環境調整という組合せが見えたら、日常生活機能を補う認知リハビリテーション的介入を考えるのがポイントです。
誤答しやすいポイント
「スポーツジム」という語だけを見て③を選ばないことが重要です。Aがジムへ行けない理由は運動機能の低下ではなく、必要物品を準備できなくなったためです。事例問題では、表面的なキーワードではなく、行動が止まった直接の理由を確認します。
実務・臨床上の注意
実際の支援では、急激な認知機能変化や身体疾患、薬剤影響、気分症状などがないかも確認します。また、家族の負担や本人の希望を把握し、過度な管理にならないようにします。
本人が安全に活動を継続できる範囲を評価し、必要に応じて医師、作業療法士、看護師、介護職などと連携して支援します。本記事は試験問題の解説であり、個別の診断や治療判断を行うものではありません。
まとめ
正答は② 日常生活機能を補う方法の確立に焦点を当てた介入です。Aは、環境変化によって以前できていたジムの準備が難しくなっています。本人が続けたい生活活動を明確にし、物品配置や手順などを調整して日常生活機能を補うことが、この事例に最も合った非薬物的介入です。


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