公認心理師資格試験 過去問解説 第5回 午前 問74|テストバッテリーとIES-R

第5回公認心理師試験 午前問74 テストバッテリーとIES-Rの解説図 公認心理師試験

第5回公認心理師試験・午前問74は、職場不適応と対人不安を訴える会社員の事例から、アセスメントのテストバッテリーに含める心理検査として不適切なものを選ぶ問題です。正答は ③ IES-R です。

この問題では、それぞれの心理検査が何を測定するのかを理解したうえで、

「この事例で何を確認したいのか」

と結び付ける必要があります。

Aには、

  • 営業部署への異動後に意欲が低下
  • 出社できない日がある
  • もともとコミュニケーションが苦手
  • 人と会うことへの恐怖
  • 取引先とのやりとりへの強い不安

がみられます。

このため、

  • 自閉スペクトラム傾向
  • 抑うつ
  • 社交不安
  • 状態・特性不安

を把握する尺度は検討可能です。

一方、IES-Rは外傷的出来事による主観的苦痛やPTSD関連症状を評価する尺度であり、この事例には明確な外傷的出来事が示されていません。

第5回公認心理師試験 午前問74 テストバッテリーとIES-Rの解説図

問題

問題の要旨: 29歳の男性会社員A。経理部門から営業部へ異動後、仕事に慣れず、意欲低下や欠勤がみられるようになりました。もともとコミュニケーションが苦手でしたが、現在は人と会うことにも恐怖を感じ、営業継続への不安を訴えています。

