公認心理師資格試験 過去問解説 問63 事例問題:職場における災害時のこころのケア

公認心理師資格試験 過去問解説 問63 事例問題:職場における災害時のこころのケア

第3回公認心理師試験の過去問や正答は以下のサイトで入手可能です。

第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター

 

公認心理師資格試験の過去問をしっかりと振り返ることで「自分に必要な知識は何か」を知るための手がかりとしてくださいね!

 

 

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【問63】事例問題:職場における災害時のこころのケア

問63 45 歳の男性 A、市役所職員。A は上司の勧めで健康管理室を訪れ、 公認心理師 B が対応した。A の住む地域は1か月前に地震により被災し、A の自宅も半壊した。A は自宅に居住しながら業務を続け、仮設住宅への入居手続の事務などを担当している。仮設住宅の設置が進まない中、勤務はしばしば深夜に及び、被災住民から怒りを向けられることも多い。A は「自分の態度が悪いから住民を怒らせてしまう。自分が我慢すればよい。こんなことで落ち込んでいられない」と語る。その後、 A の上司から B に、A は笑わなくなり、ぼんやりしていることが多いなど以前と様子が違うという連絡があった。
この時点の B の A への対応として、最も適切なものを1つ選べ。

① A の上司に A の担当業務を変更するように助言する。

② A の所属部署職員を対象として、ロールプレイを用いた研修を企画する。

③ 災害時健康危機管理支援チームDHEATに情報を提供し、対応を依頼する。

④ A に1週間程度の年次有給休暇を取得することを勧め、A の同意を得て上司に情報を提供する。

⑤ A に健康管理医産業医との面接を勧め、A の同意を得て健康管理医産業医に情報を提供する。

出典:第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター

 

正答は ⑤

 

⑤ A に健康管理医産業医との面接を勧め、A の同意を得て健康管理医産業医に情報を提供する

となります。

 

本事例のポイントは、被災者であるA自身をどのように職場でケアしていくか というところですね。

 

職場における災害時のこころのケア

災害などによって強いストレスを受けた労働者に対する職場で行うケアについては、『職場における災害時の こころのケアマニュアル』が参考になります。

 

このマニュアルは以下のサイトからダウンロード可能です❗️

 

マニュアルには対象者別の心理的ショックのリスク分類が以下のようにまとめられています。

■ 高リスク

  • 被災者
  • 亡くなった被災者の家族
  • 救援活動にあたった同僚

 

■ 中リスク

  • 被災者の家族
  • 被災者の同僚
  • 被災者の管理監督者
  • 人事総務担当

 

■ 低リスク

  • 従業員一般

 

今回の事例のAは、高リスクに該当することになり、相応の対応が求められることになりますね。

 

 

 

⑤ A に健康管理医産業医との面接を勧め、A の同意を得て健康管理医産業医に情報を提供する

本問題の最も適切な選択肢となります。

 

部下の気分の変化、言動の変化、行動面の変化に気をつけてください。こうした変化に気づいた段階で、具体的な行動をとる前に、先ずは 産業医、保健師等の専門職に相談してください。

出典:職場における災害時の こころのケアマニュアル

 

高リスクに該当する労働者に対しては、具体的な対策よりもまず専門家への相談が最優先となります。

 

特にAに関しては、自責感や表情の変化の乏しさなど、抑うつ状態を示唆するような情報が得られているため、Aの同意を得たうえで産業医との面談を進めて適切な対応をとることが最も重要と考えられますね。



選択肢の解説

Aの事例に関して簡単にまとめていきましょう。

45歳 男性 市役所職員

1ヶ月前に地震で被災し自宅が半壊。勤務は深夜までにわたり、他の被災住民に怒りを向けられることも多い。

「自分の態度が悪いから住民を怒らせてしまう。自分が我慢すればよい。こんなことで落ち込んでいられない」と自責感が強く表情の変化が乏しくなってきている(笑顔が減った)

 

① A の上司に A の担当業務を変更するように助言する

A は自宅に居住しながら業務を続け、仮設住宅への入居手続の事務などを担当している。仮設住宅の設置が進まない中、勤務はしばしば深夜に及び、被災住民から怒りを向けられることも多い。

この問題文の記載を見ると、Aの担当業務の負担が大きく、同じ被災者であるにも関わらず、被災住民から怒りを向けられるなど、ストレスが強くかかる業務に従事していることがわかります。

 

そのため、“Aの担当業務を変更するように助言する”が全く間違っているというわけではないでしょう。

 

その一方で、A自身の現在の生活環境(自宅が半壊している状況)や、自責的になっている様子を鑑みると、今環境が急に変わることに強い不安を示す可能性が高いように想定されるため、A自身の仕事・キャリアが保証されていることを担保したうえで対応する必要があるでしょう。

 

② A の所属部署職員を対象として、ロールプレイを用いた研修を企画する

Aの所属部署職員を対象として、災害などトラウマ時の心因反応についての情報提供を行うことや、お互いに気持ちを共有できる場を設定することは非常に有効だと思われます。

 

反対に、低リスクから高リスクのさまざまな人が含まれる状況でのロールプレイは、内容にもよりますが、個々人の強い負担になってしまう可能性が高いです。

 

そのため、選択肢のように、ロールプレイを用いることは現時点では推奨されません。

 

③ 災害時健康危機管理支援チームDHEATに情報を提供し、対応を依頼する

 

DHEATとは❓

DHEATは、災害時健康危機管理支援チーム Disaster Health Emergency Assistance Team の略称です。

 

簡単に説明すると、被災地の支援を提供する側である自治体の指揮系統が混乱した際に、当該自治体の指揮調整機能を補佐するために派遣される危機管理のためのチームです。

 

専門的研修・訓練を受けた都道府県及び指定都市の職員によって構成されます。

 

詳細は以下の資料をご覧ください❗️

 

A個人への対応ではなく、自治体に関する対応であるため、本問題では不適切な選択肢となりますね。

 

④ A に1週間程度の年次有給休暇を取得することを勧め、A の同意を得て上司に情報を提供する

通常業務に戻す前に、怪我等がない場合でも、家族とゆったりした時間をもち、以前に近い心身の状態に戻るために1~4週間休暇を与えた方がいいでしょう

出典:職場における災害時の こころのケアマニュアル

 

Aの状態を考えると、年次有給休暇を取得して休養を取ることが有効に働く可能性がないとはいえません。

 

ただし、現状では通常業務に既に戻ってしまっている後であり、抑うつ症状を示唆するような姿も見られているため、最も優先な事項とは言い難いでしょう。

 

無理な押し付けになってしまう可能性も高いです。

 

まずは、産業医含めた専門家に繋いだうえで、Aの状態に合わせた指示を仰ぐことが優先されますね。



まとめ

第3回公認心理師資格試験の問63は、事例問題:職場における災害時のこころのケアに関する問題でした❗️

 

災害時の職場でのこころのケアでは、災害が起きた時点でどの従業員もリスクが生じていると考えて、如何にして普段通りの日常に戻ることができるかを検討することが重要です。

 

そのうえで、リスクの高い従業員を見極めて、具体的な行動を取る前にまずは専門家に相談することが優先されます。