第6回公認心理師試験・午前問41は、共感性〈empathy〉の性質と働きについて、不適切な説明を見分ける問題です。正答は ①「同情と同一の概念である」 です。
共感性は、他者の感情や立場を理解する認知的側面と、他者の情動へ反応する情動的側面を含む多面的な概念です。一方、同情〈sympathy〉は他者の苦痛や困難に対して心配・いたわり・気の毒に思う感情などを指すことがあり、共感と重なる部分はあっても同一概念ではありません。
この問題では、心理支援で「共感が大切」という一般論だけで解くのではなく、共感性を心理学的な構成概念として整理できるかがポイントです。
- 問題
- 正答は①|共感と同情は同一ではない
- 共感性は一つの能力ではない
- ② 認知的共感性と情動的共感性に大別される
- 共感性と心の理論の違い
- ③ 他者の理解を深め、円滑な対人関係の基礎となる
- 共感性が高ければ常に良いわけではない
- ④ 共感性の程度は他者の情動状態への感受性の指標として使われる
- 尺度得点だけで「この人は共感できない」と決めない
- ⑤ 他者の情動状態を知覚することに伴って生起する情動反応
- 共感と同情の違い
- 共感と共感的関心の違い
- 公認心理師の支援における共感
- Rogersの「共感的理解」との関係
- 情緒的サポートとのつながり
- 試験での見分け方
- まとめ
- 関連記事
- 参考資料
- Yamashun|臨床心理士・公認心理師
- 公認心理師試験の過去問解説を続けて読む
問題
問題の要旨: 共感性の性質や働きに関する5つの説明のうち、不適切なものを1つ選びます。
- 共感性は同情と同一の概念である。
- 認知的共感性と情動的共感性に大別できる。
- 他者理解を深め、円滑な対人関係の基礎になる。
- 共感性の程度は、他者の情動状態への感受性を捉える指標として用いられる。
- 他者の情動状態を知覚することで生じる情動反応という側面をもつ。
※公式問題の内容を学習用に整理しています。正答は ① です。
正答は①|共感と同情は同一ではない
共感〈empathy〉と同情〈sympathy〉は日常語では似た意味で使われることがあります。
しかし、心理学や対人援助の文脈では区別して考えます。
共感は、他者の感情や視点を理解したり、他者の情動状態に反応したりする過程です。
一方、同情は、他者の苦痛や不幸を見たときに、
- 心配する
- 気の毒に思う
- かわいそうだと感じる
- 助けたいと感じる
といった他者志向的な感情反応として説明されることがあります。
両者は関連しますが、「まったく同じ概念」とするのは不適切です。
共感性は一つの能力ではない
共感性を「相手と同じ気持ちになること」だけで理解すると、問題を解きにくくなります。
研究では共感を多面的な構成概念として扱い、代表的には、
- 認知的共感
- 情動的共感
の2側面に分けることがあります。
さらに研究によっては、
- 共感的関心
- 視点取得
- 個人的苦痛
- 行動的反応
- 道徳的・動機づけ的側面
などを区別することもあります。
したがって、「共感性」という言葉が出たら、一枚岩の性格特性ではなく、複数の心理過程が含まれる概念だと理解します。
② 認知的共感性と情動的共感性に大別される
これは適切な説明です。
認知的共感
認知的共感〈cognitive empathy〉は、相手がどのような気持ち・考え・立場にいるかを理解する側面です。
たとえば、
「この人は失敗そのものより、周囲からどう見られるかを心配しているのかもしれない」
と相手の視点や心理状態を推測することです。
自分自身が相手と同じ感情になる必要はありません。
そのため、認知的共感は、
相手の内的状態を理解する力
と整理すると分かりやすいです。
情動的共感
情動的共感〈affective empathy〉は、他者の情動を知覚したとき、自分にも情動的な反応が生じる側面です。
たとえば、強く不安そうな人を見たときに、自分も胸がざわつくような反応が生じることがあります。
ただし、情動的共感は単純な「感情のコピー」と同じではありません。
他者の感情に反応しながらも、
これは相手の感情であり、自分の感情とは区別される
という自己―他者の区別も重要です。
共感性と心の理論の違い
認知的共感は「他者の心を理解する」という点で心の理論〈Theory of Mind〉と近い部分があります。
しかし、完全に同じではありません。
心の理論は、他者が自分とは異なる信念、意図、知識を持つことを推測する能力を広く指します。
一方、認知的共感では、とくに相手の感情や情動的な視点を理解することが重視されます。
試験では、
他者の信念・意図を推測 → 心の理論
他者の感情・立場を理解 → 認知的共感
と整理すると役立ちます。
③ 他者の理解を深め、円滑な対人関係の基礎となる
これは適切です。
他者が何を感じ、どのように状況を受け止めているのかを理解できることは、対人関係を調整するうえで重要です。
共感性が働くと、
- 相手の反応を理解しやすくなる
- 自分の言動が相手にどう届くか考えやすくなる
- 相手の意図を一方的に決めつけにくくなる
- 相手の状態に応じた反応を選びやすくなる
といったことにつながります。
そのため、共感性は対人コミュニケーションや援助関係を考える基礎概念の一つです。
共感性が高ければ常に良いわけではない
ここは試験の先の理解として重要です。
共感は対人関係に役立ちますが、「強ければ強いほどよい」という単純なものではありません。
他者の苦痛に強く反応しすぎると、自分自身が圧倒されることがあります。
このような反応は、個人的苦痛〈personal distress〉などの概念と関連づけて研究されます。
援助職では、
- 相手の体験を理解する
- 情動に反応する
- しかし自分と相手を混同しない
- 必要な専門的判断を保つ
というバランスが重要です。
つまり、共感は「相手と一緒に苦しくなること」そのものではありません。