このAのアセスメントで、テストバッテリーに含める心理検査として不適切なものを選びます。

  1. AQ-J
  2. BDI-II
  3. IES-R
  4. LSAS-J
  5. STAI

正答は ③ IES-R です。

正答は③|IES-Rは外傷体験後のストレス反応を評価する

IES-R〈Impact of Event Scale-Revised〉は、外傷的出来事を体験した後にみられる主観的苦痛を評価する自己記入式尺度です。

主に、

  • 侵入症状
  • 回避症状
  • 過覚醒症状

といったPTSD関連症状を把握します。

回答者は通常、特定のストレスフル・外傷的出来事を念頭に置きながら、最近どの程度その症状に悩まされているかを回答します。

本事例のAには、

  • 営業への異動
  • 仕事への不適応
  • 対人場面の恐怖
  • 意欲低下

はありますが、IES-Rの使用を積極的に支持するような外傷的出来事は示されていません。

したがって③が最も不適切です。

テストバッテリーとは

テストバッテリーとは、1つの心理検査だけでなく、複数の検査を目的に応じて組み合わせることです。

重要なのは、

「検査をたくさん実施すれば詳しく分かる」

という発想ではありません。

検査にはそれぞれ測定対象があり、

  • 何を明らかにしたいのか
  • 事例のどの仮説を確かめたいのか
  • 面接や行動観察では得にくい何を補うのか

を考えて選択します。

本問では、Aの状態に対する複数の仮説を整理してテストバッテリーを組みます。

① AQ-Jを検討できる理由

AQ-J〈Autism-Spectrum Quotient Japanese version〉は、自閉スペクトラム傾向を把握するための質問紙です。

Aには、

  • もともとコミュニケーションが苦手
  • 同僚や上司にうまく頼れない
  • 新しい営業場面への適応が難しい

という情報があります。

もちろん、

コミュニケーションが苦手=自閉スペクトラム症

ではありません。

しかし、発達特性が職場適応にどの程度関係しているかを検討する仮説の一つとしてAQ-Jを組み込むことは考えられます。

AQ-Jは診断そのものではなく、特性を把握する補助的な尺度として位置づけます。

AQ-Jの得点だけで診断しない

AQ-Jのような自己記入式尺度はスクリーニングや特性理解に役立ちますが、得点だけでASDの診断を行うことはできません。

発達歴、

  • 幼少期の対人関係
  • 学校生活
  • 興味の偏り
  • 感覚特性
  • 社会的コミュニケーション
  • 適応状況

などを総合的に確認する必要があります。

本問は「AQ-Jを実施すればAはASDと分かる」という問題ではありません。

② BDI-IIを検討できる理由

BDI-II〈Beck Depression Inventory-II〉は、抑うつ症状の程度を評価する代表的な自己記入式尺度です。

Aには、

  • 意欲の減退
  • 出社できない日がある

という情報があります。

そのため、

  • 抑うつ気分
  • 興味や喜びの低下
  • 自己評価
  • 睡眠
  • 疲労
  • 集中
  • 希死念慮

などを含む抑うつ症状の程度を確認することには意味があります。

したがって②はテストバッテリーに含めることが検討できます。

④ LSAS-Jを検討できる理由

LSAS-J〈Liebowitz Social Anxiety Scale Japanese version〉は、社交不安症状を評価する尺度です。

主に、

  • 社会的状況で感じる恐怖・不安
  • その状況を回避する程度

を確認します。

Aは現在、

「人と会うのも怖い」

と訴えています。

また、営業では、

  • 取引先との会話
  • 相手から評価される場面
  • 初対面の人との交流
  • 人前での説明

など、社交不安が表れやすい場面が多くあります。

そのためLSAS-Jは、本事例の主要な訴えを評価する検査として適切です。

⑤ STAIを検討できる理由

STAI〈State-Trait Anxiety Inventory〉は、不安を、

  • 状態不安〈state anxiety〉
  • 特性不安〈trait anxiety〉

に分けて評価する尺度です。

状態不安は、

「今この状況でどの程度不安を感じているか」

を示します。

特性不安は、

「普段から不安を感じやすい傾向がどの程度あるか」

を示します。

Aは営業の仕事を続けることへの強い不安を訴えているため、現在の不安の程度や、もともとの不安傾向を整理するためにSTAIを含めることは考えられます。

IES-Rが適さない最大の理由

IES-Rを選ぶには、通常、

「何という外傷的出来事に対する反応を測定するのか」

が必要です。

本事例には、

  • 事故
  • 災害
  • 暴力被害
  • 性被害
  • 生命の危険
  • 強い外傷的出来事

などは提示されていません。

「営業への異動が本人にとって強いストレスだった」というだけで、直ちにIES-Rの対象となる外傷体験と考えるのは適切ではありません。

したがって③が不適切です。

ストレスとトラウマを区別する

この問題では、

ストレスが強い=IES-R

と考えないことが重要です。

仕事への異動や人間関係の変化は、大きな心理的ストレスになり得ます。

しかしIES-Rは、一般的な職業ストレスや適応困難を広く測る尺度ではありません。

外傷的出来事に関連する症状を評価するための尺度です。

この区別が、本問の決め手です。

第4回午前問76とつなげる

Ig Knowledgeの第4回午前問76では、交通事故を目撃した大学生に対してIES-RとBDI-IIが実施される事例を扱っています。

その事例では、

「交通事故を目撃した」

という明確な外傷的出来事があります。

したがってIES-Rを使用する理由があります。

今回の問74では、明確な外傷的出来事が示されていません。

同じIES-Rでも、

何を測るために使うのか

によって適否が変わります。

心理検査は仮説に合わせて選ぶ

Aの事例からは、たとえば次の仮説を考えられます。

仮説1|抑うつ症状が強まっている

→ BDI-II

仮説2|社交不安が強い

→ LSAS-J

仮説3|もともとの不安傾向が高い

→ STAI

仮説4|発達的な社会コミュニケーション特性がある

→ AQ-J

一方、

仮説5|外傷体験後のPTSD関連症状

→ IES-R

については、事例文から支持する情報が不足しています。

このように、検査名を暗記するのではなく、検査と仮説を対応させることが重要です。

テストバッテリーで同じものばかり測らない

複数の心理検査を実施する際は、似た尺度を重ねるだけではなく、それぞれ異なる情報を得られるように組み合わせます。

本問の適切な検査は、

  • AQ-J → 発達特性
  • BDI-II → 抑うつ
  • LSAS-J → 社交不安
  • STAI → 状態・特性不安

と、異なる角度からAを理解できます。

そのうえで、

  • 面接
  • 行動観察
  • 職場での状況
  • 発達歴
  • 生活歴

と統合してアセスメントを行います。

「検査を実施する=診断をつける」ではない

心理検査は、診断名を自動的に決める機械ではありません。

得点が高かった場合も、

  • 何が得点に影響したのか
  • 本人が質問をどう理解したか
  • 現在の環境要因は何か
  • 他の情報と一致しているか

を確認する必要があります。

特に本事例のように、部署異動という明確な環境変化がある場合、

本人側の特性だけでなく、職場環境とのミスマッチ

も考慮する必要があります。

適応障害との鑑別も考える

Aは部署異動後に症状が強くなっています。

そのため、臨床的には適応障害を含むストレス関連の問題も鑑別候補になります。

ただし、適応障害だからIES-Rが適切というわけではありません。

IES-Rは外傷的出来事に関連した症状の尺度です。

「ストレス関連」という大きなくくりだけで検査を選ばないことが重要です。

第3回問52「不安」とつなげる

Ig Knowledgeの第3回問52では、全般性不安障害の症状を扱っています。

不安症には、

  • 社交不安
  • 全般性不安
  • パニック
  • 特定の恐怖

など、さまざまな形があります。

今回のAでは、人と会うことへの恐怖や営業場面への不安が目立つため、LSAS-JやSTAIが候補になります。

試験での見分け方

心理検査問題では、まず何を測る検査かを一言で言えるようにします。

  • AQ-J → 自閉スペクトラム傾向
  • BDI-II → 抑うつ
  • IES-R → 外傷後ストレス反応
  • LSAS-J → 社交不安
  • STAI → 状態不安・特性不安

そして事例に、

外傷的出来事があるか

を確認します。

本問には外傷的出来事がないため③です。

まとめ

第5回公認心理師試験・午前問74の正答は ③ IES-R です。

Aには、

  • 抑うつ
  • 社交不安
  • 不安傾向
  • 発達特性

を確認する必要性は考えられます。

しかし、IES-Rを使用する前提となる外傷的出来事は示されていません。

試験では、心理検査の名称だけでなく、

「その検査は何を測るのか」

を事例と結び付けて判断しましょう。

関連記事

参考資料

  • 一般財団法人 公認心理師試験研修センター|第5回公認心理師試験 午前問題・正答
  • U.S. Department of Veterans Affairs, National Center for PTSD|IES-R
  • APA|State-Trait Anxiety Inventory
  • AQ-Jに関する日本語版研究
  • LSAS-Jに関する日本語版研究

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