公認理師資格試験 過去問解説 問148 事例問題 「安全文化」

公認理師資格試験 過去問解説 問148 事例問題 「安全文化」

第3回公認心理師試験の過去問や正答は以下のサイトで入手可能です。

第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター

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【公認心理資格試験】試験勉強の仕方。ブループリントに記載されている出題割合で勉強の範囲を狭めない方がいい理由について解説します!

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問148 

A 社は、新規に参入した建設業である。最近、高所作業中に作業器具を落下させる事例が立て続けに発生し、地上で作業する従業員が負傷する事故が相次いだ。そのため、事故防止のための委員会を立ち上げることになり、公認心理師が委員として選ばれた。委員会では、行政が推奨する落下物による事故防止マニュアルが用いられている。

事故防止の仕組みや制度の提案として、不適切なものを1つ選べ。

① マニュアルの見直し

② 規則違反や不安全行動を放置しない風土づくり

③ 過失を起こした者の責任を明らかにする仕組みづくり

④ 過去のエラーやニアミスを集積し、分析する部門の設置

⑤ 従業員にエラーやニアミスを率直に報告させるための研修

出典:第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター
正答は ③ 過失を起こした者の責任を明らかにする仕組みづくり

選択肢の解説

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安全文化

本事例では事故防止委員会に公認心理師が選出されたとして、事例中の企業に適切な提案をしていく場面が想定されています。

このときに必要となるのが、安全確保や事故防止に対する組織の体制や姿勢を示す安全文化 Saftey cultureという概念になります。

安全文化は、1986年に起きたチェルノブイリ原子力発電所の事故後の1986年8月に国際原子力機関(IAEA)がまとめた報告書である「チェルノブイリ事故後検討会議の概要報告書(INSAG-1)」に由来する言葉です。

そこからさらに、1991年のINSAG-4によって安全文化の定義や概念が明確なものとなりました。

安全文化の定義

原子力発電所の安全の問題には、その重要性にふさわしい注意が最優先で払われなければならない。安全文化とは、そうした組織や個人の特性と姿勢の総体である

出典:平成17年版 原子力安全白書

こちらがINSAG-4(1991年)による定義となります。

原子力発電以外の文脈ではイギリスの健康安全委員会(UK’s Health and Safety Commission)による定義が広く用いられています。

安全文化とは、個人及び集団の価値観、物事に対する取り組みの姿勢、感性、専門技術・技能及び行動様式の成果物であり、それは当該組織の安全に対する意欲や取り組みの姿勢、先進性の輪郭を決めるものである

出典:「安全文化」についてもう一度考えてみるー”柔軟な文化”と”学習する文化”ー|立教大学

安全文化の構成要素

  • 組織の基本方針レベルのコミットメント
    • 組織の安全に係る基本方針
    • 安全について責任をもつ組織
    • 人材・資材の資源投入
    • 安全活動に対する定期的なレビュー
  • 管理者のコミットメント
    • 責任の明確化
    • 作業の明確化と管理
    • 適正な人材配置と訓練
    • 信賞必罰
    • 業務の監査や見直し
  • 個人のコミットメント
    • 常に問いかける姿勢
    • 厳格かつ慎重なアプローチ
    • 対話

その後、1996年にIAEAの専門家チームである組織内安全文化評価チーム(ASCOT)によって、「ASCOTガイドライン」という組織の安全文化を評価する項目がまとめられています。

Reasonの安全文化

ヒューマンエラーに関する研究者であるReason リーズン は、安全文化を4つの文化が作用することによって形成されるものとしています。

  • 報告する文化      Reporting culture
  • 正義の(公正な)文化  Justice culture
  • 柔軟な文化       Flexible culture
  • 学習する文化      Learning culture

詳細な考え方は割愛しますが、組織の安全性を高めるには「報告する文化」「公正な文化」「柔軟な文化」の3つを基本として「学習する文化」を目指していくことが重要とされています。

つまり、マニュアルなどは重要ですが固執し過ぎることなく、状況の変化に合わせたマニュアルの改変や緊急時の実務的な権限の委譲(柔軟な文化)ミスに対して厳罰ではなく報告を重視して対策を講じる姿勢(報告する文化、公正な文化)などが重要といえます。

これらの安全文化の考えからから、厳罰傾向を意識させる選択肢である「③過失を起こした者の責任を明らかにする仕組みづくり」が本問題では不適切な選択肢と考えられます。

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