④ 共感性の程度は他者の情動状態への感受性の指標として使われる
これも適切な説明です。
心理学では、共感性を質問紙などで測定し、他者の感情や立場への感受性、視点取得、共感的関心などを検討することがあります。
代表的な尺度としてInterpersonal Reactivity Index〈IRI〉などが知られています。
IRIでは、共感を単一得点だけでなく、
- 視点取得
- 共感的関心
- 空想
- 個人的苦痛
など複数の側面から捉えます。
このことからも、共感性が多面的な概念であることが分かります。
尺度得点だけで「この人は共感できない」と決めない
心理尺度の得点は、特定の構成概念を一定の方法で測定した結果です。
得点だけで人格や人間性を断定することはできません。
共感的反応は、
- 相手との関係
- 状況
- ストレス
- 疲労
- 文化
- 経験
- 情動調整能力
などにも影響されます。
公認心理師試験では尺度の目的や構成概念を理解しつつ、実践では測定結果を他の情報と統合して考える姿勢が重要です。
⑤ 他者の情動状態を知覚することに伴って生起する情動反応
これは、情動的共感の側面として理解できます。
たとえば、誰かが恐怖を感じている場面を見たとき、観察者にも情動的な反応が生じることがあります。
このとき、相手の感情を認知的に理解するだけでなく、観察者側にも情動反応が生じています。
したがって⑤は、共感性全体の定義を一文で完全に表したものではありませんが、共感性の情動的側面を説明する記述として適切です。
本問は「最も不適切なもの」を選ぶため、明確に誤っている①が正答です。
共感と同情の違い
試験対策として、次のように整理できます。
共感
- 相手の感情・立場を理解する
- 相手の情動へ反応する
- 認知的側面と情動的側面がある
- 自己と他者を区別しながら理解する
同情
- 相手の苦痛や不幸に対して気の毒に思う
- 心配する
- いたわりや援助したい気持ちを持つ
共感が「相手の立場・感情を理解すること」を含むのに対し、同情では「相手について心を痛める」という他者志向的感情が中心になることがあります。
研究領域によって用語の定義には幅がありますが、同一概念ではないという点は押さえます。
共感と共感的関心の違い
共感的関心〈empathic concern〉は、困っている他者に対する温かさ、配慮、心配などを指す概念です。
これは同情と近い性質をもつ場合があります。
ここで大切なのは、「共感」という大きな構成概念の中に、他者理解、情動反応、共感的関心など複数の側面が含まれ得ることです。
したがって試験で用語を見たときは、
何を理解しているのか
何を感じているのか
誰に向いた感情なのか
を分けて考えます。
公認心理師の支援における共感
心理支援では、相手の話を共感的に理解することが重視されます。
ただし、専門的支援における共感は、
「あなたの気持ちは完全に分かります」
と断定することではありません。
むしろ、
- 相手がどのように経験しているかを理解しようとする
- 理解した内容を確かめる
- 自分の解釈を押しつけない
- 相手と自分の体験を区別する
- 必要に応じて見立てを修正する
という継続的な過程です。
この点は、Rogersの来談者中心療法で重視される共感的理解とも関連します。
Rogersの「共感的理解」との関係
C. R. Rogersは、心理療法関係において共感的理解を重視しました。
ただし今回の問41は、Rogersの理論だけを問うものではありません。
より広く、心理学における共感性の一般的性質、
- 認知的共感
- 情動的共感
- 対人理解
- 情動への感受性
を問うています。
したがって、「共感=ロジャーズ」とだけ覚えるのではなく、社会心理学、発達心理学、認知神経科学などでも研究される構成概念として理解します。
情緒的サポートとのつながり
第4回午前問60では、孤立している母親に対して、他者との交流を通じて共感・受容・安心感を得られる環境をつくる「情緒的サポート」が問われました。
情緒的サポートは、共感そのものと同一ではありませんが、
- 共感的に話を聴いてもらう
- 受け止めてもらう
- 安心感を得る
といった対人関係上の働きと関連します。
「共感という心理過程」と「共感的な関わりを含む社会的支援」を分けつつ関連づけると理解が深まります。
試験での見分け方
共感性の問題では、次のポイントを押さえます。
- 共感と同情は同じではない
- 認知的共感と情動的共感がある
- 共感は他者理解・対人関係に関係する
- 共感性は測定対象となる心理学的構成概念である
- 情動的共感では、他者の情動を知覚することで観察者にも情動反応が生じる
- 共感には自己―他者の区別が重要
本問では①だけが明確に不適切です。
まとめ
第6回公認心理師試験・午前問41の正答は ①「同情と同一の概念である」 です。
共感性は、相手の感情や立場を理解する認知的側面と、相手の情動に反応する情動的側面を含む多面的な概念です。
同情と重なる部分はありますが、同じ概念ではありません。
試験では、
認知的共感=理解する
情動的共感=感じる・情動反応が生じる
同情=相手を気遣う他者志向的感情
という大枠を整理しておくと判断しやすくなります。
関連記事
参考資料
- 一般財団法人 公認心理師試験研修センター|第6回公認心理師試験 午前問題・正答
- Jeffrey D. Empathy, sympathy and compassion in healthcare: Is there a problem? Is there a difference? Does it matter?
- Empathy research reviews on cognitive and affective empathy

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