公認心理師資格試験 過去問解説 問74 事例問題:高次脳機能障害の疑い

公認心理師資格試験 過去問解説 問74 事例問題:高次脳機能障害の疑い

第3回公認心理師試験の過去問や正答は以下のサイトで入手可能です。

第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター

 

公認心理師資格試験の過去問をしっかりと振り返ることで「自分に必要な知識は何か」を知るための手がかりとしてくださいね!

 

 

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【問74】事例問題:高次脳機能障害の疑い

問74 21 歳の男性 A、大学3年生。A は将来の不安を訴えて、学生相談室を訪れ、公認心理師 B と面談した。A は、平日は大学の授業、週末はボクシング部の選手として試合に出るなど、忙しい日々を送っていた。3か月前にボクシングの試合で脳震とうを起こしたことがあったが、直後の脳画像検査では特に異常は認められなかった。1か月前から、就職活動のために OB を訪問したり説明会に出たりするようになり、日常生活がさらに慌ただしくなった。その頃から、約束の時間を忘れて就職採用面接を受けられなかったり、勉強に集中できずいくつかの単位を落としてしまったりするなど、失敗が多くなった。
B の A への初期の対応として、不適切なものを1つ選べ。

① 高次脳機能障害の有無と特徴を評価する。

② 医師による診察や神経学的な検査を勧める。

③ 不安症状に対して、系統的脱感作の手法を試みる。

④ 現在悩んでいることを共感的に聴取し、問題の経過を理解する。

出典:第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター

 

正答は ③

 

③ 不安症状に対して、系統的脱感作の手法を試みる

となります。

 

ここで事例Aをまとめてみましょう❗️

21歳 男性 大学3年生 ボクシング部所属

主訴:将来に対する不安

3ヵ月前、ボクシングの試合で脳震とうを起こしたことがあったが、直後の脳画像検査では特に異常は認められなかった。

1ヵ月前から、就職活動のために OB を訪問したり説明会に出たりするようになり、日常生活がさらに慌ただしくなった。

その頃から、約束の時間を忘れて就職採用面接を受けられなかったり、勉強に集中できずいくつかの単位を落としてしまったりするなど、失敗が多くなった。

 

Aの事例を見てみると、「不注意・実行機能症状」が日常生活に支障を来たしている状態と考えられますね。

 

大きく以下の2つの可能性があります。

  • 複数回脳震とうを繰り返したことで何らかの器質的な障害が生じるようになった
  • 元々存在した不注意症状が、日常生活が多忙になることによって、強く目立つようになった

 

勿論、第3の可能性として、不安症状や抑うつ症状のために不注意・実行機能症状が出現しているというケースもなくはないですが、Aは就職活動や部活など精力的に活動に従事することができているため、上の2つの可能性を考える必要があります。

 

3ヵ月前に脳震とうを1度起こしており、その際は器質的な異常は認められていませんが、Aはその後もボクシングを継続していることがポイントになります。

 

脳震とう後に認知機能の障害が生じることは珍しくないですが、通常では一時的なもので数週間以内に症状が回復するとされています。

 

Aの場合、1ヵ月前から症状が継続していることと、ボクシングというスポーツの性質上、複数回脳震とうを繰り返したことによる慢性外傷性脳症 Choronic Traumatic Encephalopathy:CTEという疾患にも注意が必要です。

 



選択肢の解説

① 高次脳機能障害の有無と特徴を評価する

 

高次脳機能障害とは❓
高次脳機能障害=頭のケガや病気により脳に損傷を負ったことで、「記憶障害」「注意障害」「遂行機能障害」「社会的行動障害」などの認知機能障害が生じて、日常生活に支障を来たしている状態

 

高次脳機能障害の診断については以下のようになされていきます。

Ⅰ.主要症状等
1. 脳の器質的病変の原因となる事故による受傷や疾病の発症の事実が確認されている。
2. 現在、日常生活または社会生活に制約があり、その主たる原因が記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害である。

Ⅱ.検査所見
MRI、CT、脳波などにより認知障害の原因と考えられる脳の器質的病変の存在が確認されているか、あるいは診断書により脳の器質的病変が存在したと確認できる。

