公認心理師資格試験 過去問解説 第5回 午前 問68|Alzheimer型認知症とためこみの鑑別

第5回公認心理師試験 午前問68 Alzheimer型認知症とためこみの鑑別の解説図 公認心理師試験

第5回公認心理師試験・午前問68は、高齢者の事例から、進行する近時記憶障害と生活管理の崩れを読み取り、Alzheimer型認知症を見分ける問題です。正答は ⑤ Alzheimer型認知症 です。

事例には「大量のごみ」「捨てることを拒む」という、ためこみ症を連想させる情報が含まれています。しかし、問題全体を時系列で読むと、より早い段階から「同じ話を繰り返す」「電話したことを忘れる」といった新しい出来事の記憶障害が進行しており、その後に生活管理の困難が明らかになっています。

公認心理師試験の事例問題では、目立つ行動だけを診断名と結びつけるのではなく、症状がどの順序で出てきたか、以前の性格からどう変化したか、生活機能がどう崩れているかを統合して判断することが重要です。

問題

問題の要旨: 78歳の女性。夫との死別後も一人暮らしを続けています。もともとは整理整頓が得意でしたが、約2年前から同じ話を繰り返し、最近では娘と電話したことを忘れて何度も電話するようになりました。娘が訪問すると家の内外にごみが大量にたまり、冷蔵庫にも期限切れの食品が多数ありました。明らかな人格変化は目立ちません。最も考えやすい病態を選びます。

  1. うつ病
  2. ためこみ症
  3. 前頭側頭型認知症
  4. 持続性複雑死別障害
  5. Alzheimer型認知症

※公式問題の内容を学習用に整理しています。正答は ⑤ Alzheimer型認知症 です。

正答は⑤|Alzheimer型認知症

本事例で最も重要なのは、近時記憶の障害が徐々に進行していることです。

具体的には、

  • 何度も同じ話を繰り返す
  • その日の午前中に娘と話したことを忘れる
  • 1日に何度も同じ相手へ電話する
  • 食品の管理ができなくなる
  • 以前は整理されていた家に物やごみが増える

という変化があります。

Alzheimer型認知症では、典型的には新しい出来事を記憶する能力の低下が初期から目立ちやすく、進行に伴って判断、計画、家事、金銭管理、服薬管理などの日常生活にも影響が広がります。

