公認心理師資格試験 過去問解説 第4回 午後 問88|Schachter-Singerの二要因説

第4回公認心理師試験 午後問88 Schachter-Singerの二要因説の解説図 公認心理師試験

第4回公認心理師試験・午後問88は、感情がどのように生じるかを説明する代表的理論を見分ける問題です。正答は ③ S. SchachterとJ. Singerの二要因説 です。

この問題の決め手は、「感情は覚醒状態に認知的評価が加わることで生じる」という説明です。Schachter-Singerの二要因説では、まず身体的な覚醒が生じ、その覚醒を周囲の状況や文脈に基づいて認知的に解釈・ラベリングすることで、特定の感情経験が形成されると考えます。

公認心理師試験では、James-Lange説、Cannon-Bard説、顔面フィードバック説、ソマティックマーカー仮説などが同じ選択肢に並びやすいため、「身体反応と感情のどちらが先か」「認知的評価が必要か」という軸で整理すると判断しやすくなります。

問題

問題の要旨: 「感情は、身体的な覚醒状態だけで決まるのではなく、その覚醒に対する認知的な評価・解釈が加わることで生じる」と説明する感情理論を選びます。

  1. Damasioのソマティックマーカー説
  2. Ekman・Izardの顔面フィードバック説
  3. Schachter・Singerの二要因説
  4. Cannon・Bardの中枢起源説
  5. James・Langeの末梢起源説

正答は ③ Schachter-Singerの二要因説 です。

正答は③|Schachter-Singerの二要因説

Schachter-Singerの二要因説〈two-factor theory of emotion〉では、感情経験には大きく2つの要因が関与すると考えます。

  • 生理的覚醒
  • その覚醒に対する認知的解釈

たとえば、心拍が速くなり、手に汗をかいている状態を考えます。

同じ身体反応でも、

  • 暗い道で不審な物音を聞いた → 「怖い」
  • 合格発表直前に結果を待っている → 「緊張している」
  • 好きな人に会う直前 → 「うれしい・高揚している」

