公認理師資格試験 過去問解説 問127 作業同盟・治療同盟

公認理師資格試験 過去問解説 問127 作業同盟・治療同盟

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第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター

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問127 作業同盟(治療同盟)に関する実証研究について、正しいものを1 つ選べ。

① 作業同盟が強固であるほど、介入効果は良好である。

② 作業同盟の概念には、課題に関する合意は含まれない。

③ 作業同盟の効果は、対人プロセス想起法によって測定される。

④ 作業同盟が確立していることは、心理療法の介入効果の必要十分条件である。

出典:第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター
正答は ①作業同盟が強固であるほど、介入効果は良好である

治療同盟

治療同盟 therapeutic aliance は、

精神分析療法における、患者と治療者との、協力や共同作業を示す概念である。

出典:心理学辞典|有斐閣

作業同盟 working aliance とも呼ばれます。

治療同盟はもともとは精神分析における概念でしたが、心理療法全般において広く活用されています。

要するに、「治療者とクライエントが、何か同じ目標を達成するために協働すること」を示しています。

選択肢の解説

①作業同盟が強固であるほど、介入効果は良好である

杉原(2020)によれば、作業同盟(治療同盟)は治療効果をもたらす重要な要因であることが一貫して示されてきたとされます。

また、同論文では、

作業同盟と治療効果との間には因果関係があると見なしうるという指摘もある

出典:杉原保史(2020). 心理療法において有効な要因は何か?ー特定要因と共通要因をめぐる論争ー, 京都大学学生総合支援センター紀要, 49, 1-13.

としています。

作業同盟(治療同盟)と治療効果に因果関係があるということは、「作業同盟が強固であるほど治療効果が良好」といえるということになります。

以上のことから、選択肢①「作業同盟が強固であるほど、介入効果は良好である」は正しい記述といえます。

②作業同盟の概念には、課題に関する合意は含まれない

Andrusyna et al(2001)Bordin(1979)によれば、作業同盟(治療同盟)には3つの要素があるとされます。

  1. 治療のゴールに関するクライエントとセラピストの合意
  2. ゴールにいかにして到達するかについてのセラピストとクライエントの合意
  3. セラピストとクライエント間の絆

こちらにある「ゴールにいかにして到達するかの合意」について、例えば、認知行動療法(CBT)の文脈では、「ゴール=クライエントが解決したい症状や問題」、「いかにして到達するか=認知行動療法の進め方(課題も含む)」となります。

ホームワーク(課題)は認知行動療法の重要なコンポーネントとなるため、上記のように、作業同盟の概念に含まれると考えられます。

よって選択肢②「作業同盟の概念には、課題に関する合意は含まれない」は不適切な記述といえます。

③作業同盟の効果は、対人プロセス想起法によって測定される

対人プロセス想起法 Interpersonal Process Recall:IPR とは、

IRRとは、Kagen,Krathwohl, & Miller(1963)が開発したビデオフィードバックを用いた臨床スキルの訓練方法である。初期のIPRでは、実際のカウンセリング場面やロールプレイを撮影し、クライアントと見返しながら、クライアントの体験やセッション中の変化を共有することで、セラピストのスキル向上を目指す。

出典:岩野他(2020). 対人プロセス想起法を用いた臨床スキル訓練の試験的実践, 大分大学臨床心理研究, 1, 13-20.

とあります。

近年では、作業同盟の効果に関して、対人プロセス想起法などによる質的な測定の必要性が指摘されてはいますが、現状の実証研究ではセラピストとクライエント双方に対する質問紙尺度による測定が主流となっています。

そのため、選択肢③「作業同盟の効果は、対人プロセス想起法によって測定される」は不適切な記述といえます。

④作業同盟が確立していることは、心理療法の介入効果の必要十分条件である

必要十分条件いう言葉は、ある2つの事象AとBがあるときに、「AならばB」「BならばA」が同時に成立することを意味します。

こちらの選択肢でいえば、「作業同盟が確立しているならば、心理療法の介入効果が良好」「心理療法の介入効果が良好ならば、作業同盟が確立できている」が同時に成り立つということになります。

選択肢①の解説で「作業同盟が強固であれば心理療法の介入効果が良好」とは説明しましたが、「作業同盟の確立=心理療法の効果が良好」とは言い切れません。

また、心理療法の効果に影響を与える要因は他にも複数あり、効果が出ている心理療法=作業同盟が強固という関係性も確立されてはいません。

以上のことから、選択肢④「作業同盟が確立していることは、心理療法の介入効果の必要十分条件である」は適切な記述とはいえません。