公認心理師資格試験 過去問解説 問64 事例問題:代理によるミュンヒハウゼン症候群

公認心理師資格試験 過去問解説 問64 事例問題:代理によるミュンヒハウゼン症候群

第3回公認心理師試験の過去問や正答は以下のサイトで入手可能です。

第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター

 

公認心理師資格試験の過去問をしっかりと振り返ることで「自分に必要な知識は何か」を知るための手がかりとしてくださいね!

 

 

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【問64】事例問題:代理によるミュンヒハウゼン症候群

問64 1歳半の男児 A。母親 B が A の高熱とけいれん発作を訴えて、病院に来院し、A は入院することとなった。これまでに複数の病院に通院したが、原因不明とのことであった。B は治療に協力的で献身的に付き添っていたが、通常の治療をしても A は回復しなかった。B は片時もA から離れずに付き添っていたが、点滴管が外れたり汚染されたり といった不測の事態も生じた。ある日突然、A は重症感染症を起こし重篤な状態に陥った。血液検査の結果、大腸菌など複数の病原菌が発見された。不審に思った主治医が B の付き添いを一時的に制限すると、A の状態は速やかに回復した。
A の状態と関連するものとして、最も適切なものを1つ選べ。

① 医療ネグレクト

② 乳児突然死症候群

③ 乳幼児揺さぶられ症候群

④ 反応性アタッチメント障害

⑤ 代理によるミュンヒハウゼン症候群

出典:第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター

 

正答は ⑤

 

⑤ 代理によるミュンヒハウゼン症候群

となります。

 

代理によるミュンヒハウゼン症候群

 

そもそもミュンヒハウゼン症候群とは何か❓

 

ミュンヒハウゼン症候群 Münchausen syndrome とは、現在は作偽症(虚偽性障害) Factitious Disorder と呼ばれる精神疾患のうち、重症度の高い病態を指します。

 

作為症とは、明らかな外的報酬がない状況において、身体症状または精神症状を捏造するものであり、この行動を起こす動機は病人の役割を装うことにある。症状は急性かつ劇的で、もっともらしく見える場合がある。患者はしばしば治療を求めて医師や病院を次々と受診する。

出典:プロフェッショナル/08-精神障害/身体症状症および関連症群/自らに負わせる作為症

 

ミュンヒハウゼン症候群とは、この作為症のなかでも、自分自身あるいは他者に、特定の疾患に該当するような身体症状や心理面での兆候を捏造することが過激なことが特徴です。

 

代理によるミュンヒハウゼン Munchausen Syndrome by Proxy :MSBP は、自分ではなく他者に対して症状を捏造するような病態を指します。

 

このMSBPですが、虐待の文脈で大きな問題となることが多いです。



特別な視点が必要な虐待事例

厚生労働省の資料である第13章 特別な視点が必要な事例への対応には、虐待の際に特に対応に留意しなければならない事例として以下のものが挙げられています。

 

  • 虐待が発生している家庭に「きょうだい」がいる場合
  • 保護者がアルコール依存症の場合
  • 保護者が薬物問題を抱えている場合
  • 保護者に精神疾患が疑われる場合
  • 保護者による治療拒否がある場合
  • 代理によるミュンヒハウゼン症候群
  • 性的虐待

 

このように、代理によるミュンヒハウゼン症候群は、虐待事例の中でも対応に特別な視点が必要とされています。

 

虐待としての代理によるミュンヒハウゼン症候群

MSBPとは「両親または養育者によって、子どもに病的な状態が持続的に作られ、医師がその子どもにはさまざまな検査や治療が必要であると誤診するような、巧妙な虚偽や症状の捏造によって作られる子ども虐待の特異な形」である。

出典: 第13章 特別な視点が必要な事例への対応

 

簡単に説明すると、親が子供を病気や怪我に仕立てて診察・治療などの医療的ケアを受けさせることですね。

 

MSBPは以下のような形であらわれます。

「症状に関する虚偽の報告をする」「検査に異物などを混入させる」⇨ 模倣

「薬を飲ませる」「外傷を与える」⇨ 捏造

 

また、MSBPを行う養育者の約98%が実母とされており、以下のようなメカニズムが想定されています。

心理的なメカニズムとしては子どもや医療システムを支配する満足を得ることと同時に、大変な子どもを育てている献身的な保護者像を作り上げながら、医療的なケアを受けることが目的であると考えられている。
出典: 第13章 特別な視点が必要な事例への対応

 

今回の事例では、以下の部分に注目することが大切です。

・母親B は治療に協力的で献身的に付き添っていたが、通常の治療ではA は回復しなかった。

・母親Bが片時も離れずAに付き添っていたにも関わらず、「点滴菅が外れる」「汚染される」など不測の事態が生じた。

・ある日突然、Aが重症感染症を起こして重篤な状態に陥った。

・高熱とけいれん発作とは関係ないように思われる大腸菌が血液検査にて見つかった。

・ 母親B の付き添いを一時的に制限するとA の状態が速やかに回復した。

 

複数の病院に通院して原因が不明瞭なこと」「母親の献身的な付き添いにも関わらず不測の事態が複数回生じていること」「突然劇的に症状の悪化が認められていること「付き添いの制限によってこれまで通常の治療で回復しなかったAの状態が速やかに回復したこと」などが、代理によるミュンヒハウゼン症候群を疑う根拠となるでしょう。



選択肢の解説

① 医療ネグレクト

医療ネグレクト = 保護者の果たすべき「治療を受けさせる義務」を怠る

 