本事例では「昔から片付けが苦手だった」のではなく、もともときれい好きだった人が、徐々に記憶と生活管理の両方で変化していることが重要です。

事例は「時間の流れ」で読む

この問題は、現在の部屋の状態だけを見ると迷いやすくなります。

そこで、時間軸を整理します。

3年前

夫と死別しました。

死別は大きなライフイベントですが、この時点で認知症を示す具体的な情報はありません。

約2年前

同じ話を何度も繰り返すようになります。

ここで、新しく得た情報を保持しにくい可能性が示されます。

半年前ごろから

午前中に娘と電話したことを忘れ、同じ日に何度も電話するようになります。

「電話をかけたという出来事そのもの」を保持できていないため、近時記憶障害を強く示唆します。

娘が訪問すると

家の中や外に大量のごみがあり、冷蔵庫には期限切れの食品が多数あります。

これは、整理整頓や食品管理といった手段的日常生活動作〈IADL〉が崩れている可能性を示します。

このように、

記憶の変化 → 反復行動 → 生活管理の困難

という進行を読むと、⑤が最も適切だと判断できます。

Alzheimer型認知症で初期から注目する症状

Alzheimer型認知症では、記憶障害が代表的です。

特に重要なのが、最近の出来事を覚えておくことの難しさです。

たとえば、

  • 同じことを何度も尋ねる
  • 約束そのものを忘れる
  • 直前の会話を覚えていない
  • 物の置き場所が分からなくなる
  • 新しい手順を覚えにくい

といった変化です。

単なる加齢による物忘れでは、「忘れたことを後で思い出す」「ヒントがあれば思い出す」といったこともあります。

一方、認知症では、出来事そのものを記憶できていないため、本人に「その話をした」という認識がないことがあります。

もちろん、実際の診断では記憶症状だけで決めず、医学的評価、日常生活機能、家族からの情報、認知機能検査などを総合します。

生活機能の低下も重要

認知症は、認知機能検査の点数だけで判断するものではありません。

日常生活にどの程度影響が出ているかを見る必要があります。

本事例では、

  • 家の整理
  • ごみの処理
  • 食材の管理
  • 電話のやり取り

に変化があります。

これらは、単純な身の回り動作よりも複雑な生活管理を必要とするIADLと関係します。

公認心理師試験では、「物忘れ」というキーワードだけを見るのではなく、物忘れが生活にどのような支障をもたらしているかまで確認します。

② ためこみ症が違う理由

最も迷いやすい選択肢です。

ためこみ症では、実際の価値とは関係なく物を手放すことが持続的に困難で、そのために生活空間が物で埋まり、本来の用途で使いにくくなることがあります。

しかし、本事例では、ためこみ行動だけでなく、その前から明確な記憶障害の進行があります。

さらに、本人はもともときれい好きで、以前から持続的に物をため込んでいたわけではありません。

冷蔵庫内の期限切れ食品についても、「物に強い愛着があり捨てられない」というより、食品管理や判断の困難が背景にある可能性を考える方が自然です。

つまり、

物がたまっている=ためこみ症

と短絡しないことがポイントです。

③ 前頭側頭型認知症が違う理由

前頭側頭型認知症では、比較的早期から、

  • 人格変化
  • 社会的に不適切な行動
  • 脱抑制
  • 無関心
  • 常同行動
  • 共感性の低下
  • 食行動の変化
  • 言語症状

などが前景に出ることがあります。

一方、本事例では「人柄が変わった様子は特にない」という情報があります。

また、症状の中心は近時記憶の障害です。

したがって、前頭側頭型認知症よりAlzheimer型認知症を考える方が適切です。

試験では、

記憶障害が前景 → Alzheimer型
人格・行動変化が前景 → 前頭側頭型

という比較が役立ちます。

ただし実際には症状が重なることもあるため、これは試験上の典型像を整理するための目安です。

① うつ病が違う理由

高齢者のうつ病では、集中力低下、思考力低下、物忘れの訴えなどがみられ、認知症と区別が難しいことがあります。

しかし本事例では、

  • 2年間にわたり徐々に進行
  • 同じ話を何度も繰り返す
  • 電話した出来事自体を忘れる
  • 食材やごみの管理が崩れる

という特徴があります。

また、抑うつ気分、興味・喜びの低下、睡眠・食欲の変化などの情報は中心として示されていません。

「夫と死別した」という情報だけでうつ病を選ばないことが重要です。

④ 持続性複雑死別障害が違う理由

夫との死別が3年前にあったため、悲嘆反応を連想しやすい選択肢です。

しかし、死別後の悲嘆が長く続く病態を考える場合には、

  • 故人への強い思慕
  • 死を受け入れにくい
  • 強い感情的苦痛
  • 死別に関連した生活上の障害

など、悲嘆そのものを示す情報が重要です。

本事例で前景にあるのは、死別への思慕ではなく記憶障害と生活管理の低下です。

「死別歴がある=悲嘆関連障害」と結びつけないようにします。

「ごみがたまる」という行動を機能で考える

同じ行動でも、背景は異なります。

家に物が大量にたまっている場合でも、

  • 物への強い執着がある
  • 判断力が低下して捨てられない
  • 記憶障害で管理できない
  • うつ状態で片付ける活動性が落ちている
  • 身体機能の低下でごみ出しができない
  • 社会的孤立で生活支援が不足している

など、複数の可能性があります。

したがって、心理職は「行動の見た目」だけではなく、

いつから、なぜ、どの機能が低下し、生活のどこで困っているか

を整理する必要があります。

この視点は、試験だけでなく実際のアセスメントにも重要です。

第4回問65とのつながり

第4回午前問65では、軽度Alzheimer型認知症の人が、住環境の変化によって物の場所が分からなくなり、スポーツジムへ行けなくなった事例が問われました。

そこでは、本人の困りごとを補うために、日常生活機能を支える環境調整が正答でした。

今回の問68では、さらに前段階として、

生活上の変化からどの病態を考えるか

が問われています。

両方をつなげると、

  1. 認知機能の変化を見つける
  2. 生活機能への影響を把握する
  3. 病態を整理する
  4. 本人の残存能力と環境に合わせて支援する

という流れで理解できます。

第4回問66「高齢者のうつ病」との比較

第4回午前問66では、高齢者の物忘れや仕事上のミスがありながら、HDS-Rは高得点で、抑うつ症状が強い事例からうつ病を考える問題でした。

今回の問68では、

  • 徐々に進行する新しい出来事の記憶障害
  • 反復
  • IADLの低下

が中心です。

同じ「高齢者+物忘れ」でも、情報の組合せが異なります。

試験では診断名の丸暗記ではなく、経過・生活機能・症状群を合わせて読むことが重要です。

試験での見分け方

本問では次の順番で読みます。

  1. 高齢者である
  2. 同じ話を繰り返す
  3. 直前の電話を忘れる
  4. 生活管理が崩れている
  5. 以前の人格から大きく変わっていない
  6. 症状が徐々に進行している

この組合せなら、⑤ Alzheimer型認知症が最も適切です。

特に、

物の蓄積に引っ張られて「ためこみ症」を選ばない

ことが重要です。

まとめ

第5回公認心理師試験・午前問68の正答は ⑤ Alzheimer型認知症 です。

事例では、約2年前から同じ話を繰り返し、最近では直前の電話を忘れて何度も連絡するようになっています。その後、家や食材の管理にも困難が広がっています。

目立つ「ごみの蓄積」だけを見るとためこみ症にも見えますが、症状の経過を読むと、進行する近時記憶障害と生活機能低下が中心です。

試験では、

現在の行動だけではなく、発症順序と以前からの変化を読む

ことが正答へのポイントです。

※本記事は公認心理師試験の学習用解説です。実際の認知症診断は、医学的評価や認知機能・生活機能の評価などを含めて総合的に行われます。

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参考資料

  • 一般財団法人 公認心理師試験研修センター|第5回公認心理師試験 午前問題・正答
  • National Institute on Aging|What Are the Signs of Alzheimer’s Disease?
  • National Institute of Neurological Disorders and Stroke|Dementia / Frontotemporal Dementia

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