第5回公認心理師試験・午後問82は、質的研究において分析結果の解釈の妥当性・信頼性を高める方法を問う問題です。
正答は ③ メンバー・チェック です。
メンバー・チェック〈member checking〉とは、研究者が作成した解釈や結果を研究参加者へ示し、その内容が参加者の経験や語りと大きくずれていないかを確認する方法です。

問題
質的研究における、分析結果の解釈の妥当性を高める方法として、最も適切なものを1つ選べ。
- インタビュー
- コーディング
- メンバー・チェック
- アクション・リサーチ
- グラウンデッド・セオリー・アプローチ
正答は ③ メンバー・チェック です。
正答③|メンバー・チェックとは
メンバー・チェックは、研究参加者本人に、
- インタビュー内容の要約
- 研究者が作成した解釈
- カテゴリー
- 分析結果
- 研究結果の要旨
などを返し、参加者の経験と整合しているかを確認する方法です。
participant validation や respondent validation と呼ばれることもあります。
質的研究では、研究者の解釈がデータ分析に大きく関わるため、
「研究者が勝手に意味づけしていないか」
を吟味する工夫の一つとして用いられます。
credibility〈信用性〉との関係
質的研究では、量的研究の「内的妥当性」「信頼性」をそのまま当てはめるのではなく、
- credibility〈信用性〉
- dependability〈一貫性・依存可能性〉
- confirmability〈確認可能性〉
- transferability〈転用可能性〉
などの観点から研究のtrustworthinessを検討することがあります。
メンバー・チェックは、とくにcredibilityを高める方法として説明されます。
メンバー・チェックは「正解を参加者に決めてもらう」ことではない
メンバー・チェックを、
「参加者がOKと言えば研究結果が正しい」
と理解するのは単純すぎます。
研究参加者も、
- 時間が経って考えが変わる
- 研究者に遠慮する
- 不快な内容を否定したくなる
- 分析全体を把握できない
ことがあります。
そのため、メンバー・チェックは質的研究の質を高める一つの方法ですが、万能な保証ではありません。
① インタビュー|正答ではない理由
インタビューは、質的データを収集する代表的な方法です。
- 半構造化面接
- 非構造化面接
- フォーカスグループ
などがあります。
しかし本問が問うのは、
分析結果の解釈の妥当性を高める方法
です。
インタビューは主にデータ収集手続であり、分析後の解釈を参加者に確認するメンバー・チェックとは役割が異なります。
② コーディング|正答ではない理由
コーディングは、質的データを整理・分析する過程で用いられます。
たとえばインタビュー逐語録から意味のある部分を抽出し、
- コード
- カテゴリー
- テーマ
へ整理します。
これは分析そのものに関わる手続ですが、「参加者へ結果を返して解釈を確認する」という本問の方法ではありません。
④ アクション・リサーチ|正答ではない理由
アクション・リサーチは、現場の課題を研究しながら、その実践自体を改善していく研究アプローチです。
研究者と実践者が、
- 課題を把握する
- 介入する
- 結果を評価する
- 改善する
という循環を繰り返します。
質的研究との親和性はありますが、分析結果の解釈妥当性を確認する個別の技法ではありません。
⑤ グラウンデッド・セオリー・アプローチ|正答ではない理由
グラウンデッド・セオリー・アプローチ〈GTA〉は、データに根ざして概念やカテゴリーを生成し、現象のプロセスを理論化する方法論です。
GTAそのものは、
質的研究の分析方法・方法論
であり、「分析結果を参加者に確認する方法」の名称ではありません。
質的研究の質を高める他の方法
質的研究では、メンバー・チェック以外にも、
- トライアンギュレーション
- ピア・デブリーフィング
- 監査証跡〈audit trail〉
- 厚い記述〈thick description〉
- リフレクシヴィティ
- 否定的事例の検討
などが用いられます。
研究目的や方法論に応じて、どの方法を用いるかを考えます。
トライアンギュレーションとの違い
トライアンギュレーションは、
- 複数のデータ源
- 複数の研究者
- 複数の方法
- 複数の理論
などを組み合わせて、一つの視点だけに偏らない理解を目指す方法です。
メンバー・チェックが参加者による解釈確認であるのに対し、トライアンギュレーションは複数の視点・方法の照合です。
リフレクシヴィティとの違い
リフレクシヴィティでは、
研究者自身の立場・価値観・経験・関係性が、データ生成や解釈へどう影響したか
を省察します。
Ig Knowledgeでは第4回問50|心理的支援活動の理論化でもリフレクシヴィティを扱っています。
また、質的研究法の全体像は第5回問43|質的研究法と主成分分析も関連します。
メンバー・チェックの実施例
たとえば、不登校経験者へのインタビュー研究で、
「学校へ戻ることより、自分のペースを取り戻すことが転機になった」
というテーマを研究者が抽出したとします。
その解釈を参加者へ示し、
「自分の経験を適切に表しているか」
「違和感がある部分はないか」
「追加したい意味はあるか」
を確認します。
これがメンバー・チェックの基本的なイメージです。
試験での見分け方
本問では、
分析結果の解釈
+
妥当性を高める
という表現が決め手です。
- インタビュー → データ収集
- コーディング → データ分析
- メンバー・チェック → 参加者による解釈確認
- アクション・リサーチ → 実践改善を含む研究
- GTA → 理論生成の方法論
と整理すると、③を選べます。
まとめ
第5回公認心理師試験・午後問82の正答は ③ メンバー・チェック です。
メンバー・チェックでは、
研究者が行った解釈や分析結果を参加者へ返し、その経験や語りと整合しているかを確認する
ことで、質的研究のcredibilityを高めます。
試験では、
参加者による分析結果の確認=メンバー・チェック
と覚えておきましょう。
参考資料
- 一般財団法人 公認心理師試験研修センター|第5回公認心理師試験 午後問題・正答
- Birt L, et al. Member Checking: A Tool to Enhance Trustworthiness or Merely a Nod to Validation? Qualitative Health Research. 2016.


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