公認理師資格試験 過去問解説 問149 事例問題 「抵抗と行動化」

公認理師資格試験 過去問解説 問149 事例問題 「抵抗と行動化」

第3回公認心理師試験の過去問や正答は以下のサイトで入手可能です。

第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター

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問149 

17 歳の女子 A、高校2年生。A は、自傷行為を主訴に公認心理師 B のもとを訪れ、カウンセリングが開始された。一度 A の自傷は収束したが、受験期になると再発した。A は B に「また自傷を始めたから失望しているんでしょう。カウンセリングを辞めたいって思ってるんでしょう」と言うことが増えた。B は A の自傷の再発に動揺していたが、その都度「そんなことないですよ」と笑顔で答え続けた。ある日、A は ひどく自傷した腕を B に見せて「カウンセリングを辞める。そう望んでいるんでしょう」と怒鳴った。

この後の B の対応として、最も適切なものを1つ選べ。

① 再発した原因は B 自身の力量のなさであることを認め、A に丁重に謝る。

② 自傷の悪化を防ぐために、A の望みどおり、カウンセリングを中断する。

③ 再発に対する B の動揺を隠ぺいしたことが A を不穏にさせた可能性について考え、それを A に伝える。

④ 自傷の悪化を防ぐために、B に責任転嫁をするのは誤りであると Aに伝え、A 自身の問題に対する直面化を行う。

出典:第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター
正答は ③ 再発に対する B の動揺を隠ぺいしたことが A を不穏にさせた可能性について考え、それを A に伝える

選択肢の解説

抵抗と行動化

本事例問題では、一旦自傷行為が落ち着いたクライエントが受験期に自傷行為が再燃したことを契機に、治療的な抵抗を示している例といえます。

問題文中には自傷行為の細かい背景などは記載されていないため、ポイントは「自傷行為が再燃した後、公認心理師に攻撃的な言動やカウンセリング中断を示唆する発言が増え、さらに自傷行為も悪化している段階」という部分になります。

そのため、関係する概念として「抵抗」と「行動化」をおさえておく必要がありますね。

  • 抵抗 resistance  無意識に治療の手続きや方針に逆らおうとすること
  • 行動化 acting out 葛藤が行動となってあらわれること

筆者は精神分析的治療の専門家ではありませんが、さらに関連する概念として「転移抵抗」の知識もあると問題の理解が進みやすくなるかもしれません。

転移抵抗とは簡単に説明すると、「クライエントの過去の重要な対象との未解決な葛藤の経験がセラピストに反映され(転移)、それが治療過程の促進を妨げるように機能している(抵抗)」ということになります。

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本事例の解釈の仕方

本事例にはあいまいな部分も多いため、明確な正解の対応というものはないように思えますが、ここからは問題に回答するために、見方の例を解説します。

まず1つ目は、「Aの背景にある見捨てられ不安の存在」について考えてみる方法があります。

受験期に自傷行為が再燃するという事象自体は、ストレスの対処方法として比較的生じ得ることと考えられますが、問題はA自身がそのように捉えることができておらず(むしろ、再燃してしまったことに失望している)、『公認心理師Bも同様に失望しているに違いない』と感じているように推察できます。

攻撃的な言動の背景には、『失望させるような行為をしてBに見捨てられるのでは?』というBとの関係性が破綻することへの恐怖があるかもしれません。

親子関係などの詳細な情報が得られていれば、「転移抵抗」などに結び付けて考えることもできますね。

事例のなかで公認心理師Bは「そんなことないですよ」と笑顔で返答していますが、B自身が動揺を一切否定していることがかえってAの不安を強くさせていると解釈できます。

このように考えると、現状の公認心理師Bの対応としては、「自身の動揺を伝えつつ、関係性が破綻することではない」ということを伝えることが重要となります。

選択肢を見てみると、「①B自身の要因(力量のなさ)から関係が破綻する」「②Aの発言に沿う形で関係が破綻する」ことになるため、選択肢①と②は不適切とわかります。

さらに、選択肢④「自傷の悪化を防ぐために、B に責任転嫁をするのは誤りであると Aに伝え、A 自身の問題に対する直面化を行う」では、現在のAの主張から問題がすり替わってしまうため、見捨てられ不安の解決には繋がらないでしょう。

残る選択肢は「③再発に対する B の動揺を隠ぺいしたことが A を不穏にさせた可能性について考え、それを A に伝える」となりますが、これが先程の「B自身の動揺を伝えつつ、関係性が破綻することではないことを伝える」に近いと考えられます。

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