第4回公認心理師試験・午前問63は、研究発表で他者の研究成果を出所を示さず自分のデータとして提示する行為が、どの研究不正に当たるかを問う問題です。正答は① 盗用です。
研究不正では、「ねつ造・改ざん・盗用」の区別が頻出です。本問では、他者の先行研究に示された実験結果を抜き出し、出所を明示せず、自分のデータとして図を含めて発表しようとしています。この行為の中心は、他者の研究成果を適切な表示なく自己の成果として扱っている点にあります。
実際の問題文
問63 公認心理師Aが主演者である学会発表において、実験結果の報告のためのスライドを準備している。実験の背景、目的、結果、考察などをまとめた。Aは他者の先行研究で示された実験結果の一部を参考論文から抜き出し、出所を明らかにすることなく自分のデータとして図を含めてスライドに記述した。
このまま発表する場合、該当する不正行為を1つ選べ。
① 盗用
② 改ざん
③ ねつ造
④ 多重投稿
⑤ 利益相反
問題文の読み解き
見分けるポイントは、「データを作ったのか」「データを変えたのか」「他者の成果を自分のものとして使ったのか」です。本問では、Aが新しいデータを作ったわけではなく、既存の他者の研究結果を抜き出しています。また、そのデータを加工して別の値に変えたという記述もありません。
決定的なのは、出所を明らかにせず、自分のデータとして提示している点です。したがって、研究成果の無断流用に当たる「盗用」が最も適切です。
正答:① 盗用
文部科学省の研究不正に関する整理では、盗用は、他の研究者のアイデア、分析・解析方法、データ、研究結果、論文または用語を、当該研究者の了解または適切な表示なく流用することとされています。
本問では、先行研究の「実験結果」を抜き出し、「出所を明らかにすることなく」、「自分のデータとして」スライドに記載しています。これは盗用の定義に直接対応します。
研究不正の基本:FFPを区別する
研究公正の文脈では、代表的な重大な研究不正として、ねつ造(Fabrication)、改ざん(Falsification)、盗用(Plagiarism)が区別されます。頭文字を取ってFFPと呼ばれることがあります。
ねつ造
存在しないデータや研究結果を作り上げることです。実際には行っていない実験の結果を作る、存在しない回答データを作成する、といった行為が典型です。
改ざん
研究資料、機器、過程を操作したり、データや研究結果を変更・省略したりすることで、真正ではないものに加工することです。
盗用
他者のアイデア、方法、データ、研究結果、文章などを、適切な表示や了解なく使うことです。本問はここに該当します。
「引用漏れ」と「盗用」の関係
引用や出典表記がないからといって、すべてが同じ重さの研究不正になるわけではありません。単純な記載ミスと、他者の成果を自分の成果として提示する行為では意味が異なります。
本問では「自分のデータとして」という記述があるため、単なる引用形式の誤りではなく、他者の研究成果を自己の研究成果として示そうとしている点が重要です。
学会発表スライドでも研究公正は問われる
研究成果を公表する場には、論文、学会発表、ポスター、報告書などがあります。どの媒体でも、他者のデータや図表を利用する場合には、その出所を明示し、必要な権利処理や引用ルールに従う必要があります。
各選択肢の考え方
① 盗用
正答です。他者の研究結果を抜き出し、出所を明示せず自分のデータとして提示しているため、盗用に当たります。
② 改ざん
誤りです。改ざんは、存在するデータや結果を変更・操作し、真正でないものに加工する行為です。
③ ねつ造
誤りです。ねつ造は、存在しないデータや研究結果を作り上げることです。
④ 多重投稿
誤りです。多重投稿は、同一または実質的に同一の研究内容を、既発表であることを適切に示さず複数の学術誌等へ投稿するような問題です。
⑤ 利益相反
誤りです。利益相反は、研究者の経済的・個人的利害関係が研究判断や公正性に影響し得る状態を指します。
試験での見分け方
- 存在しないものを作る → ねつ造
- 存在するものを変える → 改ざん
- 他者のものを自分のものとして使う → 盗用
- 同一内容を重複して投稿する → 多重投稿
- 利害関係が研究判断に影響し得る → 利益相反
公認心理師にとって研究倫理が重要な理由
公認心理師は、実践だけでなく、研究、教育、研修、事例報告などに関わる可能性があります。心理検査データ、面接データ、調査結果などを扱う際には、個人情報保護だけでなく、研究公正、引用、著作権、研究参加者への説明と同意など、複数の倫理的配慮が必要です。
盗用と著作権侵害は同じではない
盗用と著作権侵害は重なることがありますが、同じ概念ではありません。盗用は研究公正上、他者の成果を自分の成果であるかのように扱うことが中心です。一方、著作権侵害は、著作物の利用が著作権法上認められる範囲を超えているかという法的問題です。適切に引用していても著作権上の利用条件に注意が必要な場合があり、逆に著作権法上は問題がなくても、学術的な出典表示が不十分であれば研究倫理上の問題になることがあります。
図表・データを使うときの実務的な注意
論文の図表やデータを発表資料で使うときは、出典を明示し、必要に応じて引用条件や利用許諾を確認します。特に他者の図をそのまま掲載する場合、「参考にした」だけではなく、どこから持ってきたのかが第三者に分かる形で示す必要があります。
また、自分で作図し直した場合でも、元となるデータや分析が他者の研究成果であるなら、その出典を示す必要があります。見た目を変えれば自分の成果になるわけではありません。
研究公正で問われるのは信頼性
研究不正は、個人のマナー違反にとどまらず、研究成果全体の信頼性を損ないます。心理学や公認心理師領域では、研究結果が教育・臨床・制度設計の根拠として使われることがあります。そのため、データの出所や分析過程が追跡できること、他者の成果と自分の成果が区別できることが重要です。
試験で迷ったときの最終確認
「他者のものを出所なく使う」という記述があれば盗用を第一候補にします。「数字や画像を都合よく変えた」なら改ざん、「そもそも存在しないデータを作った」ならねつ造です。多重投稿と利益相反は、データそのものの真正性とは別軸の問題です。
研究ノートと一次データの管理
研究公正を守るには、発表時の引用だけでなく、研究ノートや一次データの管理も重要です。どのデータが自分たちの研究で得られたものか、どの図表が先行研究を参照したものかを追跡できる状態にしておくことで、意図しない混同や不適切な流用を防ぎやすくなります。
共同研究では、データの作成者、分析担当、発表資料の作成者が異なることもあります。誰かが作った図をそのまま使う場合にも、研究チーム内の役割と外部資料の出所を区別し、最終発表者が確認する必要があります。
まとめ
第4回午前問63の正答は① 盗用です。他者の先行研究の実験結果を、出所を示さず自分のデータとして提示しようとしているためです。


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