公認心理師資格試験 過去問解説 第4回 午前 問77|児童虐待への初期対応と通告

公認心理師過去問第4回77 公認心理師試験

第4回公認心理師試験・午前問77は、児童が家庭内暴力と自身への暴力を打ち明けた場面で、学校とスクールカウンセラーがどのような初期対応を取るべきかを問う問題です。正答は④・⑤です。

この問題の中心は、虐待の「確証」を学校だけで集めることではありません。子どもの安全を優先し、本人の発言や表情・態度をできるだけ正確に記録し、校内で共有・協議した上で、市町村の虐待対応担当課や児童相談所へ通告することが重要です。

問題

小学生の男児が数日間、学校へ連絡なく欠席したため、担任とスクールカウンセラーが家庭訪問をします。男児は当初ほとんど話しませんでしたが、やがて父親が母親を叩いていること、自分も叩かれることがあること、家庭内のけんかを他人に話すと両親に叱られることを打ち明けました。この時点で学校が取るべき初期対応を2つ選ぶ問題です。

選択肢の要点

  1. まず両親と面談し、信頼関係の構築を図る。
  2. けんかの原因や頻度を子どもに詳しく質問する。
  3. 虐待の確証を得るため近隣住民から情報収集する。
  4. 子どもの発言や表情・態度をそのまま記録する。
  5. 校内で協議し、市町村の担当課または児童相談所へ通告する。

正答

④・⑤

この問題の核は「安全確保・記録・通告」

虐待が疑われる場面では、学校が独自に事実を確定することより、子どもの安全を守ることが優先されます。初期対応では、必要最小限の確認を行いながら本人の語りを受け止め、聞いた内容と観察した様子を具体的に記録し、組織として通告・連携につなげます。

「まだ確証がないから通告できない」と考えると対応が遅れます。児童虐待防止法上も、虐待を受けたと思われる児童を発見した者には通告が求められます。学校は捜査機関ではなく、疑いを安全支援へつなぐ役割を担います。

選択肢① 両親との信頼関係構築を最初に優先しない理由

保護者との信頼関係は、長期的な支援では重要です。しかし、この場面では父親による母親への暴力と、子ども自身への暴力が語られています。初期段階で、通告や関係機関との調整より先に両親面談を行うと、子どもの訴えが家庭に知られ、叱責やさらなる暴力につながる可能性があります。

したがって「保護者と話してはいけない」という意味ではありません。重要なのは順序です。児童相談所等と連携し、安全への影響を検討しながら保護者対応を組み立てる必要があります。

選択肢② 詳細な質問を続けることが不適切な理由

子どもが虐待を打ち明けたとき、事情を知りたいからと原因や頻度を細部まで質問したくなるかもしれません。しかし、初期対応で反復的・誘導的な質問を重ねると、子どもの心理的負担を増やし、後の専門的な聞き取りにも影響するおそれがあります。

学校で必要なのは、現在の安全に関する確認や、通告判断に必要な範囲の情報把握です。「いつも何回?」「なぜお父さんは怒るの?」と詳しく追及するのではなく、本人が自発的に話した内容を尊重し、必要最小限の確認にとどめます。

選択肢③ 近隣住民から確証を集めない理由

学校が近隣住民へ聞き回り、虐待の証拠を集めてから通告しようとするのは適切ではありません。情報収集に時間がかかるだけでなく、家庭に学校の動きが伝わることでリスクが高まる可能性もあります。

通告は「虐待が確定した場合だけ」に行う手続ではありません。疑いがある時点で関係機関へつなぎ、その後の安全確認や調査は児童相談所などの専門機関と連携して行います。

選択肢④ 発言・表情・態度を記録する理由

④は適切です。記録では、解釈よりも事実を分けて残すことが重要です。たとえば「父親を怖がっていると思われる」と推測を書くより、「父親の話題になると声量が小さくなった」「本人が『僕も叩かれることがある』と話した」のように、発言や観察事実を具体的に残します。

その場の表情、沈黙、態度、身体の様子、誰がいつどこで聞いたかなども重要な情報です。後から記憶だけで再構成するより、その時点で客観的に記録する方が、組織内の情報共有や関係機関との連携に役立ちます。

選択肢⑤ 校内協議と通告が必要な理由

⑤も適切です。虐待対応を担任やスクールカウンセラー一人で抱え込まず、管理職や養護教諭など必要な職員と情報を共有し、学校として対応します。その上で、市町村の虐待対応担当課や児童相談所に通告します。

公認心理師には守秘義務がありますが、守秘は子どもの生命・身体の安全より常に優先するものではありません。虐待が疑われる場合には法令と組織手続に沿って必要な情報共有を行い、安全確保につなげます。

「通告」と「確定診断・事実認定」は違う

試験で混同しやすいのが、通告の役割です。学校が行うのは「虐待であると確定すること」ではなく、「虐待が疑われ、専門機関による安全確認が必要な状態をつなぐこと」です。この違いが分かれば、③の「確証を得るための独自調査」が不適切で、⑤の通告が適切だと判断できます。

