公認心理師資格試験 過去問解説 第5回 午前 問70|面前DVと心理的虐待・学校からの通告

第5回公認心理師試験 午前問70 面前DVと心理的虐待・学校からの通告の解説図 公認心理師試験

第5回公認心理師試験・午前問70は、父親が母親に暴力を振るう場面を繰り返し目撃している14歳男子について、スクールカウンセラーが何を優先して行うべきかを問う事例問題です。正答は ⑤ 学校として児童相談所などに虐待の通告を行うため、管理職などに事実経過を伝える です。

本問の最大のポイントは、子ども本人が直接殴られていなくても、子どもの面前で配偶者へ暴力を振るうことは心理的虐待に含まれるという点です。

そのため、スクールカウンセラーが一人で詳細な家庭アセスメントを続けたり、両親を同席させた面談を先に行ったりするのではなく、学校組織として安全確保と通告へ動けるように管理職等へ事実を共有することが優先されます。

問題

問題: 14歳男子A、中学2年生。Aはささいなことをきっかけにクラスメイトへ激しく殴りかかり、生徒指導を受けました。その後、欠席が増えたため、担任BがスクールカウンセラーCへ紹介しました。面接でAは、父親が母親へたびたび激しい暴力を振るい、母親がけがをする場面を見てきたと話しました。一方、父親からA本人への直接的な暴力はないといいます。Cが優先的に行うべき対応を選びます。

  1. Aの家庭環境を詳細にアセスメントする。
  2. 外部機関と連携し、Aの発達検査を速やかに行う。
  3. Bと協力して、Aと両親を交えた面談の場を設ける。
  4. 学校でカウンセリングを受けることをAの保護者に提案するよう、Bに伝える。
  5. 学校として児童相談所などへ虐待の通告を行うため、管理職などに事実経過を伝える。

正答は ⑤ です。

正答は⑤|管理職等へ事実経過を伝え、学校として通告へ動く

A本人は「父親から自分は殴られていない」と話しています。

ここで、

「直接暴力を受けていないなら虐待ではない」

と考えてはいけません。

厚生労働省の「子ども虐待対応の手引き」では、子どもの面前で配偶者やその他の家族に暴力を振るうことが心理的虐待の例として明示されています。

つまり本事例では、Aが父親から直接殴られていなくても、母親への激しいDVを繰り返し目撃しているため、心理的虐待として対応すべき状況です。

したがって、スクールカウンセラーCは、学校が児童相談所等への通告を検討・実施できるよう、管理職などに事実経過を伝えることを優先します。

面前DVは心理的虐待

面前DVとは、子どもの目の前で配偶者や家族に暴力を振るうことです。

児童虐待防止法上の心理的虐待には、

  • 言葉による脅かし
  • 無視や拒否
  • 子どもの自尊心を傷つける言動
  • きょうだい間の著しい差別
  • 子どもの面前での配偶者への暴力

などが含まれます。

子ども自身が殴られていなくても、家庭内で激しい暴力を繰り返し目撃することは、子どもの安全感や心理状態に大きな影響を与えます。

試験では、

DVを目撃している子ども=心理的虐待の可能性

と判断することが重要です。

なぜ通告が優先されるのか

児童虐待が疑われる場合、まず必要なのは子どもの安全確保です。

児童虐待防止法では、虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、市町村、福祉事務所、児童相談所などへ速やかに通告することが求められます。