医療ネグレクトは先程紹介した特別な視点が必要な虐待事例のなかに含まれている『保護者による治療拒否がある』に該当し、虐待の一形態とされています。

 

低年齢の子どもに対しては、医療行為を受ける際に保護者(親権者)の同意が必要となってきますので、基本的には保護者が同意をしないと治療が行えないことになります。

 

そのため、子どもの生命に重大な危機がある状態で保護者の同意が得られないことは、本来保護者が果たすべきである子どもの「治療を受けさせる義務」を怠ったとして、医療ネグレクトとされます。

子どもに医学的治療が必要な疾患があり、治療を行わなければ子どもの健康が著しく損なわれたり、生命に危険が及ぶことを保護者に説明しても保護者が治療を承諾しない場合、保護者に代わって医療を承諾する対応が必要になる。合理的な理由なく子どもの治療を拒否している場合は親権の濫用に相当するので、児童福祉法第33条の7に基づいて児童相談所長が親権喪失の宣告の請求及び保全処分として親権者の職務執行停止・職務代行者選任の申請を行い、職務代行者又は未成年後見人が親に代わって承諾することができる。

出典:第13章 特別な視点が必要な事例への対応

 

治療拒否の背景に、宗教的な要因がある場合も多いことから、慎重な対応が必要とされています。

 

今回の事例に関しては、既に複数の病院で治療を受けさせていることが明らかであるため、医療ネグレクトには該当しませんね。

 

② 乳児突然死症候群

乳児突然死症候群 Sudden Infant Death Syndrome:SIDS とは、

乳児突然死症候群 SIDS = 何の予兆や既往歴もないまま乳幼児が死に至る原因のわからない病気で死亡原因の第4位

とされています。

 

日本ではSIDSは減少しているとのことですが、現在でも年間100名余りの死亡者が認められているようです。

 

厚生労働省の関連するページには、SIDS予防のために以下の対策が挙げられています。

  • 1歳になるまではあおむけに寝かせること
  • 母乳を使用すること
  • 喫煙をやめること

 

【参考】

 

③ 乳幼児揺さぶられ症候群

乳幼児揺さぶられ症候群 Shaken Baby Syndrome:SBS とは、

乳幼児揺さぶられ症候群 SBS = 乳幼児を激しく揺さぶってしまうことで、頭部に衝撃が加わって脳の損傷による重大が障害が残る

 

以下の説明もわかりやすいので載せておきます。

まわりから見れば「あんなことをしたら、子どもが危険だ」と誰もが思うほどに激しく、乳幼児が揺さぶられたときに起こる重症の頭部損傷です。赤ちゃんというのは頭が重たくて頚の筋肉が弱いので、揺さぶられたときに頭を自分の力で支えることができません。その結果、速く強く揺さぶられると、頭蓋骨の内側に脳が何度も打ち付けられて、 赤ちゃんの脳は損傷を受けるのです。
出典:乳幼児揺さぶられ症候群防止パンフレットについて|日本小児科学会

 

SBSによって「脳の出血」や「脳の損傷」を含めた重大な神経障害から、呼吸困難・嘔吐・けいれん・意識障害などの症状が生じます。

 

④ 反応性アタッチメント障害

 

反応性アタッチメント障害 Reactive Attachment Disorderとは❓

A. 以下の両方によって明らかにされる、大人の養育者に対する抑制され情動的に引きこもった行動の一貫した様式:
(1)苦痛なときでも、その子どもはめったにまたは最小限にしか安楽を求めない。
(2)苦痛なときでも、その子どもはめったにまたは最小限にしか安楽に反応しない。

B. 以下のうち少なくとも2つによって特徴づけられる持続的な対人交流と情動の障害
(1)他者に対する最小限の対人交流と情動の反応
(2)制限された陽性の感情
(3)大人の養育者との威嚇的でない交流の間でも、説明できない明らかないらただしさ、悲しみ、または恐怖のエピソードがある。

C. その子どもは以下のうち少なくとも1つによって示される不十分な養育の極端な様式を経験している。
(1)安楽、刺激、及び愛情に対する基本的な情動欲求が養育する大人によって満たされることが持続的に欠落するという形の社会的ネグレクトまたは剥奪
(2)安定したアタッチメント形成の機会を制限することになる、主たる養育者の頻回な変更(例:里親による養育の頻繁な交代)
(3)選択的アタッチメントを形成する機会を極端に制限することになる、普通でない状況における養育(例:養育者に対して子どもの比率が高い施設)

出典:DSM-5®︎精神疾患の分類と診断の手引き|日本精神神経学会|医学書院

 

反応性アタッチメント障害は、いわゆる愛着障害のひとつで、嬉しい・楽しいなどのポジティブな感情表現が抑制されており、対人交流の幅が狭くなることが特徴的とされます。

 

場合によっては、対人場面でひどく怯えてしまったり過剰に攻撃的に反応してしまうこともあります。

 

一見すると自閉スペクトラム症にも類似する特徴を示しますが、背景には不十分な養育環境が存在することが大きな差異です。

 

 



まとめ

第3回公認心理師資格試験の問64は、事例問題:代理によるミュンヒハウゼン症候群に関する問題でした❗️

 

今回の問題のキーワードは以下の通りでした。

 

それぞれ語句の意味を確認しておきましょう❗️

 

キーワード・代理によるミュンヒハウゼン症候群
・医療ネグレクト
・乳児突然死症候群 Sudden Infant Death Syndrome:SIDS
・乳幼児揺さぶられ症候群 Shaken Baby Syndrome:SBS
・反応性アタッチメント障害