第3回公認心理師試験・午後問144は、長時間労働と疲労がみられる労働者に対して、公認心理師がどのような産業保健上の対応につなげるかを問う事例問題です。
正答は③「医師による面接指導の申出を行うよう、Aに勧める」です。
この問題では、心理面接だけで完結させず、長時間労働者に対する医師の面接指導制度へ適切につなぐ視点が重要です。
事例のポイント
Aは35歳の会社員で、製造業の大規模事業所に勤務しています。約3か月前に部署を異動し、1か月ほど前から疲労感が強くなり、体調不良による欠勤も増えています。
健康管理室で公認心理師Bに対し、仕事を続けていく自信がないこと、部下や後輩の指導に難しさを感じていること、疲労感が持続していることなどを話しています。
さらに、前月の時間外労働は約90時間とされています。
したがって、この事例では心理的なつらさだけでなく、長時間労働と疲労蓄積という産業保健上のリスクを見落とさないことが重要です。
正答は③「医師による面接指導の申出を行うよう、Aに勧める」
労働安全衛生法に基づく長時間労働者への面接指導では、一般の労働者について、時間外・休日労働時間が1か月当たり80時間を超え、疲労の蓄積が認められる者が、本人の申出により医師の面接指導の対象となります。
本問では、Aに前月約90時間の時間外労働があり、持続する疲労感や欠勤の増加なども示されています。
この状況でBに求められるのは、B自身が診断や就業判断を完結させることではなく、Aに医師による面接指導の申出を勧め、医学的評価につなげることです。
したがって、③が最も適切です。
長時間労働者への医師の面接指導とは
厚生労働省は、労働安全衛生法に基づき、一定の条件を満たす長時間労働者に対して医師が面接指導を行う制度を設けています。
医師は、労働時間や勤務状況、疲労の蓄積、心身の状態などを確認します。その結果を踏まえ、必要に応じて事業者が就業上の措置を検討できるよう医学的な意見を述べます。
ここで重要なのは、面接指導そのものが精神疾患の診断や休職決定を意味するわけではないという点です。
まず医学的な評価につなぎ、その後の対応を必要性に応じて検討するという流れになります。
「80時間超」と「本人の申出」をセットで押さえる
一般の労働者に対する長時間労働者面接指導では、試験対策上、次の3点をセットで整理すると分かりやすくなります。
- 時間外・休日労働時間が1か月当たり80時間を超える
- 疲労の蓄積が認められる
- 労働者本人から申出がある
本問の選択肢③が「医師の面接を受けさせる」ではなく、「面接指導の申出を行うようAに勧める」という表現になっている点にも注目できます。
なお、特殊な労働制度や職種では別の面接指導ルールが設けられている場合があります。本問は製造業の一般労働者の事例として整理します。
1,000名以上の大規模事業所という情報
厚生労働省によると、常時50人以上の労働者を使用する事業場では産業医の選任が必要であり、常時1,000人以上の労働者を使用する事業場では専属の産業医を選任する必要があります。
本問で「1,000名以上の従業員が在籍する大規模事業所」と示されていることは、産業保健体制を意識する手がかりになります。
ただし、設問の正答は特定の産業医へ直接つなぐことではなく、あくまで医師による面接指導の申出をAに勧めることです。
① Aに休職を勧告する、が不適切な理由
Aには疲労感や欠勤の増加がみられますが、この情報だけでBが直ちに休職を決定することは適切ではありません。
まずは長時間労働による健康影響も含めて医師の評価につなぎ、その結果を踏まえて必要な対応を検討することが重要です。
したがって、①よりも③が優先されます。
② 上司に連絡して業務分掌の変更を要請する、が不適切な理由
業務負担の調整が最終的に必要になる可能性はあります。
しかし、Bが面談内容だけを根拠に直ちに上司へ連絡し、業務分掌の変更を要請することが第一選択とはいえません。
労働者の心身の状態に関する情報は適切に取り扱う必要があります。本人の意向や事業場の情報取扱規程、必要な医療・産業保健上の評価などを踏まえて連携を検討します。
そのため、本問ではまず③の医師面接への接続が適切です。
④ 傾聴して「仕事を気にしないように」と助言する、が不適切な理由
積極的な傾聴そのものは心理支援として重要です。
しかし、本問では約90時間の時間外労働と持続する疲労感が示されており、傾聴だけで産業保健上のリスクへの対応を終えることは不十分です。
また、「あまり仕事のことを気にしないように」という助言だけでは、Aが抱える労働負荷や健康上の問題への具体的な対応にはなりません。
⑤ 「急性のストレス反応」と判断して観察を続ける、が不適切な理由
この事例の情報だけから、Aを急性のストレス反応であると診断的に決めることはできません。
さらに、秘密保持に配慮して定期的に観察するだけでは、長時間労働と疲労蓄積に対する制度上の対応につながりません。
秘密保持は重要ですが、健康情報は本人の意向、事業場の規程、安全確保や法令上の必要性などに沿って適切に取り扱う必要があります。「秘密だから何も連携しない」と単純化しないことが重要です。
試験対策:心理職だけで抱え込まない
産業領域の事例では、心理的な訴えを丁寧に聴くことに加えて、労働時間、身体症状、欠勤、業務上のリスク、産業保健制度を確認する視点が必要です。
公認心理師が単独で診断や就業判断を行うのではなく、必要に応じて医師や産業保健スタッフにつなぐことが重要になります。
本問では、
- 前月の時間外労働:約90時間
- 疲労感の持続
- 欠勤の増加
- 仕事を続ける自信の低下
という情報から、長時間労働者への医師の面接指導制度を想起できるかがポイントです。
2026年現在の制度との関係
2026年現在も、厚生労働省は長時間労働者への医師による面接指導制度を案内しています。
一般の労働者については、時間外・休日労働時間が月80時間を超え、疲労の蓄積が認められる者から申出があった場合に医師による面接指導を行うという基本的な枠組みが確認できます。
そのため、第3回試験の本問について、現在の制度を確認しても、③「医師による面接指導の申出を行うよう、Aに勧める」という理解は維持できます。
まとめ
- 第3回公認心理師試験・午後問144の正答は③
- Aには前月約90時間の時間外労働と持続する疲労がある
- 一般労働者の長時間労働者面接指導では「月80時間超」「疲労蓄積」「本人の申出」を押さえる
- BはAに医師による面接指導の申出を勧める
- 面接指導は精神疾患の診断や休職決定そのものではない
- 上司への情報共有や業務調整は、本人の意向・情報取扱規程・医学的評価などを踏まえて検討する
- 心理職だけで抱え込まず、産業保健制度へつなぐ視点が重要



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