公認理師資格試験 過去問解説 問10 高次脳機能 失読と失書

公認理師資格試験 過去問解説 問10 高次脳機能 失読と失書

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【令和3年10月29日14時】第4回公認心理師試験(令和3年9月19日実施)合格発表|講習・試験・登録|一般財団法人 日本心理研修センター 公認心理試験

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【問10】失読と失書

問10 失読と失書について、最も適切なものを1つ選べ。
① 純粋失書では、写字が保たれる。

② 失読失書の主な責任病巣は、海馬である。

③ 純粋失読の主な責任病巣は、帯状回である。

④ 失読失書では、なぞり読みが意味の理解に有効である。

⑤ 純粋失読では、自分が書いた文字を読むことができる。

出典:第4回公認心理師試験(令和3年9月19日実施)|一般社団法人日本心理研修センター

正答は ①

① 純粋失書では、写字が保たれる

失読失書

失読 arexia とは、文字通り、脳の局所損傷による読みの障害のことで、失書 agraphia は、脳の局所損傷による書きの障害です。

この両者は独立していますが、同時に生じることもあり、同時に生じた場合、失読失書といわれます。

また、単独で生じる場合は、純粋失読あるいは純粋失書といわれています。

話す・聞くといった障害はありませんが、読み書きが顕著に障害されてしまいます。

失読や失書が生じる脳の病変について簡単にまとめました。

  • 失読失書:左角回(仮名と漢字いずれも障害される)、左側頭葉にある下側頭回後部(漢字のみ障害)
  • 純粋失読:古典型(脳梁膨大部+後頭葉内側部)、非古典型(①紡錘状回型、②後頭葉後下部型)*機序は異なるが、現れる症状に大きな差はない
  • 純粋失書:中側頭回後部、角回、縁上回、上頭頂小葉、中前頭回後部

詳細は以下の論文を参考にしてみてください。

櫻井(2010). 読み書き障害の基礎と臨床. 高次脳機能研究, 30(1), 25-32.

選択肢の解説

① 純粋失書では、写字が保たれる

純粋失書の特徴は主に以下のようになっています。

  • 文字を書き始めることに困難があるが、時間をかければ文字そのものは正しく書ける
  • 複数の文字をまとめて文章を書くことに困難があり、文字の配列や組み合わせを間違える
  • 基本的には写字は保たれている(例外もある)

以上のことから、純粋失書では基本的に「写字が保たれる」ことがわかりますね。

② 失読失書の主な責任病巣は、海馬である

失読失書の責任病巣は、頭頂葉にある左角回 left angular gyrus です。

左角回は「視覚情報(文字)を音声情報に変換する」役割を果たしているため、この領域が障害されると文字の読み書きができなくなります。

海馬 hippocampas は記憶をつかさどる脳領域です。

③ 純粋失読の主な責任病巣は、帯状回である

純粋失読の責任病巣は、古典型(脳梁膨大部と左後頭葉内側下部)非古典型(紡錘状回と後頭葉後下部)の二種類があります。

帯状回 cingulate gyrus は、感情・学習・記憶などに関わりをもつ精神疾患との関連性も多く示されている脳領域ですが、純粋失読の責任病巣とはいえません。

よって、こちらの選択肢は不適切となります。

④ 失読失書では、なぞり読みが意味の理解に有効である

頭頂葉、特に角回を中心とする病巣でみられる失読失書においては、①漢字、仮名両方に障害がみられ、②読みでは仮名が、書字では漢字で障害が強くみられる。③なぞり読みが無効と言われているが、写字に関しては、Dejerine の症例と異なり、自分の字体で書き下し、保たれることが多いとする見解が多い。
出典:井堀(2016). 頭頂葉病変による読み書き障害. 神経心理学, 32(4), 290-300.

このように、基本的には「角回」を病巣とする失読失書では、「なぞり読み」は無効とさいわれています。

一方で、純粋失読に関しては、『仮名』において「なぞり読み」が意味の理解に有効です。

そのため、選択肢④「失読失書では、なぞり読みが意味の理解に有効である」という記述は不適切となり、「純粋失読」「仮名」というキーワードが含まれていれば正しい記載となりますね。

⑤ 純粋失読では、自分が書いた文字を読むことができる

純粋失読には古典型と非古典型(紡錘状回型と後頭葉後下部型)に類別されますが、いずれにも共通する症状は以下の通りになります。

①文字、単語ともに読めない。②患者は自分が書いたものも読めない。③単語を構成する文字を1字ずつゆっくり読んで最後にやっと意味がわかる(逐字読み letter-by-letter reading)。文字数(語の長さ)が多くなるほど、読みに時間を要し、誤りも多くなる(文字数(語長)効果 word-length effect)。⑤読めない文字を手でなぞると、読みに成功する(shreibendes Lesen、kinesthetic reading)ことがある。⑥読みに比べて,書字は保たれる。
出典:櫻井(2010). 読み書き障害の基礎と臨床. 高次脳機能研究, 30(1), 25-32.

このように、どの分類の純粋失読であっても自分が書いた文字を読むことができないことがわかります。

ちなみに、非古典型の二種類、紡錘状回型と後頭葉後下部型には以下のような違いがあります。

  • 紡錘状回型「漢字」の読みが著名に障害される
  • 後頭葉後下部型「仮名」の読みが著名に障害される

 



 

まとめ

第4回公認心理師資格試験の問10は、失読失書に関する問題でした!

 

  • 失読失書:左角回(仮名と漢字いずれも障害される)、左側頭葉にある下側頭回後部(漢字のみ障害)
  • 純粋失読:古典型(脳梁膨大部+後頭葉内側部)、非古典型(①紡錘状回型、②後頭葉後下部型)*機序は異なるが、現れる症状に大きな差はない
  • 純粋失書:中側頭回後部、角回、縁上回、上頭頂小葉、中前頭回後部

 

以下のキーワードは押さえておきましょう。

  • 失読失書:①漢字・仮名両方に障害がみられ、②読みでは仮名が、書字では漢字で障害が強くみられる。③なぞり読みが無効、④写字は保たれることが多い
  • 純粋失読:①文字、単語ともに読め図、②自分が書いたものも読めない。③単語を構成する文字を1字ずつゆっくり読んで最後にやっと意味がわかる。文字数(語の長さ)が多くなるほど、読みに時間を要し、誤りも多くなる(文字数(語長)効果 word-length effect)。⑤なぞり読みが有効なことがある。⑥読みに比べて,書字は保たれる
  • 純粋失書:①文字を書き始めることに困難があるが、時間をかければ文字そのものは正しく書ける。②複数の文字をまとめて文章を書くことに困難があり、文字の配列や組み合わせを間違える。③基本的には写字は保たれている(例外もある)