第4回公認心理師試験・午後問89は、情動に関する基礎知識を横断的に見分ける問題です。正答は ⑤ 脳内で他者の行動を模倣するミラーニューロンが関与する です。
この問題では、情動に関係する脳部位、情動麻痺、特定の対象を持たない不快感情、情動失禁、ミラーニューロンという異なる概念が一度に並びます。
したがって、「情動とは何か」だけを覚えていても解きにくく、それぞれの用語が何を指すのかを正確に区別することが重要です。

- 問題
- 正答は⑤|ミラーニューロンが情動理解に関与する
- ミラーニューロンを「共感そのもの」と考えない
- ① 「情動処理の脳内部位は下垂体後葉」が違う理由
- 扁桃体だけで情動が作られるわけでもない
- ② 情動麻痺が「不可逆的」ではない理由
- 情動麻痺と感情鈍麻の違い
- ③ 「特別な対象を持たない不快な感情」は何か
- 情動・感情・気分をどう整理するか
- ④ 情動失禁とは何か
- 「喜びや興味が失われる」はアネドニア
- 情動と身体反応
- ミラーニューロンと共感
- 第6回午前問10「ポジティブ感情」とつなげる
- 第3回問128「感情と文化」とつなげる
- 試験での見分け方
- まとめ
- 関連記事
- 参考資料
- Yamashun|臨床心理士・公認心理師
- 公認心理師試験の過去問解説を続けて読む
問題
情動について、最も適切なものを1つ選びます。
- 情動処理の脳内部位は、主に下垂体後葉である。
- 情動麻痺は、不可逆的な情動の麻痺状態である。
- 特別な対象を持たない不快な感情と定義されている。
- 情動失禁とは、喜びの感情や興味が失われた状態である。
- 脳内で他者の行動を模倣するミラーニューロンが関与する。
正答は ⑤ です。
正答は⑤|ミラーニューロンが情動理解に関与する
ミラーニューロン〈mirror neuron〉とは、ある行動を自分が行ったときだけでなく、他者がその行動を行うのを観察したときにも活動する神経細胞・神経ネットワークに関する概念です。
もともとはサルの運動関連領域で発見され、その後、人間でも他者の行動理解、模倣、社会的認知、共感などとの関連が研究されてきました。
たとえば、他者が痛そうな表情をしているのを見たとき、観察者の脳内でも、自分がその感覚や行動を経験するときに関係するネットワークの一部が活動することがあります。
このような仕組みが、他者の行動や情動状態を理解する基盤の一部として研究されています。
したがって⑤が最も適切です。
ミラーニューロンを「共感そのもの」と考えない
試験対策では、
ミラーニューロン → 模倣・行動理解・共感との関連
と覚えると便利です。
ただし、ミラーニューロンだけで複雑な共感や他者理解のすべてが説明できるわけではありません。
人間の共感には、
- 他者の感情を知覚する
- 相手の立場を推測する
- 自分と他者を区別する
- 状況や文脈を理解する
- 相手にどう応答するか判断する
といった複数の認知・情動過程が関与します。
したがって実際の研究では、ミラーニューロン・システムは社会的認知の一部として考えるのが適切です。
① 「情動処理の脳内部位は下垂体後葉」が違う理由
情動処理で重要な脳領域として代表的なのは、扁桃体を含む大脳辺縁系などです。
扁桃体は特に、
- 恐怖
- 脅威の検出
- 情動的な学習
- 情動刺激への反応
などとの関連がよく知られています。
一方、下垂体後葉は、
- オキシトシン
- バソプレシン
などのホルモン放出に関係します。
情動とホルモン系が無関係という意味ではありませんが、情動処理の主要部位を下垂体後葉とするのは不適切です。
したがって①は誤りです。
扁桃体だけで情動が作られるわけでもない
ここも重要です。
「下垂体後葉ではなく扁桃体」と覚えるだけでは少し単純化しすぎです。
情動処理には、
- 扁桃体
- 前頭前野
- 島皮質
- 帯状皮質
- 視床下部
- 海馬
など複数の領域が関与します。
試験では代表的な役割を対応づければ十分ですが、実際の情動は広い神経ネットワークの相互作用によって成り立ちます。
② 情動麻痺が「不可逆的」ではない理由
情動麻痺とは、強いストレスや外傷的体験などに関連して、感情を感じにくくなったり、感情の動きが乏しく感じられたりする状態を指すことがあります。
重要なのは、
情動麻痺=永久に感情が戻らない状態
ではないことです。
症状は経過や支援、環境の変化などによって軽減する可能性があります。
したがって「不可逆的」と断定する②は不適切です。
情動麻痺と感情鈍麻の違い
似た表現として、
- 情動麻痺
- 感情鈍麻
- 感情の平板化
などがあります。
これらは文脈によって使われ方が異なります。
感情鈍麻や感情の平板化は、統合失調症などでみられる感情表出の乏しさを説明する際にも使われます。
一方、強いストレスや外傷体験に関連した「感情を感じにくい」という意味で情動麻痺が使われることもあります。
試験では「不可逆的」という極端な表現を見抜くことが重要です。
③ 「特別な対象を持たない不快な感情」は何か