Ⅲ.除外項目
1. 脳の器質的病変に基づく認知障害のうち、身体障害として認定可能である症状を有するが上記主要症状(I-2)を欠く者は除外する。
2. 診断にあたり、受傷または発症以前から有する症状と検査所見は除外する。
3. 先天性疾患、周産期における脳損傷、発達障害、進行性疾患を原因とする者は除外する。

Ⅳ.診断
1. I〜IIIをすべて満たした場合に高次脳機能障害と診断する。
2. 高次脳機能障害の診断は脳の器質的病変の原因となった外傷や疾病の急性期症状を脱した後において行う。
3. 神経心理学的検査の所見を参考にすることができる。
なお、診断基準のIとIIIを満たす一方で、IIの検査所見で脳の器質的病変の存在を明らかにできない症例については、慎重な評価により高次脳機能障害者として診断されることがあり得る。
また、この診断基準については、今後の医学・医療の発展を踏まえ、適時、見直しを行うことが適当である。

出典:高次脳機能障害を理解する|国立障害者リハビリテーションセンター

 

今回の問題では、Aが過去に同様の「不注意症状」があったかどうかが不明瞭ですが、「1ヵ月以上、認知機能障害が継続していること」と「ボクシングというスポーツの性質上、複数回脳震とうを繰り返している可能性があること」から、その他の高次脳機能障害の症状の症状を確認することは重要な観点といえます。

 

よって、選択肢①「高次脳機能障害の有無と特徴を評価する」は正しい記述といえます。

 

② 医師による診察や神経学的な検査を勧める

こちらの選択肢も、高次脳機能障害の可能性を念頭に置いたものとなりますね。

 

事例の情報からは確実な判断はできませんが、公認心理師の対応においても、医療的な介入が必要とされる器質的・身体的疾患の可能性を検討することが最も優先される事項となります。

 

先ほど確認したように、高次脳機能障害の診断には神経学的な検査が行われる必要があるため、医療機関への受診と適切な検査を行うことを勧めるのは妥当な判断といえますね。

 

よって、選択肢②「医師による診察や神経学的な検査を勧める」は適切な記述と判断できます。

 

③ 不安症状に対して、系統的脱感作の手法を試みる

こちらの選択肢は、主訴である将来の不安に対する対症療法的な介入を意味していますね。

 

全く的外れという印象は受けませんが、Aは突然生じた不注意・実行機能の症状」による失敗体験によって将来への不安が生じていることが推察されるため、この認知機能障害を何とかしないことには将来の不安が解決していくことはないでしょう。

 

来談時に不安や緊張が強いようであれば、初期対応として軽等的脱感作法を試みるのは悪くないと思われますが、他の選択肢との兼ね合いで考えると優先度が低くなりそうです。

 

そのため、選択肢③「不安症状に対して、系統的脱感作の手法を試みる」は、完全に不適切というわけではないですが、他の選択肢との兼ね合いから優先度が低く、問題の解答となります。

 

④ 現在悩んでいることを共感的に聴取し、問題の経過を理解する

選択肢③の解説で、Aの状態を突然生じた「不注意・実行機能の症状」による失敗体験によって将来への不安が生じていると評価しました。

 

このような状態で来談しているため、A自身が自分の状態を理解できず不安で混乱している可能性があります。

 

場合によっては、二次的に気分障害や不安障害などのその他の精神的な問題が生じていく可能性もあります。

 

そのため、Aの悩みに寄り添った上で、公認心理師Bが問題の経過を丁寧に整理・理解して、今後の見通しをAと一緒に考えていく必要があるでしょう。

 

以上のことから、選択肢④「現在悩んでいることを共感的に聴取し、問題の経過を理解する」は適切な記述と考えられます。



まとめ

第3回公認心理師資格試験の問74は、事例問題:高次脳機能障害の疑いに関する問題でした❗️

 

高次脳機能障害とは❓
頭のケガや病気により脳に損傷を負ったことで、「記憶障害」「注意障害」「遂行機能障害」「社会的行動障害」などの認知機能障害が生じて、日常生活に支障を来たしている状態

 

Aの事例概要からは、

① 複数回脳震とうを繰り返したことで何らかの器質的な障害が生じるようになった

② 元々存在した不注意症状が、日常生活が多忙になることによって、強く目立つようになった

 

という2つの可能性が考えられますが、身体的・器質的疾患の疑いを評価することを最優先にする必要があります❗️