第4回公認心理師試験・午後問90は、親密な対人関係を説明する代表的な社会心理学理論を見分ける問題です。正答は ③ 社会的交換理論 です。
社会的交換理論では、人間関係を「どれだけ得をするか」という単純な損得勘定だけで捉えるのではなく、関係の中で得られる報酬と負担、過去の経験から形成された期待、他に取り得る関係の選択肢などを踏まえて、関係の満足や継続を説明します。
試験では、社会的交換理論と、
- 社会的絆理論
- 社会的学習理論
- 社会的比較理論
- 社会的アイデンティティ理論
を区別できることが重要です。

問題
親密な対人関係の説明原理として、最も適切なものを1つ選びます。
- 社会的絆理論
- 社会的学習理論
- 社会的交換理論
- 社会的比較理論
- 社会的アイデンティティ理論
正答は ③ 社会的交換理論 です。
正答は③|社会的交換理論
社会的交換理論〈social exchange theory〉では、対人関係を、相互作用の中で得られる報酬〈reward〉とコスト〈cost〉の交換として捉えます。
たとえば親密な関係から得られる報酬には、
- 安心感
- 愛情
- 共感
- 援助
- 楽しさ
- 所属感
- 情報
- 社会的評価
などがあります。
一方、コストには、
- 時間
- 労力
- 葛藤
- 気遣い
- 行動の制約
- 経済的負担
- 他の機会を失うこと
などが含まれます。
人は、こうした報酬とコストのバランスを評価しながら、関係への満足や継続を判断すると考えます。
「報酬-コスト」で関係を考える
社会的交換理論の基本は、
Outcome = Rewards − Costs
という考え方です。
報酬が多く、コストが少ない関係では、結果〈outcome〉は高くなります。
ただし、結果がプラスであれば必ず満足するとは限りません。
同じ関係でも、
- 過去にどのような関係を経験してきたか
- 周囲の人間関係をどう見ているか
- どの程度の関係を「普通」と期待しているか
によって満足度は変わります。
ここで重要になるのが比較水準〈comparison level:CL〉です。
比較水準〈CL〉とは
比較水準とは、
「自分はこのくらいの関係なら満足できる」と考える基準
です。
この基準は、
- 過去の恋愛関係
- 家族関係
- 友人関係
- 周囲の人の人間関係
- 社会的・文化的な期待
などから形成されます。
たとえば同じ程度の支援や親密さが得られていても、過去に非常に満足度の高い関係を経験していた人と、そうでない人では、現在の関係の評価が異なる可能性があります。
つまり、
現在の関係の絶対的な良し悪しだけでなく、本人の基準との比較が満足に影響する
と考えます。
代替関係の比較水準〈CLalt〉
もう一つ重要なのが、代替関係の比較水準〈comparison level for alternatives:CLalt〉です。
これは、
「今の関係以外に、より良い選択肢があるか」
という判断です。
代替には、
- 別のパートナー
- 別の友人関係
- 別の集団
- 一人でいること
なども含まれます。
現在の関係に多少不満があっても、他の選択肢がさらに望ましくないと感じれば、関係は継続しやすくなります。
反対に、現在の関係に一定の満足があっても、より魅力的な代替関係が現れれば、関係が不安定になる場合があります。
満足と継続は同じではない
この理論を理解するうえで大切なのは、
満足しているかどうか
と
関係を続けるかどうか
を分けて考えることです。
比較水準〈CL〉は主に満足と関連し、代替関係の比較水準〈CLalt〉は関係への依存や継続と関連します。
たとえば、
「この関係には不満がある。でも他に頼れる人がいない」
という場合、満足度は低くても関係が継続することがあります。
社会的交換理論は、このような一見矛盾した関係の継続も説明できます。
親密な対人関係との関係
社会的交換理論は、
- 友人関係
- 恋愛関係
- 夫婦関係
- 援助関係
- 組織内の関係
など、さまざまな対人関係の形成・維持・解消を考える際に用いられます。
親密な関係では、金銭や物だけでなく、
- 信頼
- 愛情
- 支持
- 時間
- 自己開示
なども重要な交換資源になります。
したがって「交換」といっても、必ずしも金銭的な取引を意味するわけではありません。
互恵性〈reciprocity〉
社会的交換理論では、互恵性も重要な考え方です。
人は、相手から利益や援助を受けたとき、
「自分も何か返したい」
「一方的にもらい続けるのは落ち着かない」
と感じることがあります。
こうした相互性は、関係の安定や公平感に関係します。
ただし、親密な関係では、常に「同じ量をすぐ返す」という計算的な交換だけが行われるわけではありません。