「特別な対象を持たない不快な感情」という説明は、不安の定義として用いられることがあります。
たとえば恐怖は、
- 犬が襲ってくる
- 高い場所から落ちそう
など、比較的明確な対象を持ちます。
一方、不安は、
- 何となく悪いことが起きそう
- 理由をうまく説明できないが落ち着かない
というように、対象が明確ではない不快な感情として説明されることがあります。
したがって③は「情動一般」の定義としては不適切です。
情動・感情・気分をどう整理するか
心理学では、情動〈emotion〉、感情〈feeling〉、気分〈mood〉の用語は研究領域によって使い分けが異なる場合があります。
試験対策としては、
情動
- 比較的急激に生じる
- 身体反応を伴いやすい
- 特定の刺激や出来事と関連しやすい
気分
- 比較的長く続く
- 原因や対象が明確でない場合もある
という対比を押さえるとよいでしょう。
④ 情動失禁とは何か
情動失禁は、感情が失われる状態ではありません。
むしろ、
感情表出を抑制しにくくなり、些細な刺激で泣いたり笑ったりする状態
を指します。
たとえば、脳血管障害などの後に、
- 少し悲しい話を聞いただけで涙が止まらない
- それほど面白くない場面でも笑い続けてしまう
といった反応がみられることがあります。
つまり情動失禁は、
感情が「ない」のではなく、感情表出のコントロールが弱くなっている
状態です。
「喜びや興味が失われる」はアネドニア
④の「喜びの感情や興味が失われた状態」という説明は、アンヘドニア〈anhedonia〉に近い内容です。
アンヘドニアは、
- 楽しみを感じにくい
- 興味が低下する
- 以前楽しめた活動を楽しめない
といった状態です。
うつ病などで重要な症状の一つです。
したがって、
情動失禁=感情が出過ぎる/抑制しにくい
アンヘドニア=喜び・興味を感じにくい
と対比して覚えると整理しやすくなります。
情動と身体反応
情動が生じると、
- 心拍数の変化
- 発汗
- 呼吸の変化
- 筋緊張
- 表情変化
などが生じることがあります。
前問の第4回午後問88では、こうした身体的覚醒と認知的評価の組合せから感情を説明するSchachter-Singerの二要因説が問われました。
今回の問89では、より広く、
- 情動と脳
- 情動障害
- 不安
- 感情表出
- 社会的認知
を横断して理解することが求められています。
ミラーニューロンと共感
ミラーニューロン・システムは、他者の行動を観察したときに、自分がその行動を行うときと重なる神経活動がみられるという特徴から、
- 行動理解
- 意図理解
- 模倣
- 感情理解
- 共感
などとの関連が検討されています。
ただし、現在の研究では「ミラーニューロンがあるから共感できる」という単純な一方向の説明は避ける必要があります。
試験では、⑤が他の選択肢より明確に適切であることを押さえます。
第6回午前問10「ポジティブ感情」とつなげる
第6回午前問10では、ポジティブ感情が注意や思考―行動レパートリーを広げることが問われました。
問89と合わせると、感情・情動の問題は、
- 情動がどう生じるか
- 脳でどう処理されるか
- 認知にどう影響するか
- 他者の感情をどう理解するか
という複数のレベルで出題されることが分かります。
第3回問128「感情と文化」とつなげる
第3回問128では、感情表出と文化、社会的表示規則が扱われています。
情動は生理的・神経学的な仕組みだけでなく、文化や社会的文脈によっても表出のされ方が変わります。
つまり、
脳・身体・認知・社会
の複数の層で理解することが重要です。
試験での見分け方
本問は次の対応を覚えておくと速く解けます。
- 情動処理 → 扁桃体など
- 対象のない不快感 → 不安
- 感情表出が抑制できない → 情動失禁
- 喜び・興味の低下 → アンヘドニア
- 他者行動の観察・模倣 → ミラーニューロン
したがって⑤です。
まとめ
第4回公認心理師試験・午後問89の正答は ⑤ 脳内で他者の行動を模倣するミラーニューロンが関与する です。
この問題では、情動に関する複数の用語を正確に対応づけることが重要です。
試験では、
扁桃体/不安/情動失禁/アンヘドニア/ミラーニューロン
をセットで整理しておきましょう。
関連記事
参考資料
- 一般財団法人 公認心理師試験研修センター|第4回公認心理師試験 午後問題・正答
- Jeon H, Lee SH. From Neurons to Social Beings: Short Review of the Mirror Neuron System Research and Its Socio-Psychological and Psychiatric Implications. Clin Psychopharmacol Neurosci. 2018.


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