DVを目撃する子どもへの影響

本事例では、父親が母親を叩く場面があると子どもが語っています。家庭内で暴力を目撃すること自体が子どもの心理に大きな負担を与えます。さらに本事例では、子ども自身も叩かれることがあると述べており、直接的な身体的虐待の疑いもあります。

「夫婦げんかだから家庭内の問題」と狭く捉えず、子どもの安全と心理的影響の両方から考える必要があります。

秘密を守る約束を安易にしない

子どもが「誰にも言わないで」と求める場合でも、絶対に秘密にすると約束するのは適切ではありません。安全を守るためには、必要な大人や専門機関に伝える場合があることを、年齢に応じて分かる言葉で説明します。

本人との信頼を保つためにも、「勝手に広く話す」のではなく、「あなたを守るために必要な人と相談する」という枠組みを伝えることが大切です。

初期対応で確認したい安全情報

  • 今この瞬間に帰宅して安全か
  • けがや痛みなど緊急の医療対応が必要か
  • 今夜の居場所に危険がないか
  • 暴力が現在も続いている可能性があるか
  • 子どもが頼れる安全な大人がいるか

ただし、これらも事情聴取のように網羅的に追及するのではなく、安全判断に必要な範囲で確認します。

記録では「誰の情報か」を分ける

記録する際は、本人が話した内容、教職員が直接観察したこと、保護者や第三者から聞いたことを分けると整理しやすくなります。情報源が曖昧になると、後に「誰が何を確認したのか」が分からなくなります。

スクールカウンセラーだけで抱え込まない

スクールカウンセラーは心理支援の専門職ですが、虐待対応は学校全体と関係機関の連携で進めます。担任、管理職、養護教諭、生徒指導・教育相談担当などが役割を分担し、必要に応じて児童相談所、市町村、警察、医療機関等とつながります。

緊急性が高い場合

生命・身体に差し迫った危険がある場合は、通常の校内協議だけに時間をかけず、児童相談所や警察などへの緊急連絡を検討します。試験では一般的な初期対応が問われていますが、実務では「いつもの手順より緊急性が優先される場面」があります。

試験での見分け方

虐待事例の選択肢では、「学校が証拠集めをする」「本人を詳しく問い詰める」「まず保護者と対決する」といった対応は慎重に検討します。対して、「安全を優先する」「発言と観察を記録する」「組織で共有する」「専門機関へ通告する」は基本線です。

公認心理師の守秘義務との関係

守秘義務を理由に、虐待が疑われる情報を一切共有しないという理解は適切ではありません。子どもの安全に必要な情報は、法令や組織内のルールに従い、必要な範囲で共有します。関連する過去問として、第6回午前問1|秘密保持義務の例外も確認しておくと理解がつながります。

背景要因は一つとは限らない

虐待や家庭内暴力は、経済的困難、養育者の孤立、夫婦関係、精神的不調など複数の要因と重なっていることがあります。ただし、背景要因を理解することと、暴力を正当化することは別です。子どもの安全を確保した上で、家族全体への支援につなげます。

関連して、第4回午前問55|子どもの貧困問題では、家庭の困難を単一要因で捉えない視点を復習できます。

子どもの語りを受け止めるときの基本

虐待を打ち明ける子どもは、話したことで家族が困るのではないか、自分が怒られるのではないかと不安を抱えていることがあります。そのため、驚きや怒りを強く表に出したり、何度も同じ内容を確認したりせず、「話してくれてありがとう」「あなたが悪いわけではない」と安全を支える姿勢で聴くことが重要です。

同時に、子どもへ「必ずこうなる」と結果を約束するのではなく、安全を守るために必要な人と相談することを説明します。安心させることと、実現できない約束をしないことを両立させます。

記録は後の支援をつなぐ共通言語になる

虐待対応では複数の機関が関わるため、最初に学校が得た情報の質が重要です。記録には日時、場所、同席者、本人の言葉、表情や態度、身体所見などを分けて記載します。「怖がっていた」「虐待されている」といった評価だけでなく、評価の根拠となる観察事実を残します。

正確な記録は、児童相談所等へ情報提供する際だけでなく、学校内で対応を引き継ぐ際にも役立ちます。

初期対応後も学校で見守りを続ける

通告したら学校の役割が終わるわけではありません。通告後も、子どもの日常生活に最も近い場として学校が果たす役割は続きます。登校状況、表情、けが、友人関係、保健室利用など日常の変化を見守り、必要な情報を関係機関と共有します。子どもが学校を安全な場所と感じられるよう、相談できる大人や避難できる場所を明確にすることも支援になります。

まとめ

第4回午前問77の正答は④・⑤です。児童虐待が疑われる初期場面では、子どもの語りを必要以上に掘り下げて証拠化するのではなく、発言や表情・態度などを正確に記録し、学校内で共有・協議して、市町村の虐待対応担当課や児童相談所へ通告します。「確証が出るまで待つ」のではなく、安全を優先して専門機関につなぐことが最大のポイントです。

参考資料

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