というように、文脈によって感情のラベルが変わる可能性があります。

つまり、身体が興奮していることだけでは、その感情が何かは決まらないという考え方です。

二要因説を一言でまとめる

試験では次の式で覚えると便利です。

生理的覚醒 + 認知的ラベリング = 感情

ここでの「ラベリング」とは、単に感情名を言葉で付けることではなく、

  • 何が起きているのか
  • なぜ自分の身体が反応しているのか
  • この状況は自分にとってどのような意味を持つのか

を解釈することです。

この「身体反応+認知」が二要因説の中核です。

SchachterとSingerの古典的研究

SchachterとSingerは、身体的覚醒が同じでも、その原因についての情報や周囲の状況によって、感情経験の仕方が変わるのではないかと考えました。

古典的研究では、参加者に生理的覚醒を生じさせる操作を行い、その身体反応について十分な説明がある場合と、説明が乏しい場合などを比較しました。

重要なのは細かな実験条件の暗記ではなく、

「説明できない覚醒があると、人は周囲の状況を手掛かりにその覚醒を意味づける」

という発想です。

この考え方は、その後の感情研究や覚醒の誤帰属研究にも影響を与えました。

覚醒の誤帰属

二要因説と関連して、覚醒の誤帰属〈misattribution of arousal〉という概念があります。

人はある原因で生じた身体的覚醒を、別の対象や出来事によるものだと解釈することがあります。

たとえば、運動で心拍が上がっている状態の直後に強い感情的出来事が起きると、その身体的覚醒を出来事そのものによるものと誤って解釈する可能性があります。

このように、感情経験には「身体の状態」だけでなく「その原因をどう解釈するか」が重要だという点が二要因説とつながります。

⑤ James-Lange説との違い

James-Lange説では、

刺激 → 身体反応 → 身体反応の知覚 → 感情

という流れを重視します。

有名な説明として、

「悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しい」

という表現が用いられます。

もちろん、これは理論の内容を単純化した言い方ですが、試験対策としては、

身体反応の知覚が感情経験につながる

という点を押さえます。

一方、Schachter-Singer説では身体反応だけでは十分ではなく、

その身体反応をどう解釈するか

という認知的要因を加えます。

したがって本問は⑤ではありません。

④ Cannon-Bard説との違い

Cannon-Bard説では、情動刺激を受けたとき、

  • 感情経験
  • 生理的覚醒

が同時並行的に生じると考えます。

James-Lange説のように「身体反応が先にあり、その知覚から感情が生じる」とは考えません。

試験では、

James-Lange → 身体反応が先
Cannon-Bard → 感情と身体反応が同時

という対比が基本です。

Schachter-Singer説では、さらに認知的解釈が加わります。

② 顔面フィードバック説との違い

顔面フィードバック説では、表情を形成する顔面筋の活動が感情経験へ影響すると考えます。

たとえば、

  • 笑顔に近い表情をつくる
  • しかめ面をする

といった顔面筋の状態が、感情経験にフィードバックされる可能性を考えます。

この考えは、身体反応から感情への影響という点ではJames-Lange的な発想とも関係しますが、本問の「覚醒+認知的評価」を直接説明するものではありません。

したがって②ではありません。

① Damasioのソマティックマーカー仮説との違い

Damasioのソマティックマーカー仮説は、意思決定において身体的・情動的な反応が重要な手掛かりになるとする考え方です。

過去の経験に伴う身体感覚や情動反応が、将来の選択肢を評価する際の「マーカー」として機能すると考えます。

たとえば、以前に大きな失敗をした状況と似た選択肢を前にしたとき、説明できない不快感が生じ、それが危険な選択を避ける手掛かりになるといった理解です。

これは「身体反応+認知的ラベリングで感情が生じる」というSchachter-Singerの二要因説とは焦点が異なります。

5つの理論を比較する

James-Lange説

刺激 → 身体反応 → 感情

キーワード:

  • 末梢起源
  • 身体変化の知覚

Cannon-Bard説

刺激 → 感情経験と身体反応が同時

キーワード:

  • 中枢起源
  • 同時発生

Schachter-Singer二要因説

身体的覚醒 + 認知的評価 → 感情

キーワード:

  • 二要因
  • 覚醒
  • 認知的ラベリング

顔面フィードバック説

顔面筋の状態が感情経験へ影響

キーワード:

  • 表情
  • 顔面筋
  • フィードバック

ソマティックマーカー仮説

身体的・情動的反応が意思決定の手掛かりになる

キーワード:

  • Damasio
  • 意思決定
  • 身体信号

二要因説は「認知だけ」の理論ではない

Schachter-Singerの理論を、

「感情は考え方だけで決まる」

と理解するのは誤りです。

二要因説では、まず身体的覚醒が重要な要素です。

つまり、

  • 身体的覚醒
  • 認知的評価

の両方を考えるから「二要因」です。

この点は、認知的評価そのものをより中心に据えるLazarusなどの認知的評価理論と区別するときにも役立ちます。

感情理論は完全な一枚岩ではない

感情研究では、単一の古典理論だけですべての感情現象を説明できるわけではありません。

現在では、

  • 身体状態
  • 自律神経反応
  • 脳内処理
  • 認知的評価
  • 表情
  • 社会・文化的文脈

など複数の要因が感情に関与すると考えられています。

そのため公認心理師試験では、それぞれの理論を「どれが絶対に正しいか」で比較するより、

その理論が何を重視したのか

を見分けることが重要です。

第3回問130「Cannon-Bard説」とつなげる

Ig Knowledgeの第3回問130の記事では、生物心理社会モデルの選択肢の中にCannon-Bard説が登場しています。

Cannon-Bard説は感情理論であり、

感情経験と生理的変化が中枢神経系の働きによって同時に生じる

と整理できます。

今回の問88では、それに加えてJames-Lange説やSchachter-Singer説まで横断して比較することが求められます。

第3回問128「感情と文化」とつなげる

第3回問128では、Ekmanの社会的表示規則など、感情表出と文化の関係が扱われています。

感情を考える際には、

  • 感情がどう生じるか
  • どう表出されるか
  • 文化によって表出がどう調整されるか

を分けて整理すると理解しやすくなります。

問88は、このうち感情生成の理論に焦点を当てた問題です。

試験での見分け方

問題文に、

「覚醒状態」+「認知的評価」

とあれば、まずSchachter-Singerの二要因説を考えます。

対応は次のとおりです。

  • 身体反応が先 → James-Lange
  • 感情と身体反応が同時 → Cannon-Bard
  • 覚醒+認知的評価 → Schachter-Singer
  • 表情から感情へ → 顔面フィードバック
  • 身体信号が意思決定を導く → Damasio

まとめ

第4回公認心理師試験・午後問88の正答は ③ Schachter-Singerの二要因説 です。

この理論では、感情は、

生理的覚醒 + 認知的評価

によって形成されると考えます。

試験では、James-Lange説、Cannon-Bard説、顔面フィードバック説、ソマティックマーカー仮説との違いを「身体反応・認知・感情の関係」で整理しておきましょう。

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参考資料

  • 一般財団法人 公認心理師試験研修センター|第4回公認心理師試験 午後問題・正答
  • Schachter S, Singer JE. Cognitive, social, and physiological determinants of emotional state. Psychological Review. 1962.
  • OpenStax Psychology|Emotion and the Schachter-Singer Two-Factor Theory

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