公認心理師資格試験 過去問解説 第4回 午前 問64|災害後3週間のトラウマ反応と支援の引継ぎ

公認心理師過去問第4回64 公認心理師試験

第4回公認心理師試験・午前問64は、大規模災害後に強いストレス反応を示している被災者へ、被災地外から派遣された公認心理師がどう対応するかを問う事例問題です。正答は⑤ 現地の保健医療スタッフに情報を伝えることへの同意を得るです。

実際の問題文

問64 28歳の女性A。Aが生活する地域に大規模な地震が発生し、直後に被災地外から派遣された公認心理師Bが避難所で支援活動を行っている。地震発生から約3週間後に、AからBに、「地震の後から眠れない」と相談があった。Aの家は無事だったが、隣家は土砂に巻き込まれ、住人は行方不明になっている。Aはその様子を目撃していた。Aによれば、最近崩れる隣家の様子が繰り返し夢に出てきて眠れず、隣家の方向を向くことができずにいる。同居の家族から見ても焦燥感が強くなり、別人のようだという。

BのAへの対応として、最も優先されるものを1つ選べ。

① ジョギングなどの運動を勧める。
② 生き残った者の使命について話し合う。
③ リラックスするために腹式呼吸法を指導する。
④ 行方不明になった住人が必ず発見されると保証する。
⑤ 現地の保健医療スタッフに情報を伝えることへの同意を得る。

問題文の読み解き

この問題で最初に見るべきなのは、症状名を当てることではなく、誰が・どこで・いつまで支援できるのかという支援体制です。Bは「被災地外から派遣された」公認心理師であり、現地に継続して居続けるとは限りません。一方、Aには反復する夢、回避、不眠、焦燥感といった外傷後の強い反応があり、単発の助言だけで終えるより、今後も状態を確認できる地域の支援者へつなぐ必要があります。

したがって、優先されるのはセルフケア技法の提示ではなく、Aの同意を得たうえで現地の保健医療スタッフへ情報を引き継ぎ、支援の連続性を確保することです。

正答は⑤|現地の保健医療スタッフへの引継ぎ

災害支援では、外部から派遣された支援者が短期間で交代することがあります。そのため、本人の状態を把握した支援者が、その後も対応可能な地域の保健医療・精神保健の担当者につなぐことが重要です。Aは地震から約3週間が経過しても生活上の苦痛が強く、家族から見ても「別人のよう」と感じられるほど変化しています。

この場面では、Bが自分だけで継続支援を抱え込むよりも、Aの了解を得て、地域で継続してフォローできる人へ情報をつなぐ方が支援の安全性と継続性を高めます。

なぜ「同意を得る」が含まれているのか

支援の必要性が高いからといって、本人の意向を無視して情報を共有してよいわけではありません。問題文では切迫した自傷他害など、同意なしの情報共有を直ちに正当化する事情は示されていません。したがって、まずAに目的を説明し、現地スタッフへ情報を伝えることへの同意を得る、という手順が適切です。

この事例でみられる外傷後反応

Aには、災害後の心理反応として試験で押さえておきたい要素が複数あります。崩れる隣家の様子が繰り返し夢に出ることは再体験に関連する反応、隣家の方向を向けないことは回避に関連する反応、不眠や焦燥感は覚醒の高まりとして整理できます。

ただし、ここで重要なのは、これらを見て直ちにPTSDと断定しないことです。問題文からは診断に必要な情報がすべてそろっているわけではありません。試験対策としては、強い外傷後反応が持続し、生活への影響が大きいので、継続的な評価と支援が必要と読むのが安全です。

「発災から約3週間」という情報の意味

時間経過は、外傷およびストレス因関連障害を考える際の重要な手掛かりです。しかし、受験場面では「3週間だからこの診断」と短絡せず、症状の内容、重症度、機能への影響、持続期間などを総合して考える必要があります。この設問自体が問うているのは診断ではなく、支援の優先順位です。

選択肢①|ジョギングなどの運動を勧める

運動は一般的な健康維持やストレス対処の一つになり得ます。しかし、Aは強い再体験や回避、不眠、焦燥感を示しており、被災地外から来たBの支援期間も限られています。ここで最優先なのは運動習慣を作ることではなく、Aを継続的に見守れる地域の支援へ接続することです。したがって①は優先順位の点で不適切です。

選択肢②|生き残った者の使命について話し合う

被災後には罪悪感や「自分だけ助かった」という思いが生じることがあります。しかし、支援者側から「生き残った者の使命」を前提として話を進めると、本人に役割や意味づけを押しつける危険があります。Aが自発的に語る内容を丁寧に聴くことと、支援者が「使命」を設定することは別です。②は最優先の対応ではありません。

選択肢③|腹式呼吸法を指導する

腹式呼吸などのリラクセーション技法は、緊張を調整するセルフケアとして使われることがあります。ただし、それだけでAの支援課題が解決するわけではありません。災害支援では、睡眠、生活、安全、家族状況、今後の支援先なども含めて継続的に確認する必要があります。ここでも「技法を一つ教える」ことより「支援を切らさない」ことが優先されます。

選択肢④|行方不明者が必ず発見されると保証する

支援者が確かめられない将来を保証することはできません。短期的には安心を与えるように見えても、事実に基づかない約束は、その後の信頼を損なう可能性があります。災害支援では、不確実なことは不確実なまま扱い、本人が受け止められる形で現実的な情報と支援を提供することが重要です。

災害支援で重要な「支援の連続性」

災害直後は、被災地外から多くの専門職が応援に入ることがあります。外部支援者は重要な役割を担いますが、任期が終われば現地を離れます。そのため、支援開始時から「この人を誰が継続して見るのか」を考えることが必要です。特に、症状が強い、生活への影響が大きい、家族から見ても変化が大きいといったケースでは、現地の保健医療・精神保健体制との連携が重要になります。

災害時の保健医療支援体制そのものを確認したい場合は、第3回問95「災害時の保健医療支援体制」も関連します。

PFAとの関係

心理的応急処置(Psychological First Aid: PFA)は、被災直後の人に対して安全、安心、現実的な支援、社会的つながりなどを重視する考え方です。詳細な出来事の語りを無理に求めたり、特定の感情表出を促したりすることを目的とするものではありません。この事例でも、Aの反応を「弱さ」とみなすのではなく、今必要な支援と継続先を整理する視点が重要です。

試験での見分け方

この問題は、「症状があるから治療技法を選ぶ」という発想をすると迷いやすくなります。設問中に被災地外から派遣された支援者という情報があるときは、支援の終結と引継ぎを考えてください。また、「最も優先されるもの」という問いでは、気分転換やセルフケアよりも、安全性・継続性・適切な支援先への接続が上位に来ることが多いです。

外傷後反応の整理には、第3回問54「心的外傷後ストレス障害」、急性期の反応との区別には第3回問126「急性ストレス障害」も合わせて確認すると理解しやすくなります。

この問題のキーワード

「災害後」「3週間」「反復する夢」「回避」「不眠」「焦燥」「外部派遣」「現地スタッフ」「同意」。このうち、正答を決める決定打は症状名よりも、外部派遣者から現地支援者への引継ぎです。

実務・臨床上の注意

実際の災害支援では、本人の安全、身体状態、生活環境、家族状況、利用できる社会資源なども同時に確認します。心理症状だけを切り出して見るのではなく、その人が今置かれている環境と支援資源を合わせて評価することが重要です。また、症状が強い場合には、必要に応じて医療機関や精神保健の専門職へつなぎます。

本記事は試験問題の解説であり、特定の人の診断や治療方針を決めるものではありません。

関連知識|災害後の心理反応は「異常」と決めつけない

大規模災害の直後には、不眠、驚愕反応、集中困難、反復するイメージ、気分の落ち込み、回避など、さまざまな心理・身体反応が生じます。こうした反応の一部は、極端な出来事に対する一時的な反応としてみられることもあります。そのため、発災後早期の支援では、症状を見つけたらすぐ診断名を当てはめるのではなく、安全、生活基盤、休息、社会的支援、症状の強さと持続、機能への影響を確認することが重要です。

一方で、「災害後だから自然な反応」として放置してよいわけでもありません。Aのように、睡眠が大きく損なわれ、回避が強く、家族から見ても変化が著しい場合には、継続的に状態を確認し、必要に応じて専門的支援へつなぐ必要があります。試験では、正常反応か障害かという二択ではなく、現在の苦痛と生活への影響から必要な支援レベルを考える視点が重要です。

関連知識|短期派遣支援者が意識する終結

外部から派遣された支援者は、関係形成と同時に、支援の終結と引継ぎを考える必要があります。短期間で信頼関係が形成された場合ほど、突然支援者がいなくなることが本人の不安を高める可能性があります。そのため、「自分の任期中に何をするか」だけでなく、「任期後に誰が支えるか」を明確にしておくことが重要です。

この観点から見ると、⑤は単なる事務的な情報共有ではありません。本人の同意を得て現地の支援者へつなぐことは、支援の断絶を防ぐための臨床的な介入でもあります。災害支援では、個々の面接技法だけでなく、連携・引継ぎ・支援体制の設計そのものが重要な支援になります。

誤答しやすいパターン

この問題で③を選びたくなるのは、「不眠や焦燥があるならリラクセーション」という症状―技法の短絡が起きるからです。しかし、公認心理師試験の事例問題では、症状に対応する技法が存在していても、それが「最も優先される対応」とは限りません。まず安全、支援継続、連携、同意、医療的評価の必要性などを確認する必要があります。

また、PTSDらしい症状が並んでいるため診断問題のように見えますが、設問は「BのAへの対応として、最も優先されるもの」です。設問が何を問うているかを最後まで確認することが、事例問題では非常に重要です。

まとめ

正答は⑤ 現地の保健医療スタッフに情報を伝えることへの同意を得るです。Aには外傷後の強い反応がみられ、Bは被災地外から派遣された支援者です。最優先は単発のセルフケア技法ではなく、本人の同意を得ながら、現地で継続できる支援へつなぐことです。

参考資料

コメント

タイトルとURLをコピーしました