長期的な関係では、より柔軟な相互性がみられます。
社会的交換理論と衡平理論
社会的交換理論と関連する理論に衡平理論〈equity theory〉があります。
社会的交換理論は、報酬とコストを中心に関係の結果を考えます。
一方、衡平理論では、
自分の投入と成果の比率が、相手の投入と成果の比率と釣り合っているか
という公平性を重視します。
たとえば、
「自分ばかり支えているのに、相手からはほとんど支援がない」
と感じると、関係への不満が高まる可能性があります。
両者は近い領域の理論ですが、試験では「報酬・コスト・比較水準」で社会的交換理論を見分けます。
① 社会的絆理論が違う理由
社会的絆理論〈social bond theory〉は、T. Hirschiによる犯罪・非行の理論として知られています。
この理論では、
- Attachment
- Commitment
- Involvement
- Belief
といった社会との絆が強いほど、非行や逸脱が抑制されると考えます。
親密な対人関係の形成・維持を報酬とコストから説明する理論ではありません。
したがって①ではありません。
② 社会的学習理論が違う理由
社会的学習理論では、行動が、
- 観察
- 模倣
- 強化
- モデリング
などを通して学習されることを重視します。
A. Banduraの観察学習が代表的です。
対人関係の中でも学習は重要ですが、「親密な関係をどのような原理で維持・評価するか」という本問には社会的交換理論の方が適切です。
④ 社会的比較理論が違う理由
L. Festingerの社会的比較理論では、人は自分の能力や意見を評価するために、他者と自分を比較すると考えます。
たとえば、
- 自分の成績は高いのか
- 自分の能力はどの程度か
- 自分の考え方は一般的か
を判断するとき、周囲の人と比較します。
これは自己評価の理論であり、親密な対人関係の交換過程を説明する理論ではありません。
⑤ 社会的アイデンティティ理論が違う理由
社会的アイデンティティ理論は、H. TajfelやJ. Turnerらによって発展した理論です。
人は、
- 学校
- 職業
- 国籍
- チーム
- 集団
など、自分が所属する集団を自己概念の一部として捉えます。
そして、
内集団と外集団の区別
や、
所属集団を肯定的に評価する傾向
などを説明します。
親密な二者関係の報酬・コストを説明する理論ではないため⑤ではありません。
「社会的」が付く理論を整理する
公認心理師試験では、「社会的○○理論」が複数登場します。
社会的交換理論
→ 報酬・コスト・比較水準
→ 対人関係の満足と継続
社会的比較理論
→ 他者との比較
→ 自己評価
社会的学習理論
→ 観察・模倣・強化
→ 行動の学習
社会的絆理論
→ 社会との絆
→ 非行抑制
社会的アイデンティティ理論
→ 集団所属
→ 自己概念・内集団/外集団
この対応を一行ずつ覚えておくと、選択肢を素早く整理できます。
第3回問87「社会的アイデンティティ理論」とつなげる
Ig Knowledgeでは、第3回問87で社会的アイデンティティ理論を扱っています。
社会的アイデンティティ理論では、自分が所属する集団を自己概念の一部として捉えます。
一方、今回の社会的交換理論は、
二者関係や対人相互作用の中で得られる報酬とコスト
に注目します。
「集団所属」か「関係の交換」かを区別すると理解しやすくなります。
試験での見分け方
親密な対人関係について、
- 報酬
- コスト
- 損得
- 比較水準
- 代替選択肢
- 関係の満足
- 関係の継続
というキーワードが出たら、社会的交換理論を考えます。
本問は理論名のみを選ぶ問題ですが、理論の中核を知っていれば確実に判断できます。
まとめ
第4回公認心理師試験・午後問90の正答は ③ 社会的交換理論 です。
社会的交換理論では、親密な対人関係を、
報酬 − コスト
という関係の結果と、
比較水準〈CL〉
代替関係の比較水準〈CLalt〉
から説明します。
試験では、「社会的○○理論」を名称だけで覚えず、各理論の中心概念とセットで整理しましょう。
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参考資料
- 一般財団法人 公認心理師試験研修センター|第4回公認心理師試験 午後問題・正答
- APA Dictionary of Psychology|Social Exchange Theory
- Thibaut JW, Kelley HH. The Social Psychology of Groups.


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