ここで重要なのは、

「虐待が完全に証明されてから通告する」のではない

ということです。

通告する側が詳細な調査を完了し、事実認定まで行う必要はありません。

疑いを把握した段階で、専門機関につなぎ、必要な安全確認や調査を受けられるようにすることが重要です。

スクールカウンセラーは一人で抱え込まない

学校で児童虐待が疑われる情報を把握した場合、スクールカウンセラー一人で対応を完結させるべきではありません。

学校内では、

  • 校長・教頭など管理職
  • 担任
  • 養護教諭
  • 生徒指導担当
  • スクールソーシャルワーカー
  • スクールカウンセラー

などが役割を分担します。

さらに必要に応じて、

  • 児童相談所
  • 市区町村
  • 警察
  • 医療機関

などと連携します。

本問で「管理職などに事実経過を伝える」が正答なのは、組織的な安全対応と通告へつなげるためです。

守秘義務との関係

心理職には守秘義務があります。

しかし、守秘義務は「どのような場合でも情報を一切共有しない」という意味ではありません。

子どもの生命・身体・安全に関わる状況や、児童虐待への対応では、法令や安全確保の必要性に基づき、必要な範囲で情報共有を行うことがあります。

本問では、Aから聞いた情報を友人や無関係な教員へ広く話すのではなく、

虐待対応を行うために必要な管理職等へ共有する

ことが求められています。

共有は目的と範囲を限定して行うことが基本です。

① 家庭環境を詳細にアセスメントするのが最優先ではない理由

Aの家庭環境を理解することは重要です。

しかし、すでにAから、

  • 父親が母親へ激しく暴力を振るう
  • 母親がけがをする
  • Aがその場面を繰り返し見ている

という重大な情報が得られています。

この段階で、「もっと詳しく確認してから」と通告を遅らせるのは適切ではありません。

児童相談所などの専門機関が安全確認や調査を行う役割を担います。

学校の心理職が自力で家庭内の事実をすべて確定させる必要はありません。

② 発達検査を速やかに行うのが違う理由

Aがクラスメイトへ殴りかかったことから、

  • 衝動性
  • 発達特性
  • 情緒調整の問題

などを考えたくなるかもしれません。

しかし本事例では、家庭内で重大なDVを目撃しているという情報があります。

暴力行動や欠席についても、家庭環境によるストレスや心理的影響を含めて考える必要があります。

発達検査が必要になる場合はありますが、今この時点で最優先なのは安全と虐待対応です。

③ Aと両親を交えた面談が危険な理由

DVが疑われる家庭で、十分な安全評価をせずに加害者と被害者、子どもを同席させる面談を設定することは危険です。

面談後に、

  • 「学校で何を話したのか」
  • 「誰がDVのことを言ったのか」

と家庭内で追及される可能性があります。

その結果、Aや母親の安全が悪化するおそれがあります。

したがって、まず専門機関へつなぎ、安全性を評価しながら対応することが必要です。

④ 保護者へのカウンセリング提案だけでは不十分

Aが学校でカウンセリングを受けることは、その後の支援として役立つ場合があります。

しかし、現在の問題はA個人の心理的適応だけではありません。

家庭内で継続するDVと心理的虐待が疑われています。

そのため、

Aをカウンセリングにつなぐだけ

では安全上の問題を解決できません。

児童相談所等への通告と組織的対応が優先されます。

Aの暴力行動を「問題行動」だけで見ない

Aはクラスメイトへ激しく殴りかかっています。

学校では、この行動自体への指導や安全確保も必要です。

しかし、行動だけを見て、

「乱暴な生徒」
「問題行動が多い生徒」

と評価すると、その背景にある家庭内ストレスを見落とす可能性があります。

子どもの行動には、

  • 恐怖
  • 緊張
  • 過覚醒
  • 怒り
  • 無力感
  • 家庭内で学習した暴力的な対人モデル

などが影響している場合があります。

したがって、行動の責任を曖昧にするのではなく、安全確保と背景理解を同時に行うことが重要です。

欠席増加も重要なサイン

本事例では、暴力行動だけでなく欠席が増えています。

学校での不適応、家庭内ストレス、睡眠の乱れ、不安、抑うつなど、さまざまな背景が考えられます。

このように、

  • 急な行動変化
  • 欠席の増加
  • 家庭内の暴力
  • 身体症状
  • 情緒不安定

が重なる場合、学校は個別の問題として分断せず、子どもの生活全体を見る必要があります。

通告と「虐待の確定」は違う

試験で非常に重要なポイントです。

通告は、

「この家庭は虐待家庭だ」と学校が最終判定すること

ではありません。

通告は、

虐待を受けている可能性がある子どもを、専門機関の評価と保護につなぐこと

です。

そのため、「確実な証拠がないから通告しない」という判断は適切ではありません。

本問ではA本人の具体的な証言があり、面前DVという心理的虐待に該当し得る状況が示されています。

第4回午後問79とのつながり

第4回午後問79では、遊戯療法中の子どもの遊びから性的虐待の可能性が疑われたとき、何を優先して考えるかが問われました。

そこでも、

心理療法を続けることより、安全に関わる重大な可能性を見逃さないこと

が重要でした。

今回の問70でも同じです。

心理支援より先に、子どもの安全と虐待対応を考えます。

第6回午前問27とのつながり

第6回午前問27では、児童虐待防止のポピュレーションアプローチが問われています。

児童虐待対応では、

  • 発生予防
  • 早期発見
  • 通告
  • 安全確認
  • 家族支援
  • 再発防止

という複数の段階があります。

今回の問70は、そのうち早期発見から通告へ進む場面です。

試験での見分け方

本問では次の順番で考えます。

  1. 子どもがDVを目撃している
  2. 面前DVは心理的虐待に含まれる
  3. 子どもの安全を優先する
  4. 学校内で管理職等へ共有する
  5. 組織として児童相談所等へ通告する

したがって⑤です。

まとめ

第5回公認心理師試験・午前問70の正答は ⑤ 学校として児童相談所などに虐待の通告を行うため、管理職などに事実経過を伝える です。

A本人が直接暴力を受けていなくても、母親へのDVを繰り返し目撃していることは心理的虐待に該当し得ます。

試験では、

面前DV → 心理的虐待 → 安全確保 → 組織的共有 → 通告

という流れを押さえておきましょう。

※本記事は公認心理師試験の制度・知識を整理する学習用解説です。個別事例の対応は、子どもの安全性や地域の連携体制を踏まえて関係機関と検討する必要があります。

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参考資料

  • 一般財団法人 公認心理師試験研修センター|第5回公認心理師試験 午前問題・正答
  • 厚生労働省|子ども虐待対応の手引き
  • 児童虐待の防止等に関